2015年10月10日

「わたしはここにいる」/ペルー音楽。人と風土・・。

 音楽を通してペルーという国を描いた「わたしはここにいる(I Still Being) 」(ハビエル・コルクエラ監督、ペルー、スペイン、2013年)を山形国際ドキュメンタリー映画祭で見ました。ペルーの首都リマ在住のバイオリン奏者を黒子に、高地から海岸まで、さまざまな表情を浮き彫りにしています。

 キューバを舞台にした「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(ヴィム・ヴェンダース監督、1999年、ドイツ、米国、フランス、キューバ)を思い出しましたが、バイオリン奏者を進行役に登場させている分だけ視点が定まっています。見やすい。

 高地にある彼の故郷に向かう旅を経て、海岸に近いリマ市に戻ります。ペルー音楽をたっぷり聴きながらの上質な紀行作品といっていいでしょう。バイオリン奏者は、すっかり荒れ果てた生家をながめ、畑を管理してくれている老女と束の間の再会を喜びます。

 音楽仲間との会話。ギタリストだった父親が息子がたずねても教えたがらなかったそうです。その理由は、一人は「飲んだくれになるから」。もう一人は「放浪する暮らしになるに決まっているから」。何だか分かるような気がします。

 山岳地帯の冷涼な空気感から都会の場末の雑踏まで、ペルーの音楽は幅広い魅力を備えています。特に女性ボーカリストたちの質感の多彩なことに驚かされました。「マリアはただ人のために働くだけ」と繰り返す生活感漂う歌も印象的でした。

 そう言えば、南米ペルーと言えばすぐ浮かんでくる「ケーナ」を吹くシーンは1カ所しかありませんでした。タップダンスとの合奏は、その由来も含めて、興味深いお話でした。
 


  

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2015年09月25日

あ、これ自分のことか?/ロイ・アンダーソン監督「さよなら、人類」

第71回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受けた「さよなら、人類」(ロイ・アンダーソン監督、2014年、スウェーデン・ノルウェー・フランス・ドイツ合作)を見ました。人間が生きる不条理を、「シュール」とも「ブラック」とも言える感覚で見せてくれるコメディーといっていいんでしょうね。

 「笑い袋」や「ドラキュラの牙」「歯抜けおやじ」といった「お笑いグッズ」を売り歩くセールスマン二人が主人公です。一風変わった印象の役者とお話が次々に出てくるので、戸惑いましたが、主人公中心に物語を感じるのが、いい見方のようです。

 主人公のうち、ホルゲル・アンデション演じるヨナタンが何とも悲しくて、目を背けられないほどに誠実です。深刻なのにどこかおかしい、って自分の人生のことではないかと思えれば、見る価値があったということになるはずです。

 スウェーデンのお話なので、予備知識があった方がいいです。ロイ・アンダーソン監督の感性と映画技法をフル動員した作品だそうなので、そのあたりも事前に何かで調べた方がいいです。オフィシャルサイトでもこんな情報提供しています。


 いつものように事前準備皆無の状態で見たので、かなり苦戦しました。見た後にあれこれ調べているうちにじんわりときて、オフィシャルサイトの予告編を見て大笑いするという、不思議な体験でした。

 ちなみに沖縄のグループ「たま」のデビュー曲「さよなら人類」とは関係ありません。



  
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2015年04月07日

狙撃手を「英雄」にしちゃいかんでしょ/「アメリカンスナイパー」

 もう戦争を物語にできる時代ではないのかもしれません。クリント・イーストウッド監督の新作「アメリカンスナイパー」を見てそう思いました。

 戦場で多くの同胞を救ったとしてたたえられる天才的な狙撃手の物語。狙撃手は狙撃用のスコープの中に映った敵を殺すのが任務です。撃たれる側は、見えない敵に不意打ちをくらいます。実に卑怯な仕事です。殺し合いに卑怯もへったくれもないとは思いますが、狙撃手はやがて英雄となり、米国社会がイラク戦争へと向かう高揚感と一体化します。受け止め方も分かれようというものです。

 この狙撃手や彼をたたえる人たちには、せめて「座頭市」の名セリフを味わってほしい。「俺たちゃあなあ、裏街道を渡る渡世なんだぞお」。英雄になってはいけない、英雄にしてはいけないのと思うのです。

 狙撃手は、最初の作戦で少年を射殺します。少年は母親と思しき女性に対戦車用の手榴弾を持たされ、作戦中の米軍に近づいたのでした。

 この場面を逡巡しながらも乗り越え、あとは「英雄」への道一直線。狙撃手は職業軍人として何度も戦場に派遣されるうちに、戦場でしか生きられない心と身体になります。家族との葛藤も一応、描かれています。その場面と展開は驚くほど説得力がなく、家族の反対を押し切って戦場に入る姿の方がよほど印象的でした。

 イーストウッド監督は、この作品で戦争の何を描きたかったのでしょうか。正直、よく分かりません。「ダーティー・ハリー」ほど簡潔ではないし、戦争の形そのものが大きく変化しつつある現実に切り込めたとも思えません。「ジャージー・ボーイズ」(2014年)」はよかったのになあ。次回作に期待しましょう。  
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2015年03月19日

ボブ・ディラン直前に生きた歌手/「インサイド・ルーウィン・デイビス 名もなき男の歌」

 気になっていたジョエルとイーサンのコーエン兄弟の「インサイド・ルーウィン・デイビス 名もなき男の歌」をやっと見ました。DVDですけど。

 1961年のニューヨーク・グリニッジ・ヴィレッジ。ボブ・ディラン直前のフォークの時代に活動した歌手の物語。苦しかっただろうなあ、いいやつだなあと、心から思うのでした。役者の演技、ストーリーとセリフの面白さで見せる作品です。理屈っぽくないのがいい。主演のオスカー・アイザックのギターとボーカルも本職はだし。渋くていい。音楽映画として十分楽しめます。ストーリーがループするラストは気に入りました。

 2013年のカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得しています。「パルムドール」ではありません。

  
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2014年12月03日

重苦しい「裏切り者」の恋/ルイ・マル監督の「ルシアンの青春」

ルシアンの青春 Blu-ray ルイ・マル監督の「ルシアンの青春」をほぼ40年ぶりに見ました。1944年、ドイツ占領下のフランスでのお話。フランスの片田舎で育った素朴な少年、ルシアンが主人公です。レジスタンスへの参加を希望したのに、どう考えても、ものの弾みとしか言えない経緯で、ルシアンはドイツ軍(警察)に協力することになります。判断力の幼さと「強さ」への憧れ。二つが相まって、非常に危うい立場にルシアンは追い込まれます。

 そのルシアンがユダヤ人の娘に恋をします。当時、ナチスドイツのユダヤ人迫害が最高潮に達していました。同郷の人びとから「裏切者」呼ばわりされるルシアンです。ユダヤ娘との恋などありえるはずもないのですが、ルイ・マル監督は、不安に満ちた青春を容赦なく描き出します。

 ルシアンに少しでも分別があればと思います。教育の問題でしょうか。ルシアン自身がその言葉に耳を傾けたくなるような大人が一人でもいればまた変わったのではないかと思います。愚かで、哀れな少年の恋は、破局に向かって自ら飛び込むような形で展開します。破局を破局としてあえて描かないラストシーンは、重苦しく、切実です。

 最近見直した「追想」(ロベール・アンリコ監督)と印象が重なっています。「追想」はフィリップ・ノワレとロミー・シュナイダーの共演。1975年に製作された作品でした。「ルシアンの青春」は1973年に製作され、公開が1975年。どちらもドイツ軍とレジスタンスの関係を下敷きにした作品なので、印象がつながっていますが、「ルシアンの青春」の方が何倍も見ごたえがあります。色あせない作品ということの意味が、よく分かる比較になりました。  
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2014年10月28日

本の秘密を解き明かす旅/「リスボンに誘われて」

 楽しみにしていたrisbon「リスボンに誘われて」(ビレ・アウグスト監督、2012年、ドイツ・スイス・ポルトガル)を見ました。原題は「Night Train To Risbon」。スイスの大学教授ライムント・グレゴリウスが、偶然手にした本に書かれている人と時代を求めて旅に出ます。ポーランドで70年代まで続いた体制への抵抗運動が下敷きになっています。

 ジェレミー・アイアンズさんがグレゴリウス教授を演じています。本の作者の妹役で出演しているシャーロット・ランプリングさんの冷たいまなざしに久しぶりに出会えます。この人は若い時から作品の中で笑ったのを見たことがありません。それはそれで貫禄たっぷりです。

 この作品は、冒頭からグレゴリウス教授の静かで地味な人生が生き生きと回復していく予感の物語として読むように期待されているようです。が、教授の地味で一見、強面とも思える雰囲気のためもあって、なかなか入り込めませんでした。

 それよりも、レジスタンスに身を投じた人々が長い時を経てもなお、心や体に傷を抱え、悩みながら生きている状況がストレートに伝わってきました。最近、読んだカルロス・ルイス・サフォンの「風の影」も、1冊の本の秘密を解き明かす形で、スペイン・ファシズム政権の圧政に苦しむ人々を描いています。設定が似ているだけで二つの作品に関連はないのですが、抵抗を封じ込めるために体制側が繰り出す暴力の醜悪なことは共通しています。  
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2014年10月01日

原節子、三船敏郎の「東京の恋人」

tokyo_koibito 千葉泰樹監督の「東京の恋人」(1952年)を見ました。古くからの邦画ファンには懐かしい原節子、三船敏郎が共演しています。森繁久弥、清川虹子、十朱久雄ら、味があって達者な役者さんが東京・銀座を舞台に人情喜劇を繰り広げます。

 千葉監督は当時、東宝の人。この作品の4年後に森繁の社長シリーズの第1作「へそくり社長」(1956年)を撮った監督さんです。

 原節子がベレー帽の似顔絵画家を演じ、「三銃士」を気取った靴磨きの青年3人組が街頭を歌いながら歩きます。今では稼働しなくなった勝鬨橋が実際に開閉するシーンが出てきます。1952年(昭和27年)という時代の風景として考えれば、確かに「東京」を名乗るだけのことはあったんでしょう。

 それにしてもなぜ「東京の恋人」?普通に考えれば、原、三船の主役二人を売り出す作戦ですが「恋人」路線を打ち出すには、二人とも年齢的に少々、キャリアがありすぎです。当時、千葉監督は年に5本ぐらい撮っていた時期です。タイトルを十分に練る余裕もなく、お手軽につけられたアイドル路線風のようにも見えます。それでいて話の展開はなかなかの凝りようだし、森繁の「社長シリーズ」の味が濃厚な作品でもあるのですから、手ごわい作品です。

 ひょっとしたらオードリー・ヘプバーンの有名な「パリの恋人」にあやかったのかと思って調べました。しかし、「パリ」は1957年でした。その影響を受けたわけでもないのです。  
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2014年09月30日

C・イーストウッド監督の「ジャージー・ボーイズ」

jersey クリント・イーストウッド監督の新作「ジャージー・ボーイズ」(2014年、米国)は「シェリー」の世界的なヒットで知られる「ザ・フォー・シーズンズ」の成長物語です。ビートルズ以前のポピュラー音楽は人間臭くて魅力的だったことを思い出させてくれます。

 もともと舞台のヒット作を映画化した作品です。映画化するにあたって、実際に舞台で出演した俳優さんを起用しています。
 
 だから、歌えて、踊れるのは当たり前。しかも監督は実際のバンド演奏を重視したそうです。音楽シーンがライブ感に満ちているのはそのためです。これは重要なポイントです。音楽系の作品の場合、この原則から外れることが珍しくはありません。歌は吹き替えだけれども、身振り手振り(演技)が本物とそっくり、なんてことがセールスポイントになったりする不思議な世界でもあります。

 1951年、ニュージャージー州の片田舎から物語は始まります。犯罪や貧困の中で暮らす若者たちが、自分たちに与えられたチャンスを追い続けます。フランキー・ヴァリを演じるジョン・ロイド・ヤングのファルセットと表情は聞きごたえ、見ごたえが十分。人気絶頂のとき、お定まりの深刻な仲違いの末に、グループは分裂しますが、人としての道はそれぞれに開け、再会セッションも用意されています。イーストウッド監督の余裕たっぷりの演出が伝わってきます。

 日本ではコーラスグループ「ダニー飯田とパラダイス・キング」が「シェリー」をヒットさせました。ボーカルは九重佑三子でした。1963年のことです。「ザ・フォー・シーズンズ」の「シェリー」は1962年です。1年後にはしっかりカバーして、ヒットさせていたんだなあ。昔々のことを考えるのが楽しい作品でした。  
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2014年05月18日

うまいね。ケイト・ブランシェット/ウッディ・アレンの「ブルージャスミン」

jasmine ウッディ・アレン監督の「ブルージャスミン」(米国、2013年)は、主人公のジャスミンを演じるケイト・ブランシェットさんを見るための作品です。アカデミーの主演女優賞を受けた理由がよく分かります。ヘレン・ハント、エマ・トンプソンとともに「次が気になる女優」の一人となりました。

 ジャスミンはニューヨークのセレブな境遇から一転、没落の道をたどります。本名の「ジャネットはありふれている」と「ジャスミン」に変えてしまうほどの見栄っ張り。詐欺師同然の夫の悪行に知らぬふりを決め込み、身近な人びとのおためごかしにコロリとだまされてしまいます。虚飾に満ちた女性の傷心と改心の物語かと思えば、ジャスミンのためにアレン監督が準備したラストは意外なものでした。  続きを読む
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2014年05月14日

暴力だけではなかった「美しき世界」

 beautiful「美しき世界」(パク・フンジョン監督、2013年、韓国)はいわゆる暗黒街ものです。組織的な暴力団への潜入捜査という、テーマ自体が持つ緊張感や非情な組織論理を圧倒的な迫力で描いています。

 冒頭、あの「仁義なき戦い」(古い?)に似た、暴力で押し切った作品かと思いきや、潜入捜査官ジャソンを演じた主演のイ・ジョンジェさんを中心に「人」をじっくり描いた魅力ある展開でした。組織の会長だった実父の死後、その後継争いを演じるチョン・チョン役のファン・ジョンミンさんも個性的で、幅の広い演技を見せています。

 暴力的なシーンに弱い方にはおすすめできません。それにしても狭いエレベーター内での血みどろの死闘は印象に残りました。物語の展開を追ううちに、最後まで残る疑問、なぜジャソンはあんな選択をしたのか?それを可能にしたチョン・チョンの振る舞いは何に起因するのか?−について、短い回顧シーンで鮮やかに説明する手腕にも感心しました。

 最近、ちょっと遠のいたけれど、やはり可能な限り映画館に通うことにしよう。そう思わせる作品でした。  
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