水谷隼選手や伊藤美誠選手を輩出した豊田町スポーツ少年団のブログに水谷選手が使ったラケットについての言及があった。

「ラケットの変遷」

この記事によると、水谷選手が子供の頃に使っていたラケットはどれも弾みを抑えた軽いラケットだということである。弾むラケットを使うとボールが速くなり、上手になったように錯覚するが、実際はスマッシュやドライブの1発の威力が増すだけで、その他の技術はむしろ劣化してしまうのではないだろうか。ブロックが止まらない、ツッツキやストップが長くなってしまう。球持ちが悪く、回転がかけにくい等、多くのデメリットが考えられる。
スピードグルーが禁止になったことで弾まない粘着ラバーでは勝てないといったことを聞く。プロのレベルならそういうこともあるかもしれないが、我々一般の卓球愛好者のレベルでは、弾まない用具にそんなにデメリットがあるとも思えない。

最近のWRMの動画によると、カット用の弾まないラケット「幻守」と弾まないゴクウス粘着ラバーとの組み合わせが相性抜群だという。弾まないから、相手のドライブをカウンターしやすい、ツッツキが切れて速い。ブロックが止まる等、地味ながら確実に勝率が上がりそうな特徴を持っている。
私は今では高級テンションラバーを使っているが、以前は「王励勤」というあまり弾まないラケットに粘着ラバーや高弾性ラバーを使っていた。久しぶりにこのラケットで打ってみると、安定感が増したように感じた。ボールをしっかりつかんで打てるような感じがする。ブロックが低く返る。ドライブがオーバーしない。使いやすい。私はいろいろなラケットを試してみたが、どうやら私には定価1万円以上の高級ラケットよりも、定価5000円ぐらいの安いラケットのほうが合っているようだ。

ところで、水谷選手を輩出した豊田町というのはどんな町なのだろうか。2005年に磐田市に併合された人口わずか3万人ほどのどこにでもある小さな町らしい。併合した磐田市にしても人口17万程度なので、それほど大きな町とは言えない。地方なら県庁所在地に次ぐ2番めか3番目の街だろう。それが水谷選手を筆頭に全国で活躍する選手を輩出できるというのはすごいことではないだろうか。おそらく自治体にスポーツに対する理解があって、そうとう有能な指導者というか、マネージャーがいるに違いない。

我が京都市にも東山高校という全国屈指の卓球強豪校がある。古くは世界選手権シングルス銅メダルの田阪登紀夫選手もそうだし、最近では笠原弘光選手、時吉佑一選手や大島祐哉選手の出身校でもある。2012年の時点で62年連続インターハイ出場ということである。毎年、龍谷大付属平安高校と京都市の大会で決勝戦を争っているが、東山高校は2位以下を寄せ付けない圧倒的な強さを誇っている。高校で京都一どころか、京都市内の大学生が挑んでも、東山高校の選手に勝てるかどうか…。

そんな東山高校を擁する我が京都市は卓球のレベルが高いかというと、そうでもない。東山高校卓球部に入ってくるのは京都市民というわけではなく、全国の卓球エリートたちなのだ。エリートを集めて、エリート同士で切磋琢磨しているので、東山卓球部は異常にレベルが高いが、京都市民との接点はほとんどない。東山高校卓球部が地元の小学生を月に1回指導しているとか、地元の一般市民のために卓球交流会を催しているというのも聞いたことがない(実際はあるのかもしれないが、あったとしても私の耳に入ってこないほどささやかなレベルなのだと思われる)。しかも東山高校が京都では圧倒的に強いため、京都の他の高校が全国大会に出場するチャンスは減る。東山高校が京都にあることによって京都の卓球レベルが向上したとは必ずしも言えない。
東山高校の実績、卓球界での影響力を考えれば、もう少し地域社会への貢献をしてもいいのではないだろうか。豊田町スポーツ少年団から今でも伊藤美誠選手のような有能な選手が育っているのに比べると、京都市の卓球選手育成はそれほどうまく行っているとは思えない。東山高校卓球部の出身者は東京や大阪、愛知等、他府県の出身者ばかりなのである。人口比で言えば、磐田市が17万強であるのに対して、京都市は140万強である。人口から考えればもっとたくさんの卓球選手が育ってもいいはずである。しかし現実には京都市の選手育成はそれほど成功しているとは思えない。京都市の卓球のレベルを上げるためには東山高校卓球部のノウハウや人脈を活かさない手はない。

【追記】
管理ページを見たら、この記事が記念すべき100番目の記事であることに気がついた。
このブログを書き始めてから1年1ヶ月ぐらい。
卓球好きのオジサンのたわごとを毎日数十人の人が読んでくれているらしい。ありがたいことである。

【追記2】
『卓球レポート』2013-5に野田学園の橋津監督の被災地支援講習の記事が載っていた。

「全日本チャンピオン」というのは、ただ卓球が強いというだけではなく、その肩書にふさわしい責任が生まれたと感じました。吉村にもそういう自覚を持ってほしかったというのが、今回の講習会を企画した理由の一つです。

中高生の部活動でこのような活動を行うことに賛否があることは覚悟していましたが、選手たちが自分のがんばりや努力がわずかでも社会に貢献していると思うことができれば、きっと彼らの成長にもつながるはずだと考えてやることに決めました。


さすが全国レベルの監督は意識が高い。吉村選手はきっと「ただ卓球の強い選手」では終わらないだろう。元全日本チャンピオンは多くの人を導き、そして多くの人に支えられることになるだろう。吉村選手はいい監督に巡り会えて幸せだ。