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 小熊英二の「生きて帰ってきた男〜ある日本兵の戦争と戦後」を読んだ。著者が実父の小熊謙二氏から聞き書きしたものを基礎としているが、非常に客観的に、歴史資料として記憶を引き出していることがよくわかる。そして単なる「戦争回顧もの」ではなくて、1925年(大正14年)つまり昭和ゼロ年に生まれた主人公によって、実際に「生きられた昭和の時代」を再現しているところに最大の価値がある。この本は「岩波新書」の一冊でありながら、400ページに近い大冊で、ゆうに厚めの単行本の内容がある。新書としては高い目の税込み1015円だったが、買い手としては有難かった。新書に組み込んだのは、帯紙でも告知しているように、「岩波新書で読む歴史への旅」シリーズに加える意図があったのかもしれない。本書の構成は
第1章 入営まで
第2章 収容所へ
第3章 シベリア
第4章 民主運動
第5章 流転生活
第6章 結核療養所
第7章 高度成長
第8章 戦争の記憶
第9章 戦後補償裁判
そして「あとがき」となっている。
 これを見てもわかるように、主人公は太平洋戦争の末期に工場の事務職から召集されて入営したものの、送られた先は満州だった。したがって本格的な戦闘の経験もなく、新兵としての訓練も、ほとんどまともには受けていない。ソ連軍の捕虜としてシベリアで働かされるために召集されたような結果になった。
 そこから4年間の抑留生活を経て日本へ帰ってきたのだが、「シベリア帰り」の者が受けた「赤化教育」への警戒感や、当時の若者がよくかかった結核との闘病などに悩まされて、20代のほぼすべてを空費してしまった。しかしやがて、高度成長の恩恵が、日本中に行き渡る時代が来た。まともな才覚さえあれば、何らかの仕事をして家を持つぐらいはできる世の中になった。そうした中で父は結婚もした。そしてそこに小熊英二が生まれたという順番になる。