ポックンパ

 以前に比べると随分韓国料理が好きになってきた私だが、どうも好きになれない、というより、わざわざ料理として取り上げる程のこともない、と思ってきたのがポックンバだった。 

 「ポックンパ」というのは直訳すると「焼き飯」である。
 日本で焼きめしといえば、中華風の炒飯を指すのが普通である。

 名人上手の作った炒飯の美味さは感動的である。
 圧倒的な火力の中で熟練の鍋振り技術によって中空に放り投げられた飯粒は、表面のその粘度を失って個々に分解され、食べるものの舌にパラパラという食感を残して胃袋に吸い込まれて行く。

 対してポックンパ。
 「ポックンパの素」なるものも現地には売っているが、どうも「気合が入らない」味で、それ単独で「ああ、食べた」と満足できるものではない。塩気が足りないし、旨味が足りない。

 特に韓国人が大好きだという、鍋の〆のポックンパは現地でもかなり食べたが、美味いと思った試しがなかった。
 大抵はやたらと辛い上に、御飯がベチャベチャしている。
 正直「気が知れない」と思っていた。

 ある晩までは。

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 ある晩、私達夫婦はプデチゲを食べていた。我が家では韓国風の鍋物はフライパンで作ることにしている。これは後始末が楽だからだ。

 プデチゲと言っても、本場のあの真っ赤っかな辛-い奴ではない。
 プデチゲに必須のスパムすら入っていない。夫婦そろって高血圧の私達にはスパムの馬鹿にならない塩気は敵なのだ。替りに入っているのは魚肉ソーセージである。挽肉もパン粉も卵黄も玉葱さえも入っていないくせに「ハンバーグ」を僭称している例の奴である。

 さらに、ウインナーの替りに竹輪が入っている。
 これは作る直前になってウインナーを切らしていることに気付いたのと、だいぶ前に買った日奈久竹輪(熊本では竹輪の代名詞といってよい八代市日奈久町産のもの)が残っていることに気付いたためだ。

 あとはモヤシと水菜と、エリンギ・椎茸を薄切りにしたもの。
 我が家のプデチゲには必ず茸が入っている理由については一度書いた。これは本物の「部隊チゲ」にするためである。

 スープは「豚チゲラーメン(仮名)」か「仁ラーメン(仮名)」のスープに「勉強の神(仮名)」適量。辛いのが苦手な人は肥後の赤酒を大さじ2杯くらい入れると辛さがマイルドになってよい。

 そろそろプデチゲを食べ終わろうかとしたとき、急に私はチヂミ(パジョン)が食べたくなった。

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 我が家のチヂミはこんな奴である。
 作るのには結構手間がかかる。

 そうだ、ちょっとだけ残っている鍋の具を使ってチヂミが作れないか。

 ただ、鍋の中にチヂミの粉を入れる想像をしたとき、私はおそらくそれがまともな料理にはならないことを直感的に悟った。止めたほうがいい。全部捨てなければならなくなる。

 そういえば、炊飯器の中に茶碗2杯分くらい御飯が残っていたっけ。プデチゲの残りとあの御飯をチヂミ風に焼いてみたらどうだろう。

 早速ご飯をフライパンに放り込む。
 えらく汁が多いな。これを煮詰めたらえらく時間がかかるし、御飯が溶けてベチャベチャになりそうだ。

 汁を御飯がひたひたになるくらいまで捨てる。
 さらに、残った具の中で大きいものは焼くのに邪魔なので、油掬いで掬って細かく切る。
 さらに竹輪がもう1本残っていたのを細かく刻んで入れる。

 だんだん汁が煮詰まってきてそれを杓文字で混ぜていたとき、私は鍋の中の食材(残飯)があるものを連想させることに気付いた。
 サラサラの生地の中に浮かんだ小刻みの具。だんだん煮詰まって立ち昇る香ばしい匂い。これは出汁の焦げる匂いである。
 そうだ、これは「もんじゃ焼き」に似ているのだ。

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 案の定、この「韓国風もんじゃ」は、汁が十分に煮詰まってもお好み焼きのようにはカッチリ焼けず、もんじゃ焼きのようにまとまらないままだった。

 もんじゃ焼きのおこげのような部分がどんどん増えていったとき、私はそれが私の大好きな「炊き込みご飯のおこげ」と同じ香りを立たせていることに気付いた。
 「おこげ一杯の炊き込みご飯」である。炊き込みご飯の好きな人、想像してみてください。涎の海で溺れそうでしょう。

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 「〆のポックンパ」完成。

 半分は「まだ食べるの?」などと嫌味を言っていた妻に強奪されてしまったが、残り半分に至福の味が残っていた。

 美味いぞ、ポックンパ。

 「〆のポックンバを作る時はもんじゃを焼く要領で」という、東亜の金字塔に辿り着いた夜の私であった。

 レシピである。
[材料]
1.鍋物の残り。プデチゲ、カムジャタンなどが最適である。ユッケジャン、タッカルビなどは辛いのが苦手な人には厳しいか。試したことはないがおそらくスンドゥブの残りでも海鮮風になって美味いに違いない。知らんけど。
2.竹輪。できれば熊本県八代市日奈久町で作られたもの。Well肉桂流ポックンパには竹輪が欠かせない。これは海鮮の焦げた風味を演出するためである。
3.焦げ付き防止のコーティングがしてあるフライパン。中華鍋でもよいが、よほど使い込んだものでないと焦げ付かないために大量の油が必要となる。
[製法]
1.鍋の残りの具を掬い上げ、大きいものは小さく刻む。野菜類は調理過程でほとんど溶けてしまうので心配なし。
2.スープは一旦味見してちょうどよければそのまま、辛すぎたりしょっぱすぎたりした場合には減らして水で薄める。「煮詰まる」ということを予想して少し薄めの味にしておくとよいかもしれない。
3.フライパンの中にご飯を茶碗2杯分くらい入れる。スープは御飯がひたひたになるくらい。多すぎたら捨て、少なすぎたら水を足す。
4.もんじゃ焼きを焼く要領で、平らに広げた後、外側から裏返し、巾着っぽい形で焼いていく。
5.おこげが出来始めたら4の行程を頻繁にし、本当に焦げてしまわないように気を付ける。
6.普通のかたさの御飯とおこげが半々くらいになったら出来上がり。
7.目玉焼きを半熟で作って上に載せ、食べるときに混ぜても美味い。

 「ポックンパあ? あんなベチャ飯食えるか!」というやまとをのこにぜひおすすめのポックンパです。