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きっかけはメールから
それは「懐かしラベルシールを復刻したくて日々悶々としています。」という一文から始まるメールでした。差出人は東京・高円寺で紙モノをはじめとするアンティークの店を営んでおられるハチマクラさん。丁寧な文面とともに復刻したい「エチケット(Étiquette)」と呼ばれるフランスの水のりシールの画像を添付していただきました。

そのご要望とは・・・

 ● 印圧がかかって凹凸のある仕上がりに
 ● ほど良いカスレ・歪み・抜きズレがほしい
 ● きれいに刷らないで!

特に3項目。イメージが伝わる反面、本物を知るハチマクラさんのご要望。手にして初めて気づくような繊細なディテールまできっと求めていらっしゃるにちがいない。これは深い。深すぎる・・・と悶々としながら仕様を模索していたところ、ふと、ずっと温めていたタック紙が頭に浮かびました。


非塗工!!ザラ紙のようなタック紙
もう何年もひきだしに眠らせていて、どこにもご提案できずにいたタック紙見本。ここで使うために眠っていたのではないかと思えるほど適材だと判断し、ご提案することにしました。
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非塗工で環境に配慮したザラ紙のような風合いが魅力的です。陽の当たる窓にしばらく紙を晒して「焼け具合」をテストしたところ、数カ月でいい色に焼けました。この「日晒しタック紙」ならアンティークの風合いを「自分で育てて作る」ことができそうです。ハチマクラさんとのやりとりで表現されていた「育てる紙」という名言を念頭に置いて完成イメージを膨らましました。


水のり紙は思わぬところから
残るは「水のり紙」の調達です。しかも「ロール状」でなくてはなりません。ネットで奔走しつつ画材屋を巡り、昔の見本帳を探したりした結果、とある企業様へたどり着き手に入れることができました。三陽工業株式会社様の包装用ガムテープ(水テープTM)です。これはamazonの梱包材として採用実績があり、水のりの機能としては申し分ありません。(以前のブログ→もご覧ください)


本番前の実験的試作へ
こうしてご提案するための「タック紙」を仕上げることができた信陽堂。印刷時のご要望「圧強め」も実現しましたが、このディテールがご要望に沿ったものかどうか。。。さっそくお客様にご郵送。点線のランダム感や金属版の押し圧などについてOKをいただき喜んでいただくことができました。
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いざ本番へ
本番は、より現物のアンティーク品に近づけるため紙は薄手に、刷り色は爽やかな紺色に変更してGOとなりました。コロナ禍のため本番はリモートでの立ち会いに。スマートホフォン越しに抜きズレの具合やカスレの具合をご指示いただきつつ、その場で弊社職人が下ごしらえをするシーンもあったりして丸見え状態でしたが、ハチマクラさんの今後の製作物のヒントになるようなことを弊社の工場から汲み取っていただくことができたら。と思った次第です。



下の写真は使用する金属版のゲラ刷り。極細点線はギリギリまで腐食して製版しています。この細さでないと印刷時に圧をかけた時にどうしても太くなるからです。圧の加減は多少であれば台紙で調整可能ですが、版が太い限りそれ以上細くすることはできないため、とても気を配らなければならない作業です。
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下は実際に使用した亜鉛凸版です。真ん中のゲジゲジ部分は余分なインキが紙に移らないよう予め削り取った跡です。穴を開けたり切り落としたりして対策することもあります。スタンプや消しゴムはんこを押したことがあれば、余分な角や面にインキがついて汚れる体験をしたことがあるかと思います。まさにそれと同じです。
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完成品画像
装飾品というよりも実用的な質感。この質感を文や画像から完全に想像することは難しいと思います。ぜひ現物を手にしていただきたい製品になりました。ハチマクラさんの素敵なパッケージを開けるとそこにある紙の色、手触り、匂い。ぜひ現物でお確かめください。今回のことで「ご要望を形にする」この一文では収まりきらない繊細な質感を織り込み、あきらめずに製造することの大切さを体感しました。お問い合わせいただいてから約半年という長期のプロジェクト、細かいディテールや仕様を形にするためには必要な期間だったと思います。
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パッケージから感じられる素敵なアンティーク感
下の画像はハチマクラさんからお借りした完成パッケージの画像です。グラシン紙に包まれてチョッと透けているところが心憎い仕様になっています。(2021年9月より販売されるそうです)使用感やイメージ画像も雰囲気たっぷりでなんだか我が子がフランスに移住して幸せに暮らしているのを眺める親の気持ちです。
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パッケージ箱用シールも作成させていただきました。こちらは作業性と機能性を考えて水のりではなく、通常のシール仕様でご依頼いただきました。製品同様に金属版を使用し、印圧の凹みを出しつつ、シールとして貼付できる加減を調整して印刷しました。(画像は弊社にあった厚紙に貼り付けて撮影したもの)
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興味深い「失敗」の仕上がり
その①
通常、印刷するための「版」ですが、凸版を強く押し付けることで「切る」ことができるのではないかとトライしたものです。圧で紙の端がまるっとなっています。とても理想的でしたが安定して綺麗に型抜くことができず、断念した試作です。さらに既存の刃型の切れ味を悪くして「押し切る」ことでフチの丸みを出せないかと試行錯誤したり、普通じゃできない方法をテストすることができました。

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その②
実は試作2回目を行い、初めての試作から「とある工夫」をして製版したものを使って「紙端のぷっくり」を再現してみました。ただし抜き加工の際に超絶厳密な精度でないと仕上げられず、これまた泣く泣く断念。。画像はハサミでカットしたものなので綺麗に仕上がっています。2枚目の画像を見ると進展させて完成まで持っていきたいモチベーションになるほどいい仕上がりだと思います。
(左:工夫なし/右:工夫あり ※クリックすると拡大)
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おすすめ
ご依頼いただいたハチマクラさんのブログには、製造の経緯や思い入れなどが綴られています。モデルになった本物紙との比較画像なども掲載されているのでぜひご一読をおすすめします。



最後に
確認のためにハチマクラさんから「本物のエチケット(Étiquette)」を頂戴しました。本物と比較できると完成の喜びもひとしおです。触らないとわからない紙の厚さ・質感やインキのオペーク感を楽しみつつ、手にしてくださった皆さんがどのように育てて使用されるのかも楽しみな製品になったと思います。貴重なご依頼をしてくださったハチマクラさんには感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。
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お客様
ハチマクラ 様
〒166-0003 東京都杉並区高円寺南3-59-4
http://hachimakura.com

ご協力
三陽工業株式会社 様
http://www.sanyokougyo.co.jp/
(親身になってご相談にのっていただき感謝申し上げます!)