どこから見ても韓国人

 さあ、釜山で最初の食事である。

 出航してすぐに昼食を摂ったから、もう8時間近く食事していない。
 光復通りにでると、すぐのところから路地に入り、適当なカルビ屋に入る。

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 まずは「メクチュジュセヨ(ビール下さい)。」
 すると、直近2回の旅行で必ず聞かれたことだが、「何の銘柄にしますか」と言われた。
 今まで「メクチュ」と言っただけで店の人が選んだ適当な(大抵は「キャスビール(仮名)」)銘柄が出てきていたような気がするのだが。
 愛国者である私は「ユウヒ(仮名)」で、と答えたが、なかった。このネタ、前回の旅行でもやったな。
 それにしても、不買運動の標的が何故麦酒なのか、解せない。「ユウヒ」や「カントリー(仮名)」が慰安婦や徴用工に何か酷いことをしたという話は聞かないし。「『マキビシ重工(仮名)』の機械は買わないっ!」というような話ならまだ理解できるのだが。

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 ビールは付け合わせを食べているうちにすぐなくなったので、マッコリを頼む。
 前回の釜山旅行では入る店入る店マッコリがなくて悔しい思いをしたのだが、この店ではすぐに出てきた。懐かしの「宣託マッコリ(仮名)」である。今回の旅行では予定通り美味いマッコリが飲めそうだ。

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 豚肉の盛り合わせとミノを頼んだのだが、店のアジュンマ(おばちゃん)から「ミノは盛り合わせを食べてから頼んだら」と言われた。驚くべし、私はこれくらいの韓国語だと理解できるようになっているのだ。いつの間にか上達しているのか、はたまた相性のいい釜山だからなのか。
 このアドバイスは的確なもので、私達夫婦は盛り合わせを食べた時点で完全に満腹になってしまったのだった。

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 盛り合わせのほかにも豆モヤシのナムルやら白菜の水キムチやら豆腐の焼き物やらが出てきていていやしい私達は全部食べるのだから当然かもしれない。

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 肉が焼け始めたら韓国人にしては小柄な可愛らしいアガシ(お嬢さん)が登場して「肉お切りしますねー」と日本語で言って肉を切ってくれる。
 これは韓国では普通に見られるサービスだが、最近はちょこちょこっと適当に切ってサッといなくなる店員さんが多い。中には客任せの店もある。
 だがこのアガシはとても丁寧に肉を切ってマメにひっくり返している。焼けるまで面倒をみるつもりらしい。

 そろそろ焼けたかな、と思って手を出そうとすると、「まだ !」と日本語で言われて鋏で箸を阻止された。
 もういいだろう、と思ってまた箸を伸ばす。またも「まだ !」と実力阻止。

ナムルはビビンバ

 この親切(お節介?)が韓国女性の真骨頂である。客とはいえ、生焼けの肉を食べようとしているのを放っておけないのだろう。
 妻はソウルの店でナムル定食のナムルを御飯に開けられて混ぜられたことがある。
 ましてここは釜山、ソウルっ子より親切1.5倍増しの釜山っ子なのだ。

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 やっと全部焼けてOKが出た。

 妻がアガシに「日本語おじょうずねえ」と言う。
 「え? 私日本人ですよ。」アガシではなくお嬢さんだったのだ。
 「どう見ても私日本人でしょ?」

 いえいえ、貴女はどこから見ても韓国人です。特に客の箸を鋏で阻止してでも生焼け肉を食べさせまいとするそのチョコパイ並みの「情」の深さが。

 そうか、韓国人にしては背が低いと思ったが、日本人とは。

 しかも彼女の話では私達と同じ九州人だという。
 本当は語学留学したかったのだが、経済的な関係でワーキングホリデーに来ているのだとか。

 かく言う私もその昔韓国に語学留学しようとしたことがあるのだ。
 色々な事情、特に反対していた父が脳梗塞で倒れ、病人相手に言い争いをしてまで自分の意思を通すのは忍びなかったのが一番の要因だが、結局実現せずに有耶無耶になってしまったのだが。

 先日部屋の整理をしていたら大学時代に教育実習に行ったときの実習録が出てきて、あの頃どんなことを考えていたのかなと思って自分の書いた部分を読んでみると、「日韓の架け橋になりたいという素志には何の変りもないが」などと書いてあるので1人で赤面した。「何の変りもないが」どころか、変わり過ぎである。

 お嬢さんに「釜山はどう?」と聞くと、「うーん、親切だけどなかなか当たりが強くて…」と苦笑交じりに応えた。
 「頑張りなさいよ」と言いかけたときに客から呼ばれて行ってしまった。

 偉いなあ。

 私とは実行力が違う。
 彼女の目的が何かは知らないが、きっとそれを遂げるに違いない。

 頑張れ、釜山の日本人。

 現在釜山には1000人以上の日本人が住んでいるという。