June 22, 2007

Just the way you are.   〜50秒のメトロノーム〜

Billy Joel                                    


「ビリー・ジョエル」を初めて知ったのは、13歳。

兄の持っていたアルバム「ナイロンカーテン」が、
机の上に置いてあった。
当時の俺は外国の曲の知識が無く、
ただ異国のジャケット、兄が大人だという感覚しか無かった。

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自然にBilly Joelが俺の初めての外タレとなる。
夜な夜な、行った事も無いニューヨークを気取り、
畳の部屋にホワイトインテリアで「亜米利加」を演出し、
窓から見えるブランコのある「山田公園」の水銀灯に都会を重ね、
SONYのハイポジションのカセットテープ46minitsに、
Billyを収め、いつか訪れるだろう、大人な自分に夢を抱き続けていた。

「アレンタウン」という炭坑夫をモチーフにした曲は、
思春期を迎えた回りの奴らの心を奪った。

「プレッシャー」はただただ外国人の声の凄さと、叫ぶという歌い方を知った。

「グッドナイト・サイゴン〜英雄達の鎮魂歌(レクイエム)」この曲と言うより、
このアルバムの背景にベトナム戦争へのメッセージがあったことを語れるようになったのは、
大学に入ってからだった。


忘れられない、ラジオ番組がある。

   「サントリー/サウンド・マーケット」
      ※1980年代〜90年代までTOKYO FM・JFN系列で夜10時から流れていた番組。

当時の俺にとっては最高の至福の時間だった。
TOTO、オリビア・ニュートン・ジョーン、メンアットワーク、ポリス、
ライオネル・リッチー、そしてクリストファークロス・・・。

このとき「AOR」というジャンルも知らず、
ただ甘く切ない、英語の魅力に取り付かれていた。



あるとき、エレピの前奏で始まる、
俺にとっての運命的な曲を聴く事になる。

優しく、美しい、ベージュ色のイントロは、自然に俺の目を閉じさせた。

その時、耳になじんだ艶やかな声が唄を奏で始めた。


ビリージョエルだ。

ハッキリとした発音、巻き舌のニューヨーカーなまりのその歌声と、
フィル・ウッズによるアルトサックス・ソロ。

曲名は「Just the way you are 〜素顔のままで〜」

     今のままの君でずっといてほしい、
     髪の色も変えなくて良いし、
     粋な会話も望まない...今のままの君でいてほしい。


なぜ、こんなに美しい曲が作れるんだろう。
歌詞の意味はわからない、わからないが涙が出た。


今でも俺の宝。

そして俺がFMパーソナリティになる原点を作ってくれた曲。



深夜の冷たい空気の中、涼しげに流れるエレピとサックス。

今夜俺は、
この曲が似合う人と過ごした。

家に戻り、デスクの窓から夜の景色を見ながら、
遠い昔に公園の水銀灯を眺めながら過ごした
あの夜の空気を思い出した。

幼い頃とは風貌も変わり、
大人として仕事に追われ、
ここ数年、自分の素顔を見せなかった。

素顔を見せられる幸せを忘れていた。

純粋に心から笑顔が出る幸せを、
ふとした瞬間に伝わる優しさがどれだけ嬉しかったか。


迷いの中で、まだ素顔になりきれていなかった俺に、

突然やってきた、50秒・・・・。

1秒の速さは気持ちによって変わってしまう。
俺の1秒をスローダウンさせてくれた心のメトロノーム。

手首の脈が刻むそのリズム。

それは幼い頃、泣きじゃくる俺の背中を
ポン、ポン、ポン・・・と、叩いてくれた母の手であり、 
そのまま眠りにつかせてくれた子守唄だった。


車の中、1人夜の街を走る。

すると、FMから聞こえて来たあの曲。

心の中の「50秒のメトロノーム」がリズムを刻む。
寂しげな夜のエンディングドライブに、穏やかなひとときが訪れる・・・。


「 Just the way you are  〜素顔のままで〜 」


20数年後の今日。
細い手首が思い出させてくれた「素顔」
心のメトロノームが思い出させてくれた「大切な曲」。


ずっと心に仕舞っていた、大切な曲。

もしかしたら、
今なら唄えるのかもしれない。






Posted by shins_cafe at 06:18│Comments(0)TrackBack(0) 新たな時間へ。 

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