静岡県磐田市中泉(なかいずみ)の中泉御殿(なかいずみごてん)は、安土桃山時代の天正14年(1586年)に造営を開始・翌年完成した、徳川家康(とくがわ いえやす)の宿泊休憩(きゅうけい)施設・別荘です。
徳川家康は、鷹狩り(たかがり)や「関ヶ原の戦い」「大坂の陣」の作戦会議などで、中泉御殿を21回訪問。
江戸時代前期の寛永16年(1639年)、3代将軍 徳川家光(とくがわ いえみつ)が徳川家別邸の修理を命じ、中泉御殿も改修が行われたと考えられています。
敷地は約1万坪(33,000��)で、北側に堀と土塁(どるい)が築かれ、北側以外は大池と湿地帯で囲まれていました。
絵図に描かれた中泉御殿
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徳川家康の別荘だった中泉御殿の表門を移築
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中泉御殿跡の地図
静岡県磐田市中泉2241-2ほか
中泉御殿 本丸(本城)？東側の御殿・二之宮遺跡(ごてん・にのみやいせき) 第84次調査地点には、発掘調査後に「マックスバリュ磐田中泉店」が建設されました。
アクセス
・東名高速道路 磐田ICの南
・JR東海道本線 磐田駅の南
・「ファミリーマート磐田駅南口店」の南西
中泉御殿(なかいずみごてん)・中泉陣屋(なかいずみじんや)の範囲
絵図(えず)や明治時代の地籍図(ちせきず)から想像したもので、地図の上が北。
磐田駅南口から御殿遺跡公園(ごてんいせきこうえん)周辺までの紫色の範囲が、安土桃山時代の天正18年(1590年)に建設された遠江国(とおとうみのくに、静岡県西部)の徳川家康の領地を支配する中泉代官の代官所の中泉陣屋跡です。
その下側(南側)の堀で隔てられた黄緑色の範囲が、中泉御殿の二の丸(出丸)？
左側(西側)の緑色の範囲が、中泉御殿の本丸(本城)と考えられています。
さらに下側(南側)の薄黄緑色は中泉御殿の三の丸？
中泉御殿の北側に堀と土塁(どるい)が築かれ、北側以外は大池と湿地帯で囲まれていました。
東海道沿線の「御殿」
＜中泉御殿(なかいずみごてん)＞
安土桃山時代の天正6年(1578年)、御殿・二之宮遺跡(ごてん・にのみやいせき)の範囲内の北西部分に小堡(しょうほ、小さな砦(とりで))を築造。
天正14年(1586年)、徳川家康が小堡の場所に宿泊・休憩(きゅうけい)施設として、中泉御殿(なかいずみごてん)の造営を開始し翌年完成。
徳川家康は、鷹狩り(たかがり)や「関ヶ原の戦い」「大坂の陣」の作戦会議などで、中泉御殿を21回訪問。
江戸時代前期の寛永16年(1639年)、3代将軍 徳川家光(とくがわ いえみつ)が徳川家別邸の修理を命じ、中泉御殿も改修が行われたと考えられています。
敷地は約1万坪(33,000��)で、北側に堀と土塁(どるい)が築かれ、北側以外は大池と湿地帯で囲まれていました。
寛文10年(1670年)、多額の維持費・修理費がかかるため、経費削減で中泉御殿を廃止。
翌年、中泉御殿の建物は解体・建材が売却されて各地へ移築。
表門は磐田市見付の時宗 東福山 西光寺(さいこうじ)へ、主殿(しゅでん)と裏門は磐田市中泉の真宗大谷派 弘誓山 西願寺(さいがんじ)へ、書院(しょいん)は磐田市堀之内の臨済宗方広寺派 常楽寺(じょうらくじ)へ移築されたと伝えられています。
昭和33年(1958年)、主殿が西願寺から浜松市中央区鴨江(かもえ)の高野山真言宗 観潮山 快真寺(かいしんじ)へ再移築。
常楽寺へ移築された書院は名残が無く、快真寺へ移築された主殿は内陣の一部に17世紀の部材が残り葵紋(あおいもん)の釘隠(くぎかく)しが見られるのみです。
磐田市指定有形文化財 遠江秋鹿家(とおとうみあいかけ)関係資料
『中泉八幡宮領絵図(なかいずみはちまんぐうりょうえず)』
江戸時代前期の寛文6年(1666年)〜10年(1670年)に描かれた絵図です。
中泉御殿は大池に隣接しており、徳川家康は冬に訪れて鷹狩り(たかがり)を楽しみました。
絵図に描かれた中泉御殿
絵図の上が北。
敷地は約1万坪(33,000��)で、北側に堀と土塁(どるい)が築かれ、北側以外は大池と湿地帯で囲まれていました。
中泉御殿 本丸(本城)？
中泉御殿 本丸(本城)？ 北西角の土塁跡(どるいあと) 西より
御殿・二之宮遺跡(ごてん・にのみやいせき) 第82次調査の様子です。
土塁の外側に堀が巡っていました。
中泉御殿 本丸(本城)？東側
御殿・二之宮遺跡(ごてん・にのみやいせき) 第84次調査地点
赤線で囲われた調査地点には、「マックスバリュ磐田中泉店」が建設されました。
中泉御殿 本丸(本城)？東側
第84次調査地点付近の中泉御殿施設想像図
中泉御殿の門跡
御殿・二之宮遺跡(ごてん・にのみやいせき) 第84次調査で、中泉御殿 本丸？東側の門跡を検出。
柱を直接地面に埋め込んだ掘立柱式(ほったてばしらしき)の門で、柱根(ちゅうこん、柱の根元)が出土しました。
出土した門跡の柱根(ちゅうこん、柱の根元)
間口3.6mの大型の薬医門(やくいもん)で、屋根は杮葺(こけらぶ)きと推定。
柱の下に礎石(そせき)を置かず、柱を直接地面に埋め込んだ掘立柱式(ほったてばしらしき)の門です。
出土した柱の部材に煤(すす)が付着したものがあり、門は焼失したと考えられます。
中泉御殿の表門を移築したと伝えられる時宗 東福山 西光寺(さいこうじ)の表門は、総ケヤキ造りの礎石建ちの薬医門で、江戸時代(17世紀中頃)に再建された門のようです。
文化財課企画展『磐田の城と戦国大名 ―今川から徳川へ― 』の展示の様子で、柱の間隔は出土状況の1/2で配置。
記号のようなものがある柱
〇と▢組み合わせたもの、矢印状のものなどが見られます。
東照宮(とうしょうぐう)
江戸時代前期の寛文10年(1670年)、多額の維持費・修理費がかかるため、幕府は経費削減で中泉御殿を廃止。
寛文11年(1671年)、中泉御殿の建物は解体・建材が売却されて各地へ移築。
中泉御殿跡は、幕府の御用林と畑になりました。
御殿山(本丸跡？)には、小笠寺(しょうりゅうじ、磐田市中泉の大乗院 三仭坊(みひろぼう)の前身)の慶存(けいそん)住職が徳川家康を神格化した東照大権現(とうしょうだいごんげん)を祀(まつ)る東照宮「御主殿(ごしゅでん)」を創建。
江戸時代後期の文化14年(1817年)9月と、幕末の安政2年(1855年)4月に東照宮を再建。
明治6年(1873年)、浜松県の一村一社の布達により磐田市中泉の府八幡宮(ふはちまんぐう)の神宮寺跡に遷座。
明治45年(1912年)5月、府八幡宮境内北西の現在地へ遷座。
現在の社殿は、昭和52年(1977年)建立です。
中泉御殿 二の丸(出丸)？
中泉御殿 二の丸(出丸)？ 発掘調査
上が北。
平成4・5年度の第8次調査(御殿遺跡公園の南西)では、二の丸(出丸)？北側で幅約10m・深さ約2mの堀跡が見つかりました。
中泉御殿 二の丸(出丸)？ 堀跡 発掘調査 西より
平成4・5年度の第8次調査(御殿遺跡公園の南西)で、幅約10m・深さ約2mの堀跡を検出。
御殿・二之宮遺跡の地震跡(じしんあと) 標本
平成5年(1993年)8月、中泉陣屋跡の隣接地で発掘調査を実施。
中泉御殿の堀(ほり)跡から、円筒状砂脈(えんとうじょうさみゃく)と呼ばれる噴砂(ふんさ)の跡が10数箇所発見されました。
大規模な地震で液状化現象が起き、上に堆積(たいせき)した粘土層(ねんどそう)を突き破って、地中から泥(どろ)が噴出(ふきだ)した様子が分かります。
切り取った地震跡の標本は、磐田市埋蔵文化財センターで展示(展示が変更になる場合あり)。
文献資料によると、江戸時代後期の天保2年(1831年)に中泉陣屋が火災で焼失。
中泉御殿の濠の中には焼土を埋めた層があり、この層を突き破った噴砂がすぐ上を覆(おお)っています。
この地震跡は、幕末の嘉永7年11月4日(1854年12月23日)9時30分頃に発生した、マグニチュード8.4(最大震度7、磐田市では震度6)の安政東海地震(あんせいとうかいじしん)によるものと考えられます。
火災後に再建された中泉陣屋は、安政東海地震で倒壊しました。
地震跡(発掘調査時)
噴砂(ふんさ)の跡
砂礫層(されきそう)の礫(最大径16��)が、噴砂により上層の粘土層(ねんどそう)へ噴出(ふきだ)しています。
発掘調査で確認された円筒状砂脈(えんとうじょうさみょく)は、全国で3例目です。
大乗院三仭坊文書(だいじょういん みひろぼう もんじょ)
「中泉 御殿御尋ニ付申上候(なかいずみ ごてんおたずねにつきもうしあげそうろう)」
磐田市中泉の大乗院 三仭坊が所蔵する古文書です。
江戸時代前期の元禄11年(1698年)6月、第13代中泉代官 内山七兵衛永貞(うちやま しちべえ ながさだ、江戸城の天守を守衛する天守番(てんしゅばん)を勤めた旗本 内山七兵衛永明(うちやま しちべえ ながあきら)の長男で、永明の二男は甲府藩の勘定 関五郎左衛門(せき ごろうざえもん)の養子になった和算家 関孝和(せき たかかず))から命じられた遠江国豊田郡中泉村の庄屋(しょうや) 三郎兵衛(さぶろべえ)らが、中泉御殿について村に伝わることを文書に記しています。
解読文
読み下し文
意訳(現代語訳)
市指定有形文化財 西光寺表門(旧中泉御殿表門)
江戸時代(17世紀中頃)の築造と考えられる、中泉御殿の表門を磐田市見付の時宗 東福山 西光寺(さいこうじ)へ移築。
礎石建ちの薬医門(やくいもん)で、総ケヤキ造り。
現在は3間1戸ですが、当初は1間1戸だったと推測。
瓦は後世に葺き替えられています。
主柱の間隔3.45m
市指定有形文化財 旧中泉御殿裏門
江戸時代前期の寛文10年(1670年)、多額の維持費・修理費がかかるため、経費削減で中泉御殿を廃止。
翌年、中泉御殿の建物は解体・建材が売却されて各地に移築。
主殿(しゅでん)と裏門は、磐田市中泉の真宗大谷派 弘誓山 西願寺(さいがんじ)へ移築されました。
＜中泉御殿(御殿・二之宮遺跡)の出土品＞
安土桃山時代 皿(小皿)
愛知県東部 東三河地方で生産された、カワラケと呼ばれる素焼きの土師質小皿(はじしつこざら)。
安土桃山時代 皿(丸皿)
瀬戸・美濃方面で生産された丸皿(まるざら)。
江戸時代 天目茶碗(てんもくぢゃわん)
瀬戸・美濃方面で生産された茶碗。
江戸時代 天目茶碗(てんもくぢゃわん)
瀬戸・美濃方面で生産された茶碗。
堀跡から出土したものです。
江戸時代 天目茶碗(てんもくぢゃわん)
瀬戸・美濃方面で生産された茶碗。
堀跡から出土したものです。
江戸時代 天目茶碗(てんもくぢゃわん)
瀬戸・美濃方面で生産された茶碗。
堀跡から出土したものです。
江戸時代 皿(中皿)
瀬戸・美濃方面で生産された中皿(ちゅうざら)。
堀跡から出土したものです。
江戸時代 擂鉢(すりばち)
志都呂焼(しとろやき)の擂鉢です。
江戸時代 土鍋(どなべ)
遠江(とおとうみ、静岡県西部)で生産されたもので、井戸跡から出土しました。
江戸時代 土鍋(どなべ)
井戸跡から出土しました。
江戸時代 銅銭(どうせん)「寛永通宝(かんえいつうほう)」
江戸時代前期の寛永13年(1636年)から江戸時代末期(幕末)まで鋳造(ちゅうぞう)された、中心に正方形の穴がある円形の銭貨(せんか)です。
安土桃山時代 軒丸瓦(のきまるがわら)
建物の軒先(のきさき)に使われた瓦。
他の軒丸瓦よりやや古い時期の瓦で、江戸時代に再利用されたと考えられるものです。
安土桃山時代 軒平瓦(のきひらがわら)
建物の軒先(のきさき)に使われた瓦。
他の軒丸瓦よりやや古い時期の瓦で、江戸時代に再利用されたと考えられるものです。
江戸時代 軒丸瓦(のきまるがわら)
建物の軒先(のきさき)に使われた瓦。
巴文(ともえもん)が見られます。
江戸時代 軒丸瓦(のきまるがわら)
建物の軒先(のきさき)に使われた瓦。
巴文(ともえもん)が見られます。
江戸時代 軒平瓦(のきひらがわら)
建物の軒先(のきさき)に使われた瓦。
江戸時代 軒平瓦(のきひらがわら)
建物の軒先(のきさき)に使われた瓦。
江戸時代 軒平瓦(のきひらがわら)
建物の軒先(のきさき)に使われた瓦。
江戸時代 丸瓦(まるがわら) 裏面を展示
平瓦(ひらがわら)と組み合わせて使われた瓦。
製作時に粘土の塊(かたまり)から材料を切り取る道具が、瓦によって異なります。
江戸時代 丸瓦(まるがわら) 裏面を展示
平瓦(ひらがわら)と組み合わせて使われた瓦。
製作時に粘土の塊(かたまり)から材料を切り取る道具が、瓦によって異なります。
江戸時代 平瓦(ひらがわら)
丸瓦(まるがわら)と組み合わせて使われた瓦。
参考文献
・『静岡県史 資料編1 考古一』静岡県 1990年3月20日
・『静岡県史 資料編2 考古二』静岡県 1990年3月20日
・『図説 磐田市史』磐田市史編さん委員会 1995年11月1日
・『静岡県文化財地図�� ―焼津市以西―』静岡県教育委員会 1989年3月1日
・『静岡県文化財地名表�� ―焼津市以西―』静岡県教育委員会 1989年3月1日
・『磐田市史 資料編1 考古・古代・中世』磐田市史編さん委員会 1992年3月31日
・『御殿・二之宮遺跡 発掘調査報告�機拈轍�県磐田市教育委員会 1981年3月31日
・『いわた ふるさと散歩 南部編 磐田文化財マップ』磐田市教育委員会文化財課 2003年11月25日
・文化財課企画展『磐田の城と戦国大名 ―今川から徳川へ― 』展示 磐田市教育委員会文化財課 2024年7月27日〜8月25日
・磐田市埋蔵文化財センター 常設展示
・御殿遺跡公園 案内板 磐田市教育委員会文化財課 2016年8月
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