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行きはよいよい帰りは怖い

 祖先の残した宝の地図に従い熊本県三角町にある霊峰三角岳に登ることを決意した私は、まず「三角岳と天翔台を結ぶ麗線を結べ」という指示に従って天翔台に登り、そこでさらに先輩ジャーナリストである後藤是山の残した暗号に遭遇したのであった(すべて出鱈目)。

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 天翔台からの素晴らしい眺めに別れを告げて、帰途につく。
 そのとき私はふと、さっきすれ違った登山者の言葉を思い出した。
 「保育園の裏から直接天翔台に登るルートがあるんですよ。」
 下ろうとしたとき、そのルートの看板があることに気付いた。
 登山者は確か30分で登ってきたと言った。
 私は三角支所前からの登山路を1時間近くかけて登ってきた。このルートが一般的なルートである。ただ、途中で三角岳の登頂路と分岐しているから、天翔台までの最短ルートとはいえない。
 私は最短ルートを通って帰るかどうか、5分ほど迷った。ここを開発すれば、次に登るときは相当早く登れるだろう。
 しかし、これは登山の時にやってはいけないことのワースト3に入る行為である。つまり、「予定のルートを気まぐれで変える」という奴だ。
 私は一度通ったルートをそのまま帰ることにした。結果的にはこれが成功だった。 教えられたルートを通ったら私は遭難したかもしれない(本気)。
 降り始めて5分くらいして、20人くらいの集団がこちらに登ってくるのに気付いた。私は道の脇に立ち止まって避けた。自動車の離合(すれ違いの熊本方言)と同じで、狭い山道ですれ違う時には降りる方が譲るのがルールである。
 それにしてもえらく静かな集団だ。ふつうこれだけの大人数が歩いていたら、話し声で相当騒がしいはずだが。途中で気付いたのだが、聴覚障害のある人たちの集団だった。私は言語聴覚士のくせに手話ができないから、「こんにちわ」すら言えなかったが。 
 この人たちの通過を待って傾斜地に立っている時、膝が「フフフ…」と笑った気がした。
 それから歩き始めてすぐ、膝が「ククク…」と笑い始めた。
 そのうちに膝は「ケケケ!」と笑い始め、その10分後には「ゲラゲラ!」笑い始めた。 
 もはや歩みを止めても膝の笑いは止まらなかった。「ゲヘヘヘ、ゲヘヘヘ」笑っていた。すっかりスイッチが入ったようだった。
 登りの時に「ここは木の根も岩もない泥道で落ち葉が厚く積もっているから下りは苦労するだろうな…」と予感した部分にやってきたときには、膝は大爆笑を始めていた。
 ときどき勢い余って痛めている右膝を突っ張ったまま着地させてしまい、激痛が走った。
 「ギャハハハハハハ!」「ウケケケケケケ!」と笑う膝を抱えながら、私はその坂の上に呆然と立っていた。このままこの坂を降り始めたら、私は確実に途中で転び、後は転がりながら滑り落ち、登山路を外れて谷底に落ちていくだろう。 
 妻や娘や、母やきょうだいや、友達や同僚、学生、しまいには父や祖父などの亡くなった人たちの面影が私の脳裏を走馬灯のように回り始めた。
 ああ、とある休日、気まぐれで山に登ろうなどと思ったばかりに、ここで人生を終えるのか(大袈裟)。 
 そのとき、私は道の端にロープが渡してあるのに気付いた。
 上りの時にも付いていたのだが、私はこれは「ここが登山路である」という標識のようなものだと思っていた。
 そういえば、道の途中途中にピンク色のリボンが結んであり、それが結んである方が登山路であることを示していた。三角岳は登山路が整備されているとはいえ、やはり獣道と見分けがつきにくい所がある。このリボンがなければ私は道に迷ってしまっただろう。
 私は道の片側、ときには両側に張ってあるロープはリボンと同じ働きのものだと思っていたのだが、このときに初めて気づいたことには、このロープには一定の間隔で結び目が作ってある。
 私はやっと悟った。
 このロープはきつい下りのときに体を支えて滑落を防止するためのものなのだ!
 それまで私はそれに気づかずに杖1本を頼りに急な坂を下りてきていたから、相当きつかったし、怖かった。
 ロープを握りながら、頼りすぎず(突然ロープが外れたり切れたりしたらロープがないよりもっと怖いことになる) 、慎重に降り始める。ああ、なんて楽なんだ!
 しかし、笑い始めた膝はもはや爆笑を止めなかった。しまいには笑い疲れて「腹筋崩壊」状態になり、ヒクヒクと痙攣を始めても、なお笑意(これは私の造語である)は収まらなかった。

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 再び登山口に立ったとき、私はもはや一歩も歩きたくなかった。しかし、ここからさらに自宅に歩いて帰らなければならなかった。 むしろここからの20分(行きは15分だから本気で疲れていた)が山道より辛かった。
 ヒクヒクと痙攣し、ズキズキと痛む膝を抱えながら、半泣きになって私は歩いた。 

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 振り返ると天翔台に立っているアンテナが見えた。
 「よくあんなところまで登って無事に帰ってきたなあ!」と自分を褒めてやりたい私であった。 
 私が三角岳に登頂する日も近い。