(熊さん)ネット環境も整って、ご隠居もようやく落ち着いたでしょう。
(ご隠居)そうだよね。何となく浮足立っていたのが、また自分のペースでものを考えられるようになった気がするよ。きのうの朝日夕刊に出ていた、石川明人さん(桃山学院大・准教授)の「戦争は人間の文化」という考え方が面白かったな。「意識的に準備して、過去からの経験を基により良いものにしようとし、継承する。その意味で、芸術などの文化とまったく同じです。」と言うんだよ。
(熊)へーっ、戦争を認めちゃうんですか。
(隠)でも戦争を肯定してるんじゃない。健全な平和観を育てるためには、戦争や軍事をタブー視しないことが大事だと言ってるんだ。「人間っていったい何か」を考える材料になる。「人間の『わけの分からなさ』を考える絶好の糸口になるということだ。そして、「世界中の人と愛し合えるなんて思うのは、むしろ危うい認識のような気がする。愛の不可能性を正直に認めることから始めるべきではないでしょうか」と結論しているんだな。
(熊)ふーん。それで、ご隠居はこれをどう思うんですか。
(隠)この石川明人さんは、「私たち、戦争人間についてーー愛と平和主義の限界に関する考察」という本を最近出したということだ。わしも読んでみよう思うが、「人を殺すのは、きっと簡単だ」という告白から始まっているそうだ。これは本当にそうだと思うよ。なんせ終戦までの日本の男はみんな、徴兵されて兵隊になったら人を殺すのが仕事だと教えられて訓練を受け、戦地へ行ったらその通りに実行するのが当り前だったんだよ。
(熊)ああそうか、そういう時代も長かったんだよね。
(隠)だから戦争は「ふつうの事」の一つに過ぎなかった。戦争は絶対悪で、二度と繰り返してはならないという常識は、終戦後から生まれたものなんだよ。最初に出た「文化」の定義で、「過去からの経験を基により良いものにしようとし、継承する。」とあったが、日本は戦争という文化を、「二度と繰り返さないことが、戦争をよりよく継承する最良の道だ」と結論付けたと言うことができるんだ。だから目をつぶって拒否するんではなくて、戦争というものをちゃんと見届けた上で、「戦わないことが最良の戦争だ」と言い続けることが、日本人の使命だとわしは思っているわけさ。「戦争は人間の『文化』だった」と、過去形にしたのは、そのためだ。
(熊)うーん、戦争は人間の文化だけど、止めることも出来るんですね。
(隠)当り前だろ。どんな戦争にも原因がある。その原因を探ったら、戦争よりはマシな解決方法が必ず見つかるということだよ。逆に言うと、戦争が発達しすぎて使い物にならなくなったのが現代だと思えば、何の不思議もないんだ。