2007年01月21日

対抗主体の危機ー大労組よしっかりせよ!


 文科省によれば、〇五年度の教職員の病気休職者は七〇一七人。そのうち精神疾患が四一七八人である。これがどんなに大変な数値か、「企業なら大問題であり、総点検を行う」(野田正彰)だろう。
 病気休職者は八〇―八三年の校内暴力時四〇〇〇人をこえた時期があるが、七〇年代後半―九〇年代半ばまで三〇〇〇人台で推移してきた。それが四〇〇〇人を突破したのが九七年(四一七一人)。以後ふえつづけて一〇年前の一・八倍である。
 精神疾患は八〇年代―九〇年代半ばまで一〇〇〇―一二〇〇人前後で推移してきた。これも九七年に一六〇九人と急増し、以後ふえつづけて一〇年前の約三倍である。
 ただ文科省調査の数値も実態からほど遠いだろう。『地方公務員月報』(〇六年一月号)が、「平成一六年度職員の健康状況に関する調査結果について」を掲載している。これは警察官・教職員をのぞく一般の地方公務員の健康調査である。
 この調査によると一〇万人当りの病気休職者は二〇五五。この数値で全国約九二万人の教職員の休職者を推計すると、病気休職者一八九〇九人、精神疾患六四六六人となる。おそらく潜在的病気休職者・精神性疾患は文科省調査の数倍いるが、実際休職しているのはその数分の一と推測される。精神疾患は倒れてしまって学校に行けない教員数で、短期通院者はさらにふえており全体の患者数は相当の数になる(三楽病院・中島一憲医師)。 職員一〇万人当りの死亡率は一二一。この数値で教職員の現職死を推計すると一一一六人。そのうち自殺件数一六五である。ちなみに自殺は一般労働者・公務員とも悪性新生物についで一貫して死因の第二位を占めている。「教師の自殺件数は公式にはこの数年間一〇〇前後で推移しているが、実際にはさらに多い」だろう(勝野正章「教員の魂の統治を超えて」『教育』〇七年一月号)。
 背景には過酷な教職員の労働条件がある。文科省の調査(〇六年七月)でも、教職員の一カ月平均の超勤は八〇時間を超えている(超勤手当に換算して約二二万円)。
 労科研の「教職員の健康調査」(〇五年一一月 六〇〇〇人対象『教育評論』〇七年一月号)では、一日の休憩時間は平均約一七分。とれない人が九〇%。健康状態も「不調・やや不調」が約四六%。厚労省調査結果の全職業平均の約三倍。身体の疲れ八六%、神経の疲れ八四%。平均睡眠時間も過半数が六時間未満で、一般国民より三〇分短い。
 右の調査では教職員一〇に一人が強い精神的ストレス状態にある。男性教員の抑うつ感は一般労働者の一・八倍である。また超勤が長い人・休憩がとれない人ほど抑うつ感が強くなっている。     
 疫学調査でも睡眠時間と脳・心疾患は関連があるとされている。一日七時間ぐらい寝ている人はほとんどリスクがないが、六時間以下になるとリスクが高くなる。労働時間が一日一〇時間をこえると、疲労とストレスがたまり最悪の場合死に至る(森岡孝二)。 
『労働の科学』(六一巻九号)が「慢性疲労」について特集している。人間の疲労にはスポーツなどの「さわやか疲労」と、労働による「ぐったり疲労」がある。労働による疲労は労働過程で適切な休息時間が配置され、生活過程で休息が保障されれば回復する。最近では「感情労働」が慢性疲労をいっそう促進するとされている。感情労働が一般労働より強い負荷となるのは、身体や精神よりも感情が人間の人格の根源的資源だからだ。こうした疲労を感情疲労という。教職員の慢性疲労は感情労働による感情疲労が大きいだろう。
 ただ私は前述した教育労働の危機は、過酷な労働条件にのみ由来するとは考えない。二〇年近く前も教職員は相当超勤をしていた。だが病気休職・精神疾患ともいまほどひどくない。ストレス疾患労災研究会調査(九〇―九三年)によれば、小中学校教員の平均労働時間は男性が週六四時間、女性が週五七・二時間で、全職種中最長であった。
 九五年頃を境に教育現場でなにか重大な変化がおきたのだ。なにがおきたか。九〇年代後半以降、新自由主義的教育改革により「競争」と「評価」による教職員管理が強化された。そのいっぽうで、抵抗勢力である日教組は九五年に文科省と「歴史的和解」をして戦線離脱し無力化した。こうして職場では仕事の困難さがます以上に、教職員間の同僚性が崩れていく。教職員統制の強化と対抗主体の無力化で職場の協働性が崩壊し、そのことが教育労働の危機となって表出しているのだろう。
 いつの時代も教育(労働)の危機とは「対抗主体の危機」なのだ。現在進行中の凶暴な新自由主義改革―「ダメ教員」排除・教職員評価制度・教職員定数削減・賃金退職金等削減・各種労働条件改悪・格差教育・・・―に全力で立ち向かい、教育労働者の「連帯」を創出するのが労組の役割である。
「教師を過労に追い込む国は滅びる」(暉峻淑子)。いまほど労組の役割が重要な時はない。とくに大労組よ、しっかりせよ!   

Posted by sho923utg at 21:30Comments(0)TrackBack(0)