2009年11月

コンピューター将棋雑感

コンピューター将棋関連の話題をいくつか。

竜王戦第三局で渡辺竜王の会心の一手△7九銀をGPS将棋が言い当てて話題になったが、竜王戦第四局でも、森内挑戦者の工夫の一手△2二角もコンピューターソフトが言い当てていた。この手については控え室のプロも驚いていたし、またしても似たようなことが起こった。しかも、この局面はコンピューターが最も得意とする終盤ではなく中盤の「構想力」を問われる場面での一手なのである。この一手に限らず、全般にソフトはもはや終盤だけが突出して強いわけではなく、駒がぶつかった以降の中盤でも相当なものだという印象を受ける。但し、この△2二角は必ずしも良い手というわけではなかったようだが。
中央公論の勝又六段と梅田望夫さんの対談でも、「構想力」については何度も言及されている。人間独自の能力でコンピューターに欠けているのが「構想力」だと。
勝又 序盤から中盤にかけては、攻めるべきか、受けるべきか、いったい何を目的にすればいいのか、茫洋としているというのが将棋とというゲームの特徴です。序盤から中盤で求められるのが、大まかに先の局面を見据える「構想力」であり、「大局観」です。
ただ、「構想力」の適用される範囲として、コンピューターは既に中盤のある程度の時点でも人間に近い「構想力」を示すことが出来るようになっているのかもしれない。
もっとも、序盤の定跡部分での構想力はさすがにまだコンピューターでは無理なようである。プロが本気で序盤からコンピューターソフトが利用している入力定跡の隙を突こうとすれば、序盤で大差をつける可能性が高いのかもしれない。それについても、「必ず大きな作戦勝ちに出来る」という感じでは最早ないような気もするのだが。

人間とコンピューターの比較ということでは、イベント「将棋と科学」でのソフトvsトップクラスアマの対局が参考になる。

コンピュータ将棋の最前線』中継ページ

ここではコンピューターが相手を詰ましているにもかかわらずプログラムミスで投了してしまうというアクシデントがあり、将棋の神様0布世界「将棋と科学」公開対局:人類、屈辱の勝利で紹介されている。
しかも、コンピューター将棋の(実質)二勝の内容が凄まじい。
谷崎さん vs「文殊」では、後手の谷崎さんが一手損角換わりを採用して最新形に。定跡部分から外れて、図は後手が馬を作ったのに対して文殊が▲6八角と自陣角を放ったところ。
谷崎monju45手

人間的なパッと見の感覚だと、馬を作っている後手の方が先手の角との比較で良いと思うのではないだろうか。中継サイトでは勝又六段の動画解説がフルに見られる(素晴らしいサービスである)のだが、先生も普通は▲6八角のようなで手では後手が悪いはずがないが、ソフトの感覚も馬鹿にできないからなぁという言い方をされている。ちなみに、ソフトは自分が微差ながら良いと判断しているのである。実際、この後文殊は自陣に▲5六銀と、これは人間的な感覚でもいかにも筋や味の良い手を指して、実にうまく指していくのだ。この辺の指し回しを見ると、一概にコンピューターは「構想力」ではダメだとは言えないように思えてくる。感想戦で登場した谷崎さんも▲6八角なら自分がいいだろうと思ったが、実際によく考えてみると難しく、コンピューターの大局観に驚いたと率直に述べられていた。

二局目の稲葉さん vs「GPS将棋」では、後手GPSの四間飛車に対して稲葉さんが居飛車穴熊にガッチリ囲い、GPSは藤井システムではなく堂々と銀冠で対抗。
稲葉gps57手

プロでは振り飛車が避けることが多い形である。ところが、その後振り飛車側から突っかけて、うまく攻めをつないで圧倒して押しつぶしてしまった。アマチュア振り飛車ファンがプロの振り飛車党に見せてもらいたいような指し方をGPSがやってのけているのである。人間よりも「力」に自信があるといいたげとでも言うか。
棋譜も中継ページで並べることが出来る。実際に見たらコンピューター将棋の強さ、(実質)勝ったことよりもその内容に驚くはずである。
勝又さんと梅田さんとの対談では、人間の「先入観」について面白い話が出ている。ふつう、人間の感覚では角の方が金より価値が高いので、無条件に交換してしまうことなどありえないというのが「常識」「先入観」である。
勝又 しかし、ボナンザは角と金を交換することがままある。「ボナンザ攻め」と話題になった手ですが、ボナンザは角と金の点数にあまり差をつけず、金と銀に無さをつけているんです。このボナンザの評価に対して、プロ棋士の間では、思い当たる節があるという声が多かった。確かに言葉では「角は金より価値がある」というけれど、実戦では結構交換するし、金と銀にはだいぶ差をつけて考えているよな、と。僕にとっても再発見でした。
つまり、コンピューターソフトの先入観のない思考によって、人間が自分たちが気づかずにしていた思考を再発見、意識化できたということである。
無論、人間にはコンピューターにはない能力がある。しかし、コンピューターのとらわれのない考え方によって、人間が自分たちが無意識に考えていることを意識化したり、あるいは慣習的に正しいと信じ込んでしまっている思考を修正することさえ可能なのかもしれないのだ。
人間とコンピューターの関係を単に敵対的に考えるのではなく、コンピュータの思考により人減の思考のありのままの姿が照射され、そのことにより人間も自分の能力や傾向を把握して自己認識し、さらに最終的には人間がコンピューターには本当に不可能な思考能力のギリギリの可能性をさぐるという形になってもらいたいものである。
コンピューターソフトは、既にそのように人間を「助ける」事が可能なレベルに達しているのではないだろうか。

竜王戦第三局渡辺竜王の名手△7九銀周辺のコンピューターソフトの読み

竜王戦第三局は、通常角換わりで先手を持って指せると考える森内と、いや後手を持って指せるという渡辺が真正面からぶつかり合う、いわば思想対決の様相を呈した。意地の張り合いのように前例のある将棋を猛烈なスピードで辿り、初日の封じ手時点で、既に二日目の夕方のような局面になっていた。森内の封じ手が新手で、金をそっと逃げておく意表の手。いかにも用意周到に準備し、満を持しての一着という感じで、森内にしてみれば、渾身の研究手であり、シリーズの流れを変える会心の一手になるはずだったのではないだろうか。しかし、その後に森内に予定変更があったこともあり、渡辺の堂々とした対応と切れ味鋭い寄せによって粉砕されてしまった。渡辺の充実ぶりがうかがわれる一局であり、単なる一勝という以上に、勝ち方の内容という点でも大きな意味を持つ一局であったように思われる。
ところで、終盤に渡辺が放った△7九銀が、控え室にいたそうそうたるプロの面々も気がつかなかった名手で、その場にもいた谷川の光速流のようだとも評された手である。ところが、実はtwitterでプロ将棋の解析をしているGPS将棋がこの手を指摘していた。そのことをtwitterで指摘していた人も数名いたし、またこのブログにもまとめられている。

将棋の神様〜0と1の世界〜 第22期竜王戦第3局:将棋ボット三強による終盤の読み筋まとめ

ここでは、さらにもう少し具体的にプロとソフトの比較をして簡単にまとめてみよう。残念ながら私自身に指し手自体を分析する力はないので、表面的ななデータの対照に過ぎないことをあらかじめお断りしておく。データとして使わせていただくのは以下の通りである。

第22期竜王戦中継サイト
NHK BSの阿部八段の解説
GPSのtwitter
Bonanzaのtwitter
大槻将棋のtwitter

93手目森内△3三角の局面
渡辺森内93手

プロの検討例△8七歩▲同金△3九飛▲4九歩△2三銀でどうか。
GPSの読み[(93) ▲3三角] -595 △3九飛▲4九歩△同飛成▲8八玉△7九銀▲9八玉△6八銀成▲同金△3八龍▲7八金打△7六歩 (136sec)
いきなり△3九飛と打つ手を当てている。ただ、プロの検討では以下▲8八玉△8七歩▲9八玉とされた時にどうすればよいかが分からないということであった。また、GPSは▲4九歩と中合いして飛車の守りを消す手を考えている(それだけでも凄いと思う)が、この順はBSで阿部八段も言及してして、ここで中合いすると堂々と取られて先手は歩切れになって▲2三歩と垂らす手がなくなってしまうので無効だと解説していた。先に△8七歩としてもらうと、既に一歩手に入れているので中合いしても、まだ歩が残っていて攻めに使えるということである。
ちなみに、ここでGPSが余計な▲4九歩を途中に入れてしまっているものの、既に△7九銀を指摘していることにも注目したい。

94手目渡辺△3九飛の局面
渡辺森内94手

プロは前述の通り、このように先に飛車を打つと△8七歩▲9八玉の時の後手の手が分からないとしている。この時点でも△7九銀はどのプロも見えていない。
GPSの読み[(94) △3九飛] -741 ▲8八玉△7九銀▲同金△8七歩▲7八玉△7六桂▲6九銀△6八桂成▲同銀上△7六歩▲2二歩 (39sec)
このようにこの時点でGPSのみが驚くことに正しい手順で渡辺の名手△7九銀を指摘していたのだ。
ちなみにBonanzaと大槻将棋は△7九銀でなく先に△8七歩を入れるように推奨していて、それで後手が十分指せるという形勢判断である。さらに、形勢判断ということでは、この辺りではまだプロもはっきりしたことをいえてないが、どのソフトも二日目が開始して数手の時点で既に後手の渡辺優勢という判断を早い段階でしている。数値化しての判断なのではっきりさせざるをえないのだが、興味深いところである。

95手目森内▲8八玉の局面
渡辺森内95手

プロの検討は前手と同じ状態。
ここでGPSは読みを変えてしまっている。[(95) ▲8八玉] -634 △8七歩▲9八玉△8八銀▲4九歩△3八飛成▲2三金△3一玉▲2四角成△7七銀不成▲同桂△7六桂 (171sec)
△7九銀でなく△8七歩を第一候補に変更している。プロは▲9八玉とされた時に分からないと言っているわけだが、GPSはこの順で後手良しといっているわけである。どうなのだろうか。どちらにしろ、人間と違って「分からない」で済まさずに必ず潔く読み筋を示してくれるのがコンピューターのありがたいところと言えるだろうか(笑)。
ちなみに大槻将棋もこの筋を読んでいる。
95 手目 ▲8八玉まで (後手優勢) [-1287] ▽8七歩打 ▲9八玉 ▽8八銀打 ▲7九歩打 ▽7九銀 ▲8七金 ▽6八成銀 ▲2三歩打 ▽3二金打 ▲2二金打 ▽2二金 ▲2二と ▽2二飛 ▲6八銀 ▽1九成桂 ▲2二馬 ▽2二玉 ▲4五成銀

96手目渡辺△7九銀の局面
渡辺森内96手

ここに至ってプロは驚き感動したというわけである。詳細については棋譜解説の山崎&阿部の漫才?を参照されたい。なぜ、この手が人間プロの盲点になったかについては、安用寺孝功六段が中継プログで分かりやすく解説している。
寄せに入る場合、銀、桂、歩と持っているなら、普通銀はとどめに残し、桂と歩で何か手を作ってと組み立てるのがセオリーです。△7九銀は全くの逆ですし、しかも自玉が裸ならなおさらです。
つい△8七歩打などに目が行き、いきなり自玉も危ない状態で銀を捨てていくのに心理的抵抗があって最初から読まないということなのだろう。
逆に言うとコンピューターには全く先入観がないので△7九銀も読めるというわけである。今回はGPSが見事的中させたが、当然Bonanzaも大槻将棋も読んでいて上位候補には入っていたはずで、最高点の分岐にはその手が入っていなかっただけということなのだと思う。
但し、ここまでの分析だけでも分かる通り、コンピューターのの場合、相当いい筋はをはずさず読んでくるが、ピンポイントで精密機械のように一筋の勝ち筋を発見するという感じではない。この後も渡辺竜王は最短の厳しい寄せで一気に森内を投了に追い込むのだが、ソフトは必ずしも渡辺のスマートな寄せをこの後も指摘出来ていない。但し、恐らくこうしても勝ちという筋はきちんと指摘しているようではある。
プロが分からないと言っていた先に△8七歩打を入れての▲9八玉の変化について、人間プロがどういう結論を出すのかもちょっと知りたいところである。本譜の渡辺の△7九銀が鮮やかかつベストであることは間違いないにしても、△8七歩打 ▲9八玉の変化でもやはり渡辺勝ちだったのかどうか。
個人的にはGPSが部分的に△7九銀を指摘したことよりも、3ソフトが口をそろえて指摘して後手が良しと判断し、人間が今ひとつ分からないとした△8七歩打 ▲9八玉がどうだったのか、コンピューターの判断がもしかすると正しかったのかどうかということの方が大きい問題のような気がするのである。
全体的な印象としては、本当のトッププロというのは、唯一それしかないという一筋の勝ち筋を、素晴らしい直感と読みで探り当てるのに対して、コンピューターは安定して最善手あるいはその周辺を積み重ねてくるという感じである。そのかわり、人間のように終盤でとてつもなく大きなミスは犯さない。実際、プロの将棋をソフトが解析していて、プロが大きな疑問手を指すと、たちまち敏感にソフトが反応するのを何度も目撃した。
例えて言えば、ゴルフでプロの人間が超ロングパットを天才的に一発で沈める力があるのに対して、コンピューターは一発で入れるのは無理でも、間違いなくピンそば50cm以内に寄せてくるとでも言うか。人間の場合ワンパットで決めることもあるかわりに、強く打ちすぎてグリーンからこぼれ落ちることもあるが、コンピューターはそういう「人間らしい」ミスは絶対犯さない。
どちらにしても、コンピューターがこれだけ強くなると、もはや無視するわけにはいかない事だけは確かである。

木村一基八段のボヤキ節独演会

おひさです。
最近、将棋を観てはいたものの、今ひとつブログを書くほどのパワーがなかったのですが、日曜日のNHK杯木村vs山崎の感想戦をみて、また筆をとりたくなった次第です。この件については、twitter等でも結構言及している人が多くて、なんでこんなに将棋って楽しいんだろうと改めてつくづく思いました。将棋は最高の頭脳勝負であり芸術的営為ではありますが、つまるところ、その魅力というのはギリギリのところに出てくる人間のありのままの姿の尊さに尽きるのではないでしょうか。そういう魅力を感受することについては、どんな将棋ファンも棋力には一切関係なく平等なのであります。木村さんのボヤキ節をニヤニヤしてながめながら、そんなことを考えておりました。つまらぬ前置きが長くなりました。相変わらずくどい性格は変わらないようです。
将棋は、後手木村の△8五飛戦法(最近木村さんは一手損角換わりをやめちゃったの?)に対して山崎が自身の山崎流で対抗する形に。そこから山崎が一見相当無理そうに見える強襲をかけたのですが、それがズバリ決まって山崎大優勢に。後は、山崎がどう着地するかというだけの展開に。ところが、そこから山崎がもたつき迷走して、かなりおかしい感じの局面になったのですが、結局山崎が勝ちきりました。一気に殺してくれれば、木村も諦めがついたのでしょうが、きわどくなったために返って悔しさが倍増したのが、ボヤキの伏線になったわけであります。我々の世代のファンにとって、「ボヤキ」の大家と言えば、石田和雄先生をおいて他にいらっしゃりませんが、木村さんをその正統な継承者として、ここに勝手に認定します。
いやはや、ボヤくことボヤくこと。

ボクはバカだなあ。
そうか、悪魔を呼び込んじゃったようなものか。

(北浜)木村先生らしいかと。

いや、らしいけと、やられちゃしょうがないねぇ。これじゃ。
もし、(自分が)こう指していて(山崎に)何もなかったら、ちょっとつらいんだけど。

(山崎)いやっ、(何も)考えてなかったんですけど。

そうなんだよなあ。
そういう人だと思ったんだよなあ。
考えてないと思ったですよ。
これで何もなかったら、おうちに帰って泣きますよ。
おバカちゃんもいいところですよ。
呆れました。

(北浜)でも、強い手だと思いましたけれど。

いや、弱い手ですね。気だけは強かったという。
あぁ、ひどいなぁー。
こうなれば、私でもいい勝負ですよ。
接待もいいところだよねぇ。
ひどいねー。
寝てた方が良かったということですよ。
泣きそうですけど。

(北浜)こんな変化もあるかなと解説で気楽で言っていたんですけれども。

私も解説がよかったよ。被害者だからねぇ。
ひどいよ。どうせ温泉気分でゃやっているんだと思いましたよ。
もうやけっぱちで。

(山崎が角打ちの両取りを見逃す手を感想で指して、それが木村が指摘すると)
(山崎)ウッカリです。

読んでないねぇ。オレを悔しがらそうとしているのかな。
ひどいねー、そう打ってくれよ。
相当見えてないそぶりだから。
でも、いい手がなくて。神は私を見放したと。
(本譜でも実際に山崎が角による両取りをウッカリする手を指してしまい)
場を盛り上げようとしているんじゃないか、この人はと。
大丈夫かよと思ったけど。

(山崎)ウッカリですよ。

そう、ウッカリしているんだよねぇ。
一瞬その気にさせて。
ひどいよね。
二重のショックですよ。
(最後山崎が木村がこうしていれば自分が負けだったかもしれないと指摘して)
いや全然(それじゃ)大したことないとワタシは見たが。
結局いい勝負にされて負けちゃうんだよね。
(と実際に検討してみたら、実は木村に絶妙の香打ちがある事が発覚)
あっ、香車がある!

(山崎)負けかもしれないですね。

ほんとかよー。
悔しいねえー。
いやぁ。泣きそうですけど。

と、綺麗にオチがついたところでお開きになりました.
木村さんに、何とかしてタイトルを取らせてあげたいと思うファンが従来以上に激増したであろうことは言うまでもない。
コメントを承認制にさせていただいています。反映まで時間がかかりますが、お気軽にどうぞ。
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