2009年03月

Soccer and Shogiーーイビチャ・オシム 朝日新聞インタビュー

3/26(木)の朝刊に掲載された「オシム氏に日本サッカーを聞く」が素晴らしかった。現在、オシム氏は、日本サッカー協会とのアドバイザー契約を終え、オーストリアのグラーツに居を構えている。
ーー日本について
「お米と豆腐が恋しい。東京の高層ビル、広告ネオンも懐かしい。日本の美しいスタジアムで美しい試合を見ることは、私を興奮させた。今はそれがない。恋しい。」

日本に住んでいると、中々その良さは分からない。むしろ、駄目な所ばかりに目につく。オシムのこの言葉には、何かハッとさせられるものがある。彼のような知性的な外国人から見ても、とても美しく感じられるTokyo。はるか昔に、映画監督のタルコフスキーが「惑星ソラリス」で首都高速道路を未来都市の情景として使った時に感じたような、外国人の視線で見た日本の文明に対する新鮮な驚き。
相変わらずオシムの表現は優美である。
ーー選手にとってW杯に出る重要性とは。
「例えをすると、世界でもっとも美しい声で歌うカエルがいたとしても、ミラノのスカラ座で歌わなかったのなら、そのカエルは(一流の)歌手にはなれないということだ。」

オシムは、現在の世界(西欧)のサッカーの動向に対しても距離を置いた冷静な見方をしている。彼自身、西欧の周縁のユーゴ出身であることを反映するかのように。
ーー欧州サッカーで何か変化を感じているか。
「サッカーが、より大きなビジネスになった。お金をいくら使うか、全てがビッグクラブの思うがままに動く。戦術とは関係なく、(お金をかけて)どんな選手を連れてくるかが重要になっている。負け始め、上位から落ちるとスポンサーは引き上げる。だから、いかに負けないようにプレーするか、になる。これでは美しい試合にはならない。日本がそうなったら意味はない。誰もが結果をすぐに欲しがるが、チームづくりというのは遠い道のりだ。」

サッカーやスポーツに限らず、世界的な傾向に対して、当たり前すぎて誰も言いそうにもないが誰かが言うべきことを、きちんと言っている。日本のサッカーだってある程度同じことは言えるのだろうが、世界サッカーの中で日本がおかれている立場を考えると、日本にはオシムの言う「美しいサッカー」をする可能性が残されている。そして、オシムがしようとしていたサッカーは、まさしくそういうものだった。彼がかつてユーゴでしたように、主流とは異なる「美しい」芸術的なサッカー。
ーー日本は不況といってもまだ経済的には豊か。それがサッカーに影響しているか。
「サッカーをプレイするのは難しい。走らなければならないいし、苦しまなければならない。やり方を学ぶ必要もある。成功したいなら、多くを犠牲にしなければならない。すべてに犠牲を払うのは難しい。両親、環境に恵まれ、車やオートバイ、テレビなどすべてを手にしたのならば、サッカーをすることが何になるのだね。そういうことはサッカーとは相反するものだ。」

彼にとってサッカーとは単なる仕事ではない。生きるとはどういうことかと深く哲学的に関連した行為である。サッカーは、現代的な享楽文明とは相反する要素を求める。オシムがよく言っていたように「まず、とにかく走れ」である。苦しみや犠牲を払った上でこそ達成できるもの、それがあるゆえに価値が高いもの。オシムにとって、サッカーとは、まさしく人生を生きることそのものなのだろう。
オシムの言葉を聞いていて、将棋のことを考えずにはいられなかった。将棋も、美しくプレーするためには、苦しまなければならない。サッカーで走らなければならないように、苦しんでとにかく手を読まなければならない。戦術を学び、犠牲を払って自己を高める努力をしなければならない。
現代のプロ棋士たちも、常にそういう行為を行っている。将棋を指すことは、恐ろしく苦しい行為のはずだが、それだからこそ素人にはうかがい知れない時間の充実、深く生きているという喜びがあるのだろう。将棋をわざわざ考えて指すのは、現代の享楽文明においては、明らかに変わった行為である。将棋のプロ棋士たちは、きわめて反時代的なヒーローたちなのだ。しかし、それは人間が本来生きるというのがどういうことなのかを、怠惰な生活に慣れきった我々にも思い出させずにはいられない営為でもある。だから、我々は、彼らの81枡内の激闘に熱狂できるのだ。
かつて、行方尚史が若い頃にこんなことを言ったではないか。彼は、とても現代的な青年だが、時代にそぐわない将棋の魅力を若い頃からちゃんと身をもって理解していた。
将棋に乗っとられ、なんだか体が重たくなっていき、街の空気が肌に合わなくなったが、奨励会で競い合うことが楽しかったから、日常なんてどうでも良かった。普通であることに、軽蔑にも似たあこがれも持ったが、「ジャンプ」を買って読むなんてことは想像もつかないことだった。
(竜王戦【梅田望夫観戦記】 (7) 羽生世代の信頼関係 より)

ものぐさ将棋観戦日記 3/30(月)−王将戦、NHK杯、銀河戦、詰将棋解答選手権

久保棋王の誕生を見届けて、これを書いている。タイトル挑戦五度目にして、念願の初タイトル。おめでとうございます。そう言えば、関西所属のタイトルホルダーも、何時以来なのだろう。
一方、佐藤さんは七年ぶりの無冠である。佐藤九段、森内九段。羽生世代のタイトルホルダーは、もはや羽生名人だけ。B級1組にタイトルホルダーが三人、A級はゼロ。今年の、将棋界はどうなっていくのだろうか。


毎日jp−将棋

王将戦はフルセットの末、羽生王将が防衛に成功した。
最終局は難しい将棋だった。素人が見てもそうなのだが、羽生王将も局後のインタビューで、やはり難しかい将棋だったと語っていた。また、本シリーズ中一番印象に残る将棋だったとも。
△8五飛戦法は、最近復活しつつあるが、羽生さんがタイトル戦のきわめて大切なところで採用したことで、さらにその傾向が本格化するのだろうか。横歩取りの将棋は、すぐにでも技がかかって一方的に成りそうなのに、お互いベストを尽くすと均衡が取れていて、きちんと囲ってないのですぐにお互いの玉に手がつくが、密閉型の囲いでない分、玉の逃げ道があり、また盤面全体を使った攻防手もでやすい。弱い素人には、そもそも形勢判断が難しい将棋なのだが、本局は指しているプロにとっても難しい将棋だったようである。プロ棋士ブロガーたちも、「週刊将棋を待つ」と口をそろえているので(笑)、素人には分かりっこない。
封じ手前後でも、特に深浦王位側に、もっと激しく行く順もあったのだが、珍しく自重していた。当然深い読みの裏づけがあってのことなのだろう。感想戦のポイントは、中継ブログによるとここだそうである。説明を聞いても、どう「難しい」のかもよく理解できないのが素人の悲しさだが(笑)、あそこまで進んでもまだベストを尽くせば難しい均衡のとれた局面だったということに少し驚いた。その後は、羽生良しになったそうだが、感想戦のコメントを読むと、なぜ別の手を選ぶと駄目なのか、両対局者がきちんと読みきれているのも凄いと思った。いつも以上に、本局では、プロがとても素人の及ばないレベルの具体的読みで指していることを痛感させられた。
何時だったか、深浦王位が「羽生さんと私は、読みは意外と合うのですよ」と言われていた。本局を見ていると、実際そうなのかもしれない。トッププロの力量にほとんど差がなくても、棋士ごとに指し手の個性、読みの傾向や癖にはそれぞれ違いがあるはずだ。それが対局の相性となって現れるのだろうが、この二人の場合、基本的な読みの室が合致していて、それがかみ合った上でのギリギリの勝負になっているのではないかと勝手に想像するのだが、どうだろうか。深浦王位が、羽生名人相手でも、一歩も後に引かない気合で指しているという精神面もあるかもしれないが、基本的に読みが合うので余計なことを心配しないで勝負に没頭できるという面もあるのではないかと感じた。
王位リーグの展開を見ていると、またしても今年もこの二人の組み合わせになる可能性も十分あるだろう。
そういえばスポニチさんの写真のことを忘れていた。これを紹介することが、私にとって最大の責務なのでであった?

あと1勝ながら蒲郡名物みかんワインの宣伝も忘れない律儀な深浦王位の図
羽生さんと深浦さんは映画ETですかの図
金目鯛と女将さん?に囲まれてご満悦の羽生王将の図

NHK杯は、女流枠の出場者決定戦だった。タイトルホルダー四人が登場したが、里見さんが初お目見え。テレビの映像で指すのを見るのは初めてなので、決勝でじっくり見たかった。などといったら、LPSAファン失格の烙印を押されるだろう(笑)。決勝は里見さんを破った石橋さんと、清水さんを破った矢内さんの組み合わせに。ここは、LPSAファンとして猛省して(笑)、石橋さんを応援して見ていたのだが、矢内さんの内容が素晴らしくて、快勝だった。
解説は森内九段、聞き手は中井さんだったが、特にどちらに肩入れすることもなく、また話術も巧みで楽しく見ることが出来た。最近になった改めて気付いたが、中井さんは本当に聞き手としても名手中の名手である。とにかく人柄が抜群に良い。感想戦でも、矢内さんと中井さんが話している様子は、とても雰囲気が良くてよかった。甘いといわれるかもしれないが、決してあの雰囲気は嘘や取り繕ったものではないと思う。もともと、そんな険悪になるような人たちじゃないのだ。そもそも、現在のようなことになってしまっているのがおかしいのである。


囲碁将棋チャンネル(銀河戦のページで棋譜閲覧可能)

Dブロック 長沼七段VS片上五段。後手長沼ゴキゲンで、後手片上丸山ワクチンの形に。後手がうまくやったように思えたが、片上五段が決断の角切りからうまく攻めをつないで勝った。聞き手の千葉さんが、番組冒頭あたりで片上さんをこのように評していた通りの展開になった。
形勢が苦しくなっても、細々と攻めを続けてきて、いつまでもしぶといという印象ですね。
相変わらず千葉さんはうまいことを言う。


詰将棋解答選手権 速報ブログ

宮田五段が、ただ一人の全問正解で完全な優勝。「絶対王者」の看板に偽りなしだった。広瀬五段が、第一ラウンドで解答時間で宮田五段を上回る健闘を見せたが、第二ラウンドで惜しくも一歩及ばず。里見さんも、初出場していたが、第一ラウンドでは全問正解と、こちらも大健闘だった。何人かの男性プロよりも、その時点では上回っていた。やはり、詰将棋を解く力、それと関連する終盤力が女流では傑出しているのだろう。
出場選手に、成績の上下がつくのは仕方ないが、そもそも出ているブロたちは自信もあるし実際並外れて詰将棋を解くのがずば抜けて速い人たちなのだろう。渡辺竜王(夫妻)が正直に書いてくれているので(笑)、とにかく出ている人たちはその時点で無条件にリスペクトすべきなのだと理解できる。
今回は、ブログで大会の模様を中継するという初の試みをしていた。なんだか、学校のテストを実況中継しているようで面白かった。あの谷川先生も、ご覧の通り、学生のように大人しく机に座ってテストに取り組むのである。

藤井猛「相振り飛車を指しこなす本 3」(浅川書房)



第一章 二枚金VS高矢倉
第二章 高美濃VS高矢倉
第三章 高美濃VS平矢倉
第四章 手筋と決め手
第五章 △3三角戦法(基礎編)

第三巻では、矢倉の戦いを説明している。相手が向かい飛車にしてきた場合、矢倉にすれば飛車先交換を防ぐことが出来る。
本シリーズで特徴的なことなのだが、相手がこういう出方をするなら自分はこうする、さらに相手がそれに対してこう対応するならこちらも別の対応をするという形で叙述が進んでいく。定跡を学びながら、どのように相振り飛車の指し方の歴史が進化していくのかを理解することが出来る仕組みである。
本書の流れで言うと、高矢倉に対して二枚金で堂々と矢倉攻略を目指すとなかなかうまくいかない。従って先手高美濃にすると、主導権を握って作戦勝ちにしやすくすることが出来る。それに対して、後手は3筋の歩をつくのを保留する。あるいは、第三章のように平矢倉に組んで攻めの争点をつくらないようにする。その場合は、お互いに攻めを牽制して、飛車を振り直して互角の戦いになる。
このように、相手の出方に応じて常に敏感に対応する必要があるのが相振り飛車である。
また、後手が△3四歩と保留して場合によっては角と桂で端攻めを狙ったり、平矢倉に対して先手が▲8六歩のまま保留して、桂が跳ねたり端攻めする余地を残す。これは、居飛車の飛車先の歩をつくのを保留するのとと同じ発想である。
また、第二章で高美濃で作戦勝ちになった場合、急いで攻めずに銀冠に組み替えて相手の攻めを完全に防ぎ、相手の無理攻めを誘うという高度な考え方も説明されている。とても現代風の指し方だ。
この藤井の相振り飛車シリーズは、定跡講義であると同時に、現代将棋の考え方も自然に学べるようになっているところが魅力といえるだろう。
第三章では、藤井の実戦から例を取って、相振り飛車の指し方の感覚を説明している。
第四章は、第四巻画で詳説する△3三角戦法の基礎編である。△3三角戦法といっても、勿論現在流行の居飛車相手のものでなく、三手目に▲6六歩と先手が角道を止めてきた場合に、自分は角道を通したまま振り飛車にする指し方である。
その章の中に出てくる藤井の格言に「囲いは決めないのがベスト」というのがある。相手の出方が分かるまでは、自分もそれに対応できる囲いに出来るようになるべく態度を保留るのがよいという意味。これも、現代将棋の考え方そのものといえるだろう。

ものぐさ将棋観戦日記 3/25(水)−順位戦B級2組、けやきカップ、詰将棋解答選手権

名人戦棋譜速報

松尾七段、豊川六段が昇級を決めた。
松尾七段は本命視されていての昇級。囲碁将棋ジャーナルで橋本七段が「このクラスで一番強い人とがあがりました。」と言っていた。今のところ派手な活躍はないのだが、同業プロ棋士の評価が滅法高い。玄人受けするタイプである。今期は直接の競争相手の先崎八段を、素晴らしい内容の将棋でくだして自力昇級の権利をつかんだ。もともと実力は申し分ないといわれていたが、勝負強さ、逞しさも兼ね備えてきたのだろう。
所司門下で、もともと将来を嘱望されていた。むしろ、デビュー当時は、同門の渡辺竜王よりも評判が高かったくらいである。その後、すっかり実績では追い越されてしまったが、ついにB1という同じクラスにまで追いついた。来年は、当然A級昇級候補の一人だろう。特に、渡辺vs松尾線は楽しみである。
豊川六段は二年連続昇級の快挙。四十代に入ってのこの活躍は同世代にとって励みになるだろう。棋譜速報のインタビューでは、かなり謙虚な発言に終始していたが、実力がなければ二年連続の好成績は不可能である。豊川先生は、棋界有数の筋肉マンとしても有名だが、将棋も力強い。力勝負に持ち込めば、どんな相手であろうが戦えるという自信が、ご本人にもおありなのではないだろうか。
我々一般ファンには楽しい「オヤジギャグ解説」(失礼な言い方だけど、ご本人も認めていられるようなのでお許しください)で親しまれている。B1にあがったので、解説の機会も増えればいいなと思う。ここは一つ、先生お得意のダジャレで、お祝い申し上げよう。
豊川先生、昇級されて と ても よか ったと思う わ
私にはダジャレの才能はない。そもそも、これはダジャレとはいえない。さらに言えば、ダジャレの才能など欲しくもない。

LPSA1day中継サイト

LPSA1day 第2回 武蔵の国 府中けやきカップが、中倉姉妹の地元の府中で二年連続開催された。無料での解説イベントも行い、盛況だったようである。中継ページを見ても、地元府中の団体や企業がが一体となって支えているようである。無料で行えるのも、地元の協力があってのことなのだろう。当然、こうした活動は、地元への有効な将棋普及にもなっている。是非、今後も定例イベントとして定着するといいですね。
優勝は石橋さん。今後、LPSAの公認プロ制度によって、新たな有力な選手が1dayにも登場するかもしれないので、楽しみである。

詰将棋解答選手権 速報ブログ

チャンピオン戦が3月29日(日)、今週の日曜日である。当日の模様も、勿論このブログで伝えられるはずである。
このブログは大変精力的な更新を行っていて、読み物としても楽しい。「絶対王者」(ヴァンダレイ・シウバみたいですね)の「スーパーあつし君」こと宮田敦史五段へのインタビューは必読である。将棋界の一番長い日のBS中継でも圧倒的な存在感を見せていた彼だが、あの時はとても言葉少なな印象だった。だが、普段は結構喋るようである。
−−詰将棋にのめり込むことになったきっかけは?
宮田「解き始めたのは小さな子供の頃だから、そんなに深い事、難しい事は考えてないと思います。自分に合ってるとかそういう風に考えていたのではなく、本能なんだと思います…ちょっと長くなるんですけど、いいですか?」

−−はい、もちろん。
宮田「一桁の年齢の時以来、5年間以上も毎日ジャムサンドとホットミルクしか飲み食いしていないという少年がいたそうなんです。その子も深い理由があってそうしていたのではなく、ただそうしていたという…詰将棋が面白い、ジャムサンドが美味しいというのはあったと思いますが、やはり少年ならではの本能という気がします」
この比喩にはぶっとんだ。自分のことのをこういう比喩で語ってしまっているのがすごい。
打倒宮田の有力候補は、谷川先生で、そのインタビュー1 2もある。さらに、並み居る有力プロが解けないような詰将棋をつくって楽しんでいらっしゃる?若島正・実行委員長のインタビューもある。宮田五段が、「若島正さんが出場したら、間違いなく負けると思います。」という方である。
その若島さんが、昔どうしても解けなくて詰将棋にはまるきっかけになったという5手詰めも紹介されている。
出場メンバーは、以下の通り豪華である。関西の若手がどれだけやるか。里見さんがどの程度健闘するかなど、とても楽しみだ。なお、この表はこのページからブログにはることが出来る。

NHK杯決勝 羽生名人vs森内九段

決勝にふさわしい名局になって堪能した。
先手森内で、相振り飛車に。先手向い飛車、後手三間飛車で、後手の羽生が3筋の歩を交換してきた
NHK羽生森内aaaaa09Mar2324手

藤井九段の相振りの本を読んでいると、3筋の歩を交換してくると先手は高美濃矢倉銀冠から自由に選べて損な意味があるという考え方もあるようだが、羽生は平矢倉から一つ玉を横に移動して囲いを省く形にコンパクトにまとめて、とにかく先攻していこうという作戦だったのだろうか。とにかく、相振りというのは指し方の幅が広い。定跡が以前と比べれば整備されてきたとはいっても、まだまだ新たな指し方の可能性があるのだろう。
その羽生の足早な攻めに対する森内の受け止め方がすごかった。受けるにしても、とにかく強気に形にこだわらずに相手の攻めを力で押さえ込んでしまおうという指し方。▲2六歩と受けて、相手が歩をついて攻めてくるのも堂々と受け止める。渡辺竜王が解説していたように後手からは角打ちの筋が色々あって気持ち悪いが、▲4八玉と玉自ら相手の攻めを封じにかかる。さらに、悩ましい▲3六歩にも形にこだわらず▲3六同金寄とすると、流石の羽生もどう攻めればよいのかという局面になった。森内の剛直な受けに、さすがに羽生も手を焼いている感じだった。
NHK羽生森内bbbbb09Mar2355手

さらに、▲3二銀と押さえ込まれ、羽生も暴れるが銀損の攻めで、流石にそのあたりでは、はっきり森内が良いのだろう。しかし、羽生もなんだかんだと手をつないで差を広げない。少しぼんやりしたような▲8五桂のような攻めでも、成り桂を作ってじっと寄っておくといやらしい。続いて、△5六歩から森内玉の頭上に金銀が並ぶ形になった時は、むしろ羽生が有望になったかと渡辺竜王。
NHK羽生森内ddddd09Mar2398手

しかし。森内も銀を見捨てて玉がスルスルと端へ逃げ込むと、羽生もなかなか寄せが見つからない。このあたりのどちらかに傾きそうでも持ちこたえる両者の攻防だけでも、既に見ごたえ十分だった。しかし、本局はこの後がすごかった。
森内がどうやら羽生の攻めをしのいで▲5五角と攻防に打ったあたりでは、また森内優勢がはっきりしてきた。しかし、羽生も△1五角から△3七角成を見せ楽にさせないが、森内はここできめに出た。
図が本局のハイライト。森内が▲5二金と迫ったの対して、羽生が△9四歩と、スッとついたところ。
NHK羽生森内eeeee09Mar23120手

▲5二金自体は詰めろ。端がついてないとわりと容易に詰む。先手玉は何か駒が入れば詰むが、とてもそうなりそうにはない。ところが、端を一つ突いただけで、詰むかどうかがたちまち怪しくなるのだ。詰まなければ駒を渡してしまうので、先手玉が詰まされてしまう。こんな手を秒読みで指された方はたまらないだろう。実際森内も間違えたのである。森内だけでなく、渡辺も流石に短時間では詰みを読みきれなかったようである。
図では▲6二金とすればよかった。△8二玉とすれば詰まないようだが、それだと後手に駒が入らないので▲6三金ぐらいで一手一手だろう。▲6二金を△同玉と取ると、以下の手順で詰む。(古い東大将棋で調べた手順をそのまま書くが、もっとスマートな順もあるかもしれない。)
▲6一金(△同玉は▲6三龍以下詰み)△7二玉▲5二龍△6二桂▲同金△8二玉▲7三角成△同桂▲6三金△9三玉▲8二銀以下詰み
こう書くとさほど難しい詰みではないように思えてしまうのだが、やはり秒読みでこんな手を指されたら動揺してしまうのだろうか。△9四歩の瞬間に、森内の表情は変わらなかったが、口に手やあごにも手を当てていたのが、勝手読みすると心中の動揺をうかがわせているように見えた。解説の渡辺竜王は、例によって素直にストレートに驚いて、「これはあせりますね。」
しかし、まだ森内はここでも負けにしたわけではなかった。▲2一飛成に△5一歩と受けた場面。
NHK羽生森内fffff09Mar23122手

実はここでもまだ詰みがあったのだ。
▲6二金△同玉▲5一龍△同角▲6一金△7二玉▲5二龍△6二桂▲同金△8二玉(△同角には▲8二金)▲7三角成△同桂▲5一金(△7二に合い駒しても▲同龍以下詰み)△9三玉▲8二銀△8四玉▲7三銀不成△同玉▲6二角以下詰み。
また、▲6二金に△8二玉と逃げても手順は省くが長手数の詰みが生じていた。
その後森内は詰まないことを悟った瞬間に顔を手で随分長い間覆っていた。さらにお茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。渡辺竜王も「△9四歩はすごかったなあ」と何度も繰り返していた。
以下幾ばくもなく森内投了。途中までお互いの持ち味が出て熱戦が続いた上に、最後に飛び出した△9四歩。厳密には、森内に正しく指さされれば負けだったわけだが、そうだとしてもインパクトが強すぎる勝負手だった。

NHK杯の羽生といえば、かつて加藤一二三戦で指した▲5二銀が有名すぎるが、また新たな伝説が一つ加わった。









ものぐさ将棋観戦日記 3/19(木)−棋王戦、順位戦C級1組、天河戦

棋王戦中継サイト

棋王戦も、王将戦に続いてフルセットに。先手久保八段の四間飛車に対して、佐藤棋王が採用したのは急戦の棒銀。現在は、振り飛車側の対策が進んでいることもあり、指すのは加藤一二三先生くらいになっている。それを、敢えて佐藤は負ければタイトルを取られる一局にぶつけてきた。本当に思い切った作戦を用いるし、なんと言うか、とても男らしい。
しかし、驚いたのは下の図で、既に前例がないということである。
佐藤棒銀(新規棋譜)1手

ごく普通の棒銀の図に見えるが、よく見ると細かいところで色々違う。
\莠蠅藤井システムの出だしなので、急戦には普通は▲5六歩が先なのに、▲4六歩がついてある。そのため、棒銀に対して常套的な角を6八から5七、あるいは5九から4八の動きが使えない。
居飛車も普通は△5三銀左から△4ニ金直と中央を厚くするのを省いて△4ニ銀型のまま仕掛けている。
▲9六歩を先受けしている。9五には角がきいているので、すぐ受ける必要はないが。
さ鑒車も単純な棒銀だけではなかなかうまくいかないので、△6四歩もついておいて組み合わせるのだが、それも省略してある。
要するに佐藤が最もシンプルな仕掛け方をしたのが工夫だったのだろうか。本譜では▲7五歩として、棒銀を捌かせながら▲9五角と幽霊角で反撃する順になった。部分的には定跡ということだが、本来振り飛車側としては7五の歩を極力いじらないままにして棒銀を弁慶の立ち往生させようとするのが基本的な考え方である。だから、本譜の対応は振り飛車側としては少し不本意なのではないだろうか。
佐藤が仕掛けで一本取ったようだが、さらに△9四歩が佐藤工夫の一手だったそうである。しかし、この辺は振り飛車側もベストを尽くせばまだ難しいところもあったらしい。棋王戦中継ブログに、この局面についての感想戦の詳しい解説があるので参考になる。
優勢になった佐藤は、力技で最後は押し切った感じである。前局といい、久保の技を佐藤が力ずくで押さえ込むという、らしい展開になった。最近の流れだけ見ると佐藤ノリが多いかもしれないが、最終局は一発勝負なのでどうなるか分からない。


名人戦棋譜速報

順位戦C級1組。窪田六段が逆転昇級を決めた。前局といい、最終局といい、大変な超手数の激戦を制しての勝利。執念が実ったという感じである。
一方、広瀬五段は相手の宮田敦五段に、よりによって最終局で本来の実力をフルに発揮されてしまったという感じだろうか(笑)。やはり宮田敦は強いと感じさせる一局だった。
広瀬五段の天才的な将棋は、とても魅力的だ。早く上の相手と戦うところを見たかったので残念ではある。しかし、彼は実力があるので、単にそれが少し遅れたというだけのことだろう。どう考えても、結局は自然に上がっていくはずの棋士なので。



NTTル・パルク杯天河戦中継サイト

天河戦は、さすがに中井さんが連勝して終わった。しかし、第二局も、途中まではむしろ成田さんペースだった。成田さんは、まだ中学二年生でとても若い。そういう年齢だと普通ならまだ序盤が荒くて欠点ということが多いはずだが、中飛車を実にうまく指す。現在は、中飛車全盛時代だが、やはり作戦として、とても優秀なのではないかと感じた。
将棋まるごと90分で、女流ネット最強戦のインタビューが流れていた。とても嬉しそうだったが、最近はほとんど自分より若い相手と指すのにもすっかり慣れましたと言って笑っていた。
しかし、中井さんだって、いつまでたっても本当に若々しいままですよね。

・・・あれっ、本当に素直な気持ちを言ったのだけど、こうして文字にしてしまうと、見え透いたお世辞のような感じになってしまうのはなぜだろう(笑)。

藤井猛「相振り飛車を指しこなす本 2」(浅川書房)



第一章 二枚金VS美濃囲い
第二章 美濃囲いVS美濃囲い
第三章 手筋と決め手

第二巻では、美濃囲いの戦いについて解説している。なお、シリーズを通じて、本の形式は各ページごとに設問があり、次のページに答えと解説があるというやり方。「四間飛車を指しこなす本」シリーズなどでも、おなじみの形式である。普通に読んでいて自然に定跡が頭に入るには、一番よい形式だと個人的には思う。
また、藤井の叙述の仕方というのは、単に定跡を述べていくのでなく、定跡がなぜそのように変化していくのかについて、その歴史を明らかにしようとする意識が常に伺える。自分がこうすると、相手はこう工夫する、さらに自分はこのように対抗するという、進化の歴史に沿って定跡を説明していくのである。そういうところが、読んでいて面白い。
また、具体的にその歴史の進歩の仕方が、「後回しできる手は指さないで後回しにする」という現代将棋の理念に沿ったものになっている。矢倉の飛車先不突きが代表的な例だが、この相振り飛車でもそうで、無駄に飛車先交換をしない、さらにそもそも位を取らない、囲いも早く高美濃にしないなど、なるべく相手の出方が分かった上で自分の態度を決めるというのが、基本的な考え方である。そういう、現代将棋の考え方そのままに定跡が進んでいくのが、読んでいて興味深いところである。単なる定跡書にとどまらない奥の深さのようなものが、常に藤井の本にはある。
例えば、第一章の二枚金VS美濃囲いについて、大まかな流れをまとめてみるとこうなる。
後手三間飛車から、三筋の歩を交換するのに対し、先手は▲3七歩と受けて二枚金。後手が美濃囲いを目指す。
先手は、「三間飛車には角交換」の格言通り、▲6五歩と角道を開ける。
後手が△4四歩と受けたら、先手は▲6六角から▲7七桂の伸び伸びした攻撃形を築ける。
従って、△4四歩でなく△5五歩と位を取るのが後手の狙い。先手の対応によってはうまく反撃が決まる。
それに対して先手は▲6六銀と構えるのがベスト。
その際飛車交換の激しい変化になる可能性があるが、その際後手は攻撃態勢を築くのを「後回しにして」端歩を突くのが好手になるケースがある。
先手が最初に▲3七歩と受けずに、矢倉を目指す指し方がある。そうすれば、後手はあたりを避けるために浮き飛車には出来ず、先手も十分戦える変化になる。
したかって、後手はそもそも3筋の歩を急いで交換するのは「後回し」にするべき。
そこで、後手は高美濃から5筋位取りをする。
それに対し、▲9六歩に△9四歩と受ける形の場合、先手は端攻めを狙う。
後手は、端攻め緩和のために3筋の歩を交換する。
しかし、先手には形を保留しながら端にアヤをつけておく手段があり、後手は面白くない。
従って、△9四歩と受けないで、3筋の歩交換から浮き飛車にしておく。
それに対して先手は▲6八角から▲7七桂の形で端攻めをする。
それが厭なので、後手はさらに形を決めるのを「後回しにして」、後手が8筋の歩を交換してきた瞬間に、自分も3筋交換しておく。その場合、お互いが慎重に指せば形勢互角。
と、第一章を簡単にまとめるつもりが、長くなってしまった。分かりにくい要約になってしまったかもしれないが、相手の出方によって、敏感に対応しなければいけないことは理解していただけるだろう。まるでいたちごっこのように主導権の握りあいで、もしこの辺の呼吸が深く理解できれば、相振りも指して面白い戦法なのかもしれない。
結局、藤井の言うように「相振りはセンス」なのだろう。


ものぐさ将棋観戦日記 3/16(月)ー女流ネット最強戦、順位戦B級1組、棋士誕生、NHK杯、銀河戦、将棋世界

大和証券ネット将棋公式ホームページ

大和証券女流ネット最強戦は中井さんが優勝。相変わらずLPSAの代表としての重責を果たしながらの快挙である。中井さんの今までの実績を考えると、快挙という表現は失礼なのかもしれないが、やはり両立するのは大変なことだと思うので。むしろ、代表なってから一時期、不振状態が続いていたのに、ズルズル行かずに、最近全般的にしっかり巻き返してきているのがすごいことである。子供と一緒に戦っている岩根さんといい、やはり母は強しである。
将棋は、穴熊の上田さんがうまく食いついて、中井さんがちょっと苦しめに見えた将棋を、終盤何とかうまく残して、やはり底力を感じた。上田さんは、石橋戦、斎田戦に続き、またしても面白い終盤でみせてくれた。チャンスもあったようで惜しかったがまだまだ若いし今後いくらでもチャンスはあるだろう。今回はファンにアピールする良い機会になったはずである。
上田さんは事前にブログで、解説の羽生さんに一手でも褒めてもらいたいと書いていた。羽生さんは聞き手の矢内さんに上田さんの性格などを聞いていた。
矢内女王 > ええ、裏表が無いんです。上田さんは。
羽生名人 > そういう感じがしますものね。
矢内女王 > 素直ないい子です。
そういう感じがするって(笑)。指し手だけでなく、人間性も認めてもらえたのだろうか。羽生さんは「手が当たらない」という言い方を盛んにしていたが、本当は、ここはこうすべきと羽生さんなら言ってしまってもいいのだが、そういう謙虚な言い方をするのが、いかにも羽生さんらしいと思った。


名人戦棋譜速報

井上八段に続いて、高橋九段が昇級を決めた。最終局も、最近高橋九段の後手番の活躍を支えている△8五飛戦法で、ほぼ完勝だったようである。高橋九段というと、重厚でじっくりした将棋という印象だが、8五飛をいまや主力戦法にしているのが、少し不思議な感じである。
一方、先手番では相変わらず高橋の矢倉が猛威をふるっている。渡辺竜王が、去年B1に上がってきた時は、多分楽々とこのクラスを抜けるのだろうと思っていたが、その初戦で当たったのが高橋九段。先手の矢倉で見事な将棋を指して、いきなり竜王の出鼻をくじいた。あの一局というのは、勝った高橋にも負けた渡辺にとっても、とても大きい将棋だったような気がしてならない。
我々の世代からすれぜ、高橋九段は、もともとA級の格の棋士である。現在のA級は、過去のどの時代よりも過酷だが、高橋、井上の両ベテランがどういう活躍をみせてくれるか、楽しみである。
それにしても、来期のB1は大変だ。深浦、鈴木、渡辺、久保、この内の二人しかA級には上がれない。他にも、昇級する力のある棋士ははいくらでもいる。今年以上に昇級者を当てるのが難しそうである。

asahi.com 将棋・新四段に澤田三段と大石三段 89年来の関西独占

奨励会三段リーグの結果、関西勢二人がプロ棋士になった。二人ともとても若い。ここのところ、関西の若手の勢いが凄まじい。糸谷、豊島の現役に加え、今回の二人、さらにまだまだ強い子が奨励会にいるようだ。なぜ、関西から、これだけ続々と有望な人間が現れてきているのだろうか。
以前は、やはり情報の面で東京在住が有利という時代もあったが、現在はネット等で全国どこにいても、情報を遅れずに得ることができるし対局もできるということもあるだろう。また。最近のプロ将棋が、定跡研究がどんどん進む一方で。最後は自分の力で指すという傾向もあり、もともと力将棋の関西にあっているということもあるのかもしれない。
しかし、それ以上に、羽生世代に才能のある人間が極端に集まっていたようなことが、現在の関西の若手にも起こっているような気もする。関西ボーイズ?から目が離せない。

NHK杯、佐藤NHK杯の史上初の三連覇はならず。しかし、将棋は魅せてくれた。3六歩を突いて▲2七銀、さらに▲5六歩と突き出す。どこまで常識破りを出来るか限界に挑戦というような面白い指し方だった。しかし、森内九段にうまくとがめられてしまった。
決勝は、羽生vs森内。去年の名人戦から、もう一年たつのだなあ。


囲碁将棋チャンネル(銀河戦のページで棋譜閲覧可能)

銀河戦、Gブロック 田中魁九段西尾五段。後手西尾の四間飛車穴熊に対して田中がうまく攻めてはっきり優勢に。しかし、田中も優勢を意識して固くいったつもりの▲4四香が問題で、もつれて逆転負け。終盤でも一気に勝ちにする順を逃して惜しかった。
久々に解説の石田節を堪能した。
でえっと、飛車先を突いていけば。
おしまいよ、穴熊にはこの桂で。
あっ、あっ、あっ、あっ。詰みますね。
聞き手の本田さんも、何度も笑わされてしまっていた。また、とても筋の良い手が見えて、そういう指し手をすぐ指摘してくれるので勉強になる。感想戦では、田中魁と石田が猛口撃を西尾にかけていておかしかった。西尾も素直に言うことを聞いてすっかり恐縮しているのもよかった。NHK杯の石田vs北浜、解説加藤一二三の時のような感じだったのである。
田中魁 筋の悪い手をやってくるなあ、思うてな。冷やかしや思うて。
石田 (田中がうまく攻める順を指摘して)これはいいねえ、これはいいねえ。(と繰り返す。西尾苦笑)


将棋世界4月号。佐藤棋聖が棋王戦第一局を自戦解説している。相変わらず、読みの内容を惜しげなく披露していて濃密な内容なのだが、それ以外にも文章にサービス精神があって面白い。
えっ、もっと対局前に研究しておけばって?はいはい、分かっていますけどね、なかなか全てを網羅するほど時間はそんなにないんですよ。
もともとふざけた奴がふざけたことを言っても全然面白くない。(私みたいに)しかし、佐藤さんみたいにとびっきり真面目な人がこういうことを言うとおかしくて仕方ないのである。
小暮克洋記者の「渡辺明物語 中」では、渡辺夫妻の馴れ初めについて、かなり詳しい話が。渡辺夫妻のブログのファンも、指さない将棋ファンも、これは必読でしょう(笑)。
トップ棋士と関西新鋭の差しみ二番勝負は好企画である。現在の関西の若手は、本当に要注目なので。まだ、角落ちは現れてないが、逆に糸谷五段は深浦王位を平手でも負かして二連勝。今回は渡辺竜王Vs豊島四段だが、勝敗以上に内容でほぼ互角に渡り合っているのに驚く。好評なようで、この企画はまだしばらく続くようである。


ものぐさ将棋観戦日記 3/12(木)―王将戦、順位戦C級2組

毎日jp 将棋

王将戦は羽生王将が勝ち、またしてもこの二人のタイトル戦は最終局までもつれこんだ。後手の深浦王位が△3三角戦法から、飛車を4筋から5筋へ振りなおすというかなり斬新な構想を見せた。思い切った手をどんどん出してくるのは、羽生相手にある程度は意図的にしていることなのだろうか。
将棋自体は、またしても片方に形勢が大きく傾いたまま終局を迎えるという、この二人の最近のお決まりのパターンに。序盤か中盤の入り口にかけて、双方とも全く妥協せずに厳しく主張をぶつけ合うので、こういう展開になりがちなのだろうか。本当に厳しくて遊びのない感じのする将棋である。
感想戦で、「△4四角と打てないのは悔しいと思った」と深浦王位。とあるのを見ると、深浦が羽生相手でも全く気合負けせずに強気に指しているのがよく分かる。こういう、少しもひるまないところが、羽生相手に対等に戦えている秘訣なのだろうか。
最終局も、厳しくてスリリングな将棋になるのだろう。今までは一方的な将棋が多かったが、なんとなく最終局だけは最後までもつれる大接戦になるような気がしてならない。

名人戦棋譜速報

順位戦C級2組は、大平、田村、戸辺の三人が昇級を決めた。ブロガー棋士が二人。棋士の中でブログをしている人間の割合を考えると、全般的にブロガー棋士の活躍が目立つ。だから、プロ棋士の皆さん、成績を上げるためにも、どんどんブログをしましょう(笑)。
大平五段は、自身も前例のある将棋を延々と辿り、本当に終盤の段階で手を変えて、それがうまくいって直後に勝った。大平五段のブログを拝見していると、将棋以外にも、お馬やら小型船舶やら自転車やら中国伝来の牌遊びやらにも興味関心があり造詣も深いようである。何となく今回の将棋の内容は、最後の手の変え方など、そういうところを感じさせるもののような気がした。というのは悪い冗談です。将棋自体は、本格派正当居飛車党の大きい将棋ということである。おめでとうございます。
田村六段は、なぜまだC2にいたのかという先生で、あがるのが遅すぎたくらいだった。とにかく早見え早指しで腕力抜群の、いかにもプロらしい将棋である。変な比喩だが、仮に私がプロに六枚落ちで教わるとして、さすがにいくらなんでも羽生さん相手でも勝てるような気がするが、田村さん相手だと下手すると負かされるかもしれないというようなタイプの棋士である。意味不明だが、力でねじ伏せる豪腕の将棋指しという程度の意味です。田村六段の場合、クラスがどれだけあがっても相手に力負けすることはないだろうから、これからも楽しみである。
戸辺四段(五段に昇段)、ラス前で痛い一敗を喫したが、その悪い流れを断ち切って見事逆転昇級。現代将棋を象徴するような力戦振り飛車の申し子で、ブログも書き普及活動も熱心という、新しいことにチャレンジしている新しい世代の棋士である。昇級の将棋は普通の振り飛車になったが、相穴熊の将棋を完全に受けきって不敗の態勢を築き上げて勝ちきった。ブログによると「沢山のコメントありがとうございます。読んでいたら、嬉しくて涙が。」ということだそうである。最近戸辺さんの本を紹介したので、昇級祝いに買ってあげたらいかがでしょうか(笑)。
しかし、なんといってもあの日の主役はあくまで有吉先生だった。当日には、中原先生の引退という寂しいニュースも飛び込んできたが、73歳の有吉先生が、素晴らしい内容の将棋を指して勝ち、引退を回避した。アッバレである。

毎日jp将棋:名人戦C級2組 有吉九段が降級免れ現役続行
有吉九段は「最後の1局になるかもしれないので一生懸命指した。将棋が好きなので、あと1年指せるという喜びは大きい」と語った

有吉先生のこのはちきれんばかりの笑顔。
名人戦棋譜速報にも詳細なインタビューが掲載されていて、指す相手は子供どころか孫の年齢だとか、体力的には限界が近づいているがまた一年頑張るとか、いちいち泣かせる。
しかし、渡辺竜王の言うように、「C級2組での降級点回避を快挙と扱うのは有吉先生に失礼なのかもしれませんが」というのも全くその通りである(笑)。めでたいのでつい忘れてしまうが。
さらに、将棋界の尾張の美濃姫も、有吉先生に胸とききめかしていたようである。いや、表現が適切でない。あくまでも有吉先生の将棋に対してである、まあ別にそれ以外でも別に構わないのですけれども。
世のプロ棋士の皆さん、ベテランも中堅も若手も、とにかく将棋は一生懸命指さないといけません。どこでどんな乙女がひそかに胸ときめかしているか分かりませんぞ。

藤井猛「相振り飛車を指しこなす本 1」(浅川書房)



第一章 二枚金VS二枚金
第二章 矢倉と矢倉崩し
第三章 穴熊登場
第四章 穴熊への攻め

藤井猛の名著「四間飛車を指しこなす本 1」のまえがきより。
「四間飛車の極意を一言で言うと何でしょうか?」
ファンの質問に私はいつもこう答えています。
「相手の力を利用して、投げる、でしょうか。」
そして本書のまえがきより。
「相振り飛車を指しこなすコツはなんですか?」
インタビューで聞かれて、私はとっさに答えました。
「センスです。」
アマチュアで相振り飛車が得意だとか大好きだという人はあまり多くないだろう。振り飛車党なので、相手が振ったらやむをえず自分もというケースが多いのではないだろうか。定跡もきちんとしたものはないし、局面が漠然としていて狙いを定めにくい。かといって序盤を適当に指していると、あっという間に作戦負けに陥って挽回も難しい。アマチュアが敬遠する要素が揃っている。藤井も最初は相振り飛車を避けていたそうである。しかし、力戦の典型と思われていた相振り飛車にも「勝利の方程式」が存在することに気がついて指すようになったという。本書は、藤井の相振りシリーズ四冊のうちの第一作である。
本書では目次の通り、かつては相振りといえ代名詞的な囲いだった二枚金から解説を始めている。現在プロでは激減した囲いだが、相振りの感覚の基本を学ぶことが出来る。また、相振りの場合は一直線の定跡というよりは、飛車を振る場所と囲いの様々な組み合わせによるパターンによる狙いの組み合わせという面があり、部分の場面や形の手筋を習得しておくことが重要である。従って、この二枚金の部分も決して無駄にはならないし、相振りの形では応用のきく基本手筋のエッセンスがぎっしりつまっている。
続いて、矢倉囲いについて。矢倉にも長所短所があり、相手が浮き飛車のときに盛り上がっていくと効果が発揮するが、相手がきちんと攻めの態勢を作ると受ける展開にもなりがちである。また、居飛車の矢倉とは全然違う受けの手順、感覚が必要である。そもそも、玉の位置からして、2八が定位置というわけでなく、場合によっては4八のままが良く、展開によっては深く囲うなど柔軟な考え方が必要である。
さらに、矢倉崩しをするために出てきた穴熊を解説している。理想的な形を築き上げることが出来れば、かたい穴熊から矢倉を気持ちよく攻めまくることが出来る。
それに対し、相手が穴熊にした場合、すぐに態度を決定せずに二枚金にして、穴熊を端攻めする方法が解説される。穴熊に対する端攻めというのは、桂香を取り合って打ち合うのでややっこしいが、それを藤井らしくきちんと体系化して説明している。
本書の展開通り、常に相振りの場合には、相手の出方を見て、囲いを何にするか、どういう形の攻撃態勢をとるかを、局面を敏感に反応して考えないといけない。従って、結局は、藤井の言う「センス」がものを言うというわけである。
本書を通読していると、漠然としてよく分からなかった相振り飛車という戦型の作戦の構図が自然にはっきりと見えてくる。相変わらず藤井らしい精緻な整理、体系化がなされていて、やはり優れた相振り飛車定跡本といえるだろう。
といっても、まだ第一巻。これからやっと美濃囲いが登場する。相振りの世界は広い。全部定跡を自分のものにするのは大変そうだが、しかし単に読み物のとしても面白いと感じた。

というのが、まだ第一巻だけを読み終えた感想です。

ものぐさ将棋観戦日記 3/9(月)―棋王戦、女流名人戦、マイナビオープン、LPSA公認プロ制度、囲碁将棋ジャーナル、NHK杯、銀河戦

新潟日報 棋王戦第三局

棋王戦は佐藤棋王が一勝を返した。後手の久保八段のゴキゲンに対して、佐藤は最近やたら増えて復活した▲7八金型。飛車先が切れる上に、実は玉もきちんと囲えるということでまた増えているらしい。佐藤が▲4一角から2二に金をぶち込んでいく俗攻めを敢行。プロにはやりにくい筋なのだろうが、そういうところに先入観なく踏み込むのが佐藤流である。さらに、佐藤は二筋を頑固なまでに筋悪くゴリゴリ攻めて行ったのに対し、久保は2筋は軽く受け流して中央で駒を捌いて代償を求めるという両者の持ち味が出た展開に。大きな駒損の久保が猛烈に攻めたが、最後は佐藤が確実に一手残した感じ。まさしく、久保の捌きのアーティストぶりを力ずくで押さえ込んで勝ったという印象である。これで面白くなった。


スポーツ報知 女流名人位戦

女流名人戦は、清水さんが女流名人に数年ぶりで復位。女流王将が名目だけだったので、これで実質的に無冠から脱出したことになる。一時期は女流名人を矢内さんに、最近は倉敷藤花を里見さんに奪われ、せっかく防衛した女流王将が休止とツキもなく、普通の棋士ならズルズル行ってしまいかねないところを、見事に踏みとどまってみせた。ある男性棋士が、自分に清水さんほどの根性があるならタイトルの一つも取れるだろうと言っているのを読んだことがあるが、清水さんの精神力の強さは本当に大したものである。必ずしも評判の良くない右四間を周りも気にすることなく使い続け、なおかつ結果も出しているのも清水さんらしさである。おめでとうございます。


マイナビ女子オープン

マイナビ女子オープンは、岩根忍さんが矢内女王への挑戦を決めた。相振りの後手から積極的に攻めてペースを握り押しきった。奨励会経験もあり、実力にはもともと定評があったが、待望のタイトル初挑戦である。とてもフレッシュな組み合わせになった。
岩根さんは、二人目のお子さんを5月に出産予定だそうである。子供とともに戦う母親棋士としても話題になるだろう。しかし、タイトル戦のときに出産が重なったらどうするのだろう。
先週の週刊将棋には、中学生時代の「しいちゃん」の写真が載っていた。ご本人としては、ややふっくらしている時代の写真を使われるのは、必ずしも嬉しくないかもしれないが。
母親になった「しいちゃん」のタイトル初挑戦である。特に出身の関西では盛り上がることだろう。


LPSA公認プロ制度概要と応募要項について

LPSAから、画期的な発表があった。このLPSA公認プロ制度というのは、一言で言えばアマチュアにもプロ棋戦への門戸を広く開くという制度である。また、女性特有のライフスタイルに柔軟に対応することを目指しているようである。
現在の男性棋士の世界は、プロ棋士になるための条件を限りなく厳しくして狭き門とするかわりに、一度プロになったらある程度の身分や生活の保障はするという思想で成り立ってきた。しかし、将棋の世界を取り巻く状況は激変してきている。将棋が上達するための「高速道路」が出来あがり、奨励会の三段リーグには、現在の下手なプロよりはよほど強い人間がプロ入りを求めてひしめきあい、アマチュアも格段に強くなりプロとほぼ互角に戦える人間が多数存在するなど、プロとそうでない人間の差は昔と比べるとはるかに小さくなっている。現在の「プロ」を支えているのは制度だけであって、実際にはプロの棋戦に参入する資格のある人間が多数存在しているのだ。そういう傾向は、恐らく今後ますます加速していくだろう。
そういう現実にどう対応するかについて、LPSAのこの制度は一つの答えを提出している。正規のプロと公認プロというのは身分が異なる。しかし、実力があって実績を残した人間は、プロ棋戦に参加する可能性を与えられるという考え方である。正規の女流棋士と同様の権利を持たない代わりに、自由に対局して自分の生活を別に持つことが出来る。恐らく公認プロはそれだけでは生計を立てることは苦しいだろうが、しかし、逆に言えば、自分の仕事やあるいは主婦や母としての勤めを果たしながら、将棋をプロの世界で戦うことも可能なのだ。男性プロ棋士の世界にとっても、とても興味深いモデルケースになるのではないだろうか。
そういう意味では、多くの人間に登録してもらうためには、正規の女流棋士とは同等の権利は持たないが、その代わり対局以外の様々な義務には拘束されなという基本的な方向性をはっきりさせるのが良いのではないだろうか。制度を読んでいると、現実の個々のケースに柔軟に対応できるよう、色々な点で含みを持たせいてはいるが、根本的には「対局専念プロ」を目指すのだと明確にすれば、安心して登録する人間が増えるのではないだろうか。読んでいるとLPSAがどういう姿を目指しているのか、今ひとつよく分からないので、私が言ったようなことを考えていないのかもしれないが、個人的にはそういう考え方だとよいのではないかという私見に過ぎないので念のため。
勿論、多くの登録者の中から、ずば抜けた人間が出てきて、本当に女流棋士の仲間入りするというのも目的なのかもしれない。そういう人間が、是非出て来てほしい。今、私が述べたのは、とにかく登録をする多数の人間について述べたことである。
無論、現在の現実を考えると流動的な側面は存在するし、また、細部の規則では今後修正すべき点も出てくるかもしれない。しかし、基本的な方向性としては、とても素晴らしい画期的な制度であることは間違いないので、是非うまく行って欲しいものだと思う。


先週の囲碁将棋ジャーナルは、なかなか面白い映像が色々流されていた。名人挑戦を決めた郷田九段のインタビュー。
羽生さんとやるのが、すごく大きいかなという感じがします。小学生のときに出会って、すごく印象に残る出会いだったので、こうして名人戦でさせるのは、感慨深いというか、良かったと思います。
これは、また今年もNHKの「プロフェッショナル」さんは、特番をつくるしかないでしょう。勿論「情熱大陸」さんの参入も大歓迎です(笑)。
LPSAの天河戦の様子も映像つきで流れた。成田さんは、とてもしっかりした感じである。もしかすると、喋り方だけで言うと、里見さんよりもしっかりしているかも(笑)。一方、中井さんのこの言葉も印象的だった。
女性や女の子たちへの普及をしてきて、成田さんのような将来有望な人が勝ち上がってきたのはうれしいです。
そして、A級最終局から、場面の切れ目でサービス映像が。三浦が真横を向いて没我状態で必死に考えに耽り頭を抱える姿、丸山が今年もまた深浦相手にカロリーメイトのチョコ味でスタミナをつける場面。私は、将棋の解説を聞き逃しても、そういう場面は決して見逃さない(笑)。NHKさん、ありがとう。

NHK杯は、現在もっとも見たいカードの一つの羽生名人vs久保八段。後手久保のゴキゲンに対して、羽生は▲5八金右型の超急戦を誘ったが、久保は5筋の位を取らない指し方を採用。一時期この二人は5八金急戦で意地のはりあいのように戦い続けていたが、結果は羽生が圧倒的。超急戦にまだ結論が出ているわけではないが、最近は後手が別の指し方を採用することが多いようである。
結局、じっくりした持久戦になったが、羽生の攻めのつなぎ方が冴えにさえていた。解説の内藤先生がポイントにあげていた▲7四同銀からの鋭い踏み込みと、一転して▲3七歩と馬筋を遮断する緩急自在の指し回し。個人的には、細かいところだが、▲6ニ金から王手をかけて先手を取ったまま飛車に当てて龍を好位置に変える抜け目のないテクニックが印象的だった。
羽生の快勝譜である。直近の竜王戦予選でも、羽生は久保を破っている。騎虎の勢いの久保も、どうも羽生だけには分が悪い。ここのところ羽生はやや本調子ではないのではないかと思っていたが、そんなこともなさそうである。やはり、王将戦では、深浦王位がやたら強いだけなのかもしれない。しかし、A級順位戦ではあの結果。もう、よく訳が分からない。基本的には群雄割拠の戦国時代ということなのだろう。
内藤先生が紹介されていたエピソードだが、かつて大山先生がファンにどれくらい読むものなのかと聞かれて、そっけなく「一手」と答えたそうである。羽生名人がよく言っているが、大山名人は手を読んでいるという感じがせずに、相手を見て指しているように思えたそうである。大局観指しなのだが、それでも必ず急所に手が伸びていたと。それを裏打ちする話だった。最善の「一手」が瞬時に見えるというのが、プロでは大変なことなのである。私が、ボナンザ相手の早指しで「一手読み」でボロボロにされるのとは訳が違う。


囲碁将棋チャンネル(銀河戦のページで棋譜閲覧可能 )

Eブロック、近藤六段vs豊島四段は、後手近藤のゴキゲンに対し、豊島は▲5八金右型。対して、近藤は早めに▲9四歩と端を突く作瀬。「鈴木大介の中飛車」でも推奨されていた順だが、解説の遠山四段によると、最近この指し方が増えているらしい。居飛車が端歩を受ければ、超急戦になった場合に振り飛車側に有利になり、受けなければ本譜でもそうなったが端を突きこすという作戦である。それに対し豊島が素早く動いて、近藤が受けを誤りペースを握り、後は着実に勝ちきった。
豊島は、指し方に大人びた老成したところがあり、激辛流も真っ青の▲8六銀打ちには、解説の遠山も聞き手の本田さんも、思わず笑ってしまっていた。大体、若い人ほど辛い手を指すというのが原則である。
Fブロック、勝又六段vs佐藤天彦四段。相居飛車から、後手の勝又がやや趣向を見せたが、佐藤がうまく立ち回ってペースを握ったに見えた。しかし、勝又が、すぐに逆にペースを握り、少し紆余曲折あったものの、最後は見事な決め手でバッサリ佐藤を斬って勝ち。
解説の佐藤紳哉六段が言っていたが、勝又は序盤の理路整然とした分析で有名で、冷静で理知的な棋士という印象があるが、実は盤に向かうとすごくアツくて人間的だそうである。むしろ、気合を前面に出して戦ってくるタイプだと。実際、この対局でも終盤に入ってからは、駒をバシッと打ち付け、場合によってはノータイムと、「勝又教授」とはまた違う側面を見せてくれて楽しかった。
相変わらず佐藤&鈴木環那さんのコンビは面白い。
鈴木 佐藤さんはおしゃれということで有名ですね。
佐藤 いかにも女性の目を気にしている感じで。
鈴木 ちょっと、あの、なんか嫉妬されてますか?

鈴木 佐藤さんは藤井九段、行方八段、村山五段と研究会をされているそうですね。
佐藤 その研究会は、なかなか始まらないという噂を聞いたことがありますけれども。
鈴木 そうなんですね。その中の誰かが遅れてくるということなんですね。
佐藤 N八段ですね。
イニシャルの意味ないし。

戸辺誠「楽しく勝つ!!力戦振り飛車」(マイコミ)



第一章 気分爽快!!ゴキゲン中飛車
第二章 理想を実現!!最新の石田流
第三章 中央突破!!先手中飛車

戸辺四段による力戦振り飛車ガイド。彼以外にも、現在の若手には力戦振り飛車を得意にする棋士がとても多い。角交換を辞さない力戦振り飛車は、現代将棋を象徴する作戦である。そして、戸辺四段は、プロになってもほとんどゴキゲン中飛車か石田流しか指していない力戦振り飛車の申し子である。本書は、力戦振り飛車を実際に指そうとする人の戦術ガイド本としても、現代将棋を理解するためにも楽しめるだろう。
後手番の力戦振り飛車の作戦としては、本書の第一章で解説しているゴキゲン中飛車一本でよいのだが、先手の場合の中飛車には実は問題がある。それは、後手が相振り飛車にしてきた場合の対策である。無論指し方はあるのだが、初手に▲5六歩とつくために、相振りだと先手だけ形が限定され、後手だけが相振りでは有効とされる三間にも向かい飛車にも自由に出来るので、最初から不利な面がある。
しかし、石田流と先手中飛車の両刀使いだと、両者をうまく使い分けることができる。初手▲7六歩として相手が△8四歩とすれば、▲5六歩として中飛車にすればよく、▲7六歩に△3四歩ならば、▲7五歩として石田流を目指せばよい。そして、この本では、その両者を解説しているのである。
各章は、まず基本定跡の説明をし、その定跡と関連した戸辺四段の実戦解説をするという二段構成になっている。定跡部分については、あくまで基本の変化を簡潔に説明し、どういう狙いで指すべきかを示している。細々とした変化まで詳述するタイプの定跡本ではない。そして、そのように基本的な狙いを意識して、後は自分の力で自由に指すのが、まさしく「力戦振り飛車」なのである。
そして、戸辺四段の実戦譜を見ることで、感覚的にどのように指せばよいのかを習得させようとやり方である。従来の振り飛車の急戦定跡や藤井システムのように、細かい定跡をきちんと覚えないといけない振り飛車とは違って、ある程度は自由度が高いのが力戦振り飛車ということである。
本書ではゴキゲン中飛車の▲5八金右型の超急戦や、石田流でいきなり▲7四歩と突っかける鈴木新手については触れられていない。戸辺四段が、そういう急戦でなくじっくりした戦い方を好むという理由もある。また、アマチュアにとっても、ゴキゲンの超急戦は定跡をある程度深く覚えた上で腕力にも自信がないと指しにくいだろう。本書で解説しているように、居飛車が飛車先を交換してきた際に△3二金と受けておけば穏やかな流れになる。また、その後に振り飛車も自由に指していく方法がちゃんと準備されている。大方のアマにとっては、こちらのほうが指しやすいし役に立つのではないだろうか。
石田流の鈴木新手についても同じ事で、角を二枚盤上に打ってうまく使いこなしていくあの定跡は、やはり指しこなすのにはある程度の力が必要である。戸辺四段推奨のように、▲4八玉と穏やかに指すほうがアマチュア向きだろう。これについて、戸辺四段はこのような正直に述べているのも好感が持てる。
すぐに▲7四歩と決戦を挑む新石田流(鈴木八段開発)も非常に有力だ。ただ私は、居玉の決戦が苦手。

本書全体を通じて、このような感じの率直な語り口で分かりやすく力戦振り飛車の指し方を教えてくれる。
現代力戦振り飛車のエッセンス、若手振り飛車党の感覚を知るためには、最適の一冊といえるだろう。

将棋界の一番長い日2009スケッチ

(将棋のことだけ書きます。)

NHKのBSでは、計8時間以上の放送があった。将棋をそんなに流すというのは、表現は悪いが、電波ジャックかよというくらい凄いことである。色々な意味で、将棋ファンはNHKの将棋班には足を向けて寝ることが出来ない。

番組の頭に流れるテーマ映像に、去年の一番長い日が使われていた。佐藤康光の苦悶する表情や丸山忠久のカロリーメイトのチョコ味をモグモグしているところも、きちんとセレクトされていた。よく分かっていらっしゃる、NHKさん。何のことやらという方は、去年書いたこの記事をどうぞ。

三浦弘行が、時間ギリギリで将棋会館に到着。悠々と落ち着き払って歩いてきた。すかさず、「三浦さんは若いころ武蔵と呼ばれていましたね」という、お決まりのツッコミが。「待たせたな、小次郎」である。

佐藤康光の寝癖が猛烈だった。いつもの寝癖とか言われていたが、それは羽生善治である。

対局前、丸山忠久がいつもの大型扇子をユラユラさせる図が映った。いかにも曲者という感じである。昔。ジュリアナ東京のお立ち台で、ボディコン女が振り回していた扇子を連想してしまった私は、頭がおかしい。

作戦の選択がいかにもA級最終局だった。後手の木村一基が、最近多用して一手損角換わりではなく、かつて中心戦法だった△8五飛に導こうとした。研究将棋で、この大一番に秘策があったのだろう。しかし、郷田真隆は横歩を取らず。お互い相手のペースで戦いたくないという駆け引き。
森内俊之が先手三間飛車、丸山忠久が後手ゴキゲン。意表の戦法である。しかも、どちらも相手に降級がかかっている。やられた方は、たまらないだろう。
谷川浩司も先手で相振りを選択。鈴木大介の後手ゴキゲンは受けない。但し、勝又清和のデータ分析によると、谷川は相振りで勝ちまくっていて、特に振り飛車党相手には全勝である。谷川にとっては本当の勝負将棋だったわけだが、作戦の選択にも厳しさを感じた。
意外でなかったのは、本格矢倉党の藤井が堂々と矢倉にした一局だけである。という言い方はイヤミだね。

棋士プロフィールで、各棋士のプロ入り当時の写真が紹介されていた。郷田は、確かに若いころは(も)カッコよかった。すこし古いタイプの二枚目ではあるが、という余計なことを付け加えたりしたのは私のつまらない嫉妬が入っているからに過ぎない。

解説の山崎隆之と聞き手の山田久美の若き日の映像も流れていた。全国十万人の山崎王子ファンも、全国百万人の山田久美ファンも、満足したことだろう。
山崎は、竜王戦の深浦とのW解説で、その話術を遺憾なく発揮、披露していたが、あの時ほどはヤンチャではなかった。ただ、山田が強気な手を指摘した時に「意外に、我慢できない人なんですね。」と言ったところには、その片鱗が感じられた。単なるセクハラじゃんとか言わないように。

棋士が手を読む姿は没我状態である。丸山が上方を見つめて何か考えている。棋士には脳内将棋盤があるので、盤を歩見なくても考えられるのである。三浦も、負けずと上方を見つめて考えに耽っている。もう一度、三浦が映ったら、さらにのけぞるかのように天井を見つめて考えていて、妙におかしみを誘った。角刈りのような感じ大柄で、対局姿は大変な迫力である。

今回は、将棋自体ではどちらが勝つのか全く分からない大接戦というのは残念ながらなかった。内容で言うと、やはり谷川の将棋が素晴らしかったか。桂を端の筋に空成りする発想、さらに自陣に金銀を続けざまに打ちつける、負けたくないという気持ちが伝わってくる指し方、そして仕上げは光速の寄せ。最高にプレッシャーのかかった将棋で、芸術的な将棋を指しきったのは流石としか言いようがない。
正直に言うと、事前には谷川は苦しいのではないかと思っていた。実力面でなく、ここぞという将棋のメンタル面で、鈴木は恐らく文句なく自分の最大限の力を発揮するだろう。しかし、谷川にはとても繊細なところがあって、そういう面でどうだろうかどと素人が勝手な心配をしていたのだが、そんなところは微塵も感じられなかった。今季の成績は谷川にとっては不本意もいいところだろうが、この大一番でこういう内容の良い将棋をさせたのは、今後の巻き返しのためにも大きい意義があったのではないだろうか。

深夜の放送では、渡辺明が登場。山崎とのW解説は、二人とも弁が立つ上にサービス精神が旺盛なので楽しかった。だた、丸山vs深浦の解説をしていて、馬の前に△3三歩と行き場所を打診する手を、それこそほとんど考えずサッと指摘していたのはやはり流石だと思った。プロからすればどうということもない手なのかもしれないが、その手が浮かぶ速度とか敏捷性のようなものを渡辺には感じる。あの竜王戦第七局の終盤で出た△5五歩の勝負手のことを思い出してしまった。あれも咄嗟に出たという感じだったが、やはり抜群の才能の持ち主なのだろう。

スーパーあつしクン、こと宮田敦史もゲストで登場。なんとも存在感のある男である。何を聞かれても必要最小限の言葉数で答え、相手が渡辺竜王だろうが誰だろうが妙な気遣いなど一切なし。ひたすら思った指し手のことだけを自信満々に言い放つ。ほとんどテレビに映っているという意識もないようで、大盤を見つめて専ら詰み手順を自分の世界に入り込んで考えている感じ。没頭するあまり、大盤にかぶさって立ってしまい、渡辺竜王にも長野アナにも注意されていた。得がたいキャラクターである。
山崎は、恐らく根がとても優しい男で、即座に宮田の性質を見抜いたようで、ひたすら宮田を立ててその読みを引き出してあげることに専念していた。そして、もうこれで受けも何もないという場面について、宮田に意見を聞くと一言。
「もう、どうしようもないですね」
ぶっきらぼうに何の飾り気もなく言い放った様子が、おかしくて仕方なかった。

郷田が挑戦を決めた。終盤、一気に決める順があるところを、自陣に手を入れて絶対負けない形にしたところに、将棋の重みを感じずにはいられなかった。本局は、ずっと優勢だったようだが、今回の順位戦全体を通じて、良いときも悪いときもとにかくバランスをうまくとって、容易に将棋を一方的にして壊さない懐の深さとか、難しいところから一歩抜け出す底力のようなものを感じる。猛者強者ぞろいのA級棋士の中でも、スケールの大きさを感じさせる将棋である。
羽生善治との名人戦は本当に楽しみである。どちらかというと、羽生は対戦相手に応じた将棋を指すタイプだと思うので、最近は現代的な厳しい将棋を指すことが多かったような気がする。郷田が相手なら、お互い伸び伸びした、プロらしい高度ながっぷり四つの技術の応酬が期待できるのではないだろうか。
恐らく格調の高い、いかにも筋の良い将棋になるのだろう。この二人の場合、勝敗もさることながら、どういう内容の将棋をみせてくれるのかも楽しみである。

ものぐさ将棋観戦日記 3/2(月)−棋王戦、天河戦、女流ネット最強戦、NHK杯、銀河戦

北國新聞社 棋王戦第二局

棋王戦は、久保連勝でタイトル奪取に王手。久保新手▲7五歩が話題になっている。とにかくド派手で「そんなとこで飛車飛びだすのかよ」という手である。渡辺竜王も「軽い捌きを得意とする久保八段ならではの手で、素人は真似しないほうが良さそうですね、僕も無理そうです(笑)」という感想を述べている。
その後も、一直線の斬りあいになって一気に久保が勝ちきった。真っ向から新手に挑んでいって散った佐藤も佐藤らしい。ただ、あの激しい流れの棋譜を見ただけでは何が起こったのかよく分からないので、プロじゃないのでなおさら「専門誌の解説を待つ」ということになる(笑)。
一般ブログでも取り上げられている。

将棋の神様〜0と1の世界 石田流のハメ手の落とし穴

久保新手「ネオ・石田流(9手目▲7四歩)」、「▲7五飛戦法」、または「中座式石田流」とでも呼ばれる日が来るのだろうか。

kuroumaのブログ 久保新手▲7五飛 〜久保式石田流(仮称)は成立するのか?

藤井システム,横歩取り△85飛戦法,1手損角換り,4手目△33角戦法,そして2手目△32飛戦法・・・と近年になって色々な新戦法が開発されたのだが,さすがにもうこれ以上画期的な新しい戦法は出ないのではないか,と言われてきた矢先にこの“久保新手”の出現である。将棋という深いジャングルの中にはまだまだいろんなものが潜んでいることを痛感させられた久保八段の新手だった。

なお、この記事では▲7五飛の狙いが追記で紹介されていて興味深い。


LPSA NTTル・パルク杯天河戦サイト

LPSAの天河戦の決勝三番勝負第一局は、中井さんがかろうじて勝った。本当に「かろうじて」という感じである。中学生の成田さんは本当にすごい。今まで女流棋士をなぎ倒してきたのが決してフロックではなかったのを証明した形に。終盤も力強かったが、じっと△4四銀と耐えておくあたり、とても中学生には思えない。先手でも後手でも中飛車一本のようだが、実にうまく指す。本人の力といえばそれまでだが、現代中飛車というのはやはりとても優秀な戦法なのではないかと感じる。
中井さんは、里見さんが娘さんと同い年だそうだが、成田さんはさらに若い。次から次へと若い相手が出てきて本当に大変だ。でも、中井さんが新団体を立ち上げた目的の一つに、若い女性棋士の育成ということもあるようなので、うれしい悲鳴なのだろう。
LPSAの中継は、動画も含めて相変わらず常に最先端の高いものを追求しようとしている。以下のブログでも、その高い中継力を評価している。

将棋ペンクラブログ 天河戦第1局公開対局・大盤解説会余話

筋違い角日記 中継力


大和証券杯ネット将棋公式ホームページ

中井さんが甲斐さんを破って決勝進出を決めた。上田さんとの決勝になった。
将棋は、後手、甲斐さんのゴキゲン中飛車に対して、先手の中井さんが丸山ワクチンの対抗策を採用。お互い銀冠に組み合った。後手が△5五銀と揺さぶりをかけてくるよくあるパターンになり、甲斐さんがうまくやって少しベースを握ったようにも見えたが、中井さんも気がつきにくい受けの妙手で受け止めて逆にペースを握る。そして終盤は全く緩むところなく一気に相手玉を寄せきった。本当に勝つ時の中井さんは強い。甲斐さんはさすがに実力派で、去年に続いてここまで来たが、惜しくも二年連続優勝はならず。
中井さんは、前日成田さんに相当怖い思いをさせられて、精神的に鍛えられたのが良かったのでしょうか?(笑)


NHK杯。先手の久保が初手▲5六歩の中飛車の意思表示をすると、後手の行方が三間に振り相振り飛車に。久保は石田流の使い手でもあるので、初手▲7六歩として△8四歩なら中飛車という手段もあるのに、相振りでもOKですよということなのだろうか。先手中飛車の相振りの指し方は個人的にもよく分からないので注目してみていた。しかし、久保の指し方は、やはりアマには真似できそうにない。
4六銀型から穴熊にするところは分かるのだが、穴熊を完成しようとせずに、角をのぞいて牽制し、8筋の歩をズンズン突いていった。正直、そんなところを突いている余裕があるのかと感じたが、結局その8筋突きがポイントになる。
将棋自体は行方がうまく立ち回って、飛車を成りこむことに成功。後手の美濃は手付かずで、先手の大切な金が当たりになっていて、もうここでは勝負あったのかと思った瞬間に出た久保の▲8四歩!!!
久保84歩(新規棋譜)1手

「えええっっっーー」と声がでましたよ。手抜かれても歩成りには銀で取られるのに金取りを放置。最初もう諦めて形作りなのかと思ってしまったのは弱い素人の悲しさ。久保の恐ろしいワナだった。行方も、それほど考えずに金を取ったのだが、恐ろしいことにもうそれが敗着になった。穴熊のかたさではなく、ひたすら遠さだけをいかした指し方で、どうやっても先手の一手勝ちになるらしい。行方は、ここで腰を入れて読まなくてはいけなかったと悔やんでいたが、やはり穴熊の遠さというのはプロでもつい感覚を狂わされてしまうのだろう。以下、久保は8筋に歩をたて続きに叩き、飛車を成りこんでたちまち挟撃体勢を築き上げてしまった。
久保の充実ぶりが伺えた一局である。感想戦を聞いていると、冷静に考えると△同歩とするしかなかったとのことで、素人が驚いたほど法外な手ではなかったらしい。あの手自体よりも、8筋の歩を伸ばすことを優先した久保の感覚がすごいのかもしれない。


囲碁将棋チャンネル(銀河戦のページで棋譜閲覧可能)

Dブロックの長沼七段vs田村六段戦が面白かった。後手の長沼がゴキゲン中飛車で、先手の田村が▲5八金右型の超急戦に。それにしても、今日私が書いた記事の中でも、どれだけ中飛車の将棋が多いのだろう。
あの超急戦というのは、あれだけ激しいのによく訳の分からない戦いになる。あの早見えの田村でも、珍しく長考しても読みきれない膨大な変化の将棋に。読みというより大局観で指し手を選ばざるをえない展開になったのだが、攻めるか受けるか迷ったときに、田村は攻めを選び長沼は受けを選ぶというらしい展開に。あの豪腕田村の猛攻を結局きちんと受け止めてしまい、自玉を鉄壁にしてから、うまく攻めをつないで勝ちきった。
長沼は、NHK杯で羽生を破るなど、根性のすわった受けが話題になったが、相変わらず「長沼の受け」は健在である。
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