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 横綱の白鵬が、大相撲の勝利記録を歴代一位の1048勝に伸ばしたというので大きな話題になった。本人はもちろん、これを祝うファンを含めて祝賀ムードに湧いたのだが、関連ニュースの中でも、白鵬がモンゴル国籍であることにこだわるものがなく、むしろ故郷の人たちも喜んでいるという素直な報道姿勢だったのが気持ちよかった。
 おそらく「大相撲」という日本伝統の武芸道に完全に同化しているので、違和感が何もないのだろう。相撲部屋に弟子入りし稽古を積む過程で、言葉は日本人と同じになるし、風貌にも違うところはない。むしろ、遠い辺境の地からよく来てくれたという親しみを感じるのかもしれない。
 しかし落ち着いて歴代横綱の一覧を眺めてみると、第67代の武蔵丸(ハワイ出身)以来、朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜(いずれもモンゴル出身)と5人つづけて横綱が外国籍で、稀勢の里が久しぶりの日本人横綱だったことがわかる。それにしても、少しやんちゃな言動があって話題になった朝青龍をのぞいては、白鵬以下の横綱には違和感がない。
 今回、朝日新聞には、白鵬の国籍問題についての、ややくわしい解説が出ていた。白鵬自身は日本国籍を取得する意向であるという。国籍を取れば「親方」となって弟子を育てることもできる。しかし白鵬の父親のムンフバトさんはモンゴル相撲の大横綱で、1968年メキシコ五輪のレスリングで銀メダルを取った国民的英雄だそうだ。この父は、息子が国籍を変えることに強く反対しているというのだ。 
 白鵬は日本で家庭を持ち、4人の子がいるので、おそらく日本人に近い感覚で生きていることだろう。今は「大相撲」の今と未来を支える人物としての期待を寄せられる存在になった。その一方で、故郷の家族との縁も簡単に切れるものではなかろう。これを朝日新聞は「大横綱の苦悩」と書いている。私はこんな事情は知らなかったのだが、白鵬という人物への印象が、一回り厚みを増したように感じた。
 日本の「国技」と呼ばれる相撲界にも、海外からの、こんな波が来ていたわけだ。白鵬の強さを讃えるだけでは済まない、人間的な興味が加わってくる。