2019年08月30日

池田浩士『ボランティアとファシズム』を読む

日本が学んだナチスの労働奉仕についてみていこう。
ドイツの労働奉仕の特色はつぎの4つである。
第1にそれが失業救済事業であったこと。
第2にその失業救済事業は失業者に仕事を与えるだけでなく、勤労を通じての精神訓練でもあったこと。
第3にこの事業は社会教育や青年運動の観点からも大きな意義があること。
第4に自発性と主体性を組織して任意制度から義務制度へと進展し、産業にも重大な意義をもったことである。
なぜヒトラーが選挙で勝利し政権を握ったのか。
失業をゼロにしたからだ。
世界恐慌後の1932年、ドイツの失業率は44%を超えていた。
ほぼ2人に1人が仕事がなかった。
経済の悪化と失業増大にヴァイマル共和国はなすすべがなかった。
ヒトラーは大失業を解決して国難を救うのはナチ党だけだとアピールし、1932年の選挙で勝利し、1933年に政権を握った。
ナチ党はドイツ国民が失業で苦しんでいるのは、ユダヤ人が不当に仕事を奪っているからだとした。
それゆえユダヤ人から仕事を奪いかえすと攻撃した。
さらに第1次世界大戦で負けのはユダヤ人が裏切ったからだとした。
つまり、裏切者であるアカの共産党や社会民主党の指導者はユダヤ人であった。
さて失業率だが、1932年44・4%あったのが、1939年の第2次大戦開戦直前には2・9%と世界最低水準まで下降した。
それでは何が失業を減らしたのか。
「自発的労働奉仕制度」とよばれるボランティアである。
ナチスはこの労働奉仕による労働力を投入して、アウトバーン建設、大規模土木工事、干拓、河川改修、荒地の開拓、宅地造成、地域の開発など行った。
労働奉仕制度による安価な労働力は国家の財政負担を軽減させ、大企業に莫大な利潤をもたらした。
その結果、企業は正規の労働者を雇用できるようになり、失業は減少の道を辿ることになった。
ヒトラーが失業をなくすことができたのは労働奉仕制度の活用による。
ヒトラーの労働奉仕にはもう一つの別の意図があった。
欧米の肉体労働への差別観は根強い。ヒトラーはブルーカラーを「拳の労働者」、ホワイトカラーを「額の労働者」とよび、どちらも労働者として誇りをもってドイツ建国に立ち上がれと訴えた。
ナチスの労働奉仕は肉体労働を体験させることで肉体労働への差別を解消し、同時に自発的に奉仕するボランティア精神を育成しようとした。
ナチスはメーデーの名称を廃止し、「国民的労働の日」と改称してすべての国民に労働奉仕の体験をさせる計画し、労働者を投入して失業を減らすことを約束した。
ナチスのボランティア活動としては「冬季救援事業」がある。
青少年が募金活動を行い、困窮者に生活支援金が配分された。
さらに「農村学年法」では、義務教育を終えた14〜5歳の少年少女が、1年間農村で無報酬で農作業に従事させられた。
また高等中学校の修了生は大学に入学する前、20週間の労働奉仕が義務づけられた。
この義務を果たさないと大学に入学できなかった。
1935年には「帝国労働奉仕法」が公布された。
18歳から25歳まで労働奉仕を義務づける法律で、発足と同時に世界各国の大きな関心をよんだ。
ナチスはこの帝国労働奉仕制度により、前述した大規模プロジェクトを実施した。
労働組合も解散されて労使が加盟するドイツ労働戦線が組織された。
労働戦線の下部組織である「歓喜力行団」により、各種スポーツ同好会、野外リクリェ―ション、文化活動が全国的に組織され、演劇・音楽会・美術展・映画会などが主催された。
歓喜力行団のイベントで最も人気を集めたのは旅行やハイキングの企画だった。
とりわけ大型船の海洋旅行は憧れの的であった。
労働者に対する差別を糾弾し、青少年に労働奉仕により労働の高貴さを体得させようとしたナチスは、強制収容所でユダヤ人に強制労働をさせた。
強制収容所では働ける限り労働させ、働けなくなった者は絶滅収容所で殺された。
ヒトラーの労働賛美は労働者に対する敬意からではなく、労働力を確保したいためであった。
強制収容所はドイツ国民にとって周知の事実であったが、彼らは強制収容所の実態を見ようとしなかった。
なぜならユダヤ人は「有害物」として差別されていたからだ。
ユダヤ人は帝国労働奉仕の法律で「名誉ある労働奉仕」からも排除されていた。
さらに、ボランティア活動の日常を生きていた青少年は、自分たちの行動が正しいと確信し誇りをもっていた。正しさを自分のためではなく他者のためにするという奉仕活動は、人間に自分も周囲も見えなくさせ、その奉仕活動が、現実の中でどのような意味をもつかを問わなくさせるのだ。
さて、日本の話である。
2016年度のボランティア活動の活動時間は、総務省の調査によれば約20億時間である。
これを最低賃金の時給900円程度で計算すると約20兆円になる。
年間500万円の給料を払うと31万人以上に支給できる。
4人家族にすると約合計125万人、日本の人口100人に1人に相当する。
これは果たして正当なことか。
支払われない2兆円はどこへいったのか。
いったいボランティアとは何か。
人間は自分が正しいことをしていると確信しているとき、現実がみえなくなる。
正しいことをしているという感動が現実を見えなくさせる。
そのためにこそ、ボランティアの歴史を見直す必要があると、著者は最後に書いている。




Posted by sho923utg at 01:31│Comments(0)