2017年11月12日

森本あんり『宗教国家アメリカのふしぎな論理』を読む

アメリカはふしぎな国だ。
国民の半分が進化論を否定している。
4割が2050年までにハルマゲドン(最終戦争)が起きて地球はなくなると思っている。
健康保険制度や銃規制にも反対だ。
デモでは「ビッグ・ガバメント ビッグ・ミステイク」のプラカードが林立する。
キリスト教がいまでもさかんだ。
トランプ大統領もキリスト教徒だ。
酒を飲まない、タバコも吸わない。
刺激物はコーヒーすら飲まない。ギャンブルもやらない。
きわめて禁欲的である(もっともヒトラーもムッソリーニも酒・煙草とは無縁だった)。
彼は敬虔なキリスト教徒で、福音の伝道者である。
福音とは「富と成功」である。
福音とは「富と成功」である。つぎの3段論法だ。
/世論気靴ぜ圓暴吠,鰺燭─悪い者には罰を与える。
∪気靴ぜ圓覆蘓世僚吠,鮗ける(成功し大金持ちになる)。
神の祝福を受けているならば正しい者だ(神は自分を認めてくれているから、自分は正しい)。
つまり、「この世の成功」と「神の祝福」はイコールで結ばれる。
成功に必要なのは機会の平等だけである。
機会の平等さえ保障されていればあとは自分の努力次第。
これが「アメリカン・ドリーム」である。
「富と成功」は「勝ち組」の論理である。
自分の「勝ち」は説明できても、「負け」を説明することはむずかしい。
若い国家アメリカには、不条理を説明する「苦難の神義論」が欠如していて、原理主義的な「幸福の神義論」しかない。
だから「勝ち組」の論理で無限に勝ち続けるしかない。
「富と成功」の福音にも落とし穴がある。
富を手に入れて、それを何のために使うのか。
経済行為は手段である。
だが、成功することが目的化したら、その次は何をするのか。
目的が見失われてしまう。
トクヴィルは『アメリカのデモクラシー』で、アメリカ的宗教の特色として「宗教と現生的利益の結びつき」を指摘していた。
これはキリスト教がアメリカに土着した結果、「亜種」として生み出された教義である。
アメリカでは宗教的平等意識と富の福音は奇妙な形で結びついている。
両者を結びつけているのが「反知性主義」とい伝統である。
反知性主義とは知性を蔑視することではない。
知性と権力が結びつくことへの反発である。
アメリカの宗教的伝統としてリバイバル=信仰復興がある。
奴隷制廃止や女性の権利拡張運動、公民権運動や消費者運動に大きな影響を与えてきた。
なぜリバイバルがこうした運動の原動力となるのか。
それはリバイバルが「平等」というアメリカ的理念と結びついているからだ。
このラディカルな平等主義こそ「反知性主義」の主成分なのだ。
信仰復興とはある時期・ある地域に起こる宗教的な「集団ヒステリー」である。
信仰復興運動の担い手は各地を回って伝道する「巡回説教師」たちだ。
学歴も資格ももたず、ある日どこからか街にやってきて怪しげな説教をして、人々を興奮と熱狂に包んで街を大混乱に陥らせる。 
この信仰復興運動こそアメリカ反知性主義の原点である。
「神の前では万人は平等だ」。地上の学問や制度の権威は、神の前では平等によって吹き飛ばされる。
1776年、アメリカは史上初の世俗国家として独立した。
世俗国家とは政教分離が定められているということだ。
政教分離を定めたアメリカの目的は、宗教が宗教として栄えることだった。
つまり、各人が自由に自分の信ずる宗教を実践するための制度が政教分離である。
アメリカの政教分離は思わぬ副産物をもたらした。
お金の問題だ。
教会は自分の集めた献金で運営しなければならない。
そのため大衆迎合路線を取らざるを得なくなる。
過去の新興復興運動は大衆動員の方法やビジネス化を洗練させてきた。
集会のショービジネス化である。
アメリカは旧世界を批判して新しい国家を創立した。
「反逆者の国」「謀反の歴史」「祖国への不服従」だ。
だから、政府や権力への根深い不信「反知性主義」がある。
大方のアメリカ人は政府の必要性はしぶしぶ認めるが、最小限でなければならないと考える。
反進化論も宗教と科学の問題ではない。
反発は進化論にではなく、そのような科学を政府が家庭に押し付けてくることにある。
家庭の教育に政府が土足で踏み込んでくることへの異議の表明なのだ。
科学への反発ではなく、反知性主義による科学と権力の結びつきへの批判である。
なぜ反知性主義がアメリカで生まれたのか。
それはアメリカが民主的で平等な社会を求めたからである。
知性は一部の専門家だけのものではなく、社会全体で共有されるべきものだ。
ここに民主主義社会における反知性主義の正当な存在意義がある。(続く)



Posted by sho923utg at 18:31│Comments(0)