2016年02月04日

フランスは病んでいる─エマュエル・トッド

2月4日付読売新聞にエマュエル・トッドのインタビューが掲載されている。
1月下旬、新著『シャルリとは誰か?』の発売を機に来日した。
自国で沈黙をつらぬくトッドが東京で想いを語った内容を紹介しておく。
11月の同時テロを機に、フランス政府はイスラムとの対決姿勢を強めた。
テロを指令した「イスラム国」に対し、「戦争状態に入った」と宣言した。
わが国は誤った道を進んでいる。
私は悲観している。
テロを生んだのはフランス社会だ。
問題の根は政治が経済・社会運営で失政を重ねてきたことにある。
移民2世らを経済システムに取り込むことに失敗し、都市郊外に追いやった。
フランスは病んでいる。
治療が必要だ。
だが、為政者らは現実を直視せず、「フランスは有事だ」と叫び、問題は国外にあると言いはる。
仏空軍がシリア・イラクにまたがる「イスラム国」のいくつかの標的を空爆したところで戦況は左右されない。「有事」は現実から目をそらすための内政の道具に使われている。
テロに走る若者が出なくなるような経済・社会改革が緊要だ。
だがフランス政府は全く逆のことをしようとしている。
テロ犯が二重国籍を持つ場合、フランス国籍を剥奪する方針を決めたのだ。
愚かな考えだ。
爆弾を腰に巻き、パリの雑踏で自爆を決意したテロリストが、フランス国籍を失うことを恐れて自爆を断念するだろうか。
(フランスで二重国籍者は約300万人いる。)
国籍剥奪は第1に、国民を分断し、二重国籍者を心理的に追いこみ、テロリスト予備軍を増やす。
テロの危険は増す。
第2に、フランス現代史の汚点に連なる。
第2次大戦時、ナチスドイツに敗れ、対独協力したビシー政権はユダヤ系国民の国籍を剥奪し、ドイツに強制移住させた。
第3にフランスらしさを失う。
1789年のフランス革命で人権の概念を確立した。
人間は平等で機会は均等であるべきだと。
国籍剥奪は国民を平等にみない。
フランス社会党政府は緊縮政策を取り続ける。
社会の底辺の労働者や移民の子弟には過酷な政策だ。
一方で中流層のイスラム忌避が高じている。
反作用で都市郊外では反ユダヤ主義が復活した。
統合欧州は機能していない。
ドイツが欧州を牛耳るようになり、フランスは従うだけだ。
ただ、世界を見回すと最も進んだ国々がどこもうまくいっていない。
米欧や日本では程度の差こそあれ、不平等の逆走、階級社会の再構成が進行している。
先進諸国が目標を失い、どこへ向かうのかわからない。
深い危機の時代にある。
原因のひとつは先進国で教育の不平等が広がったことにあるのではないか。
欧米では高等教育が発展し、高等教育に進む層と、初等教育にとどまる層に人々が分かれるようになる。
もうひとつは高齢化だろう。
現代は日本を先頭に未曾有の高齢化が進む。
私は「人類学的異変」とよぶ。社会のあり方が変質している。
そして、日欧に共通するのは宗教の失墜だ。
個人は孤立し、利己的になり、社会的に内向きになる。
未来展望はない。
先進国はいま、それぞれの伝統に解決を求めているようだ。
米英は不平等を高じさせる経済自由主義に、フランスはイスラムを拒む世俗主義に、日本は戦前のナショナリズムへの回帰に。
しかし、こうした先祖がえりは解決にならない。
伝統は美化されている。
フランスについていえば、イスラムに対決するのではなく、受容に転じるべきなのだ。
以上がトッドの論旨だ。
トッドは自国では自らの想いを語らない。
愛国者ではなく、裏切者と受け取られかねないからだという。
  

Posted by sho923utg at 19:23Comments(0)TrackBack(0)