世界卓球2014が来週から始まるというのに世間ではそれほど話題になっているとは言いがたい。テレビ東京は宣伝に余念がないが、他のメディアではあまり盛り上がっていないように見える。

SSF笹川スポーツ財団2011「スポーツ白書」によると、観戦スポーツのランキングは以下のとおりである。7位のバレーボールは意外だった。卓球もがんばれば、このぐらいの地位にはつけると思われる。

1.プロ野球
2.高校野球
3.フィギュア
4.マラソン・駅伝
5.サッカー
6.プロゴルフ
7.バレーボール
8.競馬
9.陸上
10.大相撲

他のマイナースポーツ――バドミントン、バスケ、サイクリング、オートバイ、水泳などに比べれば卓球はまだ恵まれている方かもしれない。しかし、まだまだ足りない。どうして卓球がメジャースポーツになれないのか。考えられる理由は2つ、一つはプロデューサーの能力(前記事「プロデューサーのお仕事」)、もう一つは卓球にある、拭いがたい負のイメージだと思われる(前記事「差別されている卓球」)。 

「ご趣味は?」
縄跳びです」
「えっ?」

大の大人がこんな回答をしたら、誰でも怪訝に思うだろう。

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しかしその縄跳びというのが「ダブルダッチ」だとしたらどうだろうか?

「あの…ダブルダッチってロープを2本使う縄跳びなんですけど…。」

「わぁ、ダブルダッチですか!かっこいいですね。」

ダブルダッチの歴史
1973年、ニューヨーク市警の2人の警察官がダブルダッチを楽しむ女の子達の姿にヒントを得て、スラム街で急増する少年・少女の非行に歯止めをかけるため、ルールを作り、新しいスポーツとして再生し、普及活動が始まりました。翌74年に「第1回ダブルダッチ・トーナメント」が開催され、現在では全米で人気のスポーツのひとつとなり、若者、子ども達を中心に世界に広がっています。
日本ダブルダッチ協会」サイトより

「ご趣味は?」
ピンポンです」
「あぁ…そうですか」

世界卓球

「いや、ピンポンというより卓球です
「あぁ、そうなんですか……。卓球って……けっこう難しいですよね。」

卓球は質問者にダブルダッチと同じような印象を与えることができただろうか。
残念ながら、おそらくダブルダッチのときのような印象の転回を質問者に引き起こすことはできなかったのではないかと思われる。

「ダブルダッチ」→かっこいい、たのしそう、やってみたい!
「卓球」→あっ…そうなんだ…。よかったね。


私が非卓球人に「卓球が趣味です」と答えた時、相手が、触れてはならない恥部に触れてしまったかのような気まずい反応を示すことが一再ならずあった。

この違いはどこから来るのか。ダブルダッチと卓球はいったいなにが違うというのか。競技としての卓球がダブルダッチに劣っているとは思えない。どうして卓球人は憐れまれなければならないのか、納得がいかない。そこでダブルダッチがかっこよく見える原因を突き止めようと思った。ダブルダッチと卓球の競技人口を比べたら圧倒的に卓球が勝っている。しかし一般人のイメージとなると話は別だ。私のこの考察は競技人口を増やすことよりも、イメージの向上を目的とするものである。

ダブルダッチにはあって、卓球にはない長所は以下の点だと思われる。

1.数人のグループで楽しめる
2.屋外で楽しめる
3.道具がロープ一本で済む(=ごちゃごちゃといろいろな道具が必要ない)
4.ジャンプというシンプルな技術が中心なので取り組みやすい
5.音楽をかけながらプレーしている
6.プレイヤーがファッショナブルである
7.若者が多い

1と2は楽しさという観点からの特長である。
卓球は一度に3人以上が楽しみにくい。たしかにダブルスなら一度に4人楽しめるが、初心者がダブルスでラリーを続けるのはけっこうハードルが高い。ダブルダッチならターナー(回す人)がゆっくり回せば3~4人がワイワイ楽しめるだろう。この敷居の低さが卓球には欠けている。ダブルダッチ一筋で長年続けている人は稀だろう。しかし、多くの人に何度か楽しんでもらえば、競技イメージに大きな影響を与えるのではないか。

街中の広場や駅前等で若者がダブルダッチをしているのを見かける。しかし、児童公園や河川敷などで見かけることは稀だ。彼ら(ある程度上手な人)はおそらく人目につくところでわざとやっているのだろう。そしてそれがかっこいいイメージの醸成に与っていると思われる。若者が身体を動かして軽やかにステップを踏んでいるのを見ると、すがすがしい印象を受ける。やっている人も人に見られて、「おぉ、すげー」などと言われたら、楽しくなってやる気も出るだろう。
一方卓球は屋外ではできない。街中で道行く人の視線を浴びながらアクロバティックなラリーを続けるなんて不可能だ。強い風が吹いたらボールが曲がるし、ボールが道行く人の顔にでも当たったら、迷惑千万だからである。卓球は一般人のギャラリーの視線を浴びにくい。

野外卓球
こんなふうに公園に台があれば卓球を身近に感じられないか

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このぐらいのサイズの台なら駅のちょっとした待ち時間に遊べるのでは?

通りすがりの非卓球人の目に触れること、みんなでワイワイ気軽に楽しめ、卓球に親しむこと、これが卓球のイメージ向上に有効なのではないだろうか。

3と4は未経験者の取り組みやすさからの観点である。
いつでもどこでもロープさえあれば始められるという手軽さは多くの人に受け入れられやすい。経験者が鞄の中に忍ばせたロープを取り出して、「ちょっと跳んでみる?」と誘われたら、経験が全くない人でも「じゃぁいっちょやってみようか」という気分になる。
一方、卓球は卓球台を持ち運ぶことは困難なので、街中で「ちょっと打ってみる?」という展開にはなりにくい。
インスタント・ピンポン」のようなものを街中や大学等に持って行ったら、人の注目を集められるかもしれない。もっとも、風がないところに限られるが。
ちょっとした暇つぶしに楽しめるよう、公共の場に卓球台を設置してくれる企業、自治体が増えてくれればと思う。

また、卓球は技術が多すぎて(それが卓球の魅力でもあるのだが)、何から取り組んだらいいか分からない。フォア、バック、ツッツキ、ドライブ、ブロック等、多彩である。しかもフォームがそれなりに形になってくるには時間がかかり、初心者は尻込みしてしまう。
一方、ダブルダッチの基本はジャンプという非常にわかりやすくシンプルな技術であり、未経験者が軽く楽しむのに適している。ちょっと跳べるようになって、次にジャンプのバリエーション(足を開いて着地膝を高く上げてジャンプ等)を修得するのもそれほど難しくはないだろう(私はダブルダッチの経験がないので憶測である。ターナーは経験者でないときついだろう)

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複数のボタンとレバーを組み合わせて使う、この手のゲームが廃れて
joystick



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この手のゲームが大流行しているのはボタンを押すだけという単純な操作が受け入れられたからか
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一般人に楽しんでもらうためには卓球の複雑で奥の深い技術というのがかえって障害になる。回転や微妙なボールタッチを気にせずに済むシンプルな用具の開発が望まれる。

5、6、7は競技の本質に関わることではなく、演出的な、周辺の問題である。しかしもしかしたらこれがダブルダッチと卓球のイメージに大きく差がつくところなのかもしれない。
リズムが大切なダブルダッチには音楽が欠かせない(たぶん)。それがプレーに華やかな印象を添える。そしてファッションも若者らしい垢抜けた感じのものが多い。若者人口が多いからファッションもそうなるのだろうか。
卓球のユニフォームにはJTTAの縛りがある(前記事「誰か教えてくれませんか」)。これによって卓球のファッションの発展が阻害されているように感じられてならない。競技に支障がないなら、ジーンズやサーフパンツで試合に出てもいいと思うのだが、JTTAの縛りでボトムスは全員短パンかスカートである(肉体的に衰えている中高年がみんな短パンというのはちょっとはずかしい…)
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サーフパンツやステテコで試合に出られれば、リラックスした感じでちょっとかっこいい?

また、競技の本質的な違いというのもイメージに大きく影響する。最近のフィギュアの人気はすさまじい。あれがどうして国民的な人気を呼んでいるのか。羽生結弦選手、浅田真央選手といった優れた容姿と実力を兼ね備えた選手がいることも原因だと思うが、卓球だって負けていない。松平健太・賢二選手、石川佳純選手、大矢英俊選手、丹羽孝希選手等、容姿と実力を兼ね備えた選手はいくらでもいる。

kenta
kasumi

男子選手は特にイケメンが掃いて捨てるほどいる。しかし、フィギュアが演技の美しさを競うという競技の性質から、一般人に受け入れられやすいのに対して卓球は勝敗を競うという競技の性質上、万人が観賞するのに向いていない。また、フィギュアは1つの演技の時間が短いというのも関係するだろう。
そこで新井卓将氏のように大道芸的なプレーや美しさを競う、魅せる競技というのがあればと思う(前記事「ARP理論」)。ダブルダッチだけでなく、フィギュアやシンクロ、スノーボード等、短時間で美しい技を競う競技は万人受けする。卓球もこのような演技的競技があれば、卓球のイメージが向上するのではないか。3分間で美しいラリーを競う競技というのがあれば、お茶の間で受け入れられやすいし、硬式卓球では選手としての活躍を諦めてしまった人にも挑戦のチャンスがある。その際、音楽に合わせてラリーする競技などがあれば、卓球のイメージもずいぶん変わるのではないだろうか。

以上、長々と実現の難しいことばかり提案してきたが、私が卓球のイメージ向上に効果があると考えるのは2つある。

一つは体育館以外のいろいろな場所に卓球台が設置してあり、空き時間に気軽に楽しめる環境の整備である。普通の卓球台ではなく、小さな卓球台にラージボールというのが適当ではないだろうか。こうして多くの人が卓球に親しめば、卓球が一部の人のマニアックなスポーツではなくなり、親しみやすいイメージが生まれるだろう。

もう一つは通常の硬式卓球以外の演技スポーツとしての卓球競技ができないかということである。ボールをもっとスピードが遅いものに変えて、音楽に合わせて同時に2~3のボールを両手で打って技を競うような競技があれば、もっと一般的な層も取り込め、ファッションや音楽などの華やさが卓球のイメージを変えるのではないだろうか。

【付記】
こういう映像も卓球のイメージ向上に貢献しているだろう。

ping pong the animation OP
https://www.youtube.com/watch?v=tZrm7e6Ly14