2012年01月30日

暴力、リアルすぎるか? 「哀しき獣」

P1000425 この作品を何と形容すべきかを考えながら見ました。韓国映画「哀しき獣」(ナ・ホンジン監督、2010年)の激しくて緊張感に満ちた映像美。特に音響の迫真力は、リアルすぎてこちらの限界を超える部分もありました。暴力シーンがここまでリアルだと、「リアルなホラー」と呼びたい衝動に駆られます。心臓の弱い人にはおすすめできません。原題は「The Yellow Sea」。

 民族問題を置きながらも深入りしていないので、見やすいと思います。ただ、伏線がかなり込み入っています。途中であらすじを追えなくなるかもしれない人のためにキーワードを一つ。「多重殺人」です。ラストぎりぎりまで謎解きを楽しめます。

 主人公はタクシーの運転手グナム。妻は韓国に働きに行ったまま音信不通だ。妻を韓国に密入国させるために多額の借金を抱えてしまい、首が回らない状態になっている。一か八かのギャンブルも負け続け。そこにつけこまれ、中国の延辺朝鮮族自治州から殺人者として韓国に送り込まれます。

 グナム役をハ・ジョンウさんが演じています。焦り、怒り、その奥に流れる悲しみを見事に表現しています。ジョンウさんを操る黒幕ミョンを演じるのがキム・ユンソクさん。何のためらいもなく暴力を振るう役柄を演じさせたらこの人ほどうまい人はいないのではないかと思います。貫禄たっぷり。本当に怖い。
  

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2012年01月05日

面白い。型破りな西部劇 「テキサスの五人の仲間」

Big Hand for the Little Lady [DVD] [Import] 「テキサスの五人の仲間」(フィールダー・クック監督、米国、1966年)は風変わりだけれど、おそらく誰もが楽しめる西部劇です。主演のヘンリー・フォンダさんを見るつもりでご覧になるといいです。ネタばらしが、これほど罪作りな作品も珍しいでしょう。

 西部劇といっても、ドンパチは一切なし。トランプのポーカーにどっぷり漬かった男たちと一人のレイディの物語。原題は「Big Deal at Dodge City」。意訳たっぷりにして「ドッジ・シティーの大博打」でしょうか。

ポーカー賭博の最中の、実に嫌らしいコミュニケーションを、あるいは不快に感じる人がいるかもしれません。筋金入りのギャンブラーが繰り出すせりふは個性的で頑なそのもの。なにしろ娘の結婚式を途中で抜け出してまで駆け付ける連中です。町中が注目する中での勝負にかける執念はすさまじい。

 極めつけのせりふはそばで見ていてあれこれ言う主人公にギャンブラーが投げつける言葉です。「賭けられないなら黙っていろ」。見ごたえのあるシーンが続出します。ギャンブル映画の傑作の一つにあげたいと思います。

 ジェイソン・ロバーズ、ポール・フォード、バーゲス・メリディスさんらが男優陣。ジョアン・ウッドワードさんがフォンダさんの奥さん役で登場してます。ポーカーゲーム場となる酒場のバーテンダー、サムが印象的でした。サムを演じる役者さんは、基本的に脇役なのに、苦み走った表情づくりになぜか懸命さを見せています。気に入りました。

  
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2011年12月25日

ウォルター・マッソーの「突破口」

突破口! [DVD] 公開当時、それほど話題にならなかった作品でも、自分の映画履歴の中にきっちり入れておきたい作品はあるものです。ウォルター・マッソーさん主演の米国映画「突破口」(ドン・シーゲル監督、米国、1973年)もそのような作品です。マッソーさんは銀行強盗団のリーダー、チャーリー・バリック役を演じます。人を食ったような、最後には必ず何かをやってくれそうな個性をたっぷり楽しめます。

 田舎の小さな銀行を狙ったつもりが、奪った金はマフィア絡みのとても危険な金。警察の捜査よりも怖いマフィアの追跡が始まります。危機に立つ強盗団が果たしてどんな結末を迎えるのか。物語の伏線となるエピソードは、伏線であることが見る側に分かるように話は展開します。奇抜さや意外性を求めるあまり見る側をペテンにかけるような映画づくりとはまったく異なります。
 
 シーゲル監督はクリント・イーストウッドさん主演の「ダーティー・ハリー」(1971年)を撮った人。ハリーほどの型破りはありませんが、俳優を使うのがとてもうまい人です。  
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2011年10月30日

ファシズム政権下のコメディアンたち 「ペーパーバード」

e71acb6f.jpg  「ペーパーバード 幸せは翼にのって」(エミリオ・アラゴン監督、スペイン、2010年)は、子役と大人役(?)のバランスがよく、サスペンスあり、しみじみ感ありのおすすめできる作品です。音楽がいいというのは優れた作品としてはもはや必須の条件ですが、音楽だけが突出するような受け狙いはありません。あくまで物語に寄り添った音楽として、出来がいいのであります。

 1930年代、フランコ政権時代のスペイン。文化芸能分野まで政権が監視する息詰まる時代に生きた二人のコメディアンと、その意思を継ぐ少年ミゲルの物語です。

 主人公ホルヘ・デル・ピノ役がイマノル・アリアスさん。ホルヘとコンビを組むエンリケ・コルゴ役がリュイス・オマールさん。ミゲル役はロジェ・プリンセプさんです。どういうわけか、ある気の毒な設定で、魅力いっぱいに健闘する「歌姫」ロシオ・モリネール役をカルメン・マチさんが演じています。初めて見る俳優さんでしたが、いずれも個性的で、見ているだけで楽しい作品になっています。

 エンタテイメントの世界の人間くさい雰囲気にサスペンスが漂います。ファシズム政権への抵抗という点で、イタリア・ネオリアリズムのような要素が見えたかと思うと、ヒーローと少年の関係、米国映画なら、さしづめ「シェーン」の世界を少し混ぜたようでもあります。ラストシーンがあまりにいいので、途中のあれこれを忘れてしまいそうなほどです。ラストでも流れる曲「フランコとは暮らせない」がポイントかもしれません。当時、歌われていたかと思うほどしっくりきますが、シンガー・ソング・ライターでもあるアラゴン監督のオリジナルなんだそうです。  
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2011年10月10日

ナタリー・ポートマンさんの「水曜日のエミリア」

水曜日のエミリア [DVD] 今、旬の女優の一人、ナタリー・ポートマンさんが主演している「水曜日のエミリア」(ドン・ルース監督、米国、2009年、2011年公開)を見ました。いずれも力のある出演者。脚本も緻密で、見る者をきちんと楽しませてくれます。お薦めです。それにしてもポートマンさん。子役(リュック・ベッソンの「レオン」)や「スター・ウォーズ」のお姫様役から、よくぞここまで成長したものだと感心させられます。今さらではありますが。

 恋愛、結婚、離婚、子育て、親との不和など、現代の女性にとっては(男性にとっても)重要な事柄をたっぷり織り込んであります。人生ってやつは本当に厄介なもの。理屈でかたがつくわけでもないし、情に訴えるばかりでも、かえってねじくれます。ポートマンさんがはまっていくプロセスも深刻だけれど、最後はどこかホッとさせてくれる展開は気に入りました。

 この作品に欠点があるとすれば、ポートマンさん演じるエミリアは、何をやっても都会的で美しいことでしょうか。なぜか思い出したシャーリーズ・セロンさんのバイタリティーまでは踏み込まない。最近作の「抱きたいカンケイ」は邦題からして安っぽいのでパスしましたが、「ブラック・スワン」(2010年)は見なきゃなあ。

 エミリアを攻撃し、苦しめるキャロライン役のリサ・クドローさんにも注目。今回はとてもいい役どころでした。
  
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2011年09月18日

ウォンビンの目の演技 「アジョシ」

ajoshi 韓国の闇黒系のアクション映画はどうしてこうもリアルなバイオレンスを好むのでしょうか。ウォンビンさんが主演する韓国映画「アジョシ」(イ・ジョンボム監督、2010年)を見ました。全編、緊張度の高いアクション、暴力的なシーンが続きます。犯罪映画としての激しさに耐える自信のない人にはおすすめできません。リアルバイオレンスの先にウォンビンさんが演じてみせる世界は非常に魅力的です。

 ネタばらしになるので詳しくは書きませんが、犯罪映画としての、犯罪のラインアップについても、十分分析すべき作品でしょう。その点にこそ、この作品の現代性、アジア全体への視点を読み解くかぎがありそうだからです。

 「アジョシ」は日本語では「おじさん」の意味だそうです。「おじさん」の本質を子どもの目で見抜き、慕う「ソミ」役をキム・セロンさんが演じています。重要な役どころであるにもかかわらず無理に背伸びさせないのは演出の勝利。「おじさん」と対立する犯罪組織の兄弟らが実にクレージー。したたかな悪ぶりを気持ちよさげに演じているのも印象的でした。

 ウォンビンさんも、新境地を見せてくれた「母なる証明」に比べても、本気度の高い演技を見せています。特に目で表現する演技は絶品。視線ひとつで空気感が一変する演技者はそういるわけではありません。
  
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2011年09月12日

過酷な状況に耐える父 「ビューティフル」

P1000354 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の新作「ビューティフル」(2010年、スペイン=メキシコ)は、存在感たっぷりのハビエル・バルデムさんが主演しています。厳しくて、運命的で、息が詰まりそうな状況にある「父」と、その子どもたちの物語。と書けば、重苦しい作品と思うかもしれませんが、救いはきちんと準備されています。恐らく子育て中、またはかつて子育てしたすべての「父」が共感できるラストになっているはずです。

 バルデムさん演じる過酷な境遇と戦う父親像をぜひご覧ください。あまり目にする機会のないスペインの都市風景とあいまって心に残ります。アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされただけのことはあります。
 「父」には、間もなく10歳になる長女と長男の二人がいます。妻とはある事情で別居中。互いに必要とし、元の家族に戻ろうと苦しみぬきますが、うまくいきません。その理由ははっきりしていて、修復した方がいいと誰もが思っているのにそうはならない。難しい状況です。

 加えて、突然、襲う不治の病。仕事上の深刻なトラブルが重なり、これ以上考えられないほどの破綻。これでもかというほどの過酷な状況にあってなお子どもを気遣う「父」が迎える結末は?

 イニャリトゥ監督が示す結論を、多少、フライング気味に書いてしまいます。父が子どもに引き継ぐべき「証し」が何か一つあればそれでいいのではないか。過酷な状況を受け入れ、あらがうことの不可能な定めを受け入れるためのかぎは、自分の心の中にある。何かと不安定な社会にあって、考えさせられる作品でした。

 音楽の使い方も注目です。最近の作品によくありがちな、過剰と思われる音響処理が一部にあります。耳と心臓の弱いの弱い人はその部分だけ注意してください。  
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2011年08月06日

マット・リーヴス監督の「モールス」

2011080623430000 「クローバー・フィールド/HAKAISHA」(米国、2008年)で不思議な怪獣映画(?)を見せてくれたマット・リーヴス監督の新作「モールス」(米国、2010年)を見ました。いわゆるヴァンパイア(吸血鬼)もの、スリラー映画です。主人公の少年を演じるコディ・スミット=マクフィーさんは15歳。相手役の少女を演じるクロエ・グレース・モレッツさんが14歳。新進の二人の演技を見るだけでも楽しい作品です。

 ホラー小説のスティーヴン・キングさんが「この20年でNo.1のスリラー」と語ったそうです。どういう意味でそう評価したのかを知りたいものですが、個人的には映画を見終わった後に一種の爽快さ、ヴァンパイアを待望する気持ちさえあるのに気付きました。我ながらこの心境はかなり危ない。スリリングです。この世の悪をすべて退治してくれるヴァンパイアになら、自分もついていくかもしれないのですから・・。リーヴス監督の仕掛けにやられたかもしれません。

 リーヴス監督は製作予算をきっちりかけると本格調の作品を作れる人なんですね。「クローバー・フィールド」は低予算、手持ちのカメラ、スピード感たっぷり、妙にこわい−という、才気がほとばしるような作品でした。「モールス」は脚本もしっかり書けているし、ドラマ作りに欠かせない伏線もたっぷり。実は重みのあるシーンをじっくり作るのが得意な監督さんのようです。伏線の一つがシェークスピアの「ロミオとジュリエット」。ここに気付くと、話の展開を追いやすくなるかもしれません。

 「モールス」は、トーマス・アルフレッドソンという人の「ぼくのエリ 200歳の少女」(スウェーデン、2008年)のリメークなんだそうです。この邦題は筋を明かしすぎです。いくらなんでも。  
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2011年07月25日

原田芳雄さんの「大鹿村騒動記」

ohshika 村歌舞伎の役者(住民)たちが活躍する「大鹿村騒動記」(阪本順治監督、2011年7月16日公開)を楽しく見ました。長野県の山村、大鹿村が舞台です。7月19日に死去した個性派俳優、原田芳雄さんの遺作となりました。ダジャレやおバカな浮かれ調子とは一線を画すおとなの喜劇です。

 原田さんの役は村歌舞伎で主役を演じる「風祭善(かざまつりぜん)」。「善さん」の愛称で呼ばれています。大楠道代さん、岸部一徳さんら達者な役者さんが原田さんを盛り上げています。特に岸部さんは非常におかしな役柄を飄々と演じています。不思議な魅力で見ごたえ十分。力のある役者さんです。。

 村歌舞伎のラストシーンで、源氏との戦いに敗れた平家の猛将が見たくもない源氏の世を見ないためにと、自ら目をつぶします。一度聞いたら忘れられないほど、声に特徴のある若手俳優、富浦智嗣さんが演じる「大地雷音」のキャラと合わせ、このシーンが恐らく重要です。

 とかくこの世は厄介な事柄だらけ。それらから目をそむけながら生きるのか、それとも悪いことだらけの世の中で、少しでもうれしいこと、美しいことを見るようにしながら生きるのか。どちらを選べばいいのでしょうか。

 原田さんを中心に登場する同郷の人々にもいろいろな厄介事があるのだとは思いますが、それぞれにうれしいことを探しながら互いに慮って暮らしているように見えます。村歌舞伎を守るための稽古が何より優先。そんな生き方が有効なコミュニティーにあっては、お金も地位も、まあ、あればこしたことはないけれど、そんなに重要ではないようです。何しろ、自分が何者であるかでさえ、場合によってはどうでもいい話なのですから。「善さん」が最後に漏らすせりふが重要です。  
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2011年07月20日

おとなが見る「居酒屋兆治」

居酒屋兆治 [DVD] ちょっと訳ありで邦画漬けになっています。洋画は息抜きに時々見ています。これでいいのだろうかと思いつつ高倉健さんの「居酒屋兆治」(降旗康男監督、1983年)を見直しました。見ごたえのあるおとなの映画。おとな、子どもの別を殊更に強調したくはありませんが、最近の邦画はお子ちゃま狙いが多すぎるような感じがしています。なんとかしてほしい。

 で「居酒屋兆治」の高倉健さんです。主人公、藤野英治は、北海道の造船所でバリバリと働いていたのに突然、居酒屋になります。仲間の首を切る本社総務課長への栄転を嫌ったのでした。焦らず、騒がず、時間をじっくりかけて、自分の身に起きた事柄を吸収していく姿は一見の価値ありです。とかく時間に追われ、時間を追いかけがちになる暮らしを見詰めるいい機会になるかもしれません。

 噴火することが前提の耐える男を演じさせたら、この人の右に出る役者はいません。ですから、最後に切れて、雄々しく立ち上がる役柄だったら、ごく普通の作品になるところですが、この作品は、切れ方がまたすさまじい。右の●●●一発にこめた怒りと悲しみ。(ネタばれすれすれなので伏字で失礼します)。伏線をたっぷり仕掛け、ワンポイントでまとめてみせます。見ていてドキッとするほどシャープな演出です。新機軸といってもいいでしょう。降旗監督の手腕です。

 大原麗子さん、加藤登紀子さん、田中邦衛さん、伊丹十三さんら脇を固める役者さんが言うまでもなく魅力的です。

 繰り返します。おとなが見るに耐えうる作品を作ってほしい。  
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