同僚10人と食事に行き、3時間くらい飲んだり食べたりしたが、自ら口を開いたのは「ジンジャーエールお願いします」だけだった。居ても居なくてもいいのだ。帰り際、棚に片付けられていた全員分の靴を出して並べておいたら、年配の人が「こういう人をお嫁さんにすると幸せになれるよ」と若者にすすめてくれたけれど、私と結婚した人は現在精神科に通っています。

施設に私のことを「歌広場先輩」と呼ぶ女の子がいる。ある日いきなりそう呼び始めた。彼女はゴールデンボンバーの歌広場さんのことが芸能人の中で一番好きだという。そして、施設の中では私のことが一番好きだから、私も「歌広場」になるらしい。顔が似ているとかそういう話では全くないのだ。その考え方は斬新だった。私は最初、彼がソロのアーティストだと思い込んでいた。部屋に貼ってあるポスターや雑誌の切り抜きに他のメンバーが一切写っていなかったのだ。好きな人だけ。背景もなく、身体のラインに沿って切り抜いていた。徹底したこだわりだった。

彼女は私にいろんなものをくれた。鼻をかんだあとの紙、歌広場さん(本物のほう)の全然似ていない似顔絵、「歌広場」という文字を練習した紙(彼女はあまり読み書きができない)。ジャージのポケットから偶然出てきたバッキバキに折れた剥き出しのプリッツもくれた。いつの食べ残しだよ、とか考えないようにして食べた。思春期の女子が「草履、温めておきました」と言わんばかりに太腿のポケットから出したプリッツは、ほんのり生温かかった。

「みんなはM田先生が断トツいいって言うけど、それ以外はカスだって言うけど、私は歌広場先輩推しだから」と彼女は言った。ファンは大事にしなければいけない。私は「歌広場」なのだから。