自動改札機を通れない男

 四国でジャーナリストをしている友人から、彼の勤めるメディアの新聞が届いた。

 大型の封筒にはある日の新聞が入っているだけで、消息はない。
 正直最初は解釈に苦しんだ。
 何か私に読んで欲しい記事があるのだけは間違いないだろう。新聞を最初から最後までざっと見てみたが、正直私の心にストレートに響いてくる記事は見当たらない。
 仕方ない。隅から隅まで読んでみるしかない。
 そうする直前、あ、と気づいた。そういえば彼は一面の、「夕日新聞(仮名)」でいえば「転生人後(仮名)に当たる記事を時々書いていたのだ。

 読んでみると、彼の若い頃の友人で、随分と非常識な人間のことが書いてある。
 以下、その記事である。


 1980年代初頭、鉄道の自動改札機は都会でもそれほど普及していなかった。田舎者ということでは相当自信のある筆者は、切符を入れるのにしくじらないか、随分と緊張したものである。
 田舎者ということでは、さして変わらない友人がいた。若さゆえの例外はあるにせよ、おおむね信じたことを一直線。曲がったことが嫌いな九州男児である。
 左利きだった。切符を扱うのも当然左だ。ところが改札機は右利きに便利なように、向かって右側に切符を入れる口がある。彼が言うにはー
 改札を通るたび、けたたましい警告音とともにゲートが閉じる。「俺は悪くないのに、どういうわけか」と、そのたびに押し開けて出た。あまりにも堂々と突破するので、駅員は何も言わない。「切符を左隣の改札機に入れていたと気づくまで、かなりかかったもんねえ」。
 JR西日本が数年後、改札機にICカードやスマートフォンをかざさなくても通過できる「タッチレスゲート」を導入するという。左利きでも、荷物を抱えていても楽々。スマホの専用アプリを活用する。
 「便利にはなるが、なんでもかんでもスマホ、スマホ。それでいいのか」。はやり物とは相性の悪かった、かつての友人なら相当腹を立てるだろうが…。人の一生は分からないもので、彼は今そこそこ人気のあるブロガーである。

 一体この人は誰なのだろう。
 まさか俺じゃないよな。