柑橘サワー

 「健康のために」と夫婦で柑橘類を摂取しはじめてからもう10年になる。
 この10年で果たして「健康」になったか、というと私の場合は甚だ疑問である。特に柑橘類は髪の健康には効かない、ということは見事に証明されてしまった。
 もっともこれは柑橘類と共に摂取したアルコールの害によるものかもしれない。

 ただし、ビタミンCの効果なのか風邪はひかなくなった。私は元々呼吸器が弱くよく風邪をひいていたのだが、柑橘を摂り始めたこの10年ほど風邪らしい風邪はひいていない。

 河童柑橘漬

 10年前は柑橘とアルコールを同時に摂取する場合酒造メーカーが作った「チューハイ」という名前のお仕着せの酒類を飲むのが世間様では当たり前で、私達夫婦のように自分で柑橘を絞って酒と混ぜて飲む人種は極少数派だった。
 だが最近は柑橘の絞り汁と酒類を自分で混ぜて自家製の柑橘風味アルコール飲料を飲むのは普通のことになっているようだ。
 したがって各メーカーからはそれ専用の柑橘飲料も出ているようだ。
 そしてそれは柑橘好きの酒飲みから好評を得ているようだ。 
 よく「どこそこのメーカーの〇〇というレモンサワーの素は美味い」などという声を聞くようだ。
 最後のそれは無理矢理だが、「ようだ」を4回重ねたのは、私自身にはメーカーの作った「〇〇(柑橘の名前)サワーの素」の類を使用してアルコール飲料を作って飲んだ経験がほとんどないからである。

 この場合の「ほとんど」は具体的に云えば、1回こっきりであって、しかも、その一回で私は「酷く〇〇い」という感想を得てしまった。それ以来私はこの「〇〇サワー」を飲んでいない。もしこれが「美味い」という体験だったとしても私は「〇〇サワー」を買わないだろう。

 何故かと云えば、私の郷土熊本県は柑橘の一大産地であり、自分で柑橘類を調達してきてそれを絞れば、わざわざメーカーの製造した「〇〇サワーの素」を買う必要がないからだ。

 「人が美味いって言っているものをくさすんじゃないよ」とご立腹の人もいると思うが、そんな人は私がふだん飲んでいる「Well肉桂式柑橘サワー(以下Wサワー)」を是非一度飲んでほしい。
 「今まで自分が喜んで飲んでいたアレは何だったんだ」と思うこと必定である。

 ではWサワーの作り方である。

 まず、九州在住の人は車のガソリンを満タンにするか、JR豊肥線の切符を買って欲しい。それ以外の人は航空券の用意を。


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 これは阿蘇の天然水を汲みに行くためである。
 この水は同名のものがメーカーからミネラルウォーターとして売られているほど美味しい。本当は我が家の氏神である「あっそう神社(仮名)」の境内で湧いている水が最高なのだが、ポリタンクを持って神社の境内まで行くわけにはいかないので、地元の水汲み場で汲ませてもらっているのだ。この水も十分美味い。

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 次に炭酸ガスの注入装置を買って欲しい。諭吉さん1人分しないくらいの値段で手に入るはずである。
 この装置で阿蘇の天然水は「阿蘇の炭酸水」に変わる。

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 次に熊本県内の道の駅や物産館を回って柑橘を買いあさる。今の時期ならばいろいろな柑橘が「嘘?」というような値段で手に入る。
 ちなみに上の写真は私が昨日飲んだWサワーに使用した柑橘類である。左上から柚子、酢橘、シークワサー、カボス、温州蜜柑、右上は岳父が栽培している同じく温州蜜柑だが、同種のものにあるまじき大きさである。岳父が作る作物はなぜかデカい。そしてグレープフルーツとライム。これは国産のものがないので輸入物の貰い物と絞って瓶詰にしたものである。
    真ん中上の柑橘のことを 言い忘れていたが 、これはレモンである 。そして 実はこれは 熊本産ではない 。長崎県は 平戸産の レモンである 。たまたま柑橘を 調達しに行った 道の駅が イベントをやっていて、 柑橘をかき集めるために 長崎まで 手を伸ばしたのではないかと推察している。

 夏蜜柑がないのは残念だが、これは他の柑橘と旬が違うから仕方がない。最近出回っている「甘夏」ではなく、昔ながらの夏蜜柑は単独で主役を張れるほどバランスが良くて柑橘サワーの材料としては最高だが、妻の実家にあった木が枯れて以来植木市などでも見ない。もちろん実も売られているのを見たことがない。幻の柑橘になってしまった。

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 これらを輪切りにしてハンドプレッサー(我が家では「ぎゅうぎゅう」と呼ばれている)で絞る。
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 絞ってしまうとあれだけあった柑橘もこれくらいになってしまう。考えてみたら無茶苦茶に贅沢な飲み物である。

 車を球磨郡多良木町まで走らせて球磨焼酎「米万石(仮名)」を買う。本当は同じ蔵で作っている「熊本拳(仮名)」は品評会で何度も金賞を獲っているくらい美味いのだが、日常飲むには値段の面で厳しいから、これは特別な日のためにとっておく。
 焼酎は甕に入れて寝かせておく。

 阿蘇の天然水を冷蔵庫で凍らせて氷を作る。

 ここまでの下準備はまさに東奔西走である。ただし、金に糸目をつけなければ流通の発達した現代ではこれは自宅のPCの前で出来るに違いない。私の場合は休日に気晴らしも兼ねてうろろんころろんしているだけの話だ。

 さて、いよいよ作成である。

1.ジョッキに底から半分くらい氷を入れる。
2.甕から柄杓で100mlくらい汲み、ジョッキに注ぐ。
3.柑橘の絞り汁をお好みの量入れる。
4.炭酸水をいっぱいまで注ぐ。
5.マドラーで炭酸が抜けないように注意しながら混ぜる。

ああ、生きてて良かった、というくらい美味い。
爽やかで少しの雑味もない。
ただし、酒類の常として、飲み進めると感動も薄れ、有難味もなくなってくるから、1人あたり1杯くらい作るのがいいような気がする。