「上海レポート−13年前の上海」も今回で終了です。実は7年前、友人と上海に遊びに行ったのですが、その時ですら道がわからない位変わっていました。今行ったら、迷子になってしまうでしょうね。
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中国では農村の戸籍(戸口という)と都市の戸籍が峻別されており、農村の戸籍を持つもの、つまり農民が都市の戸籍を得ることは、例外的な場合を除いて不可能である。言うまでもなく、農民を農村に縛り付け、都市に流入することを避けるための措置であるが、改革・開放政策以来、現実的には、この規制を無視し都市に流入してくる農民が多いことも事実である。いわゆる、「盲流」というやつである。いったん都会の豊かさに気づいてしまった農民を農村に押しとどめておくことは難しい。もちろん、都市の戸籍がないと、都市で暮らしていくにはたいへんだ。公共のサービス、例えば子弟の教育や医療が受けられない。住居が得られない。しかしながら、昔と違い、戸籍がないと食料の配給が受けられないということはない。金さえあれば、食料店やスーパで自由に買える。従って、戸籍がなくとも生きて行くことはできる。農民が戸籍がない「たいへんさ」をものともせず、都市に押し寄せる所以である。
このような自然の流れに対して、当局も、規制一辺倒では対処できないことに気づき始めたようだ。農村から出て来た連中の中で、運良く金儲けに成功した者には都市戸籍を与えようというわけである。これが、一定以上の価格のマンションを購入した者には都市の戸籍を与えるという奇抜な措置である。つまり、戸籍付きのマンションだ。上海市内の場合は、35万元以上のマンションを買うと上海の戸籍が一つ貰える。最初、人気のない浦東地区で「入植」を促すためスタートしたとのことだが、現在では市内はもとより郊外にも広がっている。地獄の沙汰も金次第ではないが、全く、中国的な発想で、農民も金持ちになったら仲間に入れてやろうというわけだ。だが、このように一見、実態に則し、妥当とも思われる方策にも実は裏がある。この辺のところが中国だ。マンションの売れ残りが余っているのだ。
ご多分に漏れず、中国も不動産ブームによるミニバブルの洗礼を受けている。改革・開放による外国企業の進入により、外国人向けの住居が払底し、家賃が急騰したことが発端である。機を見るに敏な香港、台湾人が外国人向けのマンション、一戸建て建設にに乗り出した。上海の家賃が東京、ニューヨークより高いのであるから、最初に投資した連中は大もうけした。これを見て、われもわれもと後に続くのはどこの国でも同じ。一方、経済の急激な伸びにより、国民の貯蓄も進み、政府の社宅制度の廃止、それに代わる住宅ローンの拡充を軸とする持ち家政策の推進により、中国人の間にも住宅購入のの高まりが出てきた。かくて、外資、内資を問わず一大住宅ブームが起こった。いったん、流れが奔流になってしまうと止められないのは世の常である。たちまち、供給過剰になり、家賃は急落、売れ残り住宅の山ができた。実際、筆者のマンションの家賃も実勢は3年前入居時の半分である。上海市内を巡ると完成したが、未入居のマンションがごろごろしていることがわかる。これでおわかりのように、マンション購入者に戸籍を与えるというのは、売れ残り住宅の販売策の一環なのだ。農民は喜び、政府の持ち家政策も進み、在庫を抱えている業者にとっては何よりも強力な支援策である。正に、三方ハッピーというわけ。中国人とはなんとフレキシブルなことか。