(熊さん)ご隠居もこのところ忙しそうですね。
(ご隠居)そんなでもないんだが、出歩いたおかげで、いろんなことを考えたのも事実だな。なんかね、目の前の小さな予定と、明日のことと、それがつながる未来のことが、目まぐるしく回転してた。つまり、乗る列車の時間と、久しぶりに会う親族のことと、可愛くなってきた子供の育った先の時代のことなんかを、取り止めもなく考えてたんだね。なんと、予定してた墓参りをすっかり忘れていたことに、帰りの列車の中で気がつくありさまだったよ。
(熊)ちょっと笑えるけど、それだけ充実してたんでしょ。墓参りはいいんですよ。どうせあっちで会うんだから。
(隠)あんたもだんだんペースがわかってきたな。今と明日と未来と、3段構えでものを考えるというのは、生きる基本なんだよ。それぞれに目標があると言ってもいい。人生に終りがあることを実感するようになったら、余計にそれがはっきりしてくるところがあるな。それも、自分を中心にした小さい広がりと、それより一段大きい、日本と世界についてもあるような気がする。
(熊)話がでかくなりますね。世界の未来が見えてきましたか。
(隠)うん、未来の長さが気になるな。人類が、地球の上で最大に栄えた生き物であることは確実だと思うんだ。この繁栄は、いつまで続くと思うかい。古代エジプトから数えても、たった3千年程度だよ。これは、地球の歴史から見たら、ほんの一瞬にもならないほどの短かさじゃないか。それなのに、地球上の資源を、せいぜい百年単位ぐらいのペースで消費してるのが現状だよ。私はどんなに短くても、100世紀、1万年ぐらいは生存しないと、まともに生きたことにはならないと思うんだ。そのためには、人間の文明は、消費型から持続型に変わらなくちゃならない。もちろん、戦争なんていう浪費は、もってのほかだよ。
(熊)そのことだけは、よくわかりますよ。
(隠)あんたはそれだけ知っててくれりゃいい。とにかく、今あるものを大事に使うことを考えればいいんだよ。万物は流転し循環する。この宇宙の真理に、人間の文明を、できるだけ近づけることが大事なんだ。そうして少なくとも1万年は生き続けてほしい。本当にそう思うよ。久しぶりに赤ちゃんを抱いて、ふわふわの肌にふれたら、その思いを新たにしたっていうわけさ。