これが南大門でなくて南大門

 地下鉄を乗り継ぎ、南大門市場に着いた私達夫婦である。

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 まだ10時くらいだというのに相変わらずの賑わいである。

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 私は35年くらい前にこの市場で客引きに拉致されたことがあって、どうもこの街が好きになれなかったのだが、前々回の渡韓あたりから何だか好きになってきた。

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 ここで本当に恥ずかしい告白をしなければならない。

 私たち夫婦が南大門の大通りを通ってこの門の前に来た時、私は妻にある質問をしそうになった。もし私が急に悟ってこの質問を口から出さないままにモゴモゴと噛み潰してしまわなかったとしたら、私は妻から日本に強制送還されたかもしれない。

 その質問とは、「この門って、なんの門?」というものである。

 私はこの門の名を冠した市場に何回も来ていながら、南大門を見たことがなかったのだ。
 当たり前の話だが南大門の周辺に広がる市場だから南大門市場なのだ。こぎゃんありますもんなー(「この人はこういう人だからねー」という熊本弁の皮肉)。

 お目当てのものを買いにA社長の店に行く。

 この店には3年ほど前から行き始めた。

 A社長は私たちの姿を見つけると、すぐに私たちを店内に招き入れ、すばやく店の扉を閉めた。これはこの3年間繰り返されるいつもの行動である。

 A社長に迷惑を掛けたくないので、具体的にどこの店か、とか、何の店か、などという話はしない。韓国通で「あ!」と思った人も、その考えは胸の中に留めておいてほしい。

 A社長は私達と話す時商品の宣伝はほとんどせず、韓国についての有益な情報をいろいろ教えてくれるので、私達は今回の事態についてこの人がどう考えているか知りたく、この店を訪ねることは今回の旅行の主要な目的の一つだったのだ。

 話の内容についてはここで詳しく明かすことはできない。
 本当はA社長の言葉の一つ一つについて、韓国人はこう考えているのだ、ということを日本人に明らかにしたかったのだが。

 よく考えてみたら、一個人がそうした責務を負わなければならない道理はどこにもない。

 ただ、私たちは随分いろいろな話をしたが、全体を貫いていることは、「このままではお互いが損をする」ということだった。

 ここから先の話はA社長が直接言葉にしたものではなく、あくまで私の主観であり、反論のある人は私に対してそうしてほしい。
 
 やはり貿易に関する問題については「友達だと思っていたのに裏切られた」という感情を持っているようだった。これはA社長のように日本人の友人を持ち、日本にも何度も来たことのある人に特有の感情なのかもしれないが。

 東亜には遠くから日本を見ていて憧れているというレベルの「日本が好き」ではなく、実際に日本人と接して日本にも来て「日本が好き」という人がたくさんいる。私は日本と日本人にはそうした魅力があると信じている日本人である。

 彼らは東亜を脱したいと願う日本人たちが世界のどこかに探し求めている幻の親日国(バーチャル)の住民と違い、本当に存在する人たち(リアル)だ。
 彼らは日本にこうなってほしいという願望があるし、日本の現実についても詳しいから時には日本に対して辛辣になる。
 そしておそらく韓国には世界で一番多くのリアル「日本が好き」という人が住んでいる。

 A社長が私達と話す時には店の扉を閉めるように、あるいはそれが公には口にしにくい雰囲気が社会にはあるのかもしれないが。

 (日本の報道を信じるとして)不買運動の主体が若い韓国人たちであるということは、これらの人たちが今回の事態に憤りを感じているということだ。おそらく感情的なキーワードは「友達だと思っていたのに裏切られた」だろう。 

 日韓は訣別しても自力でやっていく力をお互いが持っているのかもしれない。

 しかし、今回の事態がお互いの国の若者たちの心に不信感を植え付けてしまうとしたら、それは日韓両国や東亜という地域にとってだけでなく、世界にとっての損失である(お、大きく出たな)。

 日韓は独仏のようになぜ仲良くできないのか、という人もいるが、間違いなく日韓の方が仲がいい。お互いが気付いていないだけだ。

 と、言い放った後、本当にそうだっけ、と思って、日韓と独仏の結婚する人の割合を調べようとしたのだが、驚いたことに独逸人と仏蘭西人カップルの統計をネットで得られない。「日本人女性の国際結婚の際に気を付けること」という類のものしかヒットしない。「ドイツ人とフランス人の結婚 統計」というキーワードを入れているにも関わらず、だ。

 「グルグル先生(妻の新造語)」の検索は以前より一段とおかしくなっていないか。
 いろいろとキーワードを変えて検索しても、同じものばかり出てくる。
 中国から撤退したのはそうした状況を潔しとしなかったからではないのか。猛省をお願いしたい(あんた、本当に、何様だ)。

 閑話休題(さすがにもうそうははなしがそれやすい)。

 世界は「武士道の国」と「東方礼儀之国」がどうやって不幸な過去を乗り越えていくのか、固唾を飲んで注視している。人もいる。大多数は勝手にやってくれだろうが。
 「グローバル」などという言葉を持ち出さなくても、東亜には「四海」という言葉がある。
 「武士道とは不意打ちと見つけたり」「礼儀之不買運動也」では情けない。

 少なくとも、お互いを好きになって懸け橋になって頑張ってきた庶民が軋轢の中で擂り潰されそうになっているのに、それを是認するようなことは、「武士道」でも「礼儀」でもあるまい。

 表題と中身が一致していないことをお詫びします。

 A社長の店を出た私たちは明洞に向かう。