通天閣

 京都と大阪は隣同士だが、これくらい気質の違う人々も珍しいだろう。
 なかなか本音を言わない京都人、そこまで言わんでもとさえ思われる大阪人。
 真面目に話をする京都人、どんなことでもちゃかしてしまう大阪人。
 私のバイトしていた中華料理屋は京都にあったが、駅の食堂街にあったので、客は外国人から東北、九州人まで様々だった。だが、一目で「あ、〇〇人だ」とわかるのは大阪人だった(髪の色や目の色が違う外国人は除く)。
 まず、しゃべりながら店に入ってくる。ほとんどの地方の人は道で歩いているときはお互いにしゃべっていても、店に入る瞬間は黙るのが普通である。だから、しゃべりながら入ってくるのはほとんどが大阪人で、かつ、実際に大阪弁をしゃべっているから間違いない。
 そして、こちらを「にいちゃん」と呼ぶ。これは立派な服を着た紳士でもそうで、「にいちゃん、水おくれ」など、こちらに話しかけるときに枕詞のように「にいちゃん」がつく。ウエイトレスだったら「ねえちゃん」である。
 あるとき、大阪人らしい数人の集団が入ってきて、「にいちゃん、わし酢豚定食な」「わし青椒肉絲定食な」などとてんでんに注文をした。
 最初にできた食物を私が持っていくと、大阪人たちは顔を見合わせて、
「にいちゃん、これ、どないして食うねん…」
とにやにやしながら言った。
「え?」
「わしも5本箸もっとるけど、この食いモン熱いしな…」
東京人なら「ウエイターさん、箸ないよ」と笑いもせずにいうだろう。
九州人なら「箸ください」と短くいうところかもしれない。
 相手の過失に対する対応としてどれが好きかというのは、その人が生まれ育った地方に左右されるだろう。ただ、私は大阪人的な対応は嫌いではない。臨機応変の下手な私にはできないが。
 関西での8年間の生活は、単刀直入を旨としていた私に、少しだけ「諧謔」というものを教えてくれたような気がする。