わかりやすい蕎麦屋

 とある日曜日。
 私たち夫婦は熊本県のとある県道で四方山話をしながら車を走らせていた。
 そろそろ昼。
 昼と云えば昼飯。
 妻に言わせると、私は11時が過ぎると急にそわそわし始め、運転しながらも左右をキョロキョロ確認し始め、眼をとさせたと思うと急にしゅんとし、また瞳孔を全開にさせたと思えば瞬時に収縮させ、12時が近づくとイライラし始め、「何が食べたい?」と妻に聞く癖に妻の答えは無視して「何々でいい?」と答え、タイヤを鳴らしながら急旋回して(嘘)どう考えても不味そうな料理屋の駐車場に車を乗り入れ、駐車スペースの線と明らかに平行でなく駐車して無言で店の入口に早足で突進していくという。
 これは明らかに被害妄想なのだが、私が昼飯時が近づくと関心の相当部分が食事に偏っていくのは事実かも知れない。
 その日も妻と話しつつ(彼女に言わせると口数が少なくなって上の空になりつつ)「今日はどこで食べようかな」と考えながら道端の左右の看板を運転に支障がない程度にチェックしていた。
 どうも前の日に辛めの部隊チゲを食べたせいか、あるいはややつまみを食べすぎたせいか、少々胃が重い。夕食は庭の猫の肉球ほどの畑のサンチュやらサラダ菜やらを今日摘み取らなければ育ち過ぎになるのでポッサムを作って包んで食べなければ。とすると昼食は蕎麦か饂飩の単品で軽く行きたいところだ。

 そのとき私の眼にある店の看板が飛び込んできた。
 「熊本インターそば」
 おお、蕎麦屋か。ちょうどいい。
 それにしても何と直截な、和風のものとしては風情もへったくれもない店名である。
 「砂場庵」とか、「そば処まる賀」とか、「もみじ庵」とか、「更科そば」とか、「生蕎麦やぶ」とか、古式に則った屋号に出来なかったのだろうか。
 まあいいや。腹減ってるし。(妻は昼飯前後の私のこの投げやり感が怖いらしいが)

 「ねえ、さっきの看板の蕎麦屋でいい?近いし。」
 「は? さっきのは〇〇の店だよ。何言ってんの?」
 冒頭の絵では店は焼肉屋になっているが、このブログのモットー「誰にも得をさせない、誰にも損をさせない」に従って具体的な職種は伏せさせていただく。

 おそらく店のオーナーは自分の店の利便性を宣伝したくて看板で熊本インターチェンジの近所であることを強調したのだろう。ところがこれが利きすぎて、私のような注意に問題のある(というよりこれは認知の問題なのかもしれないが)人には職種すら誤って認識されてしまったのだろう。

 そういえば、CMが強烈過ぎて、それは覚えているけれど肝心の「何のCM」「どの会社のCM」というのは覚えていないというCMはたまにある。これは宣伝が上手過ぎてそうなってしまった例の一つなのかもしれない。単に私が阿呆なだけだろうが。

 それにしても、「熊本インター蕎麦」、食べたかった。