2013年5月、OIE(国際獣疫事務局)によって、
牛海綿状脳症(BSE、いわゆる狂牛病)について
日本は、「リスクを無視出来る」国、つまり清浄国として認定された。 
それに伴い、7月から、今までの30ヶ月齢以上から48ヶ月齢以上に
検査対象となる月齢を引き上げた。

肉用に育てられた牛は、だいたいが30ヶ月齢前後で出荷され肉になるので、
かなりの割合の肉牛が検査対象から外れることになる。

肉骨粉の使用が禁止され、すでにヒトがそれを口にするリスクはないに等しいため、
今までの検査に費やした無駄なお金を考えれば、妥当な決断である。

このような情勢の中、相場英雄「震える牛」が話題になっている。
昨年来、どの書店でも大きなポップと平積みで激推しされている本である。

実を言うと、ノンフィクションだと勘違いして読み始めたのだが、
殺人事件の犯人を追っていく、わりとスタンダードな推理小説だった。

形式としては推理小説ではあるが、
食品業界の闇、どうみてもイ◯ンをモデルとした大型ショッピングモールの出店による
地元商店街の衰退といった、
価格至上主義、食品の大量生産大量流通社会への警告を投げかけている。

その点を含め、専門的に見るとツッコミどころの多い(後述)小説だが、
エンターテイメントとしてはけっこう面白く読める

ネタバレしない程度のあらすじを書く。

中野の居酒屋で2人の男性が刺殺された。
2人の男性にはまったく接点がなく、金銭目的の外国人による犯行とされた。
しかし、それ以上の手がかりがつかめない。
そこで、現場に即した聞き込みとウラ取りに定評のある主人公、
田川に仕事が回ってきた。(めんどうな案件を回された形ではある)

田川が改めて周辺を聴きこんでいくと、まったく接点のない2人の被害者に、
意外な線でつながりが見えてきた・・・

と、以下ここから超ネタバレ。注意。

さて、このミステリの最も重要なポイントは、2人の被害者

赤間(家畜の獣医師)と西野(産業廃棄物業者・ヤクザ)のつながりである。
実をいうと、見る人が見れば、この2つの接点は一目瞭然なのである。

肉用の家畜は、出荷されたら、食肉センターでと殺され、
獣医師によってなにか病気を持っていないか詳細に検査されてから肉に加工される。

飼育中の家畜が死んだ場合、「化製場等に関する法律」にもとづき、
化製場での処理が義務付けられている。

化製場とは、家畜の死体を安全に処理し、
場合によっては加工品等の材料とする専門の工場がある。

その化製場で運搬・処分することができるのは、産業廃棄物業者であり、
ご存知のとおり、反社会勢力がちょいちょい入り込むことが知られている業界である。

このような前提知識があり、「震える牛」というタイトルを見れば、
だいたいの謎が解けてしまうのである。がっかりだよ!

この事件において、マジメな獣医師の赤間が殺害された動機は

「農場で発生したBSE疑いの牛を、農家が勝手に埋めてしまったことに気づいた赤間が
流通ルートを独自に調査しはじめたため、口封じのために殺した」

ということである。

しかし、ここがおかしい。
BSEは、家畜伝染病予防法によって定められた家畜(法定)伝染病である。

少しでも疑うような症状があれば、まず最寄りの家畜保健所という機関に
即座に通報する必要があるのである。
通報しなかった場合、家畜伝染病予防法違反で獣医師が罰せられることもありうる。
のんびり独自調査している場合じゃねえ!!

もちろん都道府県が通報を受ければ、ハチの巣をつついた大騒ぎになる。
特にこのような敏感な時期であればなおさらだ。

県の畜産主務課→農水省消費安全局畜産課と即座に情報が伝わり、
家畜保健所の獣医師が半泣きで立ち入り調査に入ることになる。

また、牛トレーサビリティ法(牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法)
により、すべての牛は識別番号(耳標番号)が与えられ、
生まれた農場、血統、移動先、すべて記録される。
当然、死んだ牛については死亡牛の届出が必要である。
勝手に埋めてしまった、などということは許されない。

牛の農場には、定期的に農水のお役人がやってきて、ちゃんとその番号の牛がいるかどうか
びっくりするほど厳しくチェックされるのだ。仮に、勝手に埋めてしまった牛がいたとして、
その番号の牛がいなかったらとんでもない大騒ぎになるのである。

以上のことから、マジメな獣医師であるはずの赤間が
通報せず独自に調査するなんてことは現実にありえない。

そして、ちゃんと通報してさえいれば殺されることもなかったはずである。

このあたりの、ミステリの核となる部分の下調べが甘いのが残念。
面白い小説だとは思うけどね。

最後にもう一度強調しておきたい。

流通している肉は、安全です。 
ちゃんと加熱して食べてね。