私は北の工作員2

 出国手続きも無事に終わり、日韓フェリー「笑ってトンヘ号(仮名)」の乗船客となった私たち夫婦である。
 いつもの年ならば韓国語で充満している船内であるが、今年聞こえてくるのは日本語ばかりである。しかも、例年に比べると乗客が少ないような気がする。

 私たちの荷物はまだ土産もないのにとんでもない重さだから、エレベーターを使って客室まで上がる。

 エレベーター前は長蛇の列である。
 私達の前で日本語を話していた夫婦と同じ「便(エレベーターを同じ個室にいることを何というのだろう)」で上に昇る。
 先に乗った夫婦の方が下の階だったので一旦外に出て道を譲る。こういうときはお互い様である。
 夫と思われる人が頭を下げながら「シェイシェイ」と中国語で礼を言った。私を中国人と思ったらしい。

私は北の工作員

 この私のどこが中国人だというのだろう。
 そういえばこの帽子を最初に被った時、妻は「北の工作員みたい」といってゲラゲラ笑っていた。

 ホテルで日本人らしき人と擦れ違おうとしたときにちょっと肩が触れたら、「ソーリー ! 」と謝られた。もはや同胞は私を日本人と思ってくれないようである。

 乗船券に記された船室に行ってみると、案の定既に窓側と廊下側の席は占拠されていて、真ん中の席しか残っていない。
 仕方ない。2500円で外国に行けるのだ。

 だが暫く座っているとやはり窮屈かつ退屈なので、ロビーに出てみる。
 いつもならばロビー中のテーブルは韓国人で大賑わいなのだが、空席がある。

 すぐさまタブレットとBluetoothのキーボードを持ってきて、ブログの原稿作りを始める。「ポイ活」にかまけて随分と更新をしていない。
 ネットは圏外になっているのでメモ帳に文章だけ打ち込んでいく。アップロードは帰国してからだ。

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 「代走(仮名)」で買った100円のタブレット置きでセットするとこんな感じになる(写真は自宅で撮ったもの)。

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 このタブレットは世界的に有名な会社のものだそうだが、通販で買って自宅に届いて使用しようとすると、右側のキーが全く利かない。出鱈目な字が入力されたり最初から何も入力されなかったりする。
 早速サポートに連絡したのだが、相手が日本語ネイティブでないからかどうにも話が通じず、メールに対しても返事が来ない。
 仕方ないので自分でいじっていたら入力方法を発見してやっと50音が入るようになった。今でも必要な記号などで入力方法が分からないものがあるが、「アポー(仮名)」の変換候補は相当賢くて文字を完全に入力できなくても補完してくれるので、とりあえず一通りの文章は作れるようになっているのだ。

 この船内でタブレットの画面にタッチしなくても変換候補を替えてそのまま入力する方法を発見。

 「ロジヒート(仮名)」のキーボードを買って「アポー」の製品でカナ入力をしようとしてうまく入らなくて困っている人はご一報を。入力方法をお教えします。まあ全世界でも100人もいない気がするが。

 ブログの更新をすると時間の経つのが早い。

 あっという間に3時間くらいが経過し、もうそろそろ下船のために中甲板に降りた方が良さそうである。船室に妻を呼びに行くと、両側からの圧迫感が相当強かったらしく、疲れ気味である。

 促して重い荷物を抱え、下まで降ろす。
 何とエレベーターが使えないことが判明。下船時間は止まっているらしい。
 激怒しながらガコンガコンと階段を引きずり落とす。

 このスーツケースは買ってからそれほど経っていないのに角は散々ぶつけられて変色してしまっている。
 運搬する人も「えーいっ! 何が入ってるんだっ! 重いっ!」という気持ちで扱っているのかもしれない。

 到着した釜山は結構強い雨が降っている。
 入国手続きは飛行場よりは早いが、やはり以前より厳重である。ここで20分ほど経過。

 本来は最寄りの草梁駅までタクシーで行き、ホテルの最寄り駅である南浦駅まで地下鉄で移動する予定だったのだが、荷物が重いのと雨なのとでホテルまで直接タクシーで移動することにする。
 韓国はタクシー料金が安いので、運転マナーの問題さえなければこれを利用するのに垣根が低い。ただ、草梁駅は歩いても10分もかからないくらいなので、行ってもらうのは気の毒だなと思っていた。ホテルまでだとちょうどいい距離かもしれない。

 ところが考えることは皆一緒である。タクシー乗り場は長蛇の列で、寒い中白い息を吐きながらじっと待っている。

 30分ほど待ってやっと自分たちの番が回ってきた。

 ホテル名の中の「観光」という語句が韓国語ではちょっと発音が難しいので、通じるか心配だったが、無事に通じた。
 
 私の韓国語は何故か釜山では通じやすく、ソウルでは通じにくくなり、仁川などの地方都市では全く通じない。九州と釜山ではどこかイントネーションやアクセントが似ているのかもしれない。

 タクシーは思ったよりずっと早く南浦まで来た。料金も5000ウォンかからない。
 「帰りもタクシーよね。」と妻の御宣託が下る。

 さあ、ここからは全て日本語だ。
 さすが「日本人御用達」の「弁韓観光ホテル(仮名)」である。全くストレスなく言葉が通じる。

 部屋の鍵を貰って、部屋に入ると、「あー、おうちが一番…」という気持ちになる。自宅ではないが。気付くともう8時近くになっている。

 さあ、夕食に出かけるぞ。