2009年07月

将棋メモ 7/30(木)

王位戦第三局、またしても後手の木村がエース戦法の筈の一手損角換わりを選ばず。なぜだろう。木村は、当然あの戦法を深く研究しているから何か気になる変化があるのだろうか。時に先手が早繰り銀の場合には後手勝率が非常に高くて、木村自身も新早繰り銀対策の手を次々に出して勝ち星を荒稼ぎしているということだが、先手もそれが分かってきて棒銀にするなど変化しているみたいだし。深浦も研究家でならしているから、木村も警戒しているのかな。深く研究すればするほど、細かい点が気になるだろうし。後手一手損角換わりも、定跡研究が行きつくところまで行って煮詰まって成熟期に入っているのだろうか。一時の△8五飛みたいに、そろそろ潮時と見るのは、まだ気が早いのでしょうね。
ところで、また棋譜解説なしですか。泣きたいです。最近えらく盛んな将棋twitterを見て回った情報をご報告しておくと、この角換わりの先後同型腰掛銀で、▲7九玉△3一玉の形で仕掛ける(竜王戦の羽生vs片上でも出た)のが升田定跡、▲8八玉△2二玉で仕掛けるのが木村定跡ということだそうです。木村といっても一基じゃない、木村義雄名人のことで、本当に古くからある形なんですね。
さらに、深浦王位の▲8八玉が、去年の王将リーグで渡辺竜王相手に指した手だと。そうでした、全然忘れていました。この形は少しレトロで、渡辺がその後の定跡を知らずに完敗を喫してしまっていた。また、それをものすごく正直に竜王がブログに記していたのが、いかにもらしかった。深浦も、当然その時は定跡の変化も研究してあった筈なので、続きをこの大舞台でということでしょうか。
ところで、この後どうなるのか。gpsさんの読みを見ると、ものすごく激しい変化になっております。もし、こんなことになれば、明日は目が離せませんね。

竜王戦決勝トーナメント、久保vs松尾。後手久保のゴキゲンで、先手松尾の佐藤式丸山ワクチンに。久保が駒損でも強引に食いつく順を選んでいた。難しそうな玉頭戦になったが、松尾が形勢を悲観していて、ややあっさり土俵を割って久保勝ち。感想を加えたコメントを見ると、久保は実に正確に深く読んでいるのてすね。
竜王戦も、結局残ったのはいつものメンツ。現在は上位の層があまりにも厚すぎて、そう簡単には竜王戦ドリームというわけにはいかないようです。

島朗「読みの技法」(河出書房新社)



少し前に「イメージと読みの将棋観」という本が話題になったが、そのオリジナルともいうべき本書を再読してみた。一つの局面を見せて、各棋士の読みを比較検討するという趣旨で、参加しているのは、羽生善治、佐藤康光、森内俊之という超豪華メンバーである。そして、かつてこの三人を伝説の「島研」で率いていた島朗が、ひたすら聞き手と編集のみに当たるという、これまた豪華な布陣。
「イメージと読みの将棋観」が、取材棋士も多くて個性も違っていたので読みの内容にかなり多様性が見られたのに対し、この本は三人だけ、しかも純粋羽生世代なので、読み自体はそれほど大きな違いは無い。むしろ、どの局面でも、急所の読みを全員過あやまたずにピタリと押さえていることに驚く。(無論、私程度のアマレベルの感想。)敢えて言えば、森内が強靭な受けの手を多く読んでいるのが目に付くが、それはあくまで棋風の違いであって、基本的な価値観という点では、やはり同質性を感じる。特に「イメージ・・」を読んだあとでは。
また、三人で、しかも取材を島が行っていることもあり、読みの説明が丁寧で、なおかつ、単に読み筋だけでなく「局面をどう考えるか」も、きちんと説明されている。読みの違いを楽しむ以外に、彼らが「どのように考えて将棋を指しているか」を知るためにも、良い手引きになっていると思う。島朗らしい、格調の高い内容に仕上がっている。
この本の最後で、四人がプロの読みについて討論しているのだが、これをはじめて読んだ時は結構衝撃的だったし、今でもプロの読みについて考える上で、第一級のの基本資料であり続けていると思う。
まず、読みににおけるいわゆる「第一感」について、実際に第一感で浮かんだ手を指す確率が、三人とも七、八割だと言っている。やはりかなり高い数字であって、アレコレ考える以前に、最善手がパッと浮かばないとプロにはなれれないという厳然たる事実。コンピューターがかなり強くなっているが、あらゆる手を読んでみて、その中から相対的なベストを選ぶというのが基本原理である。しかし、人間の場合、読まないでも直感で、だいたいは最善手を見出すことが出来る。現在、その仕組みを脳科学が探っているわけだが、やはりよく考えてみると不思議なことではある。
但し、羽生が、第一感はプロの場合ほとんど変わらないだろうと言っていて、「読み」の精度がかなり高い割合で勝負を分けると指摘している。その点について、佐藤や森内の考え方は、それぞれ微妙に異なる。トッププロが並みのプロとどこが違うのかは興味深いテーマだが、彼ら自身も必ずしも、はっきり分かっていないのかもしれない。また、この本は出て既に十年立つので、彼らの考え方も当然変化しているかもしれない。
最後に、我々アマチュアが大好きな質問「プロは何手くらい読むのですか」について。
佐藤が「平均して10手先を5種類」と答えていて、他の二人もほぼ同意。場面にもよるが、手の広い場面では、20から30手読むことはほぼないと。三人とも、10手先を読むのは本当に大変だと口を揃えている。
これを、初めて読んだ時には、私のような素人にとっては単純に驚きだった。プロなら、相当先の局面までイメージするものだと思い込んでいたので。10手先でも無限の数の組み合わせがあるわけだが、、プロの直感によって読みを捨てまくっても、先まで読むことが難しいということである。いかに、将棋で読むことが大変なのか、いかに先行きがはっきりしない状態のまま指しているかが、よく分かる話だった。目から鱗が落ちたのである。具体的に読めるのは、手の広い場面では、せいぜい十手先、それをいわゆる「大局観」で補い、どの選択が良いかを判断しているということなのだろうか。
森内は「短く、正確に」読むことを心がけていると言い、羽生もそれが「読みの急所」だと同意している。これは、レベルが違っても、我々アマチュアにも参考になる話ではないだろうか。勝手読みで先まで読むよりも、きちんと正確に相手の指し手を読むことがいかに大切か。
原田泰夫先生の「三手の読み」は永遠の金言なのである。

将棋メモ 7/28(火)

現在、竜王戦、久保vs松尾の終盤の真っ最中です。

昨日の王座戦挑戦者決定戦は素晴らしい将棋だった。予想通り、後手の中川が人真似ではない力強い構想を示して、作戦勝ちをおさめたようである。中川の将棋をテレビ等で見かけると、必ずといっていいくらい随分変わった作戦で(駒落ちの上手風に金銀や玉が前進する)、しかもそれを相手がうまくとがめることが出来ずに優位に立っていることが多い。感覚に独特なセンスのある先生なのだろう。
ただ、少し悪くなってからが、山崎の本領発揮するところである。本当に、なんやかんやとやってきて、相手に楽をさせない。色々な指し手が溢れんばかりに次々にイメージされるのではないだろうか。そして、それに相手が幻惑されると同時に、山崎自身も自分でイメージをまとめきれないような印象さえ受ける。安定感に乏しいかわりに、何が飛び出すか分からない、観ていて楽しい将棋である。
本当に最後の最後まで分からない激戦だったようだが、最後は山崎が勝ちきった。
羽生相手だと、「少し悪くなってから」頑張ってもつらそうなので、互角の分かれになると面白い将棋になるのではないだろうか。そういう展開なら、羽生相手でも、十分互角に楽しいスリリングな将棋を見せてくれるのではないかと期待してしまう。

女流王位戦は、挑戦者決定戦が清水vs上田の組み合わせになった。(LPSAのホームページによる。)やはり、清水がまだ厚いという評価なのかもしれないが、マイナビ予選など、最近上田の将棋をネットで見る機会が多いが、確実に頭角を現してきていて、とても腕力の強い将棋である。もはや清水でも簡単に負かせるような相手ではないと思うので楽しみである。

NHKニュースの最後のオマケのような扱いで申し訳ありませんが(笑)、このような明るいニュースが飛び込んできました。
おめでとうございます。

遠山雄亮のファニースペース ご報告

将棋メモ 7/27(月)

銀河戦 渡辺vs阿部。先手の阿部が、角筋を開いたままの向かい飛車を採用。阿部が左辺から押さえ込みにかかり、竜王は玉をかためてね何とか細い攻めをつないで食い破ろうとするという棋風通りの展開に。阿部がうまく攻めてよくなったが、渡辺もなんだかんだと手をつなげてくる。解説の丸山によると「先手が良さそうだが、それがはっきり形にならず、後手も玉が堅いので、一つ間違えると後手が一気に勝ちになってしまうこともありうる先手としては神経をつかう将棋」ということだそうである。丸山は決して多弁ではないが、解説内容はとてもプロ的で良い。結局、渡辺の攻めが切れてしまい、阿部快勝。丸山は、▲8八竜ではっきり先手勝ちになるあたりまでは、ずっと形勢について比較的慎重な言い方をしていたが、客観的に見ると阿部がずっとよさそうに見えた。渡辺としてはずっと苦しいと思って指していたのだろうか、それともそうでもないのだろうか。感想戦の時間がなかったので分からなかった。

銀河戦 羽生vs谷川。ゴールデンカードの名に恥じない名局だった。かつて、この二人が良くあたっていた頃は、むしろ内容はかみ合わない将棋が多かったような気がするが、最近たまにあたると良い将棋になるというのは何となく皮肉だ、何年か前のネットでの対局も素晴らしい内容で、谷川の名局だった。今回は羽生の名局だった。
後手の羽生が4手目△3三角戦法から四間飛車に。谷川は早めに▲7七角と手放して、△3三桂の頭を狙う構想を立てたのだが、羽生の受け方が実に巧妙だった。(棋譜は囲碁将棋チャンネルの銀河戦のページで閲覧可能。)谷川が▲3五歩から、▲2四歩と仕掛けて、一応桂得が可能になったが、羽生が手抜けない△5五歩かから△5四飛と浮いて桂頭を受けることに成功。角を手放してしまっている分だけ、谷川が少し苦しいのだろうか。その後も、△1四飛と、ぶつけたくなりそうなところをじっとかわしておいたり、とにかく羽生の将棋というのは、細かいところで意表をつく。頭が柔らかいのである。
しかし。谷川も、うまく角を捌く手順をひねり出して、意外に難しい局面に。それに対して、羽生が△4四角とでて▲5六銀と一度受けさせておいてから、△5三角と角交換に挑んだ順も、これまた巧妙。銀を浮かしたことにより、△2六飛と出た時にあたる仕組みになっている。角の一人時間差攻撃とも言うべきで、やはり羽生の柔軟な発想だった。羽生は冴えているときは、次々にこのように妙手順を繰り出して、本当に惚れ惚れする芸術的な将棋を見せてくれる。
そうは言っても、谷川も羽生に肉薄して、一手違いの際どいギリギリの終盤になったのだが、最後に羽生に実に鮮やかな決め手が出た。図は後手の羽生の手番。後手玉は▲7二馬△同玉(△同銀は▲7四桂)▲6三歩成以下の詰めろで、一方先手玉は詰まない。従って、詰めろ逃れの詰めろが必要である。答えは記事の最後に記すので、皆さんも考えていただきたい。(あっ、何かまるで本格将棋ブログみたーい。)
羽生谷川ぎんが1(新規棋譜)1手

NHK杯は、橋本vs宮田敦という個性派同士の対戦に。対局開始の際に宮田が深々と頭を下げて、いつまでも頭を上げない。やや異様な雰囲気につつまれた後、おもむろに指されたのが▲5六歩。宮田は基本的には居飛車党である。解説の渡辺によると、宮田はたまにこういう思いきったことをするそうである。ただ、本局もそうなったが、初手で中飛車を明示すると、後手に相振りにされた場合、少し損というのがプロの定説。果たして、宮田は何を準備しているのだろうか?
さらに宮田は5筋の歩をどんどん伸ばして▲5四歩と突っかけ、橋本は銀を繰り出して受け止める。これも中飛車の本に、よく初級者向けの説明がのっていて、「せっかく伸ばした歩を交換してしまうと、位を放棄した上に相手の金銀を自然に使わせて手損になるのでやめましょう」と書かれているところである。果たして、宮田の真意はいずこに?
さらに、宮田は序盤から湯水のように時間を使う。一体何が飛び出すのであろうか?
・・・で、結局何もなかったのである。橋本が完全に作戦勝ち。宮田の序盤は本当に謎のようであった。面白すぎる。解説が、序盤の感覚の鋭さでは定評のある渡辺で的確な指摘を続けていたこともあり、宮田の指し方はますますもってミステリアスだという印象を与えた。
ところがである。その後の宮田の力強い指しまわしが第二の驚きだった。ギリギリの際どいところでバランスが崩れないようにして、橋本に楽をさせない。やっと橋本が勝ちを見つけたと思って、渡辺の言うところの「ものすごい勢いで」「むしりとる様な手つきで」「一秒もかけずにバシッと指して」も、なんだかんだと粘ってくる。(渡辺イディオムの独特な表現というのは面白いですね。)
最後も、橋本が自玉が詰まないのを読んで宮田玉頭に金がすりこんで詰めろをかけてきたところを、橋本玉を詰ますのではなく、その金を抜く順で完全に逆転。
最後、橋本は言葉を発することなく、駒台に手を置いて投了の意思表示をしていた。つらすぎる敗戦。それにしても、宮田は不器用な序盤と、恐ろしく強い終盤という両面を見せてくれた。とても個性的な棋士である。

(解答)羽生が指したのは△9六角成!▲7四桂を消しているので、詰めろ逃れになっている。従って、▲同香しかないが、△8七飛▲9八玉△8九飛成▲同玉△6九龍▲7九桂△9七桂▲8八玉△8七金▲同桂△8九龍▲9七玉△8七龍までの詰み。
解説の木村さんと山田さんが「次の一手に出したいくらいですね」と言っていたので、素直にその通りに問題にしてみました(笑)。
羽生谷川ぎんが2(新規棋譜)16手

将棋メモ 7/25(土)

マイナビ女子オープン一斉予選。全ての対局棋譜を見た。多すぎて途中ですぐ後悔したが、やめるのがなんだか気持ち悪くなって職務完遂。当然男性棋士の棋譜とは感触が大分違うし、特に一回戦にはいろいろな将棋があるが、でも特に若手の人たちは十分楽しめる将棋を見せてくれていると感じた。
注目の石橋vs里見は、石橋ペースだったが、里見も流石の終盤力で、スリリングな将棋だった。当然だけれども、この二人の棋譜は、やはり格が違うし、そう思うのは終盤の迫力のためなのだろう、やはり、将棋は終盤力だ。勝った石橋が二回戦も勝って本戦入りを決めた。
同じLPSA勢では、島井も本戦入り。千葉との相穴熊戦は、攻めが細そうだったが、感覚が普通とは違う食いつき方で勝ちきった。スペシャリスト広瀬の本を読んでも感じたが、相穴熊の世界は独特で、一度味を占めるとなかなか面白い世界だ。
アマチュアの三人、笠井、小野、成田は、全員一回戦は勝ったが、二回戦では敗退。二回戦の相手は、皆きつい相手で、やはり現在は丁度それくらいのレベルということなのだろうか。プロが一応貫禄を示した形になったが、特に笠井は二回戦も勝ってもおかしくない将棋で、三人ともレベルは高いと感じた。
若手で有望とされる、上田、熊倉、甲斐、室田といったあたりも、本戦入りを決めている。この辺から、誰か大暴れしてブレイクする人が現れると面白いんですけれどね。

将棋メモ 7/24(金)

王位戦第二局。先手木村が矢倉でなく相掛かりを目指し深浦も追従。深浦が先手でとてつもない勝率をあげていて知悉している戦形に飛び込んでいった。前局といい、タイトル戦なので色々な戦形を試してみようということなのだろうし、羽生も常にしていることなのだが、この二人の場合、かすかに人間的な駆け引きとのようなものを勝手に感じ取ってしまう。
普通に指すと作戦負けと見たのか、深浦が踏みこんだが、うまくいかなかった。深浦は、羽生相手にも思い切りの良い踏み込み、決断を見せて、また、それがことごとくうまくいっていたのだが、どうも木村相手だとうまくいかない。相性というのは不思議だ。
また、木村が、このように無理気味に攻めてきたのを形にこだわらずに力強く受け止める達人と来ている。この二局は、木村の力の「ねじりあい」での強さばかりが目立っている。もっとも、棋聖戦でも、羽生相手に力でねじ伏せるような将棋を立て続けて指していて、やはり現在一番充実していて勢いのある人である。羽生が、よくぞ勢いを食い止めて防衛したという感じだった。
流れは完全に木村だが、七番勝負なので、まだどうなるか分からない。木村は初タイトルのチャンスで、当然色々なプレッシャーがかかるだろうから、ここまで通りに変わらずに指せるかの勝負にもなるのだろう。

竜王戦決勝トーナメント。森内vs高橋は、後手の森内が一手損角換わりで、「高橋の先手矢倉」を回避、というわけではないのかもしれないが・・。森内は、最近目立つ活躍が無いが、深い読みと終盤力は相変わらずで、やはり不気味な存在である。

松尾vs豊島は、後手豊島が通常角換わりを堂々と受けて、先後同型相腰掛銀から、4つの歩を次々と突く定跡形になった。詰みまで研究する形で、松尾が終始うまく指して勝ちきった。豊島は、途中攻めるか受けるかの場面で、受けに専念する順を選んだのが選択ミスということで、その後は勝ち目がなかったそうである。研究将棋はこわい。堂々と受けに行ったのが大物感のある豊島らしいが、現在は上位の層がとてつもなく厚いので、ただ正攻法だけで突破するのは大変なのかもしれない。でも、豊島は、きっと正面突破を今後も目指すタイプなのだろう。

A級順位戦の、郷田vs藤井が、とても面白い将棋で、大抵私は途中で寝落ちするのだが、最後まで見てしまった。藤井の大逆転勝利が決まったかというところで、まさかの逃げ間違いで頓死。何でも直前に助かった玉の位置に行きたいというイメージがあったそうで、人間らしいミスである。それにしても、逃げ間違えたために、端の歩を余計に取られたのが詰みに直結したという、まるでつくったような形だった。





佐藤康光「注釈 康光戦記」(浅川書房)



将棋世界にたまに載る佐藤康光の自戦記が面白くて、少し古い本だが買って読んでみた。
初版が2004年8月だというから、もう5年前である。たった五年ともいえるのだが、プロ将棋も佐藤将棋も、その頃から随分変わってしまった。第一、巻末に登場するのは「天才少年」「渡辺明五段」なのである。
さらに、久保とのゴキゲンの将棋でも、旧式丸山ワクチンを使っていて、佐藤流の端歩をつく指し方ではない。ちなみに、この将棋の終盤は、わけの分からない凄い将棋で、やはりこの頃から久保は相当強かったのだという印象を受ける。
佐藤自身が、革命的な(訳が分からないと最初の頃は言われた)作戦を次々に試しだす前の時期でもある。
ではあるが、佐藤流の真摯で濃い内容の読みの掘り下げは、今と全く変わらないし、頑張って変化を辿って読んでいくと、プロ将棋の深さとコクを堪能することができる。
また、現在にも生きる棋譜もあり、例えば今年の名人戦の第三局で出た△8五飛戦法から△5五飛の松尾流から△4五桂の丸山流と跳ねる将棋。丸山が名人戦で谷川相手に初めて指して名人を獲得した将棋だが、棋聖戦で丸山相手に佐藤が先手をもった将棋が本書に収録されている。途中に▲5六角成に対して△4四馬▲4六馬と指して、以下佐藤がうまく指して勝ちきっている。色々難しい変化もあるようだが、先手も十分文やれそうということで、名人戦では、後手の羽生が▲5六角成に対して△同馬と変化したというわけである。このように、少し前の将棋でも現在につながっている。この佐藤の本の頃△8五飛は全盛期を迎えていて、その後一回下火になるが、最近羽生もタイトル戦でよく用い、高橋九段などスペシャリストが高勝率をあげるなど復活傾向にある。将棋の世界でも「歴史は繰り返す」のである。
ところで、この対丸山自戦記で佐藤が書いていることがふるっている。
1 私はアホですか?
(作戦がいつも)私が先手なら横歩取り、後手なら角換わりだった。私の作戦は物議をかもしたらしく、あちこちでアホだのバカだの言われた。しかし、賢いだけでは感動は呼ばない。アホやバカが戦うから面白いのだろうし、そもそも私にも、横歩取りの先手番や角換わりの後手を避ける理由が当時はなかった。
このように、佐藤には独特のユーモアのセンスがあるのだ。これは、ちょっと羽生もかなわないところなのではないだろうか(笑)?
本書は佐藤の自戦記以外に20時間に及ぶロングインタビューを行って、各章に膨大な註をつけている。その部分が実に面白い。読み物としては本文部分以上に。硬軟おりまぜた内容で、佐藤の将棋に対する真摯きわまりない姿勢とユニークなキャラクターが伺える。
例えば硬派の部分では、藤井システムの革命的意義と真価を高く評価しながらも、単なる「知識」ではなく「自分なりに考えた知識」の重要性を説く。単に旧来の定跡を知識としてなぞるだけでは駄目というわけである。藤井も定跡のクリエーターだったし、佐藤もこの本の後きわめて個性的な佐藤システム、佐藤ワールドを築き上げていく。ただ、そのシステムが藤井のように普遍的なものでなく、あくまで佐藤個人の資質に基づくという違いはあるにしても。
硬軟の軟の部分でも、いくつも引用したいところがあるのだが、一つだけあげておこう。他にも面白い話が満載なので、硬派の将棋ファンにも読み物としておすすめできる本である。変異佐藤時代の第二弾にも期待したいところである。
ーー一時期、自分は中村俊介に似ているとおっしゃっていましたね。
なんとなく境遇が似ているかなと。中村選手の場合は、ここ一番という時のフリーキックとか、見せる技を持っていますが、でもサッカーでは中田英寿が主役ですよね。ナンバー1でないという意味で・・。それに、なんとなくフィジカルが弱そうというイメージも似ているような気がします。

GPSによる羽生vs片上戦解析についてのメモ

昨日の竜王戦の羽生vs片上は、角換わりの定跡形から、そのまま難解な中終盤へと突入するという現代将棋らしい展開になり、見ごたえのある将棋だった。最後は、ややあっけなく終わってしまったが、実は際どい変化が最後まであったらしい。
ところで、昨日はgpsshogiのtwitterで、一手一手の読み筋と数値化した形成判断が開示されていて話題になっていた。
あそこで示されている手順というのは、他にも膨大な変化を読んでいる中での、たまたま一番得点が高かった一分岐である。だから、あれだけ見てGPSを正しく評価するのは、勿論無理である。
ただ、少なくとも言えそうなのは、(たまにわけの分からない順を読むことはあるにしても)、特に終盤に近づくにつれて、プロでも一応読みそうな順をちゃんと見つけ出しているということである。だから、アマにとっては勿論、プロにとっても「参考意見」としては、手がかりにはなるレベルに既に達していると言えるかもしれない。
但し、プロの特にトップレベルの場合、ある程度正しい筋が見えるだけでは全然足りない。むしろ、有効と思われる多数の変化の中から、ほとんどただ一通りの勝ち筋を正確に見つけ出さなければいけないことも多いらしい。昨日の控え室の検討と照らし合わせてみても、そこで候補として上げられる手を、GPSもある程度の精度で言い当てているが、「正解」を言い当てるところまでは至っていないというところなのではないだろうか。
それと、数値化された形勢判断については、具体的な読み筋よりも、やはり見劣りする。昨日も、かなり早い時点から、ずっと羽生が有利という評価をし続けていたが、プロの見方では、どちらかというと片上が有望で、最後の方で羽生がよくなったという感じらしい。これは、コンピューターの最大の弱点が評価関数の精度なので、ある程度仕方のないことだろう。
GPSなどコンピューターを、例えば人間ではどういうタイプの棋士なのかと考えてみると、恐ろしくよく読むのだけれども、大局観が悪くて、その場の形勢などについてはかなり鈍感だけれども、読む力が凄いので、うまく筋に入ると強い相手でも負かしてしまうタイプという感じだろうか。
昨日の将棋では、片上が局後に悔やんでいたのは最終盤の△6六歩、あそこでは既に悪いながらも、もっと際どくする順があったということである。つまり、あの手がはっきりした敗着だった。実は、そのことをGPSは「理解」していた。直前の[(81) ▲7九桂] 241から[(82) △6六歩] 1247と、突然急激に先手の有利度が増大している。つまり、△6六歩に問題があったことを、残酷なまでに数値化して表現しているのだ。これは、ちょっと恐ろしい話である。

将棋メモ 7/21(火)

朝日杯は石橋さんが連勝。一昨年も、大野、森けいじと連破しており、二年続けての快挙である。あの力強い棋風が早指しに向いているのだろうか。しかし、長時間での王座戦でもただ一人男性プロを破っている。どの対局も、うまく優勢になり最後は終盤力を生かしてしっかり勝ちきっている。今年の二勝は、どちらも快勝だった。
武市が得意戦法の筋違い角を見せたが、きっちり対応していた。今月の将棋世界で武市が筋違い講座を書いていたが、そこでも紹介されていた4筋の位を取る対策を石橋が採用。それに対して武一が独創的な遠大な構想を見せたが、その途中で浮いた▲2六金を石橋がうまくとがめたということのようである。相手の得意作戦を堂々と打ち破ってしまった。
二局目の神谷戦は、やはり後手で4手目△3三角戦法を採用。神谷がらしく▲7七桂と突っ張った感じの受けを見せたが、実は研究会で経験済みとのこと。良くそれを石橋さんが打ち破った。神谷も棋風通りの強い受けに行ったが、大きな誤算にあったようで、石橋がうまく手をつないで完勝。
石橋さんは、力が強くて攻めさせるとうるさいので、短時間の将棋では男性プロもイヤだろう。今年は、三回戦にも期待したい。
一方、清水さんは惜しくも敗退。棋譜解説を見て驚いたのだが、清水さんの対男性の勝率がかなり低い。他の女流との力関係を考えると、すごく不思議な感じがするが、清水さんが良い意味でも悪い意味でも女流らしい男性とは違った感覚の将棋を指すことと関係しているのだろうか。

LPSAの1dayトーナメント、Mondayカップは、船戸さんが優勝。三局とも相手を圧倒する内容だった。中井、石場以外では、最初の頃は。よく島井さんが優勝していたが、最近は船戸さんの優勝が多い。
今回面白かったのは、Mondayレッスンの生徒さんが、予選を行って一人だけ参加していたこと。中倉宏美さん相手に角落ちで戦っていたのが、凄く新鮮な感じがした。
将棋は、下手が途中まで実にうまく指して、ほぼ勝ち決定ともいえそうな局面までこぎつけた。しかし、ちょっとした隙をつかれて中倉さんに飛車を召し取られてしまう。それでも、冷静に考えれば、まだ十分勝ちの場面なのだろうが、こういう公開対局で早指しだと全く話が違う。多分普段なら絶対逃さないであろう詰みを逃し、最後は自玉がアッサリ頓死。棋譜を観ていて痛いほど気持ちが分かった。たぶん後半は、何がなんだか分からなくなり、普段の力の十分の一も出せていないのだろうと思う。

竜王戦決勝トーナメント、羽生vs片上が進行中。先手の羽生が通常角交換をするのは、最近ちょっと珍しいが、初手合いだし片上の後手での研究を警戒したのだろうか。先後同型の腰掛銀から、色んな筋の歩を突き捨てないでシンプルに仕掛ける形に。棋譜解説を見ると、どこまで先例があるのか一発で分かる。△8八歩に、先例は▲7七桂と逃げるのが通例だそうだが、堂々と▲同玉と取ったのは、いかにも羽生らしい手である。と言っても、どんな手を指しても「羽生らしい」と思ってしまう。強気な手も、辛抱する手も、直線的な斬り合いも、曲線的な手待ちも、なんでも指すからである。
この後どうなるのだろうか。(現在午後8時)
なお、twitterで、今年のコンピューター選手権で優勝したGPS将棋が、一手ごとに読みの内容と形勢判断を示していて面白い。他のフリーソフトにも、是非参入していただきたいものである。

gpsshogiのtwitter


張栩@トップランナー

やっと録画を見たが、予想をはるかに上回る面白さだった。張栩は、例によって黒系統のちょっと殺し屋風のスーツで登場。実際よく似合うのだが、「少しは強そうに見えることも意識している」と屈託なく笑って言う。イメージとの格差が張栩の面白いところである。司会の人も言っていたが、アツくて求道者風の厳しさと人間的なかわいらしさの共存が張栩の魅力なのだろう。
興味深い話はたくさんある。夢の中で本気で対局していることがあるそうである。そしてグッタリして目が覚めて、「これから対局かか」と思うのだと。ちょっとこわい話である。将棋の棋士でもそういうことはあるのだろうか。
質問に答えて「囲碁の神様と二子で何とか打ちたい」と。どの程度のハンディなのかは分からないが、将棋の神様と角落で指す感じなのか。あるいはそれより厳しい条件なのか。
日本の碁界が韓国や中国に大きく遅れを取っていることについて。共同研究の重要性を説き、かつて自分でもマンションを共同で借りてやってみたが、出席者が揃わなかったり遅刻者が出て、いつの間にか立ち消えになったと。「日本の場合、向上心が足りない」とドキリとするようなことを言ってのけていた。
しかしなんといっても、白眉は泉美夫人とのエピソードだろう。面白すぎる。ゲラゲラ笑ってみながら、こんなことも思った。
運命のめぐり合いというと通俗的きわまりない文句だけれども、本当にこの二人の場合、運命の赤い糸によって結ばれていたたのだと自信を持って言いきることが出来ると。
長めになるが、エピソードをほとんど全て文字化して紹介する。何にも言い加えることはありません。ご馳走様。

―出合った頃の話(張栩10歳、泉美さんは2.3歳年上)
すごいお姉さんで。泉美さんというのは、すごく変わった人で。囲碁以外のことで会話したことが一度もないかもしれない。友達も、そんなにいない感じだし、本当に碁を勉強する囲碁バカなんですよね。完全に。
ーそういうところに惚れたのですか?
囲碁に対する心がけや姿勢はいいなと思っていたんですね。勉強熱心ですし。そういう意味では、ずっと好感を持っていたのですけれども。
ー泉さんは囲碁の超名門の家系ですよね。そういう人によくアタックしましたね。
その通りですね。あまり泉さんを口説いた人はいなかったですね。
ーなぜ出来たんですか?
どうかしてたのかな。
泉美さんがビデオで初デートの思い出を語る。
それまでは囲碁を通じて何かしら会うことが多かったので、どういう感じかなと思って楽しみにして初デートに行ったんです。彼が用意していたのは囲碁の話だったんですね。地あいの正しい計算方法というのはプロでも間違ったりする難しい内容なんですけど、いきなり延々とされてですね。アツく語る人なんですけど、地あいについてアツく語ってくれたんですね。そしたら急に碁盤か碁罫紙を出して、問題を出されて「これ、何目?」と訊かれて「えっ」と思って。でも言われたら一生懸命考えて解くんですね。「出来ました。」と言うと、サッと形を変えて次の問題を出されるんですね。それがいくつか続いて、これがいつまで続くんだろうと思ったら、やっとおわって、食事に行けたんですけれど。最終的に帰りがけに渡されたのが、張栩詰め碁集です。張栩の詰め碁が一つの紙に四つ書いてあるんですけど、それが30枚くらい束になってクリップでとめてあるものを「どうぞ」と渡されたんです。「これで勉強してね」とすごい笑顔で言われて。「あっ、ありがとうございます。」と、もらって帰ったんですけれども。
ー(スタジオに画面戻り)面白すぎますね。
いやあ、いい話ですねえ。いや、ちょっとキャラ作っていた部分もあるみたいですね。そこまで囲碁バカではなかったという。(と明るく笑う。)本当に囲碁だけの付き合いで、それ以外のことを話しかけても、ほとんど無視の状態で会話が成り立たなかったんですね。囲碁以外の会話は。そういうキャラだったんですね。付き合ったとしても碁の話から入るのが自然かなと。だから、文句を言われる筋合いは無いんです。(と言ってまた屈託なく笑う)
ーバレンタインデイにハート型の詰め碁をプレゼントされたことについて再び泉美さんの証言
まさか、そういうプレゼントがあると思ってなかったのでビックリしました。それによってお互いの理解を深めていく段階で、まぁ、本当の意味でこの人を理解できるのは私しかいないかなと。それは今でも思っているのですが。

将棋メモ 7/19(日) (追記あり)

棋聖戦最終局は羽生の快勝だったわけだが、羽生のタイトル戦のカド番での強さ、連勝は本当に凄いとしかいいようがない。去年の棋聖戦では、佐藤相手に0-2から三連勝。王将戦では、深浦相手に2-3から連勝。名人戦では郷田相手に2-3から連勝。そして今回は、木村相手に1-2から連勝。これで9連勝。ここまで来ると単に実力だけとはいえませんね。このタイミングでオリンピック選手相手に講義をすれば、選手たちもより真剣に聞いたのではないだろうか。
ちなみに、タイトル戦のカド番での連勝記録はどうなっているのでしょうね。この羽生さんの連勝が記録のような気もするが、もしかすると大山先生あたりがとんでもない記録を残しているような気もする。

(追記)羽生さんは、去年の王位戦でも竜王戦でも、奪取失敗、ということはカド番の一番で敗れているので、厳密には去年の棋聖戦は連勝記録には含まれないのかもしれません。

NHK杯、内藤vs堀口(一)。内藤が趣向の△3二金からの四間飛車。堀口の穴熊に対して内藤がが積極的に仕掛けたが、誤算があったようで、最後は堀口が玉側の左辺に金銀六枚を盤上に集結させて、上から押しつぶしてまった。戦っているうちに玉を鉄壁にしてしまう現代将棋らしい指し方になった。感想戦では、将棋に真摯な堀口、達人風の内藤、それを混ぜっかえす福崎と、全く異質な三者三様の個性が面白かった。

銀河戦、深浦vs久保。後手久保の位取りゴキゲンに対して、深浦が右銀を繰り出したが、久保がそれに対抗して銀をズンズン繰り出す面白い指し方。久保がペースを握ったかに見えたが、深浦もしぶとく手をつなげて、いつの間にか深浦が完全によくなった。しかし久保も徹底抗戦して、なかなか終わらなかった。二人とも、とにかくしぶとく、しつこく、ねちっこく、折れない。二人がタイトルを保持しているのが、妙に納得できた一局。

銀河戦、郷田vs山崎。山崎の後手一手損角換わりから郷田完勝。山崎は郷田と相性が悪く、これで1勝6敗。本局も、全くいいところがなかった。郷田は良くなってから、山崎の手を完全に殺す「やや激辛流?」の指し回しだった。
感想戦で山崎の自虐ギャグと相手への悪気の無い毒舌が炸裂したことは言うまでもない。
形を作りたかったんですけど、首を差し出しても、首をジワジワ絞められる感じで。
冷たいなあと思って。
何か、イヤな事でもあったのかと思って。

コンピューターの感覚と人間の感覚ー棋聖戦第五局梅田望夫観戦記

棋聖戦中継plus 梅田望夫氏、棋聖戦第5局リアルタイム観戦記

今回の梅田観戦記はコンピューター将棋と人間将棋の比較がテーマだった。解説に最適任の勝又教授を得て(というよりは、梅田の熱烈ラブコールによってひっぱりだされて 笑)、大変興味深い話を多く聞く事ができた。以下は、その感想メモなのだが、私はコンピューター将棋に興味があってごく基本的なことは理解しているが、完全に文系人間で具体的な技術面が全く分かっていない。なおかつ、棋力も大したことは無いという二重苦?なので、もしかすると勘違いによる記述もあるかもしれないことを、あらかじめご了承いただきたい。

(2) コンピュータに不向きな将棋より
コンピュータに不向きな将棋になりましたね。」

 と勝又さんが言う。

 「手の狙いがちょっと目にわかりにくい将棋は、コンピュータには難しいんです。先手・木村さんは5八玉と3八金の形で、8七歩を打たずに頑張るぞという意志を示して、後手の8五飛を拒否したんですが、それで羽生さんは8四飛から2四飛とした。羽生さんのほうは、先手に2八銀という悪い形を強要するために、2四飛から8四飛に戻して二手損をしているわけです。たとえば「5八玉と3八金」の狙いの意味がわかるのは相当先ですね。「8四飛から2四飛」の効果、つまり先手の壁銀が先手にとってマイナスになるかどうかは、コンピュータ的には相当先にならないとわからない。つまり、相手の手を拒否する狙いの効果がずっと先に出るような将棋って、コンピュータには読みにくいんですね。」
横歩取りは、コンピューターだけでなく、弱いアマチュアにとっても分かりにくい。勝又六段の指摘は、そのまま我々弱いアマチュアに対してのアドバイスにもなりうるのである。振り飛車や矢倉なら、弱くてもとにかくどこが争点になる(なりそう)なのかは理解できる。しかし、横歩取りの場合、どの部分がポイントになるかを、まず的確に判断しなければいけないわけだ。
コンピューターの一番の課題は当然手が広い序盤であるわけだが、特に横歩取りの場合は指針方針が立てづらい。また、中住いという囲いとはいえない囲いも用いなければならない、穴熊や美濃と違って、堅さの判断がコンピューターには難しいだろう。例えば、ボナンザは駒の三手間の位置関係によって、囲いの堅さを判断しているそうだが、中住まいの場合は多分三点の関係だけでは判断できない。局面全体との関わりで判断しなければならない。それはコンピューターには難しいだろう。
ただ、全く対策が無いわけではない。例えば、本局では木村の2八の壁銀が最後までたたったわけだが、それは言語化してコンピューターに理解させることは可能なはずだ。金銀に邪魔されて玉が逃げ込めない状態の形に、きわめて高いマイナス評価を与える方法など。現在のソフトが、具体的な壁銀にどの程度対応しているかは不明だが、そういうきめ細かい一つ一つの言語化によるコンピューター教育が、やはり必要になっていくのだろう。

(3) 時速40手の研究のぶつかりあいより
コンピュータの課題は、この43手目まで来られるかどうかなのだと、勝又さんは言う。この「時速40手で進む展開」の裏には百科事典並みの変化があり、それを全部コンピュータに正しく入れるのは無理だから(結論が日々変わるから。最近は定跡に依存しようとするソフトが負けやすい状況とのこと)、この局面に来るまでに、トッププロによる落とし穴にコンピュータがはまってしまう可能性が非常に強いのだそうだ。
定跡の問題も、コンピューターにとっては重大な課題だろう。人間もある程度定跡に頼って指すわけだが、どんなに弱い人間でも、定跡でも何か変だと思った瞬間に自分で対応するモードに即シフトチェンジできる。しかし、コンピューターの場合、その融通がきかない。定跡を入れた部分までは、無条件にそこまで指してしまう。それだと、定跡による価値評価が誤りだったり、日々革新する定跡に対応していないと、少なくともプロレベル相手だと致命傷になる恐れがある。まして、横歩取りのように、激しくて大技が決まりやすい将棋では、その危険が高まる。だから、勝又の指摘のように、定跡に頼るソフトは勝ちにくくなる。本当に無難な間違いのない定跡を短い手数だけ入れておくしかないのかもしれない。
対策として、コンピューターとしては、なるべく直線的でない定跡の戦法を選ぶというのがあるが、しかしそういう力戦だと、先述したようにコンピューターの序盤感覚では対応できないという難点がある。となると、やはりコンピューターに適した戦法は、振り飛車穴熊あたりなのだろうか。とにかく、一目散に囲うことを目指すと。ただ、それも最近は研究が行き届いていて、プロ相手に工夫なしに穴熊にすると、あっという間に作戦負けになるので、きめ細かい定跡入力は欠かせないだろう。
この辺は、素人が考えてもいかにも難しそうで、プログラマーの皆さんが頭を悩ますところなのではないだろうか。要するに、コンピューターの永遠の課題は序盤なのである。

(7) 意表のコンピュータの指し手を控え室で検討。おっ、その手を羽生が指した! より
「この手にどう指すんですかねえ」

 屋敷さんが笑いながら、

 「これ、しびれてますかねえ」と言う。

 この手とは、GPS将棋がしきりに読み筋として指摘していた△4五桂を、ここで指してみたらどうかということである。いまは67手目▲9一桂成に羽生さんが長考しているさなか。

 △4五桂について、控え室の棋士たちの直感は、3三の桂はそのままにして、後手は右辺の駒をさばいていくべき、という棋士の感覚に、コンピュータの感覚はちょっと違う、と言うのだ。
(中略)
そこで羽生さんの手がモニター上にあらわれ、指したのが果たして△4五桂であった。控え室で歓声が上がった。

 「羽生さんは、先入観がないからなあ」とは勝又さん。「コンピュータが、この△4五桂を読み筋に入れているだけで、褒めなくちゃいけない」。
序盤では、コンピューターとトッププロの感覚の差が顕著な将棋だった。、具体的には羽生の△3一玉の構想をGPSが全く読めなかったこと。(ここでも、コンピューターに対する言語化としては、相手の歩がきかない筋にある玉の安全度は高い、というのがあるのかもしれない。今回、人間の感覚とコンピューターの感覚が異なる一方。もしその気になれば言語化できる部分も結構あるのではないかと、個人的には感じた。そのためには、勝又六段のようなプロ将棋の言語化の達人の力が必要だろうか。)
しかし。この△4五桂については、コンピューターの先入観のなさが長所になって現れた。プロ棋士がいうように、とにかく右辺の駒を捌きたいと言うのが人間の感覚、人情?である。しかし、本譜のように△4五桂から先手玉を寄せに行ってしまえば、おわりだったのである。実際、ほとんどこの一手によって、木村といえども受けることが難しく、収集困難になってしまったのである。
羽生のような超一流のプロ棋士の特徴は、常識にとらわれない手を指すことにあるといわれる。佐藤も典型的だろう。つまり、プロであるならば、「ここでこう指すべき」という基本的な感覚は誰もが習得している。そうでなければ、プロになることは不可能だ。しかし、さらに上に行くためには、「プロの常識」を疑う勇気と柔軟性が必要になってくる。羽生の将棋が常に新鮮なのも、どの一局にも「驚きの一手」が必ず出てくるからだ。
そして、実はそういうことは、全く先入観の無いコンピューターが得意とすることなのである。人間の場合、直感的に読む筋を最初から何通りかに限定するが、コンピューターにはそういう能力がそもそもないので、基本的にはあらゆる組み合わせを読む。(技術的に全幅探索と選択探索の差はあるにしても、相対的には人間よりはるかに広く多くの手を読む。)だから、コンピューターが人間の気付きにくい妙手を発見するというのは、当然ありうることなのである。
そして、実はこのことはコンピューターが人間を凌駕する可能性の一つともいえる。現在は、評価関数の制度が高くないので、優劣の評価をトッププロ並にはきちんと出来てないのだが、少なくとも「妙手」をコンピューターは必ず「読んで」いる。あとは、その「妙手」を選択肢の網の目に掬い上げることが出来るように、評価関数の精度を上げればよいのだ。といっても、多分それが一番難しいことなのだろうが。
羽生は人間の指す将棋のチャンプであるとともに、実はコンピューター将棋の最大の理解者なのかもしれない。


(10) 構想力で最高レベルを行った羽生の芸術的将棋より
本局が、羽生の人間的な構想力が最高度に発揮された将棋である。まだ、特に序盤感覚メンでは、コンピューターとの大きい佐賀あることを見せ付けた将棋だった。それを受けて埋めだせはこのように言う。
 『私個人はと言えば、「コンピュータが進歩に進歩を続けて人間のプロの最高峰に挑みながら、紙一重のところで人間が勝つ」ということが相当長く続く未来の戦いを見てみたいと思う。』

 と書いたが、私は、私が見たい未来を、見ることができる、と確信した。相当先までx-dayは来ないのではないかと、私は強く思った。人間の能力の深淵を垣間見た一日だった。
いかにも梅田らしい言い方だと思う。こういう良い意味での楽天性は、梅田のウェブ関係での書物から終始一貫しているものである。ただ、個人的には私はコンピューター将棋に対する人間の優越については、あまり楽天的な見方をしていない。
本局は極端な例であるにしても、現時点では、感覚面ではまだ人間がかなりコンピューターに対して優位にあることは間違いない。それは、勝又六段による絶妙な言語化能力による説明を聞いてもよく分かることだ。
しかし、そういう感覚面の優劣と、実際の勝負というのは全く別物なのである。先ほども、少し述べたがコンピューターの基本原理は、とにかく数多く読むということである。その点だけでは、最初からコンピューターが人間に対して絶対的有利な立場にある。当たり前だ。
それでは、なぜコンピューターが人間に勝てないかというと、読んだ手を評価する「評価関数」部分が、まだコンピューターは人間に全然追いついていないからである。つまり、いくらたくさん読んでも、そのどれが実際に有効な手なのかを判断的なければ無意味だ。その形勢判断能力、大局観、将棋の感覚部分では、まだまだコンピューターは人間に対して後れを取っている。
その「評価関数」部分に関して、駒得のみを重視しない工夫や、ボナンザメソッドの自動学習の導入によって。かなり精度が上がり、そのことでコンピューターは格段に強くなってきている。但し、人間とはまだ差がある。
にも関わらず、既にコンピューターは、既に奨励会二三段レベル、つまりほぼプロレベルに到達している。そのことにこそ驚くべきである。つまり、「評価関数」は、かなり雑駁なのに、それでも圧倒的な読む能力でここまで強くなってしまったのだ。
つまり、人間の美的感覚とは別のレベルで、コンピューターは「勝つ」ことが出来る。そもそも、思考原理が人間とはまったく別なのだ。だから、人間の感覚に全く追いつくことが出来ないまま、コンピューターが勝負だけでは、人間を上回る可能性がないとはいえないと思うのである。
勿論、それは人間にとっては必ずしも嬉しいことではないのだが。そして、個人的には、私も梅田同様に、コンピューターの非情な読む能力に、感覚面でしのいでギリギリで勝っていてもらいたいと願うものである。

「人間の感覚」自体について、ボナンザ開発者の保木さんが言っていることを引用して終わりにしたいと思う。人間の「感覚」というものは、人間が思っているほど絶対的なものではない。少なくとも、人間はそのことだけは、コンピューターから謙虚に学ぶべきだと思う。
面白いのは、当初、コンピューターチェスの指し手は、チェスプレイヤーたちからすれば、揶揄すべきような手であった。「あんな手を指すなんて、やっぱり機械だな」「美しくない、ただ力ずくの手だ」というわけである。ところがそんな中傷に対して文字通り聞く耳を持たないコンピューターはどんどん強くなっていった。そしてディープブルーが世界チャンピオンを負かすにいたって、「コンピューターチェスの指し手には知性を感じる」という印象に変わってきたのだ。これは意外なことだが、人間というものはそんなものなのかもしれない。コンピューターにしてみれば、単なる計算結果なのだが、その一手、たとえばポーンをひとつ前に進めた手に、人間は奥深さを感じた。「渋い!」というわけである。(渡辺明・保木邦仁の「ボナンザvs勝負脳より)

広瀬章人・遠藤正樹「とっておきの相穴熊」(マイコミ)


本当に今更の書評で申し訳ない。自分は相穴熊を指さない(避ける)ので出版当時には買わず、広瀬将棋に興味を持って購入したのはいいものの、積読になって現在に至ったという次第である。囲碁将棋チャンネルの広瀬講座を観たのをキッカケに、一気に通読したのだが、いや面白いのなんの。
この本については既に書評が出揃っているので、主だったところをまずあげておく。これで、ほとんど私の任務は完了だ。

勝手に将棋トピックス 梅田氏の更新から『とっておきの相穴熊』
将棋 棋書ミシュラン!とっておきの相穴熊
14へ行け 広瀬 章人 遠藤 正樹「とっておきの相穴熊」
白砂青松の将棋研究室 とっておきの相穴熊
三軒茶屋 別館 『とっておきの相穴熊』(広瀬章人・遠藤正樹/マイコミ将棋BOOKS)

勝手に将棋トピックスが、この本の形式面について精緻極まりない分析をしている。(改めて、こんな書評を書く人は、もずさん以外にはいないと痛感した。)この本を素直に読むと、広瀬=神、遠藤=人というくらい差があると感じてしまうのだが、それは本書の構成の意識的な狙い、また遠藤氏の基本的には聞き手に徹する姿勢によるものであって、実際にそのような大きな差は無いかもしれないと。確かにその通りである。遠藤さんは、プロを何度も負かしたアマ強豪中の強豪である。確か泉七段の研究会にも参加していて、ものすごい数の対局を泉さんと指したと、泉さん本人が言っていた。つまり、ほとんどプロと変わらない人なのである。しかも、相穴熊に関しては、スペシャリスト中のスペシャリスト。この本を読んで、弱い素人が間違っても「遠藤、大したことないな」などと思ったら、将棋の神様からの神罰が下ることであろう。
しかし、しかしではある。そうは言っても、特に第三章の実戦を題材にした分析で広瀬が見せる快刀乱麻の分析には背筋が凍る。現在、プロでは相穴熊では居飛車側がやや有利というのが定説である。振り飛車側で勝っているのは、ほとんど広瀬一人といっても過言ではない。つまり、手の見え方が並みのプロとは全く違うのだ。遠藤さんは、広瀬の指摘する手順に感心することしきりなのだが、それは遠藤さんらしい謙虚さとプロへの敬意のなせるものだけでなく、実際に広瀬が凄すぎるのである。その辺は、具体的に本書を読んでもらわないと分からないところかもしれないが。
先ほどの比較比喩を正確に言いなおすと、遠藤=相穴熊の神(ほとんどプロ)、広瀬=相穴熊の唯一絶対神(プロ中のプロ)といったところだろうか。遠藤さんが、「広瀬さんの感覚は私の想像のはるか上を行くものだった」と言っているのは、本当に率直な感想なのだと思う。
(相)穴熊というのは、普通の将棋とは別の全く感覚を必要とする。古くは、谷川浩司が穴熊の使い手の妖刀・福崎文吾に「感覚を破壊された」といったのが有名な逸話である。この相穴熊のスペシャリスト二人の会話を聞いていると、普通の将棋の概念とは違う共通文法を二人の間で最初から共有しており、大駒をすきあらばたたき切ったり、とにかく自玉がゼットの状態の時にいかに詰めろを続けるかが生命線といった、特殊技術の専門対話という感じなのである。いわば、何か怪しげな秘密結社の優秀な幹部が教祖と人知れぬ高度な教義問答を繰り広げている、といったら比喩としてはこれ以上不適切なものはないのだが、何となく私の言いたいことは分かっていただけるのではないだろうか。いや、サッパリ分かりませんって?
具体的には、例えば第三章のテーマ14で広瀬の示す手順の絶妙なこと。広瀬の自戦ということもあるのだが、ここでの遠藤さんの役割は気の毒になるくらいだ。しかし、並みのプロでも、金をポロッと取られてもね相手の7八のと金を目を間に合わせるのだけはまずい、そのために絶妙の工夫をして相手玉に迫るスピードをあげる手段というのは思いつかないだろう。(本を読んでない人には分からない話ですみません。)相穴熊でしかありえないような価値観であって、読んでいる我々一般読者も「感覚が破壊され」ながら、相穴熊の独特な森の深みへどんどん引きずりこまれてしまうのである。
上の書評では、14へ行けの「一読して広瀬の「神の子」ぶりに興奮。相穴熊に対する嗅覚は彼独特のものではないかな。誰も切り開いたことのない地平を1人見通しているような様子にアナグマン遠藤さえも霞んでしまうほどだ。」とか、白砂青松の将棋研究室の「とにかく広瀬プロの手にかかると、固いと思われている穴熊があっという間に攻略されるし、さばけないと思っていた飛角が大暴れする。なんなんだろうこれは、と言いたくなるほどの「穴熊芸」である。」というのはその通りだと思う。
広瀬=神でなく、遠藤=神官のこの言葉が。相穴熊の本質を簡単明瞭に表現している金言だと思う。
相穴熊は経験値の高いほうが有利なのである。数多い将棋の戦型において特殊な形といえるが、感覚をつかめば居飛車か振り飛車はあまり関係ない。
そして、本書を読み終えると、相穴熊はしんどいからイヤだと思っていたあなたも、いつしか相穴熊を指したいと思っている自分に気づき、相穴熊教にすっかり洗脳されてしまっている、かもよ。

将棋メモ 7/15(水)

昨日の竜王戦決勝トーナメント。田中寅が,予想通りに序盤で趣向を凝らしたが、豊島も堂々と石田流で応じて、全然作戦負けにはならなかった。むしろずっと優勢気味の将棋を勝ちきった。前局もそうだったが、勝ち味はあまりはやくない。但し、本局は結果的には逆転するような場面は全くなかったような気がする。大人びて勝ちをあせらないのは豊島の棋風なのだろうか。検討を見ていると、他にもっとスマートな勝ち方もあるように言われているが、豊島本人はどう思っているのだろうか。無理をせずに常に勝ち筋にあることを見切って指しているのだろうか。今後、さらに終盤力の強烈な相手と当たっていくので、その真価が問われるだろう。

マイナビ。岩根さんが、即詰みを逃して惜しい敗戦。矢内女王がストレート防衛を決めた。岩根さんは、第一局もはっきり勝ちがあった将棋で、終盤に勝ちきれなかった。もともと終盤は強いという印象なのだが、やはり初めての大舞台で力を出し切れなかったのだろうか。あくまで個人的見解だが、岩根さんは、私が見た中では一番着物が似合う女流棋士なので、またタイトル戦に登場してもらいたいものである。
中継を早水さんが担当していたが、控え室の女流棋士会の女流、LPSA側の女子プロの意見を分け隔てなく紹介していた。大変結構なことである。
ところで、矢内さん、今年はどんなドレスを見せてくれるのだろうか。去年が去年だけに、紅白の小林幸子のように期待されて大変だろう。

同日行われたマイナビ予選抽選では、一回戦で石橋vs里見が決まった。抽選するにしても、いくらなんでもいくつかのクラスに分けて。早く強豪同士が当たらないようにするべきだと思う。

順位戦C級1組。宮田と広瀬が三連勝。やはりこの二人だけは、このクラスの将棋ではないと思うので、さっさとあがってもらいたいものである。宮田は、中田功のコーヤン流三間飛車に、穴熊でなく急戦でいどみ、終盤も一手勝ちを見切ったような手順で勝利。やはり本当に強い。
小林裕vs浦野の終盤が面白かった。小林が早い勝ちを逃したために、よく分からない局面が延々と続いた。去年の竜王戦最終局のように、将棋はひとたび迷路にはまると、とんでもないことになる。辛くも勝った小林が三連勝で、昇級を狙うためには貴重な勝ち星をあげた。
片上vs千葉戦は、片上が独創的な駒組みを見せて面白い将棋だった。片上はご自身を「ロマン派」と言っているが、現代将棋のの研究を徹底的に突き詰める方向性とは別の、最近顕著になりつつある、見たことも無い局面に導く指し方を極端に推進する方向性ともいえるだろう。片上は、竜王戦決勝トーナメントで羽生との対戦が決まっているが、一体どんな将棋になるのだろうか。
長沼vs田村も面白い将棋だった。後手の長沼がダイレクト向い飛車から、▲6五角を打たせる展開になり、勿論田村がそういうのを回避するはずもなく、乱戦の力将棋になった。そういう将棋は一見田村のホームグラウンドなのだが、長沼も全く力負けしていない。銀河戦でも、この二人はゴキゲン超急戦いのねじりあいの将棋を指していて、その時に続いて長沼に凱歌があがった。「駒取り坊主」とか言われるが、大変力の強い将棋でもある。これで三連勝スタート。小林裕とともに、関西から昇級争いに絡むことになるのかもしれない。

将棋メモ 7/14(火)

王位戦第一局、出だしから面白いことに。私自身のtwitterのつぶやきから。
妄想会話。木村二手目△8四歩「あなたには後手一手損角換わりを使う必要はありませんよ。羽生さんとの棋聖戦にとっておきます。」深浦三手目▲5六歩「それなら、私も中飛車で十分。裏芸でもあなたくらいなら十分倒せます。」ってなことはないにしても、とにかく第一局から腹の探り合いですなあ。

千日手をめぐる駆け引きも面白かった。木村が金の上下運動から千日手になりそうになったが、敢然と打開するのかと思いきや、二日目にまた金の上下運動。良く考えれば、良くする順があるか千日手にするかを一晩考えられるわけだから、理にかなっている。
ものすごく、人間的な戦いである。二人とも、(将棋上での)自己主張はかなり強い方だという気がする。かつて羽生世代同士のタイトル戦は神々の格調高い戦いといった趣があったが、このチョイ羽生下世代同士の戦いは、神々が死んだ後の人間同士の戦いの生々しさがある。将棋の内容も勿論だが、「あまりに人間的な」ぶつかりあいにも期待しよう。
千日手指し直し局、解説が無いのでよく分からないが、難解な攻め合いになりそうだったが、木村の右銀が捌け、左辺にがっちり馬をひきつけた辺りでは、素人のパッと見でも、木村がペースを握ったように思える。羽生相手にはあんなにも強い深浦だが、木村相手の力のねじりあいでは、順位戦などを見ても、どうもあまり相性が良くないという印象がある。深浦本人も言っていたが、最近は木村相手に連敗中である。とにかく、一つ勝って流れを変えたいところだろう。

先週の週刊将棋、「スーパーあつし君に聞こう」より。
Q 恋人に詰将棋と私のどちらを取るか、究極の選択を迫られたら?
詰将棋を取るという意味が分からないので答えようがない。(長考・・)例えば私を取ったら詰将棋がなくなるというんだったら恋人を取ると思います。
>詰将棋を取るという意味が分からないので答えようがない。
この部分がおかしくて仕方がない。おっしゃっていることは、ごもっとも。それを多分ニコリともせずに真面目に答えているところを想像するとたまりません。

広瀬章人の神の寄せ(追記あり)

囲碁将棋チャンネルの「広瀬章人の将棋講座 ボクの愛穴熊」を、まとめて観た。相穴熊の序盤、終盤、自戦解説という内容だが、白眉は最終回の対村山戦での寄せ。広瀬自身が「生涯最高の自慢の一手」と言い、この順位戦を見ていた片上五段が「神の寄せ」と評した寄せ手順である。ここでは、広瀬による解説内容を紹介しておく。

図は村山が△5七歩と垂らしたところ。まだ後手玉がすぐには寄らないと読んでのことだが、ここから広瀬の神の寄せが始まる。
広瀬村山aaaaaa359392手

まず、▲3一角成△同銀に▲3三角!!!!!!!!!
広瀬村山bbbbb359395手

村山も、かなり深く読んで自玉がすぐには寄らないと判断したのだろうが、さすがにこんな手は誰にも読めないだろう。
対して△2二銀打には▲同角成、て蔚未砲連4三金が▲3二金△同銀▲3一銀以下の詰めろ□て蔚笋砲連ィ各鷆(▲2一金△同玉▲4一飛以下の詰めろ)△5四角▲3三歩(▲2二金△同玉▲3二金以下詰めろ)△同銀▲同金△同桂▲5一飛で寄り筋。
なので本譜は▲3三角に△同桂。例えばここで▲5一飛などとすると、△6四角が詰めろ逃れの詰めろになってしまう。以下▲3一飛成△同角▲3二銀△2一銀▲3一銀成に対して再度の△6四角がまたしても詰めろ逃れの詰めろで後手勝ちとなる。
というわけで、広瀬が指したのは▲3二歩。
広瀬村山ccccc359397手

この手は▲2一金△同玉▲3一歩成△同玉▲4一金△同玉▲5一飛△3二玉▲5二飛成以下の詰めろ。
従って△同銀と取ったが▲4二金。これも、▲3一飛△2一銀打▲2二金△同玉▲3二飛成以下の詰めろ。
なので、△2一銀打と受けたが、そこで▲5一飛。これも▲2二金△同玉▲3一飛成以下の詰めろ。
従って△2二飛と受けたが、▲3一金打。段々、受ける余地がなくなっていく。
広瀬村山ddddd3593103手

これには△6四角がこわいが、▲3二金寄としておけば先手玉はきわどく詰まない。△2八角成▲同玉に、4六角には▲3七桂□ぃ涯絛笋砲連3七玉△一五角▲2六歩で逃れている。
従って、本譜は△5四角と受けたが、▲3二金引△同飛▲同金△同角▲2二金△同玉▲3一銀△1一玉▲2二飛で必至である。
広瀬村山eeeeee3593113手

以下△同銀なら▲同銀成△同玉▲1一銀までの詰み。△4一金と受けても、▲2一飛成△同玉▲2二銀打までの詰みである。
以上、手順のみ紹介したが、何もないようなところからの▲3三角から▲3二歩が、完全に読みきりの寄せであることがわかる。芸術的な手順の組み立てであり、まさに神の寄せといえるだろう。

(追記)
将棋の神様〜0と1の世界〜さんよりご指摘をいただいたのですが、将棋世界1月号でも広瀬さんの自戦記が掲載されています。下の記事を参照していただきたいのですが、村山さんも▲3三角は見えていて、プロ的には一目!の手だそうで、むしろ成立するか難解で分からない局面だったので実現したというのが正確なところのようです。

将棋の神様〜0と1の世界〜 「将棋世界」2009年1月号に、「パンツ剥ぎの名局」の自戦記




将棋メモ 7/12(日)

囲碁将棋チャンネルの将棋まるごと90分が、少しモデルチェンジして週刊将棋ステーションに。基本的内容は変わりなし。
深浦王位が羽生名人との竜王戦1組決勝を解説。長手数の凄い将棋だった。途中お互いの玉が見えない状得になり、深浦は羽生の玉でなく自陣にひきつけた龍を攻めたりしていた。完全に泥仕合になり二転三転し、羽生は入玉したが、最後は深浦が羽生は玉をつかまえて勝ちきった。羽生の決して折れないしぶとさも相変わらずだが、羽生とこういう泥仕合を対等に指す深浦も、やはり強いと感じた。

銀河戦。丸山vs小林裕、後手小林の一手損角換わりから、丸山早繰り銀、小林腰掛銀の対抗形に。丸山がうまく攻めをつないで勝ちきった。攻めが的確で、連勝で勢いに乗る小林も本局は完敗。やはり、丸山クラスのトップの壁の厚さを感じさせる。
解説は山崎で、小林とは遊び友達だそうで、相変わらず「爽やかな毒舌」ぶりだった。小林は「攻めさせると、とてつもなく強いが、受けさせるとたいしたことはない」そうなのだが、本局も小林が受ける展開になり、最後はアッサリ諦めてしまい、山崎の言う通りの展開になってしまった。感想戦でも、小林は丸山の攻めの妙手を指摘して「よく手が見えますね」と、丸山に褒められていた。生粋の攻め将棋なのだろう。

佐藤vs橋本。やはり後手一手損角換わり。橋本の早繰り銀に佐藤は四間に飛車を振って受けた。橋本がうまく指して、佐藤の玉が7四に露出する形に。どう見ても先手がよさそうなのだが、感想戦によると結構難しいらしい。最後は、佐藤が迫力満点の寄せで勝ちきった。相変わらず佐藤の形にとらわれない豪腕ぶりが目についた将棋だった。橋本など若手も相当強いが、佐藤たちはさらに強いという印象。なかなか若手も羽生世代越えは大変そうである。
解説は島朗。ハッシーのことをこう評していた。
(ハッシーの髪型やファッションは)多分パフォーマンスもあると思うんですよ。将棋の人気をあげようということで。私も、若い頃はそういうのがありましたから。でも、本人も大変だと思いますよ。こういうことはファンサービスになりますけど、地味にやっている方が気をつかいませんからね。そういう意味では橋本さんも貴重な人材です。
そうなんだよなあ。島朗が初代竜王になった頃、ファッションとか発言とか、従来の将棋界的美意識に真っ向から反逆するものだったからなあ。かなり意識的に偽悪的に振舞ったりしていたようなところがあって。島先生には、ハッシーの気持ちが手に取るように分かるのでしょう。但し、二人のファッションセンスは、多分対極にあるのだけれども。

将棋メモ 7/11(土) その2

王座戦女流一斉対局。
石橋さん勝ち。相変わらず好きなように自由に指す序盤から、うまく立ち回って完勝。最後もバッサリ斬っていた。お見事。

里見さんは惜敗。終盤もらしく激しく遠山玉に迫ったが、うまく詰めろが続かず遠山四段に交わされた。遠山にすれば薄氷を踏む思いだっただろうが。まあ、ファンとしては一安心である。それにしても控え室の棋士は好きなことを言いすぎじゃないだろうか。
「遠山らしい粘りですよ」(行方)
「全盛期の遠山を彷彿とさせる」(佐々木)
全盛期て(笑)。
西川四段は「男らしく」千日手を打開。難解な終盤が続いたが、これも矢内にも手段がありそうだったが、西川がかろうじて振り切った。
前年までと違って本当に終盤のギリギリまで際どい将棋が続いていた。そろそろ持ち時間の長さにも慣れてきたのだろうか。でも、やはり最後で息切れしたとも言えるか。

NHKの追跡A to Z。羽生の頭脳を解析。MRIの台に羽生が寝かされて、詰将棋その他将棋の問題を解かされ、脳の各部位の活動を観察する。
まず、眼鏡をかけていない羽生が映って。ちょっとドッキリする。また、科学調査なので仕方ないが、MRIの台に寝かさせられて、色々考えさせられるのは、やはり人体実験という感じがするのを否めない。
羽生(などプロ棋士)は、大脳規定核尾状核という部分が活発に活動しているという。行動の習慣化、思考の習慣化をつかざとる部分。例えば、キーボードを考えないでも叩けるようになるための。つまり、いちいちゆっくり考えなくても、自動に手の読みや形勢判断が゜猛烈な即出でできるように、プロ棋士脳は働くように鍛えられているということだろうか。
さらに、羽生個人だけが活発な働きをしていたのが、嗅周皮質。記憶倉庫の海馬部分と他の脳の部分を仲介する部分だという。つまり、羽生の場合、記憶を具体的に迅速に働かせる能力が高い、そのための脳の部分が活発に働いていると考えられるだろうか。
さらに脳の奥の網様体。寝ている時は働かず、起きて活発に活動している時ほど、よく働くという。
嗅周皮質も網様体も、脳全体の、ネットワークを司る部分だという。
脳科学の進歩は凄まじい。但し、本当に本質的なことは絶対に解明できないと思う。あくまで、脳のどの部位を使っているかということだけ。勿論、それだけでも大変立派な仕事だし、そもそも科学とはそういうものなのだろうが。

将棋メモ 7/11(土)

竜王戦決勝トーナメント。豊島vs稲葉の注目カードは、豊島勝ち。稲葉の構想に問題があったようだが、それをとがめて当たり前のように勝ちきった豊島は強い。まだ、棋風をよく理解しているわけではないが、鋭角な稲葉と対照的で、懐の深い負けにくい将棋という印象。本局も、他に早い勝ちがいくつもあったという感想戦での検討があるが、とにかく全然あせらずに形勢のよさを維持して逆転させない指し方ともいえる。
次の田中寅戦は、全くタイプが違って、序盤でとんでもない大差がつけられてしまう危険があるので注目。もし、これを乗りきれば一気に挑決までかけあがると見る。まだ先の話もいいところだが、もし羽生とのカードになれば面白い。どれだけ羽生に通用するのかを見てみたい。そして、完全に羽生勝ちだろうとは言えない何かが豊島にはある。

順位戦B-1。山崎vs鈴木が面白い将棋だった。山崎の自由奔放な作戦、到底力がないと指しこなせないと思うのだが、ああいうのを楽しんでいるようでもあり、変な形をまとめあげる力量が抜群だと思う。
ハッシーが、渡辺竜王を「あんなに才能のある棋士を知らない」といっていたが、純粋に才能だけでいうと、山崎は渡辺よりも上なのではないかと思わせるものがある。
他のタイトルホルダーも強い将棋で勝ち続けている。ただ、まだ直接対決がない。タイトルホルダープラス山崎の結果次第で、まだまだ誰が昇級することになるか分からない。

王座戦は中川が藤井を破って。挑決に進出。山崎との組み合わせになった。中川も、全く人の指さない変わった形が得意なので、山崎戦は見たこともない将棋になるかもしれない。ただ、普通の相手はそういう力戦に慣れてないが、山崎もそういうのは得意中の得意になんので、個人的には山崎ノリである。

負けた藤井が囲碁将棋ジャーナルの解説。お気の毒様。棋聖戦、第4局を解説。やはり、相伴では▲1九の香車をはずしておくのが先決だったと。また、△4三金合いのポカについては、▲5二龍△4二金▲4三金△2三玉以下1四に玉が逃げて大丈夫と読んでしまったのではないかと。本譜だけ見るとなぜウッカリしたのかと思ってしまうが、確かについそう読んでしまうかもしれないと思う。そうだとしても、やはり木村クラスでは信じられないポカであることには変わりない。羽生の魔力のさせる業なのか。

なおNHKのトップランナーに、囲碁の張栩が登場するそうである。

http://www.nhk.or.jp/tr/

朝日杯では、中井さんが一勝をあげた。LPSA代表の仕事が本当に大変そうなのに、大したものである。
LPSAを立ち上げて、もうだいぶ経つが、状況が良くなるどころか、対外的にも(元)身内の勝手な行動のことでも問題が多そうである。一体どうなっているのだろうか。
最近、ますます、中井さんやLPSAのみを、ひたすら応援しようという気持ちが強くなっている。

羽生善治・柳瀬尚紀「勝ち続ける力」(新潮社)



「対局する言葉」に続く、お二人による二冊目の対談本。三回の対話が収録されているが、そのうちの二回目は、羽生が竜王戦に負けた直後に囲碁将棋ジャーナルで自戦解説をした日に行われている!
梅田望夫も既に書評しているが、竜王戦第二局の渡辺の△8三桂をめぐるエピソードは将棋ファンならば興味が尽きないだう。対談時期あり、竜王戦の第四局や第七局の終盤についての羽生の話を聞く事もできる。
博識な柳瀬が、次々に羽生さんに問いかけ、場合によっては、普通の棋士にこんなことを聞いたらムチャ振りだろうということまで聞いているのだが、どのような問いに羽生の見事な答えが返ってくる。本当に驚くべきことで、柳瀬も羽生の返答能力を絶対的に信頼しているのだろう。対談の最後で、柳瀬はこう語っている。
「対局する言葉」を大江健三郎さんが読んで、「あなたが何かしゃべると、その先にちゃんと羽生さんがいる、またあなたがしゃべると、また先に羽生さんがいる・・・」そこが面白いと感心されていました。今回対談して、改めて「ああ、羽生さんの思考は僕を先回りして、至るところに存在しているんだな」とつくづく実感しました。

具体的に面白い部分はいくらでもある。将棋の場合、選択肢がほとんどマイナスの手であること。中原や大山が「脳みそから血が出るくらい」考えて指していたこと。直線的な将棋だけでなく、ゴチャゴチャしたものが混ざっている中にも美しさがあると最近は感じていること。外国人の指した将棋には、日本語が母国語でない人が書いた文章のような何かちょっと違う部分があること。「羽生マジック」には種も仕掛けもないが、むしろ大山先生に相手の人間を観察して指す「大山マジック」があったこと。不利な時にはマジック的なことをしようとするのでなく、ひたすら不利が広がらないようについていくように指しているだけだということ。など。
そういう具体的な話以外でも、一体羽生はどこまでものを考えているのだろうという部分が随所にある。例えば、柳瀬は天才とは何かと、天才の羽生に聞いてしまっているのだが、羽生は楽々とこのようにこたえて見せる。
人間の持っている潜在的な能力や発想は、まだまだ一部しか発揮されていないと考えています。ですから、人間の埋もれている力を見出せた人や、発揮できた人たちを「天才」と呼ぶのではないでしょうか。持って生まれた特別な能力がある人が天才というわけではないと思います。人間は、まず寿命が限られています。環境。教育、あるいは時代や場所など、偶然の働きによって左右される部分もあります。一人の人間の上に、そうしたさまざまな要素が折り重なり、音楽のシンフォニーのようにうまく合致した時に、極めて高い発見をしたり、目覚しい能力を発揮するのではないか、という気がしています。

これは、ただの将棋棋士がするような天才論ではない。人間の潜在力、そしてある個体に様々に重なった要素によって、そういう能力を発揮できたのが「天才」だという考え方。天才だけを特別視するのでなく、人間一般の能力への深い信頼が根底にある天才論、というよりは人間論。羽生は、将棋を指しながら、どこからこういう深くて美しい考えを導き出しているのだろうか。
また、相撲に関して柳瀬が問うたのに対して、羽生はこんなことを言っている。
相撲の原点は、豊作の祈念です。それを、狩猟民族の人たちに根本から理解しろというのは、無理な相談なのかもしれません。ただ、本質的なところまで遡って考えれば、やはり、農耕民族の儀礼という要素まで引き継いでゆくのが、相撲の伝統であり文化でしょう。とはいえ、相撲は日常生活と密着している部分がありますけれど、将棋の方は昔からずっとずっと、浮世離れしています(笑)。そこがいいところなんですよ。

相撲に連綿と続く農耕民族の伝統を見ているのも驚きなのだが、将棋をそれとは別の種類のものと捉えているのが興味深い。農耕民族と狩猟民族という対比をしているが、日本の内部でも当然二つの文化潮流の流れが並存している。定住型と遊牧型、土の民と鉄や日の民、常民と遊民といった対立する要素。羽生は、将棋という文化の、日常的な文化からは離れた非日常的な要素、そしてその底流にある日本の主流とは異なる文化のある伝統の流れを。おそらく直覚的に感じ取っているのではないだろうか。
朝青龍のガッツポーズをめぐって、羽生が語っていることも興味深い。この具体的な問題を、羽生は「伝統」とは何かについての本質的な思考へつなげている。
朝青龍の行為自体よりも、彼の人間に対する蓄積評価になっていることをまず冷静に指摘している。相撲はスポーツではないが、外国人から見ればスポーツとして見られてしまう可能性があることを指摘する。その上で羽生はこのように言う。
伝統的なものは、スポーツという明確な割り切り方ができないものを積み重ねてできているもみのでしょう。お茶でもお花でもお能でも全部同じです。だから、その中で勝敗がつくものは、ジャンルちとして限られています。似ているのは柔道ですが、これは日本人のメンタリティだとスポーツじゃないわけですが、海外でやっている人から見ればスポーツです。でも、「道」という概念を伝えて理解してみらえるかどうか・・。

そのように伝統の意味をきちんと考えた上で、羽生はこう続ける。
どういうものが残って、どういうものが刷新していくかは、まさに歴史の評価でしょう。朝青龍個人の問題より、その後に出てくる横綱とか大関の人たちが、どういう思想を持ちどういう考え方を持ち相撲を継承していくのかが大切ではないですか。後は、最初に出た名画の評価のように、百年、二百年後に決まることでしょう。

朝青龍の問題についても、決して感情的な反応をしないで、問題の本質を冷静に見つめている。また、伝統の問題についても、きちんと伝統の持つ意味を深く意識して自覚したうえで、伝統墨守にならず、「外の」視線を客観的に冷静に受け入れることも出
来ている。伝統が固定化して自家中毒を起こしてはならず、時代や環境に応じて変化進歩してゆくものだと語っているように、自分には思えた。後半部分ははっきり言っているわけではないので間違って勝手に釈しているのかもしれないが。
羽生は着物をちゃんと使う伝統主義者でありながら、同時に将棋を進化させる上で伝統の破壊も恐れない反伝統主義者でもあるのだ。硬直化した伝統主義者でもなく、無責任な伝統反逆者でもない絶妙なバランス感覚。自分の立ち位置に対する無私で徹底的な客観視。羽生の指す将棋そのものの「伝統」観ともいえるのではないだろうか。
もう一つ、一番引用したい部分があったのだが、もう十分に引用過多のでやめておこう。各自が本書に当たって各自のベスト部分を探していただきたい。
柳瀬の思考を羽生が先回りしているだけでなく、後から読む読者の思考も時間を逆転させて先取りしているともいえる。羽生の言葉は、あらゆる解釈と思考を誘発するべく、世界に完全に開かれ遍在しているのである。
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