日本史

2018年07月12日

どこかで見たような「幽霊」

 古代中国・西周の宣王は、大臣の杜伯を無実の罪で処刑した。3年後、王が狩りをしていると、白い馬車に乗り、赤い衣冠を身に着けた伊達男(?)がこちらに向かって来た。謎の男は赤い弓矢を構え、王をにらみつける。
「あれは…まさか、杜伯の怨霊か!?」
 杜伯の幽霊らしき男は、赤い弓矢で王を射殺した。ここまでスタイリッシュな(?)怨霊なんて、あたしゃ見た事がないぞ。鮮やかな紅白のコントラストがいかにも神話的だなぁ。バーバラ・ウォーカー『神話・伝承事典』(大修館書店)とかでも、白・赤・黒の3色というのは「聖なる色」とされているし、この杜伯の「王殺し」は歴史的というよりも神話的な話のように思えるね。

 コーエー出版部の今はなき歴史投稿雑誌シリーズの3番目「ダ・ガマ」誌に、次のような読者投稿があった。ある日の朝、大久保利通は仕事に出かけようとしたが、まだ幼い娘が泣き出した。どれだけあやしても泣き止まないので、大久保は娘と一緒に馬車に乗って庭を一周した(それ相応の広さがあったのだな)。そして、娘が泣き止むと、馬車から降ろして、そのまま出勤した。
 その頃、江藤新平の弟がたまたま上京していた。彼は大久保に処刑された兄と瓜二つだったが、自分が泊まっている宿の近くの紀の国坂を大久保が出勤で通ると聞き、一目見ようと道の脇に立って待っていた。しばらくして、大久保の馬車がやってきたが、大久保は見覚えある顔を見て顔面蒼白になった。
「え、江藤が化けて出た!?」
 大久保はすぐさま道筋を変えたが、彼は紀尾井坂で暗殺された。

 さて、この大久保さんと江藤兄弟の話で、私は思った。杜伯、実はなりすまし? ひょっとして、宣王を射殺した「杜伯の怨霊」とは、実は杜伯の身内が変装したのではないかと、私は思う。春秋時代の予譲みたいな(故人とは赤の他人の)刺客だった可能性もゼロではないが、この時代(西周時代)だと、赤の他人が予譲のような刺客になるというのは考えづらいかもしれない。

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2018年03月29日

こんなところに出生疑惑

「始皇帝の実父は呂不韋だ」という説は疑わしい。なぜなら、呂不韋の息子にしては生まれるのが遅過ぎたからだ。

 前漢の武帝の後継者昭帝は、母親が妊娠して14ヶ月経ってから生まれたという事らしいが、これは怪しい。昭帝の母親は無実の罪で処刑されたとされるが、実は何らかの秘密があったのではないのか? 身も蓋もない推測をするなら、昭帝の母親は武帝以外の男性と肉体関係を持って昭帝を身ごもったのではなかろうか? 何しろ、始皇帝の母親には偽宦官 嫪毐 ろう あい との隠し子を生んだエピソードがあるのだ(ただし、昭襄王の母親宣太后にも同様の話があるので、ちょっと疑わしい)。武帝が昭帝の母親を処刑したのは、もしかすると昭帝の出生の秘密を封印するためだったのではなかろうか?
 司馬遷が「始皇帝の実父は呂不韋だった」という説(これもまた、楚の春申君と酷似した話なので疑わしいが)を記したのは、実は武帝・昭帝親子の疑惑を暗示するものだったのではないかと、私は邪推する。

 そういえば、『マルドゥック・スクランブル』のバロットも怪しいなぁ…。本当にあの父親は当人の実父なのか? バロットは人工授精で生まれたという設定だし、『マルドゥック・ヴェロシティ』でも、その辺の怪しさを匂わすエピソードがあったし、実に気になるのね。
 さらに、『ファイブスター物語』14巻でのカイエンのものすごい憤怒の表情(自分の出生の秘密を知ってバランシェを殺そうとした)からして、やはり(カイエンに酷似した出自の)『真・女神転生Ⅱ』の主人公たちは自分を生み出した奴らに対して復讐して当然だろうと思うね。そのメガテンの主要スタッフさんの一人が多神教優位論をこじらせてネトウヨ化してしまったのを知った時にはガッカリしたけど、私は『Ⅱ』の時点でメガテニストをやめたから、別に未練はない。

 日本史で出生疑惑といえば、豊臣秀頼がいる。秀吉は男性不妊症だった可能性が高いようなので、淀殿が別の男性との不倫関係で秀頼を生んだという疑惑だけど、石田三成が実父だという説はそれこそ呂不韋が元ネタじゃないの? 淀殿の乳母の息子だった大野治長が一番の有力候補のようだが、もしかすると無名の誰かが実父だったかもしれないね。下手すりゃ、淀殿自身にも分からなかったのかも…?
 しかし、呂后と審食其にしても、淀殿と誰かにしても、「悪女には性的スキャンダルが付きもの」という偏見でガセネタをでっち上げられた可能性が高い。そもそも悪女=性的に奔放とは限らないし、エッセイストの酒井順子氏は『たのしい・わるくち』(文春文庫)で「ヤリマンにあまり悪い人はいません」と書いている。確かにね、性的に奔放な女性よりも、逆に過剰に性的方面に対して潔癖な女性の方が性格がキツそうだよね。
 私が思うに、宮城谷昌光氏の小説のヒロインになった夏姫には特に「悪女」という印象がない。なぜなら、『春秋左氏伝』などの本を読む限りでは、夏姫という人からは悪女が「悪女」たり得る必要最低限の条件である「自分の意志」が感じられないからだ(モノのように男性たちの間をたらい回しにされている辺りがね)。それに対して、夏姫の娘の姑である「叔向の母」の方が、よっぽど性格がキツそうな気がする(どうやら息子はそんな母親の気の強さを受け継いだらしい)。融通の利かない風紀委員タイプなのね。

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2016年07月10日

俺はお前の玩具じゃない

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 私がいつか読んだ本に、こんな話があった。ある金持ち男性が亀を飼っていた。この人はこの亀を「改造」した。彼は亀の甲羅に穴を空けて宝石をはめ込んでかわいがったが、亀は彼に「反抗」した。亀は、自らの死によって彼に復讐した。
 私がこれから書くのは、これから書く予定の小説のためのメモのようなものである。

 松永久秀という人物は、「将軍殺し」「主君一家暗殺」「大仏殿焼き討ち」などの「悪事」によって、戦国時代最凶の「梟雄」と見なされる事が多い。しかし、一部の研究家たちからは、彼の「梟雄」伝説が江戸時代以降に作られたものだと見なされている。
 私はこの久秀を小説のモデルにする予定だが、彼を単なる「悪人」にはしたくない。しかし、宮城谷昌光氏の小説のヒーローみたいな清廉潔白な人物として描くのは面白くない。善悪両面合わせ持つ複雑な魅力の人物として描きたい。

 岡崎京子氏の漫画『ヘルタースケルター』のヒロイン「りりこ」は、元々貧乏人の娘として生まれた整形美女である。このカリスマモデルりりこは、自分の後輩である「こずえ」と出会って衝撃を受ける。こずえは、りりことは違って生まれついての美少女だった。
 私が思うに、久秀と織田信長の関係とは、りりことこずえのようなものだったのではないだろうか? ただ、こずえが自分に嫉妬するりりこを軽蔑していたのに対して、信長は案外、久秀に対して好意的だったのかもしれない。「面白い奴」。そんな感想で、信長は久秀を自分の「人材コレクション」に加えたかったのではなかろうか?
 しかし、久秀はそんな信長の怪しげな「寛大さ」に対してプライドを傷つけられたのではないかと思う。信長に対して二度も裏切っても、許された。これは暗に「敵の名に値しない小物」扱いされたようなものではないのか?

「俺はお前の玩具じゃない」
 単なる「珍品」として面白がられるのは不愉快だ。かつて、孔子の「敵」だった陽虎という男は、まるで久秀の「原型」の如く「暴れ回った」が、最終的には晋の趙簡子(「Merciless」趙襄子の父親)の「忠臣」になった。しかし、久秀にとっての信長は趙簡子ではなかった。
「俺の首などお前にはやらん」
 彼は信長のものになるのを拒み、死んだ。彼は自らの死によって、信長に最後の反抗を果たした。たとえ、どれだけの「悪名」が後世に残ろうとも、上辺だけの「忠臣」を演じて虚しい人生を過ごすくらいならば、サッサと砕け散る方がよっぽどマシ。戦国のファウスト博士は、傲慢な「神」の手から去った。

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