ヌルジ発見

 元気者の釜山っ子のお陰で良い買い物が出来た私達夫婦である。

 買い物は続く。今度は国際市場に行って1人用の拉麺鍋と「あれ」を買わねば。

 「あれ」は一眼見れば「これ」と分かる代物なのだが、名前が分からない。

 拉麺鍋の方は「1人で使用する鍋」と韓国語で言えば事足りるとして、「あれ」の方は何と切り出せばいいのか。
 「ホットックを押す調理具」か。「押す」が出てこない。勿論スマホで検索すればそれくらいの韓国語はすぐに出てくるのだが、機械にできるだけ頼らずに自分の頭で会話がしたいのだ。
 「ホットックプッシャー」。なかなか端的に表した言葉だが、相手が英語ができない場合には厳しい。

 あれこれ考えながら歩いていたが良い言葉を思いつかず、結局「ホットック」と言いながらギューっと押すジェスチャーをすることにした。

 ところが、実際に金物屋の前に来てみると、店先の目立つところに置いてある。名前が分からなくても、「『これ』、幾らですか?」「『これ』、下さい。」と全て「これ」で用が足りたのであった。

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 今この項を書くにあたって初めてその道具を見ながら「『これ』って名前なんていうんだろう」と興味が湧いて調べてみたところ、「ヌルゲ」というそうだ。しかも驚いたことに「アマゾネス(仮名)」で普通に売っている。それだけ日本でホットックが一般的になっているのだろう。

 社長(店主)に値段を尋ねると、「4500ウォン。」とそっけない。買う意思を告げると一瞬、「こんなもん外国人が買ってどうするんだ」という表情をしたが、その割に手はヌルゲを素早く掴むと風のように店の中に引っ込んだ。そのまま出てこない。

 だが、私達の用事はそれだけでは終わらない。社長さんを放っておいて、拉麺鍋を探す。

 あった。一番小さい大きさの鍋から、4〜5人分の料理は作れそうな大きな鍋まで積み重ねて展示してある。

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 一番小さな鍋は流石に小さすぎておそらく最近の焜炉に掛けたら空焚き防止装置に持ち上げられてひっくり返ってしまいそうだったので、2番目に小さな鍋を選ぶ。

 店の中に入ってしまったまま出てこない社長さんを呼ぶと、また「夫婦もんがこんなもの買ってどうするんだ」という表情になったが、私がその鍋を取り上げて「これ下さい」という間もなく、適合する蓋を素早く裏返して鍋に重ね、またも風のように店の中に引っ込んだ。店の中を覗くともうヌルゲも鍋もビニール袋で梱包され、勘定されるのを今か今かと待ちわびている風情である。

 この社長さん、愛想はないが商売っ気はあるらしい。

 店の中に入ってお金を払うと、急に愛想が良くなって、というよりホッとした表情になって、「まいどありー(カムサハムニダー)」と韓国語で言った。きっと韓国語でストレスなく話せる相手だったら今出しているような良い表情で話す人なのだろう。

 日本人には多いが、語学に自信がなくて外国人と接したくない人が、韓国にもいるらしい。変な親近感。

 これで国際市場で買いたかったものは買ったので、今度はチャガルチ市場に向かう。 

 随分歩いた。私は過去の経験からそろそろ妻の股関節が痛くなり始めていることを知っている。一旦南浦の駅に戻って地下鉄に乗ろう。チャガルチまでは1駅である。

 ところで私は、最初に釜山に来た時から魚の骨のように引っかかっていることがあった。
 それは、この市場が言われているようにそれほど大きな市場なのだろうかということなのだ。

 確かに私は以前からこの街に来て刺身を食べたりオデンを買ったりした。

 しかし、その際に私が移動した範囲は、どう考えてもこの高名な市場にしては狭いと思われたのだ。
 その疑念は昨日たまたま釜田市場に迷い込んでその長い長い市場を歩いてみてますます大きくなった。

 確かに釜田市場は一説によると釜山で最も広い市場らしいのだが、私の知っているチャガルチ市場はその1/10の広さもありそうにないのだ。

 何かの誤解や勘違いがありそうである。

 私達は今までチャガルチに行くのに南浦洞から歩いて行ったことしかない。もしかするとそれが何らかの影響を与えているのかもしれない。

 地下鉄で行ってみると、何かが分かりそうな気がした。
 謎は解けるだろうか。

 おっと、その前に昼飯である。