何者なんだこの二人

 電車は5分ほどで隣駅のチャガルチに着いた。

 さあ、これから真相究明である。果たしてチャガルチ市場は私達が思っているエリアなのか。

 張り切って地上に出ようとした時、私の目は地下街ので店を広げている帽子屋の名札に惹きつけられた。「5000ウォン」。安い。
 早速物色を始める。

 私が特に興味を惹かれたのは、耳当て付きの防寒帽である。

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 こういう奴だ。

 「ソウル1945」などの戦前を舞台とした韓国ドラマや映画などに登場する帽子である。中国の作品でも古い時代を扱ったものでは満州など極寒になる地方の人の頭に載っていたりする。

 これは日本ではまず売っていないだろう。売っていても高いに違いない。買わなければ。

 ところが、いざ「これください」と言うと、店番のアジュンマ(おばちゃん)は「これは20000ウォン。」という。確かに5000ウォンの値札からはかなり離れているが。

 仕方がない。20000ウォンでも安い。

 お金を払うと、アジュンマは帽子の使用法の解説を始めた。「ここをこうすると頬っかむりができて、ここを引っ張り出すとマスクになって」と微に入り細に入る。なるほど、5000ウォンの帽子とはアフターケアも違うのだ。

 ところが、この帽子を被った瞬間から、私とすれ違う韓国人たちの眼が変わったような気がした。

私は北の工作員2

 これが昨日までの私の出で立ちである。

これは結構来る

 これがこう変わった。

完全装備だとこうなる

 帽子屋のアジュンマに教わった通りにこの帽子の機能をフルに活用するとこうなる。

 私は妻と共にチャガルチ市場の散策を始めた。

 それは私たちが今まで勘違いしていたのと違って、広い範囲にわたっており、道もまた延々と続く長い市場だった。

 このような場所を通る時、私はもうしつこいくらいに商人たちから声を掛けられるのが必定である。

南大門で拉致される

 それどころか、かつては友人と共に「ポッサム」(拉致)されたこともあるくらいだ。88以前の韓国旅行記を記憶遺産に4-南大門でつかまえて-(河童亜細亜紀行4)

 それくらい私は声を掛けやすいのだろう。

 ところが、私は韓国旅行を始めて以来初めて、市場で一切声を掛けられなかった。

 日本語は勿論、最近多くなった中国語や、英語、それどころか韓国語でさえ、私に「安いよ!」とか「寄っていって!」という言葉が掛けられることはなかったのである。

 どこから見ても大和撫子の妻と一緒に歩いていたのに、である。

 一体どこの国の人間なのか、というより、「一体何者なのか?」という疑念が市場の人々の間に湧いていたのかもしれない。

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 いつもは少々うざったく感じる客引きの声が全く無いことに一抹の寂しさを感じながら、黙々とチャガルチ市場を歩く私であった。