意味の無い宝物

 皆様、あけましておめでとうございます。  
 なんかいきなり色々なことが起きていて大変な一年になりそうだなって感じでちょっと憂鬱になりますね。こんな時こそ神頼みをしたくなるよなって想わなくもないです。ちょっと不謹慎ではありますが・・・。と言うわけで今回感想を書いていくのは葵依幸先生の「勇者殺しの花嫁Ⅰー血溜まりの英雄ー」の感想です。

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 あらすじ
 最強花嫁の任務は、勇者を惚れさせて殺すこと!?
 魔王と人類が争っている世界で、魔王が勇者に討たれた後のお話です。魔王を討伐した勇者が人々の信仰を集めることを危惧した教会の偉い人たちに勇者「シオン」の討伐を依頼されたシスターの「アリシア」の物語です。
 勇者であるシオンには神々の加護がついていて暗殺等が成立しません。そこで、シオンからの寵愛を得ることでその加護を無効化して暗殺を成功させよう!そういうお話です。

 感想  
 面白かったです。と言うかこの作品が百合作品だったのは軽くびっくりしました。表紙で一目惚れ買いしたので。
 何というか「腐った教会」だとか「勇者殺し」だとか結構見覚えが有るよなって感じの作風では有るのですが、執行官役のアリシアが想像以上に人間くさい感じで読みやすかったです。
 するすると読めて気付いたら読み終わっていた感じです。

 物語全体の感想としては結構がっつりとファンタジーなバトルをしていたなって感じです。個人的にこういう感じの作品って主人公はファンタジックな能力は弱くて頭脳✕物理でごり押しって感じのイメージが強かったので、詠唱を重ねてっていうのはちょっと意外って感じでした。とか言ってアレなんですけど普通に脳筋でしたね、冷静に考えたら。
 後は、主人公が敵側の魔族の子供に対する憐憫とかを持っていたのもそっちなんだな~って感じでした。なんかそう言うのって無垢な勇者が持っていて、主人公が最初は呆れながらも少しずつ絆されていくって印象が有るのでそういう意味では結構斬新だったなとは想います。
 
 まあ、私のステレオタイプに塗れた感想はともかくとして、打算的ではありつつ、優しさも有って普通に俗っぽいめっちゃ人間くさいアリシアが好きでした。

 個人的には宗教組織(味方)って基本的に胡散臭い立ち位置で有ることが多いなって想っていて、実際この作品でもそんな感じの組織なんですけれど、思った以上に露骨なのと、アリシアの罵倒っぷりが気持ちよくてなんか笑えました。
 
 どのキャラも人間味が有って、これからの彼女たちの物語が楽しみだなって感じです。  
 素敵な物語をありがとうございました。

黄昏、君とずっと眺めてたい
遠くへ行けば忘れられるような
そんな柔らかい痛みじゃないけど
その胸の中で忘れていたい

 この歌詞の引用に特に深い意味は無い。と言うかそうなれたら良かったね、みたいな感じの曲の一部なので。

 人には弱い心が有って、嘘だってつくし、大切な人を裏切ることだって有るし、自分すらも裏切ってしまう。それは他の人から見れば意味不明だし、簡単に変わっていて、整合性なんて無いことだってある。
 けれど、それでも、たとえ逃げて目を逸らし続けてきただけでも、それで地獄を巻き起こしたとしても、それでも必死に考えてた。想っていた。
 長い時間向き合ってきたならーーそれは間違いなんかじゃ無い、と僕だけは肯定してあげたい。

 と言った感じで本日は雨宮先生の「灰原くんの強くてニューゲーム6」の感想を書いていきたいと思います。

灰原6


 あらすじ

 球技大会が終わり、グループ内のいざこざも一旦の解決を見せた灰原くん達ご一行。しかし、そんな彼らを待ち受けていたのは灰原の幼なじみである本宮美織が幼なじみの灰原と恋人の白鳥の二人に手を出している、と言うモノであり・・・・・・
 気付いてしまった感情。表に出てきた、名前が付いてしまった想い。

 ーーだから、もう、あの頃には戻れない。

 感想

 本宮美織がどうしようもなく愛おしい、と言うのが今回の感想です。
 幼馴染みである灰原のことがずっと好きで、けれど灰原は他の人のことを見ていて恋愛相談に乗っていて、彼との関係を再会して色々と続けているうちに彼への恋心を自覚した。ーー思い出した。
 それはもう今更形にするには遅すぎて、言葉にすると彼の作り上げた幸せを壊すことになるから黙って消そうとしました。
 そのために、白鳥と恋人になったりもしたし、必死にただの幼馴染みと言い続けてました。それでも我慢できない感情がふと溢れて、それを悪意のある形に切り取って騒ぎ立てる人が居て、誰よりも自分が自分を許せなかったと思います。
 本宮美織という人間は灰原夏希を好きで、そして星宮陽花里も好きだったから。だからどうしようもなくなって、それに噂も重なってって感じで追い詰められていったんだろうなって想います。なんか不謹慎すぎてアレだけど、弱っている女の子は普通に好きなのでちょっとゾクゾクしちゃいました。
 いや、それはそれとして胃が痛いですけど。
  
 後は、今回は美織回だったんですけれど、陽花里も不安定になっていてなんかぐちゃぐちゃだったよなって想います。まあ、元々、美織と夏希の距離感がアレだったというのに加えての今回の噂出し値って感じ。周囲が他人事だからこそ面白半分で真偽もどうでも良く騒ぎ立てていたのとは真逆で、当事者で近くに居て知っているからこそ、その噂に真実味を覚えてしまった陽花里ってのはなんとも言えない気分になりますね。
 何というか、前も言ったような気がするんですけれど、陽花里って大天使って感じに見えてちゃんと、人間の見にくい側面も持っているというのがすごい魅力の一つになっているような気がするんですよね。
 
 途中に間章が挟まっていて、本編の美織視点とか本編前の二人の様子が有ったのが、より二人のお互いへの感情を際立たせてきてエグかったです。ベクトルはどうであれ二人の関係性は「ただの幼馴染み」で片付けるには重すぎて、お互いの心の中に深く刺さり合っていたんだろうなって思います。
 こういう関係性、めちゃくちゃ好きだったので最高でした。

 ネタバレになってしまうんですけれど、結局自分の気持ちを押し殺しながら一緒に居てもどこかで破綻することは避けられないんだと思います。だからこそ、どこかで一度きっちりと精算しなくちゃいけなかったことは事実です。
 美織が夏希へ想いを吐き出すこと、夏希がその想いをきっちりと受け止めて返すこと。それは二人が「幼馴染み」であり続けるためにはどうしても必要なことだったんだろうなって想います。
 美織が夏希への恋心に目を逸らして、どうしようもなくて、それでも出来なくて破裂してしまったのは、それだけの感情を抱えていたと言うことで、ただただ愛おしいと思います。

 また、夏希が詩とは違って、美織へ振り向くことが無いって言い切ったのは、保留にしなかったのはきっとそれだけ美織が「好き」だったから、「好き」だからこそどうしようもなく終わらせるしかなかったのはどうしようもないけれど切ないなと思います。

 多分、彼女は舞台に立てなかったんじゃなくて、立っていたけれどそれを気づけなかった、そんな感じなんだろうなって想います。
 空気を、空を、月を、太陽を舞台上の人物と見なすことがないように、当たり前すぎて見えなくなっていた。

散ることを 願うほどの 恋心
雨に溶かして 君と飲めたなら
 どうしようもなく涙が溢れました。

 素敵な物語をありがとうございました。

 また、会える日をお待ちしています。

 今回の読書時のBGM

 1.トゲナシトゲアリ 「爆ぜて咲く」



 2.トゲナシトゲアリ 「傷つき 傷つけ 辛くて 痛い」

 

 この世界には赦せないモノは当たり前にあるけれど、だからと言ってその許せない相手をどうにかすることなんて現実的にはほとんど出来ない。

 仮に出来たとしたら、それは大抵の場合は悲劇で、なあなあで終わるしかないことばっかり。

 達成しても結局は知らない誰かのお気持ち表現の玩具になってしまうような日々。

 誰かの一瞬だけの正義ごっこの材料にされて、あっという間になかったことにされていく。
  
 そう考えたらこの世界はどれほど残酷なんだろう?と思う。
 
 なんて言ったりして。

 本日は中西鼎先生の「さようなら、私たちに優しくなかった、すべての人々」の感想です。

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 あらすじ
 姉を殺した七人への復讐に少女は命を捧げた
 四方を山に囲まれた田舎町、阿加田町。
 この町の高校に通う中川栞は、いじめを受けて不登校になっていた。
 ある日、栞の家に同居人として佐藤冥がやって来る。
 誰にも心を開かない冥は、この町へ来た目的を栞だけに告げた。


「姉を死に追いやった七人の人間を皆殺しにしてやりたいの」


 三年前、冥の姉・明里は、この町で凄惨ないじめに遭い自ら命を絶っていた。
 その復讐のために、冥はここへ戻ってきたのだ。
 冥は阿加田神社に伝わる血塗られた祭儀『オカカシツツミ』を行い、巨大な蛇の神『オカカシサマ』を自らの身に宿らせることで、七人の人間を殺していく計画を立てていた。


 夏至の夜、冥は儀式を成功させる。
 それから一日に一人ずつ、冥は神様の力を借りて、栞と共に姉の死に関わった人間を殺していく。
 復讐と逃避行の日々の中、いつしか二人は互いに恋愛感情を持つようになる。
 だが冥は栞に、一つの隠し事をしていた。それは『オカカシツツミ』を行った人間は、最後には自らの魂を神様に捧げなければならない、つまりは〈冥の死〉が避けられないことを。


「ジャンプ+」でも人気爆発中の、今一番キテる作家が送る、残酷青春ラブロマンス!!

 感想
 面白かったし、少しだけ懐かしかったです。怪奇モノ×復讐というのは一時期ハマっていた小説群の中に結構あったので久々に読んだなって印象でした。  

 姉を虐め自殺させておいてのうのうと生きている人たちを許せないっていう気持ちは分かります。そして不思議な雰囲気の少女にひかれていく気持ちもなんとなく理解できます。だからこそキャラにのめり込めて気づいたら物語の世界に入り込んでしまいました。

 儀式的な側面が有るっていうのも分かりますが、個人的に段々とヤリ方がグロくなっていくのと、各章の終わりで少しずつ明らかになっていく過去の凄惨さのバランスが絶妙でどんどん物語に引き込まれていきました。  

 個人的に興味深かったのが、猟奇的になっていく復讐の様子とは裏腹に段々とその〇害描写そのものはあっさりしていた所です。グロくないとは言ってないまあ、あらすじにもある通り、どっちかというとグロい系というよりは残酷青春ラブロマンスって側面を押したいんだろうなって感じですね。

 あくまで物語の主題は復讐なので結構雰囲気は重めなんですけれど、甘い雰囲気な所もあって、色々な読み味を楽しめたと思います。がっつり分かれてた所も有るんですけれど、そこらへんがぐちゃぐちゃに混ざっているところも有って、そういうある種の不安定感も二人の様子を表しているみたいで面白かったです。
  
 終わりが見えている物語ってその儚さが素敵で、その儚さの行方はああなったんですけど個人的にはかなりアリでした。 まぁ賛否は分かれるような気もしますが……。

 みたいな感じで中西鼎先生の「さようなら、私たちに優しくなかった、全ての人々」の感想でした。
 グロ系も好きで仄暗いラブコメが好きな人にはぶっ刺さると思うので興味を持ったら是非読んでみてください。ゆーぎりでした。

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