2006年05月29日

世界的保守化の根源にあるのは労働の問題である

 5月25日付朝日新聞に、松本仁一記者が「ダ・ヴィンチ・コード 反発にみる貧富の対比」という文章を書いている。映画「ダ・ヴィンチ・コード」に、アジア各地のキリスト教団体から上映禁止やボイコットなどの反発が強まっている。それに対し欧米では「映画はフィクション」と冷静だという。この温度差はなぜなのか。松本記者はその背景をアジアの貧しさと欧米の豊かさに求めている。豊かな社会では人びとは宗教を必要としないが、貧しい社会では宗教によりかからざるをえない。同じ米国でも豊かな北部と貧しい南部でキリスト教についての態度が大きく違うのはその問題ではないかと。
 たしかに一般的には松本記者のいうとおりだろうが、米国に関してはこの見方はあてはまらない。最近産経新聞記者松尾理也の『ルート66をゆく アメリカの保守を訪ねて』(新潮社新書)という本を読んだ。ルート66はシカゴからロサンゼルスまで中西部を横断する道路で、ブルー・ステート(民主党支持)に対するレッド・ステート(共和党支持)、すなわち保守の地盤である。中西部はドイツや北欧からの移民が主流で、「ハートランド・オブ・アメリカ」とも呼ばれていて、どこの街に行ってもたくさんの教会がある。米国ではいまでも宗教が大きな意味をもつ。ある調査では週に1度は教会に行く成人の割合は、イギリス27%、フランス21%、アメリカ44%。05年の調査では宗教が非常に重要と考えるアメリカ人は57%、まあまあ重要が28%で合計85%。 歴史も伝統もない米国では、教会がバラバラな個人をつなげる役割を果たしている。教会は「神のコミュニティ」であり、日本でいう「ふるさと」である。人びとは教会に集うことで自らがアメリカ人であることを確認する。
 米国では歴史的に社会が大きく変動するときに宗教が復興している。19世紀末から20世紀初めがそうであった。近代社会の物質文明の挑戦に米国社会は動揺し、キリスト教原理主義が台頭した。進化論論争もそのときに起きている。現在もまたグローバリゼーションや高度情報化社会の到来などで、米国社会の価値観が動揺し宗教が台頭してきている。20世紀初頭同様学校で進化論を教えるべきかどうかの論争も起きている。「グレートバックラッシュ」といわれる保守化現象は、こうした米国社会の揺らぎからきていて単純に貧富の問題には還元できない。
 現代アメリカの保守とは、エリートに抗して民衆の立場に立つライフスタイルで、反中央・反ワシントン・反エリートを旗印とする。「保守は未来を語り、リベラルは過去にしがみつく」といわれて、現状への不満と改革への意欲を保守派がうまく組織化している。背景には個人の権利は最大限に尊重されるべきで、政府の介入は最小限にすべきだとする米国の建国の理念がある。中絶や同姓婚・家族といった問題が保守かどうかをはかる基準であるが、21世紀は移民問題が大きな争点として浮上してくるだろうと松雄記者は書いている。移民問題は欧米だけでなく、先進国では今世紀最大の問題となるだろう。
 世界的にも保守化の波がおしよせているが、根源にあるのは狭義には労働の問題であり、広義には政治の問題である。失業や不安定雇用が社会不安をひきおこし、政治は人びとの希望を組織化できない。政治の機能不全が、さらなる人びとの不安や不満を増幅する。こうした歴史の大きな転換期には宗教や保守が復興する。とくに米国では2大政党制で、共和党も民主党も政策にほとんど差がないため、国民に選択肢がない。そのため選挙では「差異化」戦略がとられる。イラク戦争などより国民にとってはるかに切実な「価値観と道徳」が争点となり、移民や中絶・同性婚といった「単一論点の政治」(シングルイシュー・ポリティクス)となる。
 日本の政治も米国に近づいてきた。小選挙区制度で実質2大政党制となり、自民党と民主党の政策にほとんど差がないため、国民の選択肢がかぎられている。05年の衆議院選挙では「郵政民営化」が単一争点とされて自民党が圧勝した。保守が「改革」を演出して国民の支持をえている。もっとも宗教色のうすい日本でのバックラッシュは、武士道などの文化・伝統をことあげする『国家の品格』であるが。  

Posted by sho923utg at 08:36Comments(0)TrackBack(0)

2006年05月11日

沖縄はふたたび「捨て石」にされるのかー目取真俊講演会から

 連休中に名古屋で開催された芥川賞作家目取真俊の講演をききにいった。わたしは目取真の小説も好きだが沖縄の地から発信する鋭い時事評論も常に注目している。
 こんどの米軍再編のための日本側負担が3兆円とききオドロキ・アキレ・怒りがわいてきた(もっとも日本政府は、円高阻止を理由にーイラク戦争支援のためともいわれているがー売却できない米国債を99兆円も買っている。米国にしたら3兆円ごときでガタガタいうなということか)。小泉内閣は財政危機を理由に国民に増税や社会保障費削減などの「痛み」を押しつけながら、アメリカのためなら湯水のように国民の税金を使うのだ。まさに日本はアメリカの属国・植民地・51番目州・ミツグ国家。
 現在進められている米軍の世界的再編については、梅林宏道が『世界』(05年12月号「これはもはや「在日米軍」ではない」)でわかりやすく解説している。米軍は対テロ戦争をグローバルに展開するために、海外の米兵を米本土にもどし、米本土から地球上どこへでも派遣できるように海外の基地ネットワークをつくろうとしている(ドイツから3.5万人、韓国から1.3万人撤収)。米軍の再編戦略は「蓮の葉戦略」と呼ばれている。(1)ハブ基地(常駐部隊)、(2)前進作戦地(ローテーション作戦部隊)、(3)安保協力地点を海外にはりめぐらし、カエルが蓮の葉をピョンピョン飛び跳ねるように移動する戦略だ。
 そして日米共通の戦略目標を「テロとの戦い」と位置づけ、在日米軍基地をハブ基地として使用しながら、自衛隊を米軍のお手伝いからテロとの戦いの前線に立たせようとしている。この地平線上に憲法改悪も共謀罪などの治安立法も愛国心教育の教育基本法改悪もある。日本はますます戦争に巻き込まれる可能性が大きくなった。
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Posted by sho923utg at 14:46Comments(0)TrackBack(0)