2019年07月26日

山室信一『憲法9条の思想水脈』を読む

「兵は不詳の器なり、君子の器にあらず」というのは老子の言葉だ。
憲法9条の日本の思想水脈をたずねてみよう。
最初に横井小楠。彼は国際紛争を武力によってではなく、法や道義で解決し、軍備を廃止することを主張した。
横井小楠は戦争廃止を日本が「世界の世話焼き」になって率先して進めていくためにも、国民の生活を拡充し国内平和を確立すべきだと説いた。
その上で世界の人人々が友人のように愛し合う四海同胞主義を主張した。
自由民権運動の理論的指導者・植木枝盛。
彼は戦争を廃止し、世界が平和になるためには、国権的政府を規制し、国民主権の確立が不可欠だとした。また立憲政治こそ国民の幸福と国際平和にとって重要だとし、常備軍は政府の専制を助けるものだとして軍隊の廃止を提言した。
さらに戦争廃止と世界平和ために、すべての国が従う世界憲法と、それを執行する「万国協議政府」=国際機構を提唱した。
その結果、各国は軍備を撤廃することが可能となり、軍事費を福祉に回し平和に暮らせるとした。
このように植木枝盛の思想は、戦争放棄・軍備撤廃・国民主権・国際協調・平和的生存権など9条の平和主義へとつながっていく水源であった。
植木が起草した私擬憲法案は自由民権運動の中で生まれた70近い民間憲法案のうちでも最も独創的なものとして知られ、鈴木安蔵らを投じて日本国憲法にも大きな影響をあたえた。
中江兆民。
『三酔人経綸問答』で「洋学紳士」が次のように語る。
「日本が…要塞を破壊し、大砲を鋳つぶし、軍艦を商船にし、兵士を良民とし、ひたすら道徳の学問を究明し、工業技術を研究し、ただ純粋に哲学を学び尊重することになったら、文明国だとうぬぼれているヨーロッパ諸国の人たちは、心に恥じないでいられるか」
「自由を軍隊とし、艦隊とし、平等をもって砦とし、友愛を剣や銃砲とするとき、これに敵対する者が世界にあるでしょうか」。
ここには戦争放棄・軍備撤廃を世界に先駆けて道徳と学術・技術の向上をはかるという意味で、戦後日本の「文化国家論」と同じ国家像が明確に掲げられている。
兆民は戦争廃止による永久平和を達成するためにはまず各国が民主制度にし、そののち世界一大連邦を組織しなければならないとしていた。
万国の境界を廃止し、共通の政府を作ること、そして何よりも戦争を廃止するという主張を掲げている点で、兆民がサン・ピエールやカントの思想を継承し、さらに次代受け渡していることを明白に示している。
このような兆民の遺志が孝徳秋水や内村鑑三に引き継がれていく。
1901年、片山潜・孝徳秋水らによって社会民主党が結成される。
社会民主党は綱領に「万国の平和を来すためには、先ず軍備を全廃すること」を掲げていた。軍備撤廃・戦争廃止を初めて訴えたのだ。
さらに、普通選挙実施・死刑廃止・貴族院廃止・治安警察法廃止を綱領に掲げたが、治安警察法違反として即日結社禁止処分を受けた。
丸山真男の父・丸山幹治は「武装的平和否定論」を主張した。
戦争も武装も「生産的人民を駆り立て、不生産的軍隊を組織」する「二重に不生産的」なもので、「人を殺すは罪悪なり、されど国家はいかなる正しき権利ありてその殺人の挙をあえてするか。軍隊は国家の殺人を行う機関」だとして武装平和論への鋭い批判を行った。
さらに「常備軍は常に一国腐敗の発源所」だとし、軍隊が国家の存立にとっていかに害悪を及ぼすか論じ、日本が軍備に固執するのは人間社会を永久に修羅の巷にとどめ、世界を申しつの境に置くものだと批判した。
幸徳秋水・堺利彦らが日露戦争開戦反対の論陣を張っていた『万朝報』も開戦論無に転じていった。
幸徳・堺らは『平民新聞』を創刊し、平民主義・社会主義・平和主義を主張した。
「世界を挙げて軍備を撤廃し、戦争を禁絶遷都することを期す」と軍備撤廃・戦争禁絶を訴えた。
だが、『平民新聞』も1905年には廃刊に追い込まれた。
キリスト教社会主義者の安倍磯雄は「非戦論と小国主義」を唱えた。
安倍は日露戦争中の1904年、対外的には中立・平和主義、対内的には自治制を強化することで「東洋のスイス」となるべきことを提唱した。
大国に囲まれた日本はスイスを模範とすべきであり、軍事大国をめざすことは国民に負担と死を強制するだけであるとしていた。
安倍磯雄「自由なく幸福なき強国か、自由あり幸福ある弱国か」かの選択が迫られているとし、小国主義・弱国主義を主張した。
内村鑑三の「戦争絶対廃止論」を主唱した。
内村は日清戦争を文明と平和のための戦争と賛美したことを反省し、日露戦争開始前には「戦争は人を殺すことである。人を殺すことは大罪悪である」として、あらゆる戦争に反対する「戦争絶対廃止論」を主張した。
「戦争は戦争を止めるためだと言います。…戦争は戦争を作ります。…戦争は戦争のために戦われるのでありまして、平和のための戦争などかつて一回もあったことはありません。…戦争は…野獣であります」(「日露戦争より余が受けし利益)。
続く



Posted by sho923utg at 13:20│Comments(0)