築地市場の移転先とされた豊洲新市場の現状は、話が進めば進むほど伏魔殿のような奇怪な様相を示してきた。ガス工場の跡地であることから重要だった汚染土壌対策は、土壌を入れ替える筈だったところに新しい盛り土が行われず、新施設の地下が大きな空洞になっていることが発覚したという。広大な地下空間を作り出す工事が、少数の人間の思いつきで実現するわけがない。施工業者を含めた計画と設計があった上での仕様変更だったに違いないのだが、誰がその責任者かわからないというのだ。元知事の石原慎太郎も、「話は聞いたことがあるが、自分が決めたわけではない」と言い逃れている。
 かくして誰が責任者かわからないままに予算が消化されて、使えるかどうかわからない施設が出来上がってしまった。たまたま先の都知事選挙で当選した小池百合子新知事がこの事実を知って、決まっていた移転期日に「待った」をかけ、安全確認と今後の対策に時間をかけることにした。もしも他の候補者が都知事に当選していたら、予定通りに移転を開始してから問題が明るみに出て大騒ぎになったかもしれない。
 どの道、安全確認と今後の対策については、信頼できる専門家集団の意見を聞いて判断するしかないだろうが、東京都の事業というのは、都議会のしがらみもあって、独特のわかりにくさの中で行われているようだ。不気味な地下空間は、都政という「誰もよく知らない公共事業」を象徴しているよに見える。 
 伏魔殿のような奇怪な失敗事業は、もちろん国にもある。高速増殖炉の「もんじゅ」は、1985年(昭和60年)から本体工事が始まり、1994年に運転を開始して臨界に達した。高速増殖炉は、ウランとプルトニウムを混ぜたMOX燃料を燃やして発電をしながら、使った以上の核燃料を生み出す「夢の原子炉」だと当時は言われていた。とろろが冷却材に金属ナトリウムを使う難しい技術で、その後はトラブルの連続になった。経営主体は研究機関という位置づけで、文科省が所管する独立行政法人日本原子力研究開発機構となったが、世界的には、日本以外のすべての国(米・英・仏・独)が2000年までに見切りをつけて高速増殖炉からは相次いで撤退してしまった。
 その中でも日本が「もんじゅ」を放棄しなかったのは、純度の高いプルトニウム(核兵器に好適)が得られる可能性があったからと言われる。しかし2000年代に入ってからもトラブルの連続は止まらず、事故があっても隠そうとする隠蔽体質も問題とされるようになった。結局、稼働からはほど遠い段階での対策に追われて今に至っている。設置から現在までに使われた予算の総額は、1兆円を超えた。政府・自民党も、ようやく「廃炉やむなし」の判断に傾いていると伝えられるが、廃炉までの費用も半端では済まないだろう。そこにまた寄食する多くの人たちを税金で養うことになる。
 政治家の判断ミスは多くの損害を国家に与えるが、その責任を追及されることはめったにない。今もこれからも、多くの愚行があることだろう。その中でも最悪のものは、もちろん戦争への突入である。戦争に近づく舵取りだけは、絶対に許してはならない。