2006年01月03日

無理矢理更新曲〜『炎628』〜

このところすっかり感想ブログと化していますが、まずは最近読んだ本。

ナイトウォッチ(セルゲイ・ルキヤネンコ 法木綾子訳、バジリコ)

バジリコというあまりなじみのない出版社から出てますが、2004年ロシアで大ヒットを飛ばした映画『Ночной Дозор(ナチノーイ・ダゾール)』の原作です。昨年の東京ファンタでクローザーとして上映されましたが、観に行けなかったので原作を買った次第。
舞台は現代のモスクワなんですが、ガチガチのファンタジーです。主軸は光の勢力と闇の勢力の戦い、という極めてオーソドックスなものなのですが、数百年前に度重なる戦闘に疲弊した両者が休戦協定を締結、お互いを監視する組織として『ナイトウォッチ』『デイウォッチ』を設立し、今に至る、というのが道具立てとして非常に面白いです。
何しろ、光と闇の戦い、というのがメインにならない。起こったところでそれは協定に乗っ取って行われるため、基本的に小競り合いにしかならないのです。で、主人公たちは何をしているかというと、もっぱら戦闘の抑止に奔走することになるのです。
日頃ファンタジーを読んでないのであまり穿った話ができないのがアレですが、こういうひねくれた筋立てで、なおかつエンタテインメントに落としてみせるルキヤネンコの力量はなかなか。読んでいる方としてはもう少し語ってほしい部分が無きにしもあらずですが、三部作ということなので、そこらへんはおいおい小出しにしていくのでしょう。
1900円とちと高いですが、ハードカバーでこの厚さにしてはむしろ頑張った値段でしょう。続編『デイ・ウォッチ』が出るように、興味を持たれたかたは迷わず買って下さい。
さて、映画『ナイト・ウォッチ』ですが、今春日本での公開が決定したようです。配給は20世紀フォックスですが、英語吹き替え版なんかになってないか、いささか不安。とりあえず公式ホームページはここ

つづいて『炎628』ですが、書いてるうちにメチャクチャ長くなってしまいました。ネタバレも満載なので、お気をつけを。

炎628(エレム・クリモフ、1985年モスフィルム制作)

子供がひどい眼に遭う映画、といえば、ドイツに『橋』という映画がありましたが、こちらも負けず劣らず、というか観ている方としては遥かにダメージの大きい映画がこの『炎628』です。
内容のあまりの過激さに7年間オクラ入りとなっていたというこの映画、舞台は1943年のベラルーシ(白ロシア)。大戦中ドイツによって大量虐殺が行われ、628の村と村民の1/4が焼かれたという黒歴史のある地域です。
邦題の『炎628』というのは要するに焼かれた村の数なわけですが、原題は『ИДИ И СМОТРИ(イジー イ スマトリー、来たりて見よ)』といいます。黙示録の一節を採ったわけですが、聖書になじみのない日本人にはわかりにくいだろう、という配慮の末の変な邦題のせいでイロもの映画に見られがちなのが惜しいところです。
映画はドイツ軍占領下のベラルーシ、パルチザンに加わった少年を主人公にして物語が進行します。当初はドイツ軍と戦って追い出すという英雄幻想に有頂天になってる少年フリョーラですが、ここから監督のクリモフは、観客もろとも情け容赦なく少年を地獄の底に突き落としてゆきます。
本隊から置いてけぼりを食い、ふてくされたフリョーラが同じく置いていかれた少女とじゃれているところに、いきなりの空爆。森からたたき出されます。
仕方なく村に帰るフリョーラですが、村民はすでにドイツ軍によって皆殺しにされています。その理由が村からパルチザン(つまりフリョーラ)を出したことによる見せしめのためだった、ということを知ったフリョーラは半狂乱に。
このときの演技があまりにも真に迫っていたため、観てるこっちまで気が狂いそうになりますた。このとき主演のアレクセイ・クラフチェンコは若干15歳。話によると、リアルな絵づくりを求める監督は、主演のクラフチェンコに当時の状況を理解させるため、延々当時の惨状を記録した映画を見せたそうです。監督、いくらなんでもやり過ぎです。
フリョーラの受難はまだまだつづきます。運良く隣村の人々と合流したフリョーラは、食料を探しに他3人と村にとって返します。
途中で二人は地雷源にひっかかりバラバラに。残る一人と牛を盗みだしたのはいいのですが、ドイツ軍の機銃掃射であえなく牛共々もう一人の連れも殺されます。このときはどうやら本当に牛を撃ち殺した(!)ようでして、主演のクラフチェンコはこのとき倒れてきた牛に危うくつぶされそうになったそうです。監督、いくらなんでもやり過ぎです!この映画、ソ連以外では絶対にとれないでしょう(いろんな意味で)。
まだつづきます。その後、ある老農夫と出会ったフリョーラは、ドイツ軍がパルチザン狩りをしていることを知らされ、農夫の村にかくまわれます。
折悪しく村にやってくるドイツ軍。村人たちは集会所に押し込められ、フリョーラも巻き添えを食らってその中へ。
子供を置いて出てこいというドイツ軍将校。おそるおそるでてきたフリョーラを尻目に、ドイツ軍が始めたことは…。
集会所に手榴弾を放り込み、さらに火炎瓶で放火。さらによってたかって銃撃。人がすし詰めになった建物に向ってです。
恐ろしいことに、このとき数人をのぞいて、ほとんどのドイツ兵が狂ったように笑ってます
通常戦争映画でドイツ兵が悪者に描かれるのはハリウッドでも定番ですが、この映画での描かれ方は度を超しています。もう悪役とかそういう次元を超えて、まるで狂人です。異常な状況に置かれた人間の狂気、としか言いようがありません。この映画を観た後では、ハリウッド映画に出てくるどんな悪役も、紳士にしか見えないことでしょう。
この時のクラフチェンコの演技もあまりにも真に迫っています。顔を引きつらせ、何をすればいいのか解らないように、ただただ呆然としているだけ。というか、映画全編を通じて、主人公がハリウッド的に泣き叫ぶというシーンは一つもありません。こういう演出は初見でしたが、安易に慟哭されるよりは、よっぽど悲惨さが伝わってくる事も事実。
まだまだつづきます。間一髪で難を逃れたフリョーラ。ふらふらと歩き出すと、そこには先ほど村を焼き討ちしたドイツ兵たちの死体が。
パルチザンたちの急襲でした。
というわけで、ようやく命の危険から解放され、本隊に合流するフリョーラ。そこには、子供を置いて出てこい、といった将校が。フリョーラの告発に、逆ギレして種の純血をとうとうと語りはじめる将校。不浄な血は根絶やしにしなければならない。子供は全て殺さなければならない…。
ひとしきり演説したあと、あえなく皆殺しにされる捕虜たち。監督、いくらなんでも(ry
無常観のなか、フリョーラが観たのは、水たまりに浸かるヒットラーの肖像。突如わき起こる怒りに、フリョーラは肖像に銃を向け…。

ここから先は書きません。ていうか書けません。
映画史に残る衝撃のラストシーンなんですが、僕のつたない表現力では到底描写しきれないので、申し訳ありませんがここはDVDを買ってご確認ください。6,090円とお高いですが、アニメDVDが2話50分で同じ値段なのを考えると、買えない値段ではないと思いますよw
余談ながら、クリモフ監督は当初タイトルを『ヒットラーを殺せ』にしようと思っていたらしいです。ラストを見ると非常に的確な題だと思いますが、あまりにも誤解を招くのでダメだしを食らったそうな。

演出面では、役者の顔を正面から捉えたカットの多用が目を引きます。 クリモフが監督したもう一本の映画『ロマノフ王朝の最後』を観ていないので、これがこの監督の癖なのか、この映画で意図してやっているのかはわからないんですが、少なくとも顔のアップが写されるごとに、観ている方としては客観的な視点が奪われるので、上手いと同時に酷い演出だと思います。

はっきり言って娯楽映画ではないです。といって退屈な訳では決して無く、観始めてしまうと最後まで観ざるを得ない映画ではあります。万人に勧められる映画ではありませんが、鬱になりたいときにはぴったりな映画なので、そういう人にはお勧め。
嘘ですごめんなさい。少なくとも『橋』をいい映画だと思える人なら、きっとこの映画も気に入ってくれることだと思います。

追記。この映画のテーマ曲はモーツァルトのレクイエム(ラクリモーザ)だったりします。これがあまりにぴったり、といえば映画のカラーが何となくわかるかと。



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Apple - Trailers - Night Watch (Nochnoi
■ティムール・ベクマンベトフ監督『ナイト・ウォッチ』予告編【★究極映像研究所★】at 2006年02月19日 00:52
この記事へのコメント
>鬱になりたいときにはぴったりな映画なので、そういう人にはお勧め。

どんな時だw
いやしかし、観てみたくなる映画ですね。色んな意味で。

そうそう、「宇宙戦争」観ましたよ〜。
原作を読んだことある身としては素直に楽しめました。
単純に強大なモノに追われる民衆パニックものとして、とても良かったのではないでしょうか。

原作読んだのが小学生の頃だったのでもう一度読み返したくなりましたよ〜。
ていうか小学生のとき読んだその本は、「海底二万海里」と一緒になった分厚い本でした。(内容的に濃すぎないか・・・?)
あんまり本読まない子なのに夢中で読んだなあ。
Posted by つぶあん at 2006年01月04日 16:28
ナイトウォッチ、急に読みたくなってまいりました。
明後日あたり、買いに行くかな?(←まず手元のディアスポラを読め
Posted by Aki at 2006年01月04日 21:23
>つぶあんさん
是非観て下さい! 戦争映画は数多ありますが、ここまで死の恐怖を感じさせる映画はそうそうないと思います。隠れた名作ですよ。
『宇宙戦争』はあれで正解だと思います。一般の人はともかく自称ヲタクの一部ですらあの結末に文句をいってましたが、ウェルズの原作というのがオタクの間でも一般常識では無くなっているという状況は憂うべきかと思います。
>『海底二万里』と一緒になった
その本みたことあるかも…

>Akiさん
買いましょう買いましょう。もちろんディアスポラも読みましょう。
ロシア人のものの捉え方というのは、どうもヨーロッパともアジアとも違う、独特な感じがします。
Posted by しょぼ at 2006年01月08日 01:37