2014年06月27日

ゼミ論文紹介(M2山邊)

修士2年の山邊です。

今週のゼミで紹介した文献について書かせていただきます。

今回紹介した2報の文献は、「ストレス」が生理指標や課題のパフォーマンスにどのような影響をもたらすのか?ということを調査した文献です。

そこで、まずはそのストレスについて簡単に補足させていただきます。

Selyeは「外的な刺激に対する身体の(非特異的な)応答」をストレスと定義し、ストレスを引き起こす「刺激」をストレッサーと名付けました。

ここでのストレッサーには、「痛い」「寒い」といった物理的なものから、「恐怖」や「不安」などの心理的なものまで幅広く、一概にストレスといっても、さまざまな種類があるということをご理解いただければと思います。

生体のバランスを乱すこれらの刺激に対応し、恒常性を維持するために不可欠な反応がストレス応答なのです。

さて、外界からの刺激をストレスと認識するのは視床下部で、ここからストレス応答の指令が下されるのですが、ヒトにおけるストレス応答には、HPA系(視床下部-脳下垂体-副腎皮質系)とSAM系(副交感神経-副腎脂質系)の2つの主要な経路があります。

1つ目のHPA系ではそれぞれの器官で放出されるホルモンによる伝達で最終的に副腎皮質から糖質コルチコイドが分泌されます。2つ目のSAM系では、視床下部からの指令は副交感神経により伝達され、副腎皮質でアドレナリン・ノルアドレナリンの分泌を促します。

血圧や心拍の変動などの応答をもたらしているのは、最終的に分泌される副腎皮質ホルモンですが、そこに至るまでに、内分泌系(ホルモン)に働きかける経路がHPA系、自律神経(副交感神経)に働きかけるのがSAM系という感じです。
(余計にややこしく感じられたらすみません…)

簡単に、と言いつつ長くなってしまいましたが文献の内容に入らせていただきます。

***

論文1
Differences in Salivary Alpha-Amylase and Cortisol
Responsiveness following Exposure to Electrical Stimulation versus the Trier Social Stress Tests
邦題:ストレッサーの違いが唾液アミラーゼとコルチゾールの応答に及ぼす影響
著者:Yoshihiro Maruyama et. al
出典:PLoS ONE(2012), Volume 7, Issue 7

【概要】
コルチゾールとα-アミラーゼ(以下、sAA)は、唾液に含まれる物質であり、それぞれ、HPA系、SAM系のストレス応答を反映して上昇すると考えられており、ストレスを評価する批評として用いられている。
本実験では、経路の異なる2つのストレス指標が、身体的ストレスと心理的ストレスという異なるストレスに対してそれぞれどのように変動するのかを調査した。なお、実験内では、身体的ストレスとして電気刺激(健康的な害はない)、精神的ストレスとしてTrier Social Stress Tests :TSST(*1)を実施した。

TSST(*1):心理的ストレスを与えるための課題。間違えると最初からやり直し等のペナルティのある暗算課題と、観客(モニターに映る映像)の前で決められたテーマでスピーチを行う課題からなる

【実験デザイン】
被験者:健康な男女149名(男性 92名、女性 57名、平均年齢24.9±3.7歳) 
※最終的にすべてのデータが揃った人数
ストレス刺激:電気刺激(=身体的ストレス)、TSST(=心理的ストレス)
実験手順:被験者は4,5人の小グループごとにランダムに割り振られた順序で、合計2回(電気刺激or TSST)の実験に参加した。実験間のインターバルは1週間。実験スケジュールは以下の通り

被験者到着→(20分休憩)→ストレス暴露(電気刺激or TSST)→終了
・唾液の採取(測定)タイミングはストレス暴露の直前・直後・20分後の計3回

【結果および考察】
本実験では、同一の被験者に対し、身体的ストレス(電気刺激)と心理的ストレス(TSST)を与えることにより、それぞれに対するストレス応答を調査した。どちらのストレス(刺激)を与えた後にも、sAAは速やかに応答し、刺激直後にピークを示し、20分後には刺激前の状態に戻った。一方で、唾液コルチゾールは心理的ストレス(TSST)を与えた場合で、処置から20分後まで増加し続けた。しかしながら、身体的ストレス(電気刺激)に対してはこのような応答は認められなかった。
 これは、sAAとコルチゾールの放出をそれぞれコントロールしている機構の応答時間の速さに違いがあることに起因していると考えられる。コルチゾールを制御しているHPA系はホルモンの放出により活性化するため、sAAの反応を制御しているSAM系(神経伝達により活性化)よりもストレス応答に時間がかかるのである。本実験の結果から、応答が速やかなsAAは、電気刺激のような身体的ストレスに対しては、コルチゾールよりも感受性が高いと考えられる。一方で、sAAがどちらのストレスに対しても同じような応答を示したのに対し、コルチゾールはストレスの種類により応答が異なった。このことから、2つのバイオマーカーはストレス生理学において異なる役割を果たすことが示唆された。


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論文2
Working memory-related frontal theta activity is decreased under acute stress
概要:情報処理能力(Working Memory : WM)に関連した頭頂部のTheta波活動に対する
    ストレスの影響
著者:Matti Ga¨rtner, Lea Rohde-Liebenau, Simone Grimm, Malek Bajbouj
出典:Psychoneuroendocrinology (2014) 43, 105—113

【概要】
前頭前野皮質(Prefrontal cortex:PFC)は、複雑な認知行動の計画や人格の発現など、ヒトが人間性や社会性を発揮するために重要な役割を果たしている脳の器官である。PFCはストレスによる悪影響で機能が低下することが示唆されている。
さらに、先行研究により、PFCの機能の低下は情報処理(Working memory : WM)のパフォーマンスを低下させること、WMを処理プロセスは前頭部のシータ波(Frontal theta : FT)活動には深い関連性があることを示されている。
しかしながら、WMに関連したFT活動に対するストレスの影響はまだ調査されていない。そこで本研究では、WMに関する課題前にストレスを与えた条件とそうでない条件の2条件において、FT活動と課題パフォーマンスを評価することにより、FTとWMの関連性を調査した。

【実験デザイン】
被験者:25-30歳の健康な男性30名 ※最終的な人数
実験手順:実験は13~15時に実施。すべての被験者は課題前にストレスを感じる映像を視聴するStress条件と特にストレスにならない映像を視聴するNeutral条件の2回の実験に参加し、この2条件は20分の休憩を挟んで同日中に連続して行われた。実験順序は、カウンターバランスを取り、被験者ごとにランダムに割り当てられた。なお、1回の実験は、3種類の認知課題(Task1~3)とそれぞれの条件ごとの映像の視聴(Clip1~3)からなり、スケジュールは以下の通り。

(準備)→Clip1+Task1→Clip2+Task2→Clip3+Task3→(休憩20分)→最初に戻る※1回目のみ
・課題中は継時的に脳波を測定
・唾液の採取タイミングはClip1の前と各課題の後の計4回
・本実験では、Task2で行ったN-Back課題(*2)の課題パフォーマンスを評価。N=0-2-3の3つの難易度で実施した。
・課題中の脳波はシータ波(4-8 Hz)について解析を行った。

N-Back課題(*2):脳機能イメージングなどの分野で実験参加者の脳活動を調べる際や心理実験などでよく用いられる持続処理課題。被験者は一連の刺激を順番に呈示され、現在呈示されている刺激がN回前の刺激と同じかどうかを答える。この負荷因子Nによって課題の難易度を調節する。(Wikipedia)
例えば、N=3の3-Back課題の場合は、連続して呈示される刺激に対して、3回前と同じものが呈示された時に応答する。

【結果および考察】
難易度の高いN=3のN-Back課題において、Stress条件でのFT活動の低下と、課題パフォーマンスの低下が観察された。この結果には、課題の難易度がもっとも寄与しているが、相関解析の結果からは、FT活動の減少と課題パフォーマンスの低下には相関関係が認められた。さらに、Stress条件下では課題後のコルチゾールレベルが有意に高くなっていたことから、このストレス応答にはHPA系の活性化が影響していることが考えられる。
本実験は、男性被検者のみを対象とし、視覚的認知課題を用いるなど、限定的な条件で行ったので、結論を一般化するには、課題も残る。しかしながら、本実験により、ストレス下においてWM関連のFT活動の減少が初めて観察されたことは、PFCがストレスにより悪影響を受けるという従来の研究を支持するとともに、FT活動がPFCの機能が正常かどうかを反映する指標として有用であることを示唆する。FT活動の測定よるPFC機能の評価は、ストレス障害の治療や労働環境におけるパフォーマンスの最適化などの分野での応用が期待される。


***


 今回は香りから少し離れて、生理指標をメインにこの2報を選ばせていただきました。

私の実験へのフィードバックとして、1報目では、「唾液内に含まれるストレス指標」であるsAAとコルチゾールですが、上がったからストレスを感じている/下がったからリラックスしている、というような単純な解釈ではなく、それぞれの応答が何を反映しているのかを検討すべきだということを学びました。2報目はストレス条件下での脳波と課題パフォーマンスの関連性から、脳波を脳の機能が正常かを評価する指標として活用できるか、といった内容に言及しており、今後の活用の面でとてもウキウキする(?)論文でしたが、課題の性質と脳活動について、自分の勉強不足を痛感した面もありました。
 また、ゼミ中に頂いたご質問・ご意見から、こういった被験者実験における共通の課題というか、むずかしさのようなものを改めて感じました。

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


shinrabanshougaku at 22:19│Comments(1)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by kata kata galau   2015年04月11日 07:38
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