高嶋哲夫氏の『世界に嗤われる日本の原発戦略』を紙の新書で読了。

地震などの自然災害の様子をリアルに描く小説を何冊も書いている著者による原発本。

日本原子力研究所の研究員もしていた経験から、取材を重ね、原発に対する考え方を描いたもの。

〈はじめに〉に書かれているように、本書のポイントは、以下の通り。

(1)福島第一原子力発電所と、その他の原発を同様に扱うことは間違っている。
(2)日本で原発がなくなっても、中国、インド、ベトナムなどを中心にした新興国では、今後10年で数十機の原発が造られ、さらに計画されている。
(3)たとえ、原発がなくなっても、使用済み核燃料は残る。・・・「地層処分」は非現実的。
(4)福島第一原子力発電所の廃炉については、もっともっと現実を見据えて対処すべき。


原発を研究していた立場から反原発にならないのかどうかはわからないが、僕は上記の考え方は極めて冷静で現実的な考え方であると思う。

反原発論争については、技術的な論理を超えて、極めて感情的な議論になっている。

福島第一原発は、極めてまれに起こる地震による想定以上の津波で、もっともっと古い原発が被害を受けたものである。

一つ目のポイントのように、他の原発は状況が違っており、実際に、他の同様の状況となった原発は深刻な被害となっていない。

現在の再稼動においても、世界の最先端の安全基準をもとに科学的に決められているものであり、絶対安全ということがありえない以上、進めてはいけないなどということはないはずである。

安全という意味でいうと、決して事故による国内の被害者だけを考えてはいけない。

原発を止めて化石燃料を使うとする。
石油、石炭の採掘で毎年たくさんの人が亡くなっている。
世界の火力発電はそういった犠牲のもとに成り立っているということも忘れてはいけない。

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経済産業省
総合資源エネルギー調査会 原子力の自主的安全性向上に関するWG 第2回会合 資料3
http://t.co/WmmVLeQZx5
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また、本書でも書かれているが、「震災後に負担した代替燃料費は九兆二千億円に」もなっているのである。

化石燃料を使うことは、被害者も多く、コストがかかっていることを勘案すると、本当に国民のためになっているのか考えるべきである。

著者は「地層処分」は非現実的とは言っているが、少なくともこれにより、技術的な問題は解決されており、どこにするかという政治的問題となっている。

このあたりのことについては、原発専門家ではない著者による下記の本が参考になる。

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過去ツイート
藤沢数希(@kazu_fujisawa)氏の「反原発の不都合な真実」読了。一年経って原発事故の本質が見えてきたように思う。同時期に出た池田信夫(@ikedanob)氏の「原発危険神話の崩壊」と併せて読むと面白い。同じ時期に違う立場の原発専門家でない人が、同じような事を(続く)
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僕が注目するのは、やはり(2)の問題。

日本がやらなくても、お隣中国や韓国はどんどん原発を進める。
彼らの安全基準は信用できない。
万が一事故が起きると、風下の日本への被害は計り知れない。

現在日本は原発に関する人も技術も世界のトップクラス。
だから、「日本が原発から撤退しても、世界ではどんどん原発ができるでしょう。それに対して日本が関係しない方が、僕はむしろ無責任で怖いと思います。やはりもっと長い目で、世界レベルで物事を考えていく責任が日本にはあります」というように、日本は原発事故を起こしたからこそ、世界の原発の安全性について、最先端の研究を行い、影響力を持っていかないといけないと思う。

「未来に向けての科学技術の芽をつみ取らない」で、「常に立ち止まって過去と現在と未来を見直すこと」が大切なのである。

すでにそこにある原発から逃げてはいけない。

この技術をしっかりコントロールしていかないといけない。
感情による政治問題にしてはいけない。

「脱原発」にしても、日本の現状と世界の流れを考えると、ゼロにはできない。

再稼動という短期的な話だけではなく、将来のエネルギー政策、世界の安全対策において、現政権も将来の政権も責任を持った決断をすべきてある。

そして、「世界に嗤われる日本の原発戦略」ではなく、「世界に羨ましがられる日本の原発戦略」としないといけない。