喧嘩してる場合じゃない

 翌日はいよいよ帰国である。

 ソウル駅で出国手続きができるというので、今回の旅ではそうすることにした。

 搭乗の3時間前には行く必要がある。
 飛行機が昼の便なので、敢えて朝飯を食べずにソウル駅に向かう。

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 預けるときに重量を見たらスーツケースだけで私が21kg、妻が18kgというとんでもない重い荷物なので、タクシーを使うことにする。
 写真は帰国後に撮った写真である。

 ところがこれがなかなか捉まらない。

 予約されているのか、どんどん私達の前を通り過ぎていく。

 すると、私達の近くでやはりタクシーを拾おうとしていたらしい人が、たまたま一台のタクシーを止めると、私達に手招きをした。中年の女性である。

 30数年前の韓国ではよくタクシーの相乗りをしていたことを思い出して、「相乗りですか?」と聞いたが、違うようだ。「貴方たちが先に乗りなさいと言っているらしい」。どうやら韓国人ではないらしく、日本人が聴いても分かる拙い韓国語である。
 お互いが拙い韓国語で、「いや、あなたが先に」「いや、あなたが」と数回譲り合った後で、有難く先に乗ることにした。

 この人は親切にもタクシーの運転手さんに「ソウル駅に行くらしいよ」「急いでね」などと言って、荷物を積み込むのまで手伝ってくれた。

 運転技師さんは私たちがドアを閉めると、「なんだろうね、あのおばちゃん。韓国人じゃないよね?」
 いやいや、私達も韓国人ではないのだが。

 思わず車内に「ニヤッ」という雰囲気が広がった。

 ソウル駅までの道のり、運転技師さんはいろいろと話しかけてきた。

 普段はこういうとき9割方分からないのだが、ゆっくり話しかけてくれたせいかほぼ半分くらいは分かった。私のできる限りの脳力で返答したのだが、どれくらい的を射た答えになっていたやら。

 ソウル駅に着いて、まず搭乗手続きと出国手続きに向かう。

 この、鉄道の駅で飛行機の手続きをする、という制度はまだ十分周知されていないらしく、ひどく人が少ない。
 しかも係員は日本語がペラペラである。最近は英語がペラペラの韓国人は増えたものの、日本語が堪能な韓国人は減少傾向にあるので、貴重な存在である。

 おかげですぐ手続きが済んだ。

 今度は朝食に向かう。

 湯(汁)が主体の店で、私はソゴギクッパ(牛肉クッパ)、妻はソルロンタン(牛肉煮込みスープ)を頼む。

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 ところが何という不運か、このソゴギクッパが昨日の朝のユッケジャンのように、地獄の如く辛い。

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 妻のソルロンタンを食べさせてもらうと、こちらは実に円やかで穏当な味である。

 これは完全な選択ミスだ。

 あるいは、私の胃腸がそろそろ大量の唐辛子に悲鳴を上げ始めていたのかもしれない。
 私はおそらく今までの韓国旅行の中で初めて料理を残した。

 私は最近韓国料理に凝っているので、自宅でもよく作る。元々の私の得意技である中華料理より最近は頻度が高いかもしれない。
 以前はユッケジャンのような辛いものは駄目だったのだが、最近はOKになった。
 それはある特効薬を見つけたからである。

 自分の作った料理がどうもコチュジャンや唐辛子粉や、「勉強の神(仮名)」の唐辛子味や、韓国ラーメンのスープやらを入れすぎて「辛い」と感じたとき、私はこの特効薬を投入する。

 それは、肥後の赤玉、じゃなかった、肥後の赤牛、じゃなかった、肥後の赤旗(食えないし)、じゃなかった、肥後の赤〇である(ますます嫌な奴だなあ)。

 これを入れると、やたらと辛くなった料理がたちまち日本人好みのマイルドな味になる。

 しかしさすがに赤〇を外国旅行で持ち歩くわけにはいかないから、本場韓国の辛味の直撃を喰らってしまったわけだ。

 朝食の後、とても変わった横断歩道を通って、通りを隔てたビルに向かう。

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 ここは韓国でも有名なオフィスビルらしく、地下は食堂街になっている。

 ただ、朝飯は食べているので地下に行ったからといって特にすることはない。もちろん私たちは韓国企業に勤めているわけではないからオフィスにはもっと用がない。

 仕方がないのでここを出てもう少し歩くと、何ともう南大門の街の端である。

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 我が家のTVの製造メーカーのビルがある。

 このメーカーのビルの足元には人工的に水が流れる庭園っぽい休憩所がある。夫婦そろって図々しくここに座って痛む足を休める。
 ソウル駅から数百メートルしか離れていないのに、まったく違う雰囲気である。

 このメーカーのTVは買った当時日本メーカーの同レベルの製品の半額程度の値段だったが、スペックは上だった。

 このTVを買ったときより10年くらい前、韓国メーカーのPCが店頭に出回ったことがあって、カタログ上のスペックに惹かれて買った人がいたが、造りの雑さに後悔していた。

 しかし、我が家のTVは周辺の日本メーカー製品が何度もトラブルを起こしているのに、5年を超えてもビクともしない。

 頑張れニッポン。
 生憎私は工学系人間ではないので、エールを送るくらいしかできない。

 何せ7年前の2012年に設置された「経済再生担当大臣」がいまだに指名され続けているのだから、日本の経済は死んだままなのだろう(皮)。「再生」とは死んだものが甦るという意味の言葉である。一体いつから死んでいるのか。いつまで死ぬのか。

 そういえば私の懐の体調も頗る悪く、10月に予定していた次回の韓国旅行を諦めたくらいなのだ(単にハイエナのように狙っていた航空券と宿代が思ったほど下がらなかっただけ)。

 経済が死んでいるのに増税をする、というのも凄い話だが。私は増税に先立つ9月30日に再生大臣が解任され、日本経済の再生が高らかに宣言されるに違いないとわくわくしながら待っていた(皮)。

 ただ、韓国経済も大丈夫か、という光景をソウル駅頭で見た。

 相当の数の定住地のない人がもう日が昇ったというのに寝ていたのだ。

 これはリーマンショックの後には日本でも見られた光景である。見ていて実に辛い。

 この光景については時期が時期なので、韓国アンチたちの格好の攻撃材料にされそうなのでよほど書くまいかと思ったのだが、都合の悪い真実に目をつぶるのは私の主義に反するので敢えて記述する。

 私は人生のほんの一時期、定住地のない人に対する支援活動をしていたことがあるから、彼らがごく単純にお金がないからそうしているわけではないことも知っている。

 しかし、世間の人が思っているような、彼らが社会からドロップアウトすることが何か必然である資質を持っているわけではないことも知っている。

 妬み嫉みの強い人たちは、偏差値の高い大学を出て大企業に勤めていた人がそうなった話を好んでする。
 私はそういう話を今までにも何回も聞いた。彼らはそれで留飲を下げているのだろう。

 だが、実際には彼らの大多数は低学歴で、雇用が不安定で、景気が悪くなったときにその不安定な雇用を失って街に出なければならなくなった人々であることは、各種の統計や研究が示している。

 だから路上で生活する人が多いということは、その国の経済に何らかの問題があることを示しているといってよい。

 それを意識しているから酷い場合には「刈り込み」が行われ、彼らは人目につかないところに追いやられたりするのだが。五輪などの国際イベントなどの前にはこうした行為が横行する。

 さすがに今の韓国の政権は現在それはしていないようだが、巷で伝えられているように景気が悪いのは事実のようだ。

 私は隣国の首脳を個人攻撃するような行為がマスコミにできるのは日韓が世界でも一番仲がいい故の甘えだと思っている。
 日韓がもっとデリケートな関係ならば、たとえば蜜月と言われる独仏であっても、こういった行為が横行すれば世論が沸騰して開戦しても不思議ではないだろう。
 実は昔ほど骨のない現代っ子記者たちは、本当は自分の国の政治に物申したいのだが、その勇気がなくて「他山の石」で警世しているのかもしれないが。つくづく父たち(韓国語でいえばウリアボジ)の世代が懐かしい。

 ただ、両国の選良たちには隣国の悪口を言っている暇があったら自国の不運な人々に目を向けてほしい。
 駅の路上で寝て居る人、もしくはそれすら許されない人。
 今回の国同士の軋轢で板挟みになって生活を脅かされている人。

 彼らは「美しい国」や「統一祖国」のためにはやむを得ない犠牲なのですか。

 そんなことを取り留めもなく考えながら座っている私であった。