入国は気合だ

 妻の機嫌も直り、飛行機は無事仁川空港に着いた。

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 綺麗な夕焼けである。

 ここからは格安航空のいつもの旅程で、

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 1kmくらい歩いた後地下鉄に乗って出入国管理局や税関のある第一ターミナルに向かう。 

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 最近は韓国でも日本同様ヒジャブ(スカーフ)を被ったイスラム女性をよく見かけるようになった。

 さて、因縁の入国審査である。

モニター画面の機械に指を置く

 過去何度かここでトラブルを起こしている私たち夫婦である。

 このところの世情のせいか、前回の仁川旅行より空港の警備が厳重になっている。

 窓口には入国を待つ列と管理官を隔てるゲートが作ってあり、物理的に一人ずつしか入れなくなっている。
 これは私のように順番を待ちきれずに前の人に付いて待合の線を越えてしまう不届き者がいるからだろう。

 それだけでなく、列に並ぶ前に、看板にわざわざ矢印と囲みをして「ここを詳しく書いてください」と「滞在先住所」を示してある。

 その旨妻に言ったのだが、「うるさく言われたことないよ」という。
 迎えに来ているはずの娘にメールしても「そこは詳しく書かなくていいよ」という返信。

 娘夫婦の住所の一部である「〇〇道〇〇市〇〇洞」だけ書いて、管理官に提出する。

 ほらー! 

 「ここはもっと詳しく書いてください。」と言って突き返された。隣の窓口の妻もご同様である。

 一旦列から離れて我が家に婿殿から届いた宅急便の住所を確認する。
 全部英語で書いてある。長い。
 許可証の狭いスペースに入るはずがない。全部漢字に直しても、やはり入らない。

 仕方がないので豚の尻尾のようにくるっと回した矢印を書いて、裏面に書く。

 私はやっとパス。
 
 ところが隣の窓口の妻はまた拒否されている。
 「表に書いてもらわないと。ここをスキャンするんですから。」と言われている。

 どうする、妻。

 「入らないですよね。ここ。狭いから。どこに書くんですか?!」
 妻が住所欄を指さしながら、ドスの利いた声で主張している。女房岳の噴火の前触れの地響きが聞こえてくる気がした。

 管理官がひるんで、「仕方ないですね」と受理。
 
 私に追いついた妻が、「ああいうのは気合よね…」と低い声でボソっと言った。
 私は大和撫子と結婚したつもりだったのだが。

 預けていた荷物がなかなか出てこず、飛行機が着いたのは6時半くらいだったのに、娘と合流したのは既に8時近かった。

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 娘にチケットを買ってもらって、

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 バスに乗り込んでゴーである。ただし、写真のバスはプライバシー保護のため、わざと違う行く先のものを選んでいる。

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 娘夫婦宅に着いたときはもう9時を過ぎていた。

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 仕事で遅くなっていた婿殿も合流してカルビ屋で夕食である。

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 さすがカルビ専門店だけあって美味い。ただし、日本でよく知られているカルビ(ソカルビ=牛アバラ肉)ではなく、テジカルビ(豚カルビ)である。

 これがあっという間になくなったので(私が半分くらい食べた)、別のものを頼む。
 婿殿がメニューを見せてくれた。
 サムギョプサルやテッチャンなど、日本でもお馴染みのものもあるが、しばらく韓国とはお別れである。どうせなら安くて珍しいものを探す。

 「マクチャン」というのがあった。安い。早速2人前頼む。

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 これが来たのだが、ちょっと怯む外観である。わざわざテンジャン(味噌)が付いてきているから結構癖があるのかもしれない。

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 焼き始めたが、このまま食べたら噛み切れなくて喉に詰まりそうである。

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 妻が「私はこれ食わんよ!」と宣言したので、日本でもお馴染みのサムギョプサルを頼む。

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 マクチャンは輪切りにし、さらに縦に切ったら食べやすくなった。ちょっと癖があるが、味噌ダレと相まってなかなかの美味さである。ほとんど私一人で食べる。
 後でよく調べたら、マクチャンは豚の直腸であった。切り開いてよく焼いておいてよかった。
 豚のサナダムシは怖いのだ。

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 実は私はマクチャンと共に、タッパルを頼んでいたのだ。
 これは以前見たイヌアッチケー(仮名)の番組に登場していたから、何であるかは知っていた。
 この番組は日本のJK(女子高生)が中国のJKのところに泊まりに行くという企画だったが、日本の女の子が食べたのがこれだったから、元は中華料理なのかもしれない。あるいは韓国からの逆輸入か。

 赤いタレがかかっているから分かりにくいが、実はタッパルは鶏の足である。日本でいうところの「モミジ」という奴で、我が国では基本的にスープの出汁を取る食材である。

 元が中華なら赤くてもそこまで辛くなかろう、と思ったのが運の尽きだった。

 これは齢55歳の私が今までに食べた韓国料理の中で五指に折り得る辛さだったのだ。
 滞在3年ですっかり辛さに慣れてしまった婿殿すら、一口食べて「うわっ! かれえ!」と叫んだ代物である。

考える河童

 翌日からはいつもより短い韓国の滞在時間がすっかりトイレ探しの旅と化してしまったのだった。

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 それでもタッパル以外の肉はすべて私たち(主に私)の腹に収まったのだった。