侠客というにはまだ青い。
けれど、その華は新芽に芽吹く。



劇団炎舞@浪速クラブ
お芝居『男華』

笹川繁蔵/飯岡助五郎:橘炎鷹座長
洲崎の政吉:橘鷹勝
政吉女房おせい:橘麗花
国定忠治:橘魅乃瑠


【あらすじ】
ある日、侠客・飯岡助五郎(炎)のもとに、同じく侠客・笹川繁蔵から花会の誘いが舞い込む。繁蔵を疎ましく思う助五郎は出席を拒み、一家の若い者・洲崎〈すのさき〉の政吉(勝)を名代に指名する。しかし、花会の義理金として助五郎が政吉に与えたのはたった5両。これではとても面目が立たないと困り果てた政吉のために、女房おせい(麗)はみずから身売りし25両を作る。花会当日、政吉が義理金を差し出すと、繁蔵(炎)はそれを素早く懐にしまう。そのさもしさに、繁蔵を侮る政吉だったが、そこへ現れた大侠客・国定忠治(魅)が欠席の助五郎への怒りをあらわにする。政吉は忠治といえど親分を馬鹿にされるのは我慢ならないと息巻くが、やがて貼り出された各親分衆の義理金が記された花紙を見て、その金額の大きさに驚く。自分が持ってきたわずかな金をすぐにしまい込んだのは繁蔵の情けだったと気づく政吉。しかし、繁蔵は政吉の気骨を見込み、「飯岡助五郎 金100両」「洲崎政吉 金50両」と書いた紙を貼り出す。すべての事態を飲み込んだ忠治は、政吉に詫びを入れ、機嫌を直す。酒宴に向かおうとする政吉だったが、おせいを請け出してこい、と繁蔵から金を渡され、笹川一家をあとにする。


『天保水滸伝』の「笹川の花会」としてよく知られているこの物語。
本作が劇団炎舞として初めてかけられたのは、2016年7月の木馬館だと思いますが、私が観たのはそのとき以来2回目でした。
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芝居後口上。敵役の助五郎と芯になる繁蔵の二役を演じた炎鷹さん。


印象に残ったのは、炎鷹さん繁蔵の若々しさでした。
初演の繁蔵は、良くも悪くも色のついていない、爽やかな親分だったのに対し、今回の繁蔵は、政吉の「兄貴分」といった、とても慕わしい風情。

その若さの源は、もちろん、兄貴風の気軽な口調ひとつにも感じられるのですが、なにより繁蔵という人が、「世間のことを学んでいる最中」という感触があったからです。

それがもっとも濃く出たのが、政吉が25両の金の出所を語るシーン。
親分の面目をなんとか保つため、自らの女房を苦界に沈めてこの金を作りました……と吐露されるやいなや、炎鷹さんの繁蔵はハッと驚き金を見やり、その目線が一瞬のちにクッと遠くのほうへ向かいます。


もともとこの花会は、天保7年の大飢饉で糊口をしのぐ農民救済のために開催したものでした。
つまり、100パーセントの善意から生まれたもの。繁蔵のなかで、この花会を行うことは、疑いようもない「いいこと」だったはず。

けれど、発端が善意であれ、物事というものは動いていくうちに「善」だけではすまなくなっていく。
そう悟った繁蔵は、ぽつりと「陰じゃあお前さんのように、血に似た涙を流している男もいたんだなぁ」とつぶやきます。

「善」を成立するために「哀」を背負う者がいる。

そんな「世の中」というもののやるせない摂理、それに対して力が及ばない自分のちっぽけさ
それらがストンと繁蔵の心のなかに落ちた、理解されたことが、炎鷹さんのあのまなざしから伝わってきたのです。


史実と照らし合わせると、繁蔵はこのとき26歳。

「知らないこと」に驚き、受け止め、理解する。
そこにいたのは、おのれの進む道でまだまだ傷つき惑う、青年の香りが残る笹川繁蔵でした。

こういう善悪簡単に割り切れない事象にぶつかっていって、そこから「世の中」を学び、繁蔵はやがて大親分になっていった(そしてそんな真っ当すぎるところが非業の死へもつながった)――炎鷹さんの繁蔵は、彼の「その後」の姿も見えてくるようで。




まだまだ「世の中」のことは知らない、一本気で血気にはやる鷹勝さんの政吉。
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前日の舞踊ショーより。


「世の中」の清濁すべて併せ飲み、政吉の意気地も繁蔵の情愛も理解し、助五郎の無礼への怒りを胸に収めるボスの忠治。
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豪放磊落ななかに一滴孤独が混じっているボスの忠治は最高!
当日舞踊ショーより。この眼光の鋭さ。



終盤、その恩義に平伏する政吉に対し、繁蔵は朗らかにこう語りかけます。
「しょせん俺たちゃ世間様からはじきだされた半端者。そんな半端な俺たちなら、助け合って生きていこうじゃねえか!おう!」
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当日舞踊ショーより。
この人の醸し出す「慈愛」が本当に好きだなぁ、と感じた繁蔵でした。



半端者だけど。
「世の中」の力には抗えないけど。

でも、だからこそ。
手と手をとって。