2008年03月

朝日杯将棋オープンのネット公開観戦記

様々な実験的な試みで楽しませてくれた第一回朝日杯だが、ネットで観戦記を公開したのもそのひとつだろう。最近決勝の分までアップされた。
もともと、このネットを活用しての観戦記については、梅田望夫氏がブログで提唱して棋士ブロガーが反応し、それを受けて朝日新聞社も梅田氏へのインタビュー記事を掲載していた。
(詳しいことは、この記事この記事にのせておいたリンク先をよろしければ参照ください。)
せっかくなので、一応全部の観戦記に目を通してみた。ただし、数が多いので横着して将棋の符号の解説は軽く読み流してしまったけれども。ネットの観戦記の最大の長所は、字数制限を気にせずに好きなだけの長さで書けるところだろう。実際、それぞれの記者が個性を出して、好きなスタイルで書いているのが面白い。
その場合、常に問題になるのは、読者が観戦記に何を求めるかということだ。この点については、片上五段が明確にポイントを指摘していた。
将棋ファンを分ける一つの要素として、「指し手の詳しい解説を望む層」と「そうでない層」というものがあると思います。他に「棋力」(高い・低い)「見るor指す」などいくつかの要素があるでしょうが、この要素は中でも最も厄介なものだと思います。

ネット観戦記においては、分量を気にしないで書けるので、「指し手の詳しい解説」が可能である。その点については、各記者の方とも十分行われているようだ。ただ、そういうことよりも、読み物としての面白さを期待する層も勿論存在する。数的には、やはりその方が多いのではないだろうか。私は、一応両者折衷型のファンのつもりである。しかし、集中して観るタイトル戦などはともかくとして、あらゆる将棋に対して、事細かに指し手を深く考えたり検討する棋力も気力もない。(なんだこのダジャレ。我ながら気に入った。豊川先生にでも、使ってもらいたいものだ、ってハァ?)
えーー、何が言いたいかというと、せっかく、ネットは字数制限がないのだから、指し手の詳しい解説も果たす一方で、読み物としての面白さも、もっともっと過激に追求していただきたいということである。やろうと思えば、どちらも両立させることは可能なはずだ。いくら全体が長文になっても、私のように、指し手解説の部分をちゃっかり読み飛ばしてしまうことだって出来るのだ。自慢できたことじゃないし、観戦記者の人には申し訳ないけれど。
でも、今回の観戦記でも、そういう読み物としての面でも注目すべきものも勿論あったので、紹介しておこう。
まずは、後藤元気記者による佐藤vs郷田戦。佐藤が勝ったのだが、対局後に、郷田が佐藤が指す際に時間が切れていたのではないかと主張した対局である。この件についての伏線や現場の状況について、事細かに書いていてとても興味深い。最後に、佐藤自身のメールによるこの件についての見解、感想がのっているのだが、これを読んだら誰だって佐藤のことを好きになるだろう。なんて、真摯で素直で正直なんだろうと。
エチケット、マナーが私はかなり悪い棋士だったんですね。今頃になって気が付きました。25年染み付いていますし、対局中は無我夢中ですのですぐには治らないような気もします。ただ意識して、2度と起こさぬよう少しずつでも改善していきたいと思います。

しかし、今回のナンバーワンは、なんと言ってもこれだろう。既に読まれた方も多いと思う。丸山玄則記者による「偉大なる1000敗の譜」である。もっぱら、加藤一二三先生のパフォーマンスの描写に焦点を絞って、徹底してやってくれているのだ。加藤先生は例外的にすごすぎるけれども、他の棋士の対局中の姿や呟きを、そのまま描写しただけで、十分面白い読み物になるはずだと思うのだが。まだ読んでない方、特にあまり将棋のことがよく分からないという方にオススメの名観戦記である。ちょっとだけサワリを引用させていただく。
突如、加藤が叫ぶ。
 「なに、なんなのこれ。んーと、えーと、んー」
 「げげっ、なんだこれは、ふー。どういうことだ、これは」

週刊将棋の森内名人インタビューより

「森内さんに聞こう」という企画で、読者の色々な質問に答えている。羽生さんなどでもやっていたやつである。「鉄板流でなく自分でネーミングするとしたら?」という質問に対して「気まぐれ流」と答えている。どう考えても一番似合わない名前である。とにかく神経細やかでいい加減な手は一切指さない森内さんだが、自分に求める指し手の正確性のレベルが高すぎて、自分の手に満足できないために「気まぐれ」と自身では思うのではないだろうか。人はえてして、自分にないものにあこがれるものである。
さて、「定跡の覚え方のこつを教えてください」という質問に対する答えを、引用させていただく。
普通は本を見て勉強されると思うのですが、単に手を覚えるだけでは深い理解につながりませんし、記憶もあいまいになってくると思います。そこで、一手一手、手の意味を考えながら取り組まれると忘れにくいはずです。最初のうちは、この手は次にどういう意味があるのかを考えながら進めていくといいんじゃないでしょうか。また、実際に盤駒に並べてみるのも記憶の助けになると思います。私も、パソコン用の画面で対局の振興を目で追っただけでは、手を動かして並べた場合と比べて、棋譜が頭に残りにくいですよ。

とても、勉強する上で参考になるので紹介しようと思った次第である。私は、本当に定跡が覚えられない男である。もともと記憶力が悪くて、学生時代から暗記科目が極端に苦手だった。しかし、純粋な記憶力以外に、もともとちゃんと覚えようという意志が欠けていたり、覚え方にすごく問題があることに最近やっと気づいた。もう遅すぎる。とにかく、定跡書もあまり考えないで、どんどん読み飛ばしてしまうのだ。それでは、頭にちゃんと入るはずがない。丸暗記しようとするのでなく、意味をきちんと理解しようとするのが何より大切なのだと思う。実際、こうしてブログを書いていると、自分が書いたプロの将棋は、かなり前のものでも結構覚えていたりするが、ただ漠然とネットで見ていたものは、たちまち忘却の海に沈んでいってしまう。
例えば、人の車に同乗して何も考えないでいると百篇同じ道を通っても覚えられないが、自分で運転していくと一発で覚えるのとも似ているかもしれない。記憶力に個人差があるのは事実だが、記憶する姿勢がそれより大切なのではないかと思うのだ。
以前、小林秀雄の「感想」から、チェスプレイヤーがどう棋譜を覚えたり脳内チェスを指せるのかについての文章を紹介した。やはり、ブロもただ丸暗記しているのでなく、記憶に工夫があるのだ。プロ棋士といえども、脳内に超高性能の写真機があって、一度見た棋譜がそのまま焼きつくというわけではない。棋譜の流れの意味を動的に理解して、その意味関連で完璧に覚えきるのである。記憶力よりも、チェス(将棋)の指し手の意味関連についての把握力が抜群なのだろう。
実際、プロ棋士といえども、純粋な記憶力は、それほど人から抜きんでているわけではないようである。佐藤康光さんの「情熱大陸」でも、何か記憶ゲームをやらしたら、本当に並みのおじさんと変わらない結果が出ていた。また、渡辺明さんについても、「妻の小言」で、確かその種のゲームをやらしたら、意外なほど凡庸な結果しか出なかったというのがあった。(私は、そういうどうでもいいことについての記憶力だけはさえているのだ。どうにも困ったものだ。)
さらに、カスパロフの「決定力を鍛える」でも、プロは実際の実戦場面の記憶力は抜群でも、ランダムに配置した局面では、一般人と大差ないという結果が紹介されていた。
そもそも、「記憶」というものの本質的な意味を考える上でも、プロ棋士が将棋に関して示すあの抜群の能力と、それ以外では人並みな記憶力の落差というのは、重要な手がかりになるのかもしれない。

棋王戦終了し、一方我twitterを開始したりして

まず、個人的なことですがtwitterはじめました。
shogitygooのtwitter
「カキフライはじめました」じゃありません。
って、初歩的なギャグから始めてみましたが、季節感のなくなっている現在、お若い方々には、もはや通じないかもしれません。我々の若き頃、町のとんかつやさんなどでは、その季節になりますと、必ず手書きで「カキフライはじめました」という張り紙が出されて、ああ、もうそんな季節なのかなあとシミジミとしたものです、って恥ずかしいから説明させるなっ!
となぜ、ヤケを起こしているかといいますと、棋王戦が、羽生ファンにとっては、ちょっとばっかりつらい結果に終わったからであります。
しかも完敗だったし。
だいたい佐藤さんというのは、NHK杯でもみんなが応援しだしていた長沼さんを惨殺し、今度は羽生さんの七冠ロード再びの夢をたち、まったくKYもいいところで・・。
すみません。私としたことが。すっかり錯乱して暴発してしまいました。いくら冗談でも、これはひどすぎますね。ちゃんと言っておきます。
佐藤康光ファンの皆様、棋王防衛、二冠保持、おめでとうございます。
なんとなく、言い方が義務的なところはお許しください(笑)。冗談抜きで、やはり羽生さんと、今第一人者を争っているのは、やはり佐藤さんなのかなあという感じがしました。あの、A級順位戦最終局といい、NHK杯決勝といい、やはり力強さと勝負にかける執念は随一です。
とりあえず、羽生ファンとしては、早く再戦を見たいので、棋聖戦に期待しましょう。

さて、twitterについても、ちょっとだけ。
タイトル戦があるごとに何か記事を書いていたのですが、最近は正直書くことがなくても無理やりにという感じになってしまっていました。なので、ブログ記事にするプロ将棋は本当に何か書きたいことがある時だけにして、気楽に一口メモ風にかけるtwitterのほうに、ちょこまか適宜感想を書くというスタイルにしようかと思っています。
他の将棋ブロガーの皆様のプロ将棋についての簡単な感想など読んでみたい気もするので、気の向いた方は始めてくださったりするとうれしいです。私のところによくコメントを下さる方々で、ブログをお持ちではないような方も是非。ついでに、プロ棋士や将棋関係者の方々もできますれば。一応言うだけはいってみました。
右上欄にて、twitterの私の新しい投稿を見られるようにしてみました。

東公平さんについて追加情報

昨日の記事について、念のために書き加えておくと、私が紹介した観戦記の記述以外のことは何も分かっていないということです。言うまでもないことですが、読者諸賢におかれては、分かっている事実以外のことを推測されないよう、一応お願いしておきます。
ということで、追加として事実の情報だけあげておきます。
今日が、朝日新聞の郷田行方戦の最終譜で、最後を東氏はこのように締めくくっておられます。
なお、筆者は健康上の都合で観戦記をやめ、普及活動は続ける予定でいる。

さらに、今日のぴえぶろ2号店 CACOMOちょっとだけやってみたに、東氏のことが書かれています。

東公平さんの観戦記より

今日の朝日新聞の東公平さんの観戦記を読んで、少し驚いた。この観戦記が最後になるかもしれないそうなのだ。その解説を豊川六段に依頼したのは、「私の体調不良に深く同情し、心を癒してくれる親友になっているから。」だそうである。
詳しい事情は一切不明なのだが、なんとも言いようがない。ただ、年齢や立場の違いに関係なく「親友」という表現を使っているのが、何かうらやましい感じもする。
たまたま朝日新聞をとっているもので、名人戦が共催になってから、新聞の観戦記を、また読むようになった。どの記者の方も力作で楽しませてもらっている。でも、読ませる文章という意味では、東さんのものが、やはり頭抜けている。
将棋界についても、結構思い切ったことを書かれていることがあった。ひそかに共感しながらも、こんなことを書かれて大丈夫なのかしら、とさえ思ったりもした。こういう事情が関係していたのだろうか。もっとも、将棋界の「常識」からすれば大胆かもしれないという程度のことであって、私の感覚からすれば、どうってことはないのだけれども。
将棋の観戦記者というのは、独特な仕事である。まず、ある程度将棋を専門的に理解する能力がないと話にならない。その一方、文章なのだから、読ませるという要素も不可欠だろう。両方兼ね備えていて、なおかつ、両者のバランスを絶妙に保てるのが、理想の将棋観戦記者なのだろう。言うまでもなく、東さんは、その両者を兼ね備えた記者の一人である。
ただ、大抵の記者は棋士に対する遠慮などがあるのか、やはり将棋の内容以外の余計なことをあまり書かない場合が多いように感じる。従って、今日の記事中の東さんの次の言葉に、どうしても共感してしまうのだ。

観戦記者の役目は大衆への普及だと心得る。符号にテニヲハをくっつけたような文章は「感想記」だろう。

新春名人対談 森内名人と張栩名人(遅すぎる話題で恐縮ですが)

NHK杯女流予選は清水さんが出場を決めました。石橋さんは、二手目△3二飛の、今話題の作戦を採用しましたが、大激戦の末に矢内さんに敗北。超手数のすごい将棋だったようです。決勝はで、二局目の矢内さんも大変だったのでしょうが、無論そういうこととは関係なく、清水さんが貫禄を示しました。清水さんはNHK杯ではあまりいいところがありませんが、朝日杯では二連勝して実力者の畠山鎮さんを破っているし、昔の12チャンの早指し選手権では、久保さんを負かしたりしていました。楽しみですが、対戦相手は糸谷さんですか。先日、里見さんを完封して冷たく負かした前科?もあり、きつい相手ではあります。でも、勝っても全く不思議ではないので期待しましょう。
女流ネット最強戦では、甲斐さんが優勝。彼女のネットでの将棋を何局か見ましたが、どう見ても実力は十二分で、タイトル保持者に遜色がないと感じていました。一応、私はベスト4進出の時点で優勝を予言していたことを自慢しておきましょう、矢内さんにとっては、ついてない一日でした。女子オープンの方はどうなるのでしょう。まさに戦国女流界の様相を呈してきました。
LPSAのペア将棋選手権。本当に、企画力実行力がすごくて、矢継ぎ早に色々なイベントを行っていて、ファンとしても感心するばかりで、ついていくのが大変なくらいです。北尾ペアが優勝。準決勝を生で見たのですが、北尾さんの終盤での△2六角を見て「へーー、やるじゃん」と、思いました。えらそうですが、まあ、ネットの前で見ているときなんて、たとえ羽生さんが指していようが誰が指していようが、結構えらそうに見ているものですよ。ファンなんて。でも、もしかしたらプロならあれくらいは当然なのかなあとも思いましたが、ご主人もブログであの手をほめていたので、やっぱり文句なく鋭い手だったのでしょう。もう一局の、振り穴コンビの島井ペアの、最後まで諦めずに粘りぬく「振り穴魂」もなかなか見ごたえがありました。負けましたけど。
そういえば、北尾さんは、見事女流王位戦のリーグ入りも果たしていました。女流王位戦というのがちょっと皮肉ですが、とにかく挑戦者になってくれれば、LPSAファンとしては安心してタイトル戦を見られるので、頑張って欲しいものです。
LPSA日めくり詰将棋カレンダーを、一ヶ月以上ほっぽらかしてしまって、まとめて解いてやっとむ追いつきました。何日がかりでしたが。1月にまとめ解きした際は、結構余裕だったのですが、今回は9手詰めが多くてきつかったです。特に、3/20の春分の日のやつ。もう、何問も解いて疲れ果てている上に、全く詰み形が見つからず。一時間ほど考えましたが、詰みそうな筋すら全然浮かばず、ついにギブアップしました。答えを見てからも、変化手順のほうも考える必要があり、二度疲れました。詰将棋というのは、答えを見ると、いかにも良くある筋のように思えて、何でわからなかったのだろうと思ってしまいます。負け惜しみっていうやつです。でも、いい作品ですよね。私は詰将棋のシロウトなので、作品評価に自信はないのですが。


さて、古すぎる話ですが、朝日新聞の元旦の名人対談。将棋の森内名人と囲碁の張栩名人。ファイルの整理をしていたら見つかって、もう一度読んでみたらとても面白かった。
昔の先人棋士の評価についての、囲碁と将棋の違い。将棋の方は、とにかく技術の進歩が急激で、昔の棋士よりも現代の棋士のほうがはるかに強いのが常識である。普段慎重なものの言い方をする森内も「現代の棋士が圧倒的に強いと思うんですよね」と断言している。
ところが、囲碁のほうでは、過去にも現代に匹敵する強豪がいたという考え方らしい。
張栩 今のたいていの棋士はそういう考えです。僕も、先人と戦って勝つ自信はない。

その理由には、将棋と囲碁における「知識」の占める意味の違いがあるらしい。将棋においては知識の集積の持つ意味はとてつもなく大きい。定跡における徹底的に体系化された膨大なデータベース。また、終盤においてすら、現代の棋士は、皆高レベルの技術を持っていて、それは過去の棋譜から学んだ知識によるところも大きいのだろう。無論、終盤においては、その中でも傑出したトッププロが存在していて、完全に平準化されてはいないのだろうが。
一方囲碁においてはどうか。
張栩 囲碁は知識のしめる割合が非常に少ないんです。知識がゼロに近くても感性や他の部分で戦える。定石を詰め込みすぎると、かえって新しい発想が浮かばない。過去にとらわれていると新しいことに対応できないんです。

囲碁は読めば分かるというものではなくて、1手先も分からないこともあるんです。あまりに広くて難しい。

囲碁ファンにとっては、常識的なことなのかもしれないが、将棋ファンにとってはとても新鮮である。数日前までも、50過ぎの趙治勲が、若い山下棋聖相手に、七番勝負フルセットの大激闘を繰り広げていた。残念ながら負けたが。趙治勲は例外的な偉大な存在だが、それでも年齢が高いところまで戦えているのは、囲碁のそういう性格が関係しているのかもしれない。
将棋のように、知識の集約がものすごい速度で進行している世界も面白い。ソフトも現に人間のブロにとっては、ある程度は脅威になりつつある世界。そういう世界の行方を見守るというのは、単に将棋に限定されず、現代世界における人間の能力を考える上でとても興味深いことなのである。
機械(コンピューター)の能力が極限まで高まっていく中で、果たして人間の持つ固有の能力には根本的にはどういう意味があるのかというギリギリの問い。また、人間個個人の個性や創造性が、共同の知識の集積に対して、どれだけの有効性を保ち続けることが出来るのかという突き詰めた問い。
将棋の世界というのは、同時に人間の行く末を占うための巨大な実験場であり、その深いメタファーなのかもしれない。
一方、囲碁というのは、いまだに「人間の、しかも個人個人の能力」に、いまだに楽観的な見方出来ている世界のようである。ちょっとうらやましい。最後に、二人の二つの世界についての素晴らしい比較論を紹介して終わりにしよう。
張栩 囲碁は研究だけで勝負が決まることは少ない。それに覚えきれません。将棋と囲碁は本質的に全然違うゲーム。囲碁も13路や15路だと将棋に似てくるかもしれない。一手一手が厳しくなる。碁盤でも、9路と19路の感覚は全く違います。

森内 囲碁をマラソンとすれば将棋はトラック競技という感じ。数学的には将棋は10の220乗、囲碁は360乗といわれています。人間にとってはどちらも無限の広がりがあるという意味では同じでしょうか。

棋王戦第四局 佐藤棋王vs羽生挑戦者

第33期棋王戦中継サイト

佐藤さんの快勝でした。
後手の羽生さんが、またもゴキゲンを採用。恐らく羽生さんの中で、現在後手番での最重要テーマのひとつになっているのでしょう。一方、佐藤さんの対策は、いわゆる「二枚銀」といわれる作戦の基本形に。
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早速、手元の本で基本的なことを調べてみました。
この後、本譜の△3三角以外に、△6四歩とか△4二金という選択肢があり、△4二金は、先手の銀の進出に金で対抗しようとする力強い指し方。△6四歩は、羽生先手森内後手の有名な将棋があり、△3三角では、先後逆の同じ二人が名人戦で戦い、先手の森内さんが快勝しています。ただ、よく調べると難しくて、棋譜解説にあるとおり、最近は後手のほうが連勝していたとのこと。
深浦王位の表現を借りると、二枚銀というのは「軽い攻めには重厚なおさえこみで対抗」ということだそうです。確かに、ゴキゲンに対する居飛車の思想としては、根本的なところで理にかなった戦形なのかもしれません。今回立会いの加藤一二三先生あたりには、もしかすると合う指し方だという気もします。
佐藤さんの工夫は、普通は▲7七銀を先にするところを、▲3六銀と出てしまったこと。ちょっとした違いなのですが、プロではとんでもない意味があるのですね。▲7七銀を先にするのは、△5六歩を警戒してとのことですが、本譜のように、実際にそうやってきても後手は捌けませんでした。この図まで進むと、完全に居飛車の作戦勝ちなのでしょう。
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ということで、今回は佐藤さんの新手、構想力に軍配が上がりました。終盤も、実に佐藤さんらしく豪快に決めていました。
しかし、最近はさすがにゴキゲンに対する居飛車の対策も、かなり進んできたという感じがします。丸山ワクチンでも▲5八金右超急戦でも二枚銀でも、それぞれ有効な対策が出てきて、ゴキゲン側も少し大変になっているのではないでしょうか。

ということで、羽生ファンとしては残念でしたが、まあ、完敗だったので諦めもつきます。
しかし、よいこともありました。今回の中継では、棋譜解説でも中継ブログでも、「太陽がいっぱい」ならぬ「加藤一二三がいっぱい」状態だったからです。
なんで、加藤先生はあんなに将棋を楽しそうに検討できるのでしょうか。本当に、加藤先生を見ていると、何かを心底好きになって、長年続けられるというのが、最大の才能なのだと思います。
昼食も、佐藤棋王に張り合ってか?、うなぎを注文。元気一杯の加藤先生の尊いお姿に接することができて、将棋ファンとして、これ以上、いったい何を望むことがあるというのでしょうか?

銀河戦 飯島五段vs豊島四段、NHK杯決勝生放送

NHK杯の決勝は生放送でした。NHKさんも、先日A級最終局を、計7,8時間は放送してくれて、録画を見るのも大変なくらいでした。なおかつ、今日もなんと約4時間の生放送。すごい。こういういいことは毎年やっていただきたいものです。
しかし、生放送中に届いていた、あのファックスの数というのはすごいものですね。一部の将棋マニアしか見ていないのかと思いきや、ファックスだけであの数なのだから、実は馬鹿にならない数の人間が見ているのかもしれません。あまり将棋が分からない層も含めて。
なんだかんだ言っても、やっぱりまだテレビの影響力というのが強いのですかねえ。私などは、もはや、ネットのほうが中心になっています。昔なら、手持ち無沙汰になったら、とりあえずテレビをつけてみるという感じでしたが、今なら、気がつけばネットをのぞいています。テレビの方は、はっきり見たい番組がある場合だけ。実感として、テレビよりもネットのほうが中毒性ははるかに強烈だと思います。まあ、ネットというのは、究極の多チャンネルなんで、気ままに色々見てみるのには最高ですから。最近は、無意味にネットを彷徨う時間をどう抑制するかを考えているくらいなのです。
さてと、肝心の将棋なのですが、後手の鈴木さんが、佐藤流の一手損角換わり向い飛車を採用。▲1六角が、ポイントだったようですが、佐藤さんはいつもは自分がやられて、どう対応するかを考える側なのだといっていました。
なんとなく、佐藤さんの快勝に見えましたが、感想戦では、鈴木さんは意外に形勢を楽観していたようです。実際、色々調べると、難しそうなことを言っていましたが、結果的には、佐藤さんがきっちり押し切る展開になったようにみえました。佐藤さんというと、どうしても、あの順位戦最終局のすごい表情を思い出してしまいますが、今回は、わりと落ち着いて指していました。まあ、いつもあんな感じで指していたら、心身ともにとても持たないでしょうけど。
余った時間で、今年の回顧をやっていて、長沼さんの画もたくさん映っていました。先週の佐藤戦は、あまり力が出せないまま終わってしまったのは少し残念でした。でも、あの松尾戦とか羽生戦とか、ほとんどすぐ寄せられてしまいそうなところをひたすら受けめき、しのぎぬいて、最後体を入れかえて勝った将棋のあの爽快感と感動は最高でした。言ってみれば、大石蔵之介が、ひたすら耐え難きを耐え忍び難きを忍んで、最後には討ち入りして憎っくき吉良の首を討ち取るようなカタルシス感というか。ハイ、お分かりの通り、この比喩、完全に間違っています。
長沼さんの、あの独特の人柄のよさもあって、やはり、今回を盛り上げた最大の功労者でしょう。もし、あの羽生戦が決勝だったとしたら、きっと大反響だったと思うのですが、まあ、なかなかそうはうまくいかないものです。


囲碁将棋チャンネルの銀河戦Hブロックのページで棋譜閲覧可能。
銀河戦は、四連勝中の期待の大型新人豊島四段が登場。前回の銀河戦で旋風を巻き起こした飯島さんとの注目の対局でした。
将棋は、後手の豊島さんがゴキゲンを採用。飯島さんの対策は、丸山ワクチンから、▲5八金の「飯島スペシャル」(解説の橋本七段命名)でした。
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意図は、簡単に言うと、危険を伴いながらも、場合によっては穴熊に組むことも狙うということだそうです。その後、飯島さんが5筋に飛車を振って銀交換したのが機敏で、さらに、▲5二歩がいきなりパンチが入ったような感じ。
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△同飛なら▲6三銀。他にどう受けても、味が悪すぎるので、豊島さんは△6五歩ともアヤを求めてきました。はっきり飯島さんがいいのは明らかなのですが、豊島さんは動じた様子を全く見せません。さらに進んで、一方的にと金が出来たのですが、△3二銀としぶとく受けて、なかなか決め手を与えません。
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実は、この後逆転するのですが、解説の橋本七段も、そのポイントが対局中には把握しきれなかったようです。勿論、私になどは、分かるはずがありません。さらに進んで、先手が銀得の場面で、△5二銀と、3二からではなく受けていました。
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それに対して、飯島さんが▲5一金と捨てて飛車を5五に捌いたのが、よさそうに見えて実際はどうだったのか。後手が駒損を回復して△9五角と出た場面では、既に妙なことになっているそうです。さらに進んで、豊島さんが△5一歩と底歩で受けたのがかたすぎて、もはや優劣不明。この辺の豊島さんの指し回しは、やはり得体の知れないすごいものがあります。豊島さんが△7三角と当てた場面で、橋本七段は「これは逆転しましたね」と言い出しました。橋本解説は、とてもストレートなものの言い方で分かりやすいです。
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本譜もそうなったのですが、▲同角成△同桂の後の△6五桂がメチャクチャ厳しい。実際、豊島さんがはっきり勝ちになったようなのですが、このあとは飯島さんが腰の重さ、受けの強さを見せて、延々と戦いが続いて、飯島さんが入玉したのにも驚きました。しかし、豊島さんは、最後は自玉を完全に安全にして、攻めに回る、若いのに似合わぬ落ち着いた指し回し。厳密には、他の寄せ方もあったのかもしれませんが、とにかくあわてません。最後は、こんな投了図になりました。
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豊島さんは、将棋まるごと90分にゲスト出演した際に、出来れば十代のうちにタイトルを取りたいと、堂々と言っていました。実際、豊島さんは、谷川さんとか羽生さんの若い時のような、超然とした大物感が漂っています。将棋界においては、いんにも大物になりそうなキャラクターの持ち主だというか。これで、決勝進出が決定。本当に楽しみな棋士が、また一人出てきました。
しかし、ハッシーこと、橋本七段は、ファッションだけでなく、解説者としても、かなり現代風です。将棋界の一番長い日にも解説で出ていましたが、行方さんが、朝ヘッドフォンを着用して、将棋会館に入ってきたのを見て、
「行方さんは、ロックが好きですからね。気分は、ロックンローラーというところでしょうか」
とキメ台詞的に言っていました。なかなかコピーライター的なコメントをいう才覚があります。他にも「やっぱり、藤井さんには四間飛車がよく似合う。」とも言っていました。太宰治の「富士には月見草が良く似合う」を意識しているのかどうかは分かりませんが。
今回も、最後に、豊島四段を評してこうキメてくれました。
「(勝勢だった)飯島さんの具体的などの手が悪かったのか、私にも全く分かりません。(豊島さんは)本当に恐ろしい強さです。もう、バケモンですね。」

勝又教授の最新戦法講義スペシャル

現在、順位戦C1の最終局が行われているのを横目で眺めながら、将棋世界4月号を読んでいた。なんと言っても、勝又教授の「最新戦法講義」が再開されたのが目玉だろう。初回はスペシャルとして増ページで、振り飛車の基調報告をしている。
例によって、豊富な具体的棋譜を引きながら、きちんと体系化して説明してくれている。とにかくポイントとなっているのは、普通の振り飛車が激減して、角道を通したままの力線振り飛車が主流になりつつあるということである。ゴキゲン然り、早石田流然り、藤井さんすら角道をとめない四間飛車を多用しだしている。
具体的な各戦法の解説は将棋世界に当たっていただくこととして、勝又教授がこうした振り飛車の変化について、理論的な解析を最後に加えている部分がきわめてスリリングである。「現代戦法の話」で説明されていた通り、現代将棋においては、矢倉での飛車先不突きに見られる「後回しに出来る手は後回しにする」という発想、また一手損角換わりなどに見られる「角交換」の重要性が特徴である。その意味で、現代の角道をあけたままの力戦振り飛車は、そういう現代将棋の本質的方向を推し進めようとしているのではないか、「角道を止める手こそ後回しにすべき手だった」という可能性も否定できないのではないかと、勝又教授は問題提起している。つまり、現代将棋は、振り飛車の基本中の基本ともいえる「まず角道をとめるところからはじまる」という常識中の常識を疑うところまで来ているのではないか、というのだ。

こういう変化は、なにも棋士の哲学的な将棋観の変化によるものではなく、あくまでプロ棋士たちが純粋に勝負を追及してきた結果起きていることだ。極端に単純化して、私なりに振り飛車の変遷の歴史をまとめてみると次のようになるだろうか。

普通の振り飛車対居飛車急戦の時代
振り飛車は、角道をとめて受身の態勢になるかわり、玉をしっかりかためて、居飛車の動きに対応して戦う。居飛車側も、攻撃態勢を取れるという原理にのっとり、振り飛車をはやい直接の攻めで粉砕しようとする。居飛車側の代表的思想家としては、加藤一二三。振り飛車側では、藤井猛が急戦を扱った「四間飛車を指しこなす本1」の冒頭で、「四間飛車の極意を一言でいうと、相手の力を利用して、投げることだ」と述べている。

普通の振り飛車対居飛車持久戦(居飛車穴熊の時代)
振り飛車側の、急戦対策が進むにつれ、居飛車も振り飛車と同じくらい自玉をかたくしてから攻めればいいと考え出す。一番代表的なのは、居飛車穴熊。守りのかたさが同等ならば、攻勢を取る権利のある居飛車の方が自然に良くなるはずだという考え方。居飛穴で勝ちまくった、田中寅彦あたりが、代表的思想家だろうか。

藤井システム対居飛車持久戦(居飛車穴熊)
居飛穴の猛威のせいで、壊滅状態におちいりかけた振り飛車党にとって、それをどう攻略するかが、生き残るための必須条件になる。そのためには、一方的に守勢になるのでなく、振り飛車側から積極的に攻めて、居飛車穴熊に組ませないようにしようと考える。小林健二あたりが指し始め、その思想を徹底した居玉のまま攻めるという藤井システムで、完全に体系化される。

力戦振り飛車対居飛車
そもそも振り飛車から攻めようとするのなら、はじめから角道を止める必要などないのではないか。最初に角道をとめて受身になるために、居飛車側にかたく囲われてしまうのだ。角道を明けたままでも居飛車の囲いを牽制しておくのが、合理的ではないか。ゴキゲンの近藤正和が指したのがキッカケに、若手の振り飛車党はほとんど力戦振り飛車中心である。

(オマケで次の段階予測)力戦振り飛車対力戦居飛車
居飛車側も、穴熊に囲おうとしなくなり、両者ともひたすら力で形にとらわれないで指しこなす最終段階。もはや、そこでは、振り飛車党と居飛車党の、性格的区別はなくなり、どちらの戦法だけを指す棋士など存在しなくなり、単に個別の対局で各人が飛車を振るかどうかだけの問題になる。現在の、居飛車と振り飛車の概念が、完全に混沌化して崩壊した恐ろしい時代。

まあ、最後のは、悪いジョークなんで聞き流していただきたい。
とにかく、現代の力戦振り飛車というのは、単に狭い将棋の世界の出来事にとどまらず、世界で起きることの先駆けとしてみることすら可能なすごい出来事なのではないだろうか。

勝又教授の講義に話を戻す。特に面白いと思ったのは、先手番での中飛車、阪口流「ワンパク中飛車」である。相手の出方によって、力戦と普通の中飛車を使い分けられる。序盤の出だしでは、早石田との併用も可能。さらに注目すべきは、相手が居飛車穴熊に来た場合、角道を止めてないので、藤井システム的な攻めを、角道を一度とめてからもう一度開ける二手を省略して出来ること。
考えてみれば、藤井システムは「攻める作戦」なのだから、居飛車穴熊攻略のためには、最初から角道をとめないですますことができれば、それに越したことはないのである。藤井さんは、この辺についてどう考えているのだろうか。藤井さんのことだから、角道を止めない四間飛車の体系化を、実はひそかに考えているのではないだろうか、というのはあくまで私の妄想に過ぎないが。
このように、勝又教授がプロの将棋に即して説明してくれていることをもとに、将棋ファンも色々勝手に考えてみる楽しみがありそうである。
最後に、実に勝又教授らしい「角道をとめない力戦振り飛車」についての分析を、引用して終わりにする。

これは数学において、「公理」を疑うのに近いようなことかもしれません。違う公理からは、全く違う数学が生まれます。(中略)長年見慣れてきたのとは全く違う将棋、別の将棋が始まっているのかもしれないのですから。

棋王戦第三局 佐藤棋王vs羽生挑戦者

第33期棋王戦第三局 新潟日報

羽生さんが最後ははっきり勝ちになっていたみたいですが、その前のポイントがよく分かりません。ということで、せめて序盤の話を書いてお茶を濁そうとしたら、竜王が午前の時点で迅速に序盤の戦形解説を済まされていたようです。まったく、ドシロウトの身としちゃあ、やりにくいったらありゃしない(笑)。もっとも、プロ棋士の方々がこういうことをしてくださるのは、勿論大歓迎なので、皆様どんどん解説していただきたいものです。
えー、竜王ブログを読んだ皆様はご存知の通り(笑)、羽生さんの▲9六角が、王将戦第二局でえらく評判が良かった手。△5四歩が、もともと佐藤新手だったのですが、「『偉大なる悪手』に真の悪手の烙印を押した」とか言われていましたっけ。
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この後は、全く推測になるのですが、多分佐藤さんというのは、そういう言われ方をされると、メラメラと熱い血潮が燃えたぎってしまうタイプなのではないでしょうか(笑)。羽生さん相手に△5四歩で勝ってやろうじゃないか、と思われたとしてもなんら不思議ではありません。
佐藤さんが後手番でゴキゲンを採用し、羽生さんが先手▲5八金右の超急戦を誘う手で応え、佐藤さんが頑固に△5四歩を指し、羽生さんも堂々と▲9六角を打ち放つ、というのは、相当二人とも強情な感じがするのですけれども。
でも、もしその辺の事を聞かれても、お二人とも、研究テーマ局面ですから、程度のことしか言わないに違いありませんが(笑)。まあ、ファンとしては、色々妄想を逞しくして考えてしまいましょう。そういうのはファンの特権なので。
実際、王将戦の後も、△5三玉だと、それなりにムツカシイといわれていた(記憶がある)ので、佐藤さんもきちんと緻密に研究して暖めていたのでしょう。ただ、それにしても佐藤さんの受け方というのが壮絶でした。△6二玉から、▲6四歩の垂れ歩を許すなんて、弱いものがやったら絶対怒られるに違いありません。「自分で自分の王様をあぶなくしてはいけませんよ」、とか。
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大内先生が言われていた、「肉を斬らせて骨をたつ」というのは、こういう時以外にどんな時に使うのでしょうというくらいピッタリな表現でした。青野先生の解説によると、実際後手が受けきる筋もあったらしいとのこと。また、△6七香がどうか、△6八歩とすべきではないかとも言われていました。確かに、その後の手順は、佐藤さんが形つくりのような王手ラッシュを続けるような感じで、あっけなく終わってしまいました。あのあたりが、多分ポイントだったのでしょう。
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きっと、また良く調べれば、難解でよく分からない順というのがあるのに違いありません。トッププロがよってたかって調べても、解明できないこのゴキゲンの戦形は面白すぎます。
将棋というゲームにおける手の広さを感じずにはいられないところです。ちょっと思ったのですが、コンピューターソフトというのは、こういう乱戦形の将棋で、どの程度の精度で正解手を指せるものなのでしょう。苦手なのか、あるいは人間と違って、どんな局面でも同じに冷静に考えられるので、得意なのか。

今週の週刊将棋は、なかなか内容が充実していました。
棋王戦第二局、羽生さんの最後のミス以外に、見ていて佐藤さんの方も、▲2六角と打った後、角をたたききって▲5三金とガジガジやればよかったんじゃないかと思っていました。しかし、それにはその後進んで△5二銀の絶妙の受けがあって、佐藤側がダメだとのこと。つまり、二人ともそれが分かっていたので、その順にならなかったということです。トッププロの将棋だと、こうすればいいのではないかと思っていても、後から調べると、深く読んでいて回避していた手順というのが実に多いと思います。本当に棋譜だけ見ただけじゃよく分かりません。
それ以上に、王将戦第五局の記事が面白かったです。
単純な大ポカのように言われた久保さんの▲7五玉ですが、正着の▲7六玉のほうも、実は桂馬を三枚駆使した王手ラッシュが続く上に、同時に羽生玉の詰み筋を防止する複雑な変化が秘められていたようです。受ける側からするといかにもこわすぎる変化なので、久保さんが7六に逃げるのをやめたのも、よく納得できます。正確に指せば久保勝ちなのですが、秒読みの実戦ならちゃんと勝ちきれたかどうかというくらい難解な変化です。
王座戦第三局の最終盤にも「幻の名手順」がありましたが、こちらもそれに勝るとも劣らないすごい変化だと思いました。羽生さんと久保さんの将棋には、なぜかこういうすごい手順が現れます。

将棋界の一番長い日の佐藤康光

BS中継に映し出された佐藤康光の表情を、誰しも一度見たら忘れることが出来ないだろう。
夜の中継が始まる前に、羽生善治が、完璧な構想力で谷川浩司を「光速の投了」に追い込んでしまっていた。挑戦者はあっさり決定。問題の降級争いも、自力残留の佐藤が木村一基相手に、角桂交換の戦果をあげ、ほぼ勝勢のように言われていた。やや拍子抜けな感じだが、気を取り直してとにかく夜のBS中継を見出す。
三浦弘行と久保利明の将棋が千日手になるのを、ぼんやりながめていたら、突然佐藤康光の異常な表情が画面に映し出されたのである。
人が心底苦悩する表情というのは、ああいうのをいうのだろうか。いや、苦悩というよりは苦悶といったほうが正確かもしれない。顔を右側からアップで映し出している。口を苦しげに半開きにし、目はほとんど泣いているように見え、表情全体が完全に歪みきっている。何度も首を振り、舌打ちをし、体を小刻みに揺らす。髪の毛をかきあげ、頬をかく。いったい何の因果があって、いったい何の罰で、この人はこのような苦しみを受けているのだろうか。既に佐藤は一分将棋に突入していて、情け容赦なく秒読みの声が襲いかけ続けている。
木村の執念の追い上げで、いつの間にか全く分からない将棋になっていたのだ。気合の和服姿の木村は、対照的に静の表情である。しかし、その表情の落ち着きからは、完全に集中して読みふけっている様子、闘志が満々な様子が感じ取れ、不気味なくらいである。
木村の△6六歩に対し佐藤が▲6八玉と下がった瞬間、解説の深浦康市と橋本崇載が騒ぎ出す。△6七銀と打ち込めば、トン死なのではないか。でも、二人とも一分では読みきれない。持ち駒の歩の数が微妙だ。なんと、実際詰んでいたのだが、両者とも気づいていなかったことが、終局後に判明する。
佐藤の苦悶の表情は全く変わらない。解説の二人も、どちらが勝ちなのか判断しきれていない。
という状態が、延々と続いたのだが、木村が△2三香と執念の受けをしたものの、佐藤が▲3二銀と打ったあたりで、二人の表情が一変した。
木村が、顔をあげて宙を見つめ、現在の局面ではなく、過去のどの場面が悪かったのかを考えているように見える。静の姿には変わりないが、内に秘めていた闘志が、徐々に脱力されていく。
佐藤の表情からも、苦悶がパッタリと消えた。まだ緊張の余韻が続いているが、苦しげでなく、ただ集中する表情に変わったのだ。はるか昔の大魔神映画で、恐ろしい表情が、戦いが終わって仏の表情に変わる瞬間くらい、劇的な変化であった。並の映画よりはるかにすごいし、なにより人間の現実のギリギリの姿なのである。
解説の二人もやっと落ち着いた。木村が、気持ちを納得させようとするかのように、何度も水を飲みだす。最後まで指して木村投了。
終局後も、二人の固い表情はすぐには崩れない。場の空気が完全に凍りついているところに、盤側から声がかかり、カメラに映る佐藤がその方を怪訝な目つきで見やる。先崎学が、△6七銀の即詰みの場面を確認しに駆けつけたのだ。先崎が、詰み手順を説明する。二人も気づき、呆然とする。しかし、固まっていた二人が、とにもかくにも話し始め、対局室に動きが出で、少しずつ日常の時間に戻っていった。
佐藤は、いったいどれだけの間、一分将棋で、あの苦悶の表情を続けていたのだろうか。時間を置いて中継の最後にチラッと映った、佐藤の落ち着いて元に戻った表情が、なんとも印象的だった。

もうひとつ、全く別の意味で印象的だったのは、丸山忠久と藤井猛の将棋の終局場面だ。局面は丸山勝勢。
突然、ごそごそとビニール袋の音が聞こえてくる。なんと、丸山が何か、食料を取り出したのである。モグモグやりだし、藤井が着手した瞬間、食べるのを中断して、即座に藤井の攻めの金に対し、王手金取りをかけた。プロなら当然の手ではあるが、丸山らしい安全勝ちの手、私はこの言葉が好きではないが、激辛流系統の手である。藤井にしてみれば、やりきれない局面である。
さらに、丸山はモグモグモグモグと栄養補給をやめない。解説の深浦と聞き手の千葉涼子が情け容赦なく突っ込む。
千葉「なんかごく平常のお顔をして食べておられますねえ。」
深浦「なんか、一人だけ緊張感がない感じがするんですけど、いいんですかねえ。」
千葉「ポーカーフェイスがきわまっている感じですよね。」
丸山が食べ続けたまま、藤井は秒を読まれて投了。丸山の口は動き続けていた。こんな投了局面、見たことない。藤井にとっては屈辱だろう。丸山の、相手が徹底的に粘っても、いくらでもゆっくり最後まで指しますよという意思表示とも強引に解釈できる。無論そんなことは、本人は考えていないのだろうが。藤井も、別に丸山の行為に参ったわけでなく、局面自体が戦意喪失だっただけだろうが。
丸山の、そうしたとにかく勝負に徹する姿勢を、私は尊いと思う。変な美意識やカッコつけより、徹底的に合理的に勝負を追求する姿のほうが、私は好きである。そういうウソのない姿のほうが、薄っぺらな人間的な気取りよりも、はるかに美しいし真実の姿だと思う。
佐藤の表情が、あれほど人の心をうったのも、その表情に全くウソいつわりがないからなのである。

島井咲緒里プロがフジテレビ「フジポッド」に出演、LPSA 1dayけやきカップ、NHK杯 渡辺vs鈴木、スポニチ写真で振り返る王将戦、The PASSION!の青木咲和香ちゃん

LPSAの島井さんが、フジテレビ配信のポッドキャスティング「フジポッド」の『つか金フライデー!』にゲスト出演しています。早速ダウンロードして聞いてみました。
パーソナリティーの塚越孝さんは、かつて大山康晴さんのインタビューをされたことがあるそうで、将棋も指されるようです。高橋真麻アナは、私は不勉強で知らなかったのですが、なんとあの俳優の高橋英樹さんのお嬢様だそうです。彼女がかつて将棋同好会に所属していたことから、女流棋士を呼ぶことになり、同番組のスタッフが「女流棋士で一番美人」という島井さんに白羽の矢が立ったとのこと。
私としては、そのスタッフの意見に異論はありません。但し、LPSAの女子や他の女流棋士の中には、ワタシは納得できないわ、と思っている方が多数おられるのに違いなく、考えただけで空恐ろしい気がいたします。
というのはともかくとして、やはり完全に「将棋界外部」のプログラムなので、すごく新鮮な感じがしました。将棋会の内部だと、一種の閉塞感があって、特に現在は「聞いてはいけないこと」があるヘンテコな雰囲気になってしまっているわけですが、堀越さんは、そんなことは全く関係ないので、ごく普通に、LPSAのことについて、素朴に感じる疑問をぶつけていました。考えてみれば、それが当たり前のことであって、そういうのに気を使わなければいけない現在の将棋界が異常なのですが。
それに対して、島井さんの受け答えが実に立派でした。将棋界全体のイメージを悪くするような細かいことは一切いわず、なぜ自分たちが独立して何を目財のかを、淡々と、しかしきちんと説明していました。中倉姉妹のPDGの影響で、島井さんに対して、ホンワカした面白キャラだと、個人的に勝手なイメージを作ってしまっていましたが、実際はとてもしっかりしているのですね、島井さんは。ちょっと感心してしまったし、かっこいいなとも思いました。これ聞いたら。またファンが増えることでしょう(笑)。
しかし、堀越さんに、「TBSの小林麻耶アナにちょっと似ているね」といわれ「アッ、一回いわれたことがあります」と、正直に答えてしまっていたあたりは、ややボケキャラ気味の島井さんでもあり、マジメなしっかりした部分と両面出ていて、よかったのではないかと思います。
ちなみに、LPSAのホームページの写真を見ると、ファッションもメイクもバッチリ決めて、フジテレビに勇躍乗り込んで行った模様であります(笑)。

LPSAの1dayのけやきカップは、中倉姉妹の地元府中で開催。都心ではないにもかかわらず、多数の来場者があって大盛況だったようです。神社での開催ということでなのか、女流棋士が全員袴姿で登場していました。LPSAさんの企画は、センスが良くて品位があるので、気分よく楽しむことができます。
結果は島井さんがなんと四回目の優勝。今回、めだったのは、蛸島先生が準優勝されたことでしょうか。決勝戦の相振り飛車では、島井さんが端から急襲をかけてそのまま押し切っていました。確か、あの攻め方は島井さんが、大和証券のネット将棋に登場した時にも採用して、あまりうまくいかなかった順です。今回研究改良したのでしょう。まあ、個人的には、シマイめ(敬称略)、蛸島さんになんてことすんねん、という感じでしたが(笑)。
しかし、蛸島さんも、準決勝では魅せてくださいました。松尾さんとの将棋は、やはり相振り飛車で、蛸島さんが無条件に香を取って馬を作れる展開に。
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そのまま、ゆっくりしていてはいけないので、とにかく松尾さんが暴れまわり、蛸島さんが受ける展開に。ベテランらしく、落ち着いて丁寧に、相手の攻めを受け止めていたのが見事でした。そして機を見て、△5五歩の急所の攻めに転じて勝ち。
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とても、きれいな品格のある指し回し、勝ち方だと感じました。一方、やはりとても丁寧な指し方なので、決勝戦のように、若手にスピード感を持って切り込まれた時が、苦労されるのかなあ、などと弱いものなりに分析してしまいました。
ちなみに中継サイトでは、王将戦でも使われていた動画が多数アップされていて、和服での対局姿などを見ることができます。

NHK杯は、先手の鈴木八段が角道を開けたままの向かい飛車に対して、後手の渡辺竜王の方から角道をとめて、じっくりした持久戦に。竜王が振り飛車の仕掛けを慎重に警戒しながら、結局穴熊に組み替えるというお得意のパターンに。自分だけ穴熊に組めた竜王が、作戦勝ち気味なのでしょう。
しかし、その後鈴木さんが金を3九に持って行って、四筋から攻め込み、狭いところに飛車を敢えて持っていくという構想が非凡でした。作戦負け気味のところを、いかにもひねり出したという感じなのですが、こういうのが才能なのでしょうか。
さらに、終盤迷いなく切り込んで言ったのも鈴木流でした。自分が勝ちだと思って、慎重になるプロもいるのでしょうが、鈴木さんの場合は、ほとんどノータイム指しのようになります。今回の渡辺さんといい、前局の郷田さんといい、メチャクチャ手が見えて早指しに定評の棋士です。いくら鈴木さんでも、腕力とか勢いだけでは倒せない相手のはず。しかし、両局とも、かなり居飛車が作戦勝ち気味になったのに、見事に中終盤力で力強くねじふせてしまいました。やはり、天才肌の棋士の一人だという感じがします。勢いに乗るとうるさそうなタイプなので、決勝の相手がどちらでも、優勝するような気がするのですが。

王将戦の主催は、スポニチと毎日新聞です。スポニチさんは、スポーツ紙らしく、娯楽色のある書き方をしているようで、特に使っている写真がなかなかどうして面白い。ネットでも見られるので、いくつか紹介しておきます。まあ、なんと言うか、説明は不要だと思うので、とにかくご覧ください。羽生さんも、久保さんも、プロらしく快く協力しているのですが、写真によっては、やや笑顔がひきつり気味に見えるのは、気のせいなのでしょうか(笑)。どちらにせよ、将棋というと暗くてお堅いイメージが強すぎるので、この程度の罪のない遊びは十分許されてしかるべきでしょう。しかし最後の「タナポタ」っていうのも、すごい表現だよねえ(笑)。羽生さんも、快くポーズをとっている場合じゃないって(笑)。
スポニチ Sponichi Annex 王将戦より

羽生が先勝!2日目は急展開
久保八段 粘って待望白星
タイトル戦の嵐! 羽生王将「大丈夫」
羽生王将 大逆転で4連覇
羽生王将 タナボタの余韻まださめず

昨日の夜遅く、スカパーをガチャガチャやっていたら(最近地上波をほとんど見なくなった 考えてみたらNHK杯と「ガキの使いやあらへんで」しか見てない)、囲碁将棋チャンネルで稲葉禄子さんがやっている「The PASSION!」に目がとまってしまいました。私は囲碁はルールに毛がはえた程度しか分かりませんが、この番組は先崎さんがなぜか出ていたこともあり、内容も面白いのでたまに眺めていることがあります。囲碁のアマチュアが、プロのインストラクターと打って棋力向上に努めるという番組なのですが、なんと若干六歳の女の子の青木咲和香ちゃんが登場。元気一杯で、なおかつ年が年なんで、言いたいことをストレートに言ってしまっていて、稲葉さんたちも完全にタジタジでズッこけてしまっていて見ていてとてもおかしいのです。とてもチャーミングなお嬢さんです。かつて、明石家さんまの番組に出ていた将棋少年を髣髴とさせる強力キャラなので、興味のある方はご覧になるといいと思います。ちなみに稲葉禄子さんがブログで写真をアップしていて、こんな感じのお嬢さんです。

今これをを書きながら、N響アワーで、ブロムシュテットが指揮するシューベルトのザ・グレートを聴いていた。
すごい名演。素晴らしい。
ブロムシュテットも80超えたのかあ。それにしちゃあ若すぎるぜ。
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