「河童簡単韓国料理」のシリーズを書くために過去に作った料理を調べていたら「中華料理への誘い」シリーズに漏れている美味しい料理が見つかったのでそちらについて書きたい。
私は文章のプロではないので、シリーズを始めたからといってそれを無理やり書かなくてもいいだろう。
さて、「烏賊と青梗菜の炒め物」である。
中国語では「鱿鱼炒青梗菜」というが、読みが「ヨウユイチャオチンゲンツァイ」という、日本人には物凄く発音しにくいもので、どう修正してもせいぜい「ヨウユイチャーチンゲンサイ」くらいにしかならないので、これは本国の人がやっている店以外ではまず日本語で呼ばれているといっていいだろう。
私がこの料理を知ったのは妻と結婚してからである。
妻は料理上手だから私は三国一の幸せ者なのだが(本震、じゃなかった、本心)、妻の作る料理のほとんどは和食であり、この料理は妻が作れる数少ない中華料理の一つなのだ。
では私たちは中華が食べたいときにはどうしているかといえば、勿論私が作っているのである。
私は大陸帰りの両親に育てられ、若い時は中華の料理人だったから(嘘。本当は中華料理屋でバイトをしていただけ)、中華だけはお手の物なのである。
だから、妻の作る見慣れない中華はとても新鮮な気持ちで食べられた。これがまた美味い。
したがって製法を教わってからは私が作るようになった。
妻はこれを冷凍の烏賊ロールで作っていたが、折角魚が新鮮な土地に移ってきたのを契機に、獲れたてので作るようになった。
私たちが普通に食べている烏賊はロールのような輸入物を除けば大きくは4種類である。
一つは鯣烏賊(スルメイカ)、もう一つは甲烏賊(コウイカ)、そして槍烏賊(ヤリイカ)、最後に煽烏賊(アオリイカ)である。
以前烏賊を水泳選手に準えた駄文を書いたことがあるが、この文の挿絵の第3レーンが鯣烏賊、第2レーンが甲烏賊、第1レーンが煽烏賊である。
ちなみに第4レーンは剣先烏賊、第5レーンは耳烏賊であるが、これらは値段や収穫量の関係であまり一般的に食べられるものではない。
生で食べたらどれが美味いかといえば、もちろん個人の好みだから正解はないのだが、私はやはり煽烏賊かなと思う。ねっとりまったりとした舌触りの中から立ち昇ってくる香りと旨味が堪らない。
次点が槍烏賊か。さっぱりシャキシャキした中にも舌触りの良さとしつこくない旨味が立ち昇る。この「立ち昇り感」は新鮮な両者でないと味わえないから、産地から遠い人はお気の毒である。
次が鯣烏賊か。これはやや硬いがそれをしっかりと噛み潰すとやはり良い香りと独特の旨味が滲み出る。鯣烏賊には「立ち昇り感」まではないが、これは私がこの烏賊の本当の産地から少し遠いところに住んでいるからかもしれない。
最後に、甲烏賊である。獲れ獲れの甲烏賊は生で食べても大して美味いものではないと感じる。歯応えはいいがそれだけで、「立ち昇り」も「滲み出」もない。あっさりし過ぎである。
ところがこの烏賊、加熱すると俄然旨味が出てくる。
勿論他の3つも加熱しても美味いが、甲烏賊は生が大したことないだけに一層美味く感じる。天麩羅など絶品である。どこにそんな旨味が隠れていたのか、と感動するほどだ。
なんだか学校の座学では涎喰って寝てばかりいる学生が、臨床に出たらえらく生き生きして実習先から就職しないかと誘われる、という感じである。
したがって、烏賊と青梗菜の炒め物も、甲烏賊で作るのが美味い。もちろん他の烏賊でもいいのだが、煽烏賊は高価なので総菜に使ってしまうのは勿体ないし、鯣烏賊や槍烏賊は皮の色素が餡に出てしまって見栄えがよくない。やはり甲烏賊が最適である。
さて、レシピである。
[材料]2人前
1.甲烏賊小1杯。勿論他の烏賊でもよい。バラして一口大に切っておく。
2.青梗菜4輪。山東菜でも似たようなものになるが、烏賊の旨味をがっちり受け止められるのは少し癖のある青梗菜ではないかと思う。これは縮むことを計算にいれて少し大きめに切っておく。
3.大蒜、生姜、葱。
4.鶏がらスープ100ml。インスタント可。
5.片栗粉。大さじ1杯。
[作り方]
1.大蒜、生姜、葱を微塵切りにし、菜種油と胡麻油を半々に混ぜた大さじ2杯くらいの油で炒める。香ばしくなってきたら油こしで濾して油だけにする。
2.1の油を中華鍋で熱し、烏賊を入れて炒める。
3.烏賊に火が通ったら青梗菜を入れて、塩一つまみで味付けをする。次に入れる鶏がらスープにも塩味が付いているので入れすぎないこと。
4.鶏がらスープを入れ、煮たてる。
5.片栗粉を水で溶き入れ、トロミが付いたら出来上がり。
簡単だし美味い。
少しだけ隠し味にオイスターソースを入れてもよい。
オイスターソースは烏賊と相性がいいから、スープを減らしてオイスターソース炒めにするというテもある。こちらは塩炒めに飽きたときにどうぞ。