上海病院

  翌日はいよいよ帰国である。
 バスが来るまで少し時間があったので、ホテルの中の(ひょっとすると隣接だったかもしれない)コンビニで買い物をする。
 外国旅行をするときは、土産物店などよりもスーパーやコンビニで買い物をしたほうが、値段が安いし、現地ならではの珍しいものがあったりする。
 このときは主にカップラーメンを買った。高額紙幣は残していても仕方ないから、暗算をしながらできるだけ小銭が残らないように(私は古銭は好きだが現代の金には興味がない)考えながら籠に商品を入れていく。コンビニの商品は1ケタ単位で値段がついているから結構面倒である。
 自分では残金の高額紙幣とぴったりのつもりだったのだが、計算間違いをしていたらしく、1角(1元の1/10)だけおつりがあった。
 すると、コンビニの店員が何か言いながら笑って話しかけてきた。同僚にも声をかけている。
 どうも、「この人は買い物名人だ ! 」というようなことを言っているらしい。しまいには近くにいた店員や客から拍手されてしまった。
 大いに面目をほどこして得意な気持ちでホテルに来たバスに乗り、空港へ向かう。
 出発前にガイドさんが、
 「みなさん、パスポートはありますか?パスポートがないと日本に帰れませんよ!」と冗談めかして確認を促す。
 パスポートは腰バッグに入れて1回も出していないから間違いなくある。
 でも念のため確認しようとして腰バッグを開けると、なぜかパスポートがない!財布のことがあったので、ポケットやほかのバッグも見てみるのだが、ない。どう考えても腰バッグに入れたのだが。どうしてもないので、ガイドさんに言って、少しだけ出発を待ってもらってもう一度腰バッグの中のものを確認する。
 もう、顔面蒼白で、冷や汗だらだら、手の平にまでじっとりと汗をかいている。
 パスポートは、旅行中に読もうと思っていた文庫本に挟まっていた。うまく隠れたものである。
 他の乗客の白い目を痛いほど感じながら、上海空港へと出発した。
 旅行中というのはなんでこんなに物がなくなるのだろう(私の場合は普段からか)。間違いなく入れたはずのカミソリや石鹸などがどうしても見つからなくて旅行中は使えず、家に帰るとどこからか出てくる。旅行中は勝手にどこかに行っていて、帰途にこっそり潜り込んでいるのではないかと思えるほどだ。
 でも、同行の人は実際に携帯をホテルに忘れてしまい、空港からホテルに電話をかけていたが、何せ日本人の中国語力・英語力だから、果たして見つかったかどうか。
 釣り道具を祖国に没収された以外は何もなくさずに帰国できた私は幸運だったのかもしれない。
 「上海道中膝栗毛」、まだ続きます。