長時間労働が諸悪の根源であることは多くの国民の共通認識である。
第一には精神疾患・病休の主因である。教員は一〇年前にくらべて病休者は二倍に、精神疾患は三倍にふえている。うつ病患者は全国で一〇〇万人と推定され一〇年前の二倍である。
第二に過労死・過労自殺の要因である。自殺者は過去一〇年間三万人台で推移してきているが、そのうち一万人が過労自殺と推定されている。また現業死の原因の第二位は民間・公務員ともにつねに自殺である。
第三に少子化の最大の原因である。日本の出生率は一・三四(〇七年)で先進国でも最低クラスだ。仮に若者が結婚しても出産や育児ができる環境にはほど遠い社会である。
第四に未婚率増大の原因でもある。未婚率は男性の三〇歳台前半で五割、女性の二〇歳代後半で六割にのぼる。長時間労働が若い男女の出会いをうばい、その結果として未婚率の増加となっている。
第五に労働組合運動の停滞である。日本の労働組合組織率は一八%。だがいまや労組は終業後に組合会議さえまともに開催できない状況だ。これでは組合活動は衰退するばかりだ。
第六に民主主義の衰退である。民主主義に必要なのは多様な人々の出会いと論議を保障する自由な時間である。自由な時間がなければ民主主義は育たない。
第七に市民生活の阻害要因である。日本では夕方には帰宅して家族とともに食事できる労働者がどれだけいるだろうか。ヨーロッパの労働者は午後四時か五時には帰宅し、その後一〇時すぎまでくらしをエンジョイする。それがふつうの市民生活だろう。
第八に雇用の維持・拡大をはかるためにも時短は必要だ。ワークシェアリングこそはリストラや長時間労働、非正社員差別と対抗できる希望である。
さらに長時間労働は愚民化政策だという人もいる。
「貧しさが、権力に対して反抗的にさせることはない。労働で身を擦り減らしている人は、その日一日の労働に精一杯で、他人の苦痛や社会の矛盾に関心を向けるには余りにも疲れているからである。だから、労働者階級はいやおうなく保守的になるとヴェブレンは言った。世の中を保守的にしようと思えば、国民みんなを半・肉体労働に従事させ、競争させればいい。現在の日本はだんだんそうなってきている」(小倉千加子『結婚の条件』)。(月刊『むすぶ』ロシナンテ社連載「時短勧告を時短社会の第一歩に!」08年12月号より抜粋)