2010年08月

第23期竜王戦の挑戦者決まるー渡辺vs羽生再び

昨日の挑戦者決定戦の終局直後に渡辺竜王がおそるべき迅速さでブログ記事を更新していた。

渡辺明ブログ 挑戦者決まる。

いきなり勝手な想像だが、この更新速度をみると、竜王は第一局の羽生の△3六歩をみて、既にある程度覚悟をきめていたのではないだろうか。そして、「反響が大きかった2年前に負けない勝負が出来るように頑張ります。」と、静かな調子ながらも既にやる気十分である。羽生相手だからだといって全然ひるんでいない。こうでなくっちゃ、いけません。

さて、今期の展望は、また改めてじっくり書くこととして(笑)、今日は一昨年のあの伝説的歴史的名シリーズを私のブログ記事で振り返ろうという読者の皆様にはハタ迷惑な企画である。一昨年は私も熱狂して取り憑かれたようにブログを書きまくったので、記事の出来栄えは別にして、以下を読んでいただければ一昨年に起きたことを一通り理解できるはずである?

羽生と渡辺の物語が長い中断を経て今再び始まる
一昨年に書いた事前展望記事。羽生と渡辺のそれまでの物語を総括しています。なお、この記事はあるアルファ・ブロガーの方の目に止まりアルファ・ブロガー・アワードにノミネートされたが、当然のように落選したといういわく因縁つきの記事でもある。

いきなり世代対決=将棋思想対決にー竜王戦第一局 渡辺竜王vs羽生名人
パリで開幕した第一局は羽生の大局観がきわだつ名局となった。梅田望夫氏のリアルタイム観戦記を参照しつつ、二人の大局観、世代の感覚違いをあますところく鋭く分析する名記事である。(今思いつきで決めたのだが、こんな調子で自画自賛調で紹介していきます。加藤一二三先生の自戦解説のように。)

Let's take in Shogi! ―梅田望夫の竜王戦特別観戦記
梅田望夫氏のリアルタイム観戦記は私にとって触媒効果を常に発揮する。将棋のことをより自由に気ままに書くように触発されるのだ。梅田氏に勝るとも劣らない才気煥発にして自由奔放な巨匠(ツイッターの一部で私はこのように呼ばれている。最初はかなり恥ずかしかったが今は一種の半蔑称的愛称だと思って諦めている。そしてついにじぶんで自分をこう呼び出したので末期症状だ)の名人芸を堪能されたい。

歴史は繰り返す ー竜王戦第四局第二日 渡辺竜王vs羽生名人
ターニングポイントとなった第四局の記事。この一勝の意義について、羽生vs谷川のタイトル戦をひいて解説する巨匠の歴史感覚の確かさに驚嘆する。(もうヤケです。)さらに、有名な妻の小言の記事へのリンクを張り忘れない抜け目のなさもさすがである。正直、このあと渡辺竜王が四連勝するとは私はこの時点では夢にも思っていない。

竜王戦第四局番外編―深浦vs山崎の掛け合い解説@BS中継
まさしく番外編。深浦王位が山崎七段の毒舌の犠牲になる模様を逐一報告した名作。抱腹絶倒ものである。巨匠のまとめ方のセンスが光る。

竜王戦第七局をめぐる幻想――渡辺明と羽生善治に捧げる
伝説の第七局に圧倒されて巨匠は真面目に将棋の記事を書く気がなくなり、なんと小説を書いてオマージュにするという暴挙に打って出たのであった。ちょっと改めて読み返したが、顔から火がでるくらい恥ずかしい。しかし、いかにも私らしい総括記事なので、敢えて紹介する次第である。もしかすると、少し私はMの気があるのかもしれない。

囲碁将棋ジャーナルの羽生善治
あの時、なんと羽生があの第七局をジャーナルで自戦解説する羽目になった。涙なくしては読めない珠玉の名記事。巨匠の羽生への愛情が滲む。いや、でもあの時の羽生さんは本当に立派だったよ。

正直者の強靭な勝負師――「情熱大陸」の渡辺明
この情熱大陸は、渡辺明の人間的魅力を紹介してあまりない傑作だった。これをみて竜王のファンになった方も多いのではないだろうか。そして、巨匠がさらに渡辺の人間的魅力を倍加するように見事にまとめている大傑作記事。まさしく、こんな記事は天才にしか書けないであろう。

やれやれ、自画自賛するというのも結構疲れるものですね。自然体で自画自賛できる加藤一二三先生の偉大さを再認識した次第であります。

にしても、よくもまぁ、これだけ書いていたものです。それだけ、一昨年の竜王戦は凄かった。

2010王位戦 深浦王位vs広瀬挑戦者 第四局までを振り返って

明日から第五局。仕切り直しの三番勝負である。
まず、懺悔から始めなければいけない。私は勝手にツイッターでした事前予想で、深浦 4−広瀬 0のストレート防衛を自信満々に予言していたのである。第一局でいきなり大ハズレ、その後も一進一退の攻防が続いている。
とにかく王位戦の深浦では、羽生名人との死闘の印象が強烈すぎる。羽生相手でも深浦はすこしも気合負けすることなく、それどころか攻撃的に序盤から切り込んでリードを奪い、終始羽生にペースを握らせなかったという印象が強い。大変な序盤巧者であり研究も深く思い切りもよい。百戦錬磨の羽生でもなかなか作戦勝ちできていなかった。羽生も玲瓏管理人氏のインタビューでこのように述べている。
深浦さんは序盤から主導権をとるのがうまいんです。今回の棋聖戦ではうまく主導権を握られないように出だしから慎重に駒組の工夫をしたというのはあります。
だから、広瀬もなかなか作戦勝ちできずにリードを奪われて、持ち前の終盤力で追い込んでも届かないという展開になるのではないかと考えたのだ。さらに、広瀬得意の振り飛車穴熊にしても、そもそもすこし苦しめなところを逆転する将棋だと鈴木八段も指摘していたし、なおかつ深浦王位も徹底的に対策を講じて二日制をいかしてじっくり指すだろうから、どうだろうかと。
しかし、広瀬の振り飛車穴熊は予想以上に奥が深かったし、その終盤力も想像以上だった。私の予想なんてどうでもいいのであって面白いことになった。

広瀬挑戦者は初タイトルなのに、ほぼ普段通りに実力を発揮しているようだ。大物である。読みも深い。将棋世界の自戦解説で、第一局の終盤で実際には現れなかった水面下の深い読みを披露している。実に終盤で手がよく見えるし緻密に細心な読みをしている。第三局でも、一目寄ってしまいそうで実は自玉が寄らない順に誘導したようなところもあって、穴熊王子の終盤には本当に天才を感じる。
広瀬が順位戦で指した「神の寄せ」について私も記事で紹介したことがあるので興味のある方はご覧頂きたい。ど派手な一手が飛び出すのだが、それよりも徹底的に緻密に読みきっていることに驚嘆させられる。

一方の深浦王位。羽生に対してはとにかく攻撃的にチャレンジするだけだったのかもしれないが、今回は挑戦者が年齢も自分より下だしでも実績でも自分が上だ。つまり完全に受けて立つ立場なのだが、それが色々と微妙な影響を及ぼしているような気もする。
例えば第三局。後手の深浦は広瀬が居飛車の意思表示をしたのに対して、△3三角戦法から振り飛車穴熊にした。最新定跡によると端を突きこされて穴熊になるケースが多いらしくある程度事前から想定していたのかもしれない。だが、深浦といえば相居飛車の深い研究で知られている。どんな形にも通暁している。普通に考えると、広瀬はまだ居飛車の「屋台を出したばかり」(藤井九段が自分の矢倉のことを当初こういっていた)なのだから、居飛車では「堂々たる老舗」の深浦なら普通に受ければ作戦勝ちできそうではないか。
だが、深浦は敢えて思い切った作戦を採用した。これは私の勝手な考えなのだけれども、深浦は冷静にシビアに指すようでいて、結構人間的な熱い思いの強いタイプなのではないだろうか。恬淡とした羽生とはタイプが違う。だから、第三局も普通に指したのでは面白くないから、敢えて後手で広瀬が得意とする振り飛車穴熊を自分が採用して勝って相手にダメージを与えようとしたのではないか。勿論私の勝手な深読みにすぎないのだが、今シリーズ全体を通じて深浦王位が広瀬挑戦者を人間的に意識しすぎて指しているような気もしないでもないのである。
深浦王位と親交の深い梅田望夫氏が「シリコンバレーから将棋を観る」や最近の棋聖戦の観戦記でも深浦の素顔を紹介しているが、実はとても人間的で熱いハートの持ち主だというのがよく伝わってくる。
深浦が羽生から王位を奪った際の自戦記もとても面白かった。かなり率直に羽生たちに対する思いを語っている。
なかなかタイトル戦に出られない時、いつも常連の羽生さんには「ずるい」と思ったし、自分から挑戦権を奪い去っていく佐藤さんには「にくい」とも思ったことがあった。(将棋世界2007/12より)
だから、深浦王位が今回もなんだか超然として大物っぽい若き天才にたいしてひそかに闘志を燃やしていてもおかしくはないだろう。違うのかもしれないけど、そうだと面白いと私のような無責任な野次馬は思う。
第四局で深浦の決め手となった▲7二龍は、いかにも穴熊崩しの見本のような手で、広瀬がいつも相手にくらわせているような手だった。挑戦者決定戦で羽生を葬り去った▲2二馬と感じが似ている。深浦にしてみれば相手のお株を奪った形で会心の一手だったのではないだろうか。まして地元である。
ところが、対局後に大盤解説上に両対局者が挨拶に行った際に、広瀬は「深浦さんの地元ですから」とアッサリと笑って言ってのけたそうである。広瀬らしくあっけらかんと何の他意もなくいったのだろう。しかし、それを「あまりに人間的な」(ニーチェ)深浦はどのように聞いたのだろうか。
徹底した努力の人、闘将深浦王位と、超然とした若き天才、大物の新人類(死語ですみません)広瀬挑戦者の対決という人間的な側面も今回は見逃せないと私は思うのだ

テレビ将棋観戦記 NHK杯 三浦vs高橋、銀河戦 佐藤康光vs櫛田、野月vs橋本

(以下テレビ棋戦についてネタバレで書いているのでご注意ください。)

昨日は涼しげに思えて、昼間はなにげに暑かったりして、すっかりしてやられてしまい、グッタリして夜は何もする気がせずに音楽をかけてウダウダしていた。ただ、どんな音楽をかけてもしっくりこず、次から次へとCDを取り替えていたのだが、オーネット・−ルマンでやっとピッタリはまった。
オーネットの高名なハーモロディクスが理論として本物なのかどうかは素人には分からないのでとりあえず置いておくとして、オーネットの音楽には西欧音楽の呪縛からスッパリと自由なハッピーさのようなものが感覚的には確かにあって、「ダンシング・イン・ヨア・ヘッド」などを聴いてすっかり元気になったのだった。
ところで、将棋界のオーネットーー伝統破壊者、異端児はだれだろう?佐藤康光?いやいや、彼もユニークだけれども、本質的には羽生世代の将棋観のコード・規範を共有しているし。
もしかすると、将棋界のオーネット・コールマンはコンピューター将棋?

NHK杯、先手三浦で、後手高橋の十八番の横歩取り受けると見せかけて引き飛車。当然三浦流の深い事前研究が予期されたが、高橋もある程度予期していたのか、「真似将棋」でかなり速いペースで進んだ。高橋からすれば、そのように先後同型にしておけば、先手も動きにくいのではないかという目算もあったのだろうか。
しかし、駒組みが飽和したところで三浦が、ほとんど時間を使わずに▲6一角の打ち込み。「研究してきましたよ」宣言。そして、打たれてみるとその角打ちが厳しくてうるさい。高橋が長考に沈む。とうも、この角打ちで先手が既に良さそうなのだ。
そんなに対局数が多くない形で、三浦はここまで研究していたわけだ。おそろしい研究の深さである。名人戦でも羽生が終わってから三浦の研究の深さに対して盛んにリスペクトしていたのが思い出された。
とろで、三浦はジャズで言えば誰だろう。ジョン・コルトレーン?コルトレーンは「聖者になりたい」と言い放ったが、三浦にも十分求道者的なところがある。

銀河戦、佐藤vs櫛田。個人的に私が一番楽しみにしていたクッシー登場。佐藤は櫛田の四間飛車を正々堂々と受けてたって居飛車穴熊。佐藤は先手でも変態戦法をよく用いるので、この作戦選択は櫛田に対するリスペクトでもあり同時に宣戦布告でもある。櫛田の四間を避けるプロも多い中でとても気持ちが良かった。
戦型は△4四銀型の定跡型を辿ったのだが、佐藤が普通は飛車を4筋や7筋に回るところで▲3五歩の意表の仕掛け。狙いが良く分からなかったのだが、進んで角銀交換を甘受しながらも、とにかく攻め続けようと言ういかにも佐藤康光流の一手であった。櫛田も振りら飛車らしくセンスよく受けて、感覚的には振り飛車がよいのではないかという局面にもっていったのだが、佐藤が意表の▲8六金の妙手などで攻めをつないで結局押しつぶしてしまった。振り飛車側からすれば、なんでこんな強引な攻めで負かされるのだろうかという感じもするが、佐藤康光らしい豪腕が遺憾なく発揮された一局でもあった。振り飛車サイドからすると「穴熊の暴力」といいたくなるところもあるが、佐藤の攻めはやっぱり強力無比である。
感想戦で調べると、結構難しい変化もあったようだが、短い将棋だと居飛車の攻めを振りほどくのが難しいのかもしれない。クッシーファンとしてはちょっと複雑な思いで感想戦を眺めていた。

野月vs橋本。後手の橋本の一手損角換わりに。序盤早々に9筋の端歩を突きあったのだが、解説の木村によると深い意味があるらしい。後手は坂田流向かい飛車にする含みも持たせつつ、端歩を本譜のように突きあうと、先手が早繰り銀にすると後手が有利になる変化があるとのこと。私は勝又教授じゃないのでうまく説明できないのだが、ちょっとした端歩の付き合いに深い意味があるのに感心した。
結局相腰掛銀で後手だけ8五と歩を突いてない形に。一応後手の一手損の主張が通った形だし、しかも後手が先攻できたので、橋本がうまくやったのかもしれない、しかし将棋自体は難しくて、野月もらしい強気な受けで勝負をかけて結構難しそうな攻め合いになった。が、最後橋本に冷静な銀引きが出て残した。
全体に橋本のセンスや確かな終盤力を感じさせる好局だった。ハッシーは、色々と将棋の普及に努力していてエライのだけれども、これだけの将棋が指せるのだから、将棋一本に取組んで欲しいというようなこともちょっとだけ思った。
ところて、ハッシーはジャズでいうと誰?ファッションだけでいうと復帰後のマイルス・デイヴィス?

2010竜王戦挑決第一局 羽生三冠vs久保二冠

竜王戦中継サイトより第一局の棋譜

あまりに凄い将棋だったので久しぶりに個別の将棋について感想を書いてみる。

先手久保で石田流、対する後手の羽生は△4二玉から、わりと温和な対策。佐藤康光が久保式石田流に対して真っ向から叩き潰そうかとするような対策を採用しているとは対照的。羽生もそういう最前線の激しい対策に進んで踏み込むタイプなのだが、そういうのは佐藤に任そうということなのか、あるいは最初から飛車角乱舞の順が石田ペース久保ペースになるので好ましくないと思っているのか。
とはいっても羽生も早々に仕掛けたのだが、それに対する久保の対応がまず第一の驚愕であった。いきなり穴熊のふたの部分の歩をとらせて馬をつくらせるとは。
最近の将棋、特にゴキゲン中飛車では平気で馬をつくらせる順もよく生じる。▲7八金型の定跡もそうだし、久保も谷川との順位戦の指し直し局でいきなり馬をつくらせる順を採用していた。馬をつくらせたら無条件にまずいという従来の常識が崩壊しつつあり、久保はゴキゲンの使い手としてそのような「普通でない」感覚の指し方が得意なのだ。
しかしながらである。今回のは馬を作らせる場所が場所だ。さすがに今回ばかりは、この指し方に共感するプロはいなかったようだ。そうでなくては困るという感じもする。そして、実際に久保も少し困っていたようだ。
ところが、それでも進んでみるとそんなにはっきり居飛車がよいという局面にはならなかった。羽生にも後悔する手があったようだが、むしろ振り飛車に攻める権利があり、なおかつ十分指せそうな展開になったから驚きだ。本当に現代将棋は訳が分からない。
そして第二の驚愕。本局最大の驚愕、羽生の△3六歩!!
羽生のこうした種類の意表をつく手には我々だってある程度は慣れている。それにしても今回のは凄すぎた。いくらと金が出来るとはいっても、角がタダで取れるではないか。さらに手抜いていくらでも攻めることが出来そうではないか。羽生側の陣形だってお世辞にも安定しているようには見えない。羽生が指しているにしても、これはいくらなんでもムチャなのではないか、本当に大丈夫なんだろうか、そう多くのファンも思ったはずだ。私も正直そうだった。
中継ブログの記事によると「おかしいでしょ、こんな終盤で手を渡すなんて」という感想もあったとのこと。羽生が得意中の得意とする手渡し、この手は攻めてはいるので純粋な手渡しではないかもしれないけれども、先手に手抜きして攻められる危険が十分にあるし、角を入手されてしまうかもしれない。要するに先手に、どうぞあなたのお好きなようにどうとでもしてくださいという大胆不敵な手なのだ。
ところがよく調べてみると、どのようにやっても実は羽生玉が見かけとは違ってそんなに簡単には寄らない事が判明する。このクソ忙しい終盤において、下手をすると緩手中の緩手になりかねないこの△3六歩が間に合ってしまうのだ。久保は、手抜いて攻める順を選んだが、それが即敗着になってしまった。角を取っておけば難しかったようだが、それでも全然久保勝ちという感じではない。こんなある種の挑発をされれば、気分的には手抜いてとがめたくなるだろう。それが負けを早めてしまったというのだから皮肉すぎる。
ところで、羽生はどうやってこんな手を思いつくのだろうか。羽生の感想コメントによると、直接急いで攻めていく手だと、全然手がつながらないということである。
つまり、推測するとこういうことではないだろうか。羽生だって、さすがにまず厳しく攻める順から読んで調べた。しかしながら、どうしてもうまくいかない。ならば、何か攻めのスピードを緩めて相手に手を渡すような種類の指し方をするしかないではないか。ということで「必然的に」△3六歩しかないという結論に達したと。
我々は羽生の指し手に皆例外なく驚愕していたわけだが、羽生はこう言いたいのではないだろうか。
ーーいえ、だって厳しく攻める順がないんだから、こうするしかないじゃないですか。

羽生マジックと周囲は騒ぎ立てるけれども、今回も羽生からしてみれば種も仕掛けもない必然手を指しただけということなのだろうか。

テレビ将棋観戦記 NHK杯 行方vs村山、銀河戦 行方vs長沼、森内vs糸谷

(以下、テレビ棋戦についてネタバレで書いているのでご注意ください。)

王位戦第四局の立会いは加藤一二三先生である。イルカと「ほいー」「ほりゃー」「ほほー」と会話されていたようだ。イルカには人間を深く癒す力があるという。同時にイルカも人間の言語は解さなくても、その人間から放出されるものを敏感に感じ取っている筈である。普段は人間を癒しているイルカも、今回ばかりは加藤先生に逆に癒されたのではないだろうか。
前夜祭でも加藤先生は、いつものように賑やかだったようだ。加藤先生の早稲田の後輩の広瀬くんが数学科の理系であるのに対し、加藤先生は文系だそうである。(ちなみに中川理事は、自ら「体育会系」と。納得である。)さらに、加藤先生はf「将棋というものは僕は数学系ではないと思っています。どちらかといえば文学系」との名言も。
先生が将棋を「文学」と捉えているというのは本当だ。ウソだと思われたら。例えば私が書いた記事の大山先生との対局における加藤先生の感想をご覧いただきたい。

NHK杯。簡単にいうと終盤型の行方と序盤型の村山の対決だ。後手村山の一手損角換わりでいかにも村山が知悉し研究し尽くしてそうな形になったが、むしろ行方が少し優位にたって終盤に突入したように思えたのだが、最後は村山が鮮やかに行方玉を詰ました。最初に述べた二人の特質は単純すぎて、村山も当然現代棋士なので終盤も強いことをみせつけた。
行方が最終盤で髪の毛をかきむしっていたのも印象的だった。あそこでは既に行方には勝ちがなかったようなので、最後まで理解してしまっていたのだろうか。村山も難解な終盤だったが冷静でやはり勝ちを読みきっていたようにも思えた。何も分かってなかったアマの私は感心した次第である。
解説は羽生名人。詳しく読みの内容を話すというより、局面局面での大局観を簡潔に述べるという感じのスタイルだった。近年羽生がよく言及する大山の大局観にも通じる明るいセンスを感じた。但し将棋自体は終盤が難解で、感想戦がみたかった。 高校野球による10分短縮が痛すぎる。

銀河戦、行方vs長沼。後手長沼の角道オープン型四間飛車。行方は居飛車穴熊。長沼の待ち方の隙をついて行方が巧みに仕掛けてはっきり優勢に。しかし、長沼も辛抱のいい自陣飛車を放って崩れない。長沼は本当に我慢強くて、こうして苦しい将棋をよく逆転する。今回も端攻めから反攻してよもやというところまで追い詰めたが、最後は行方も終盤力を発揮して辛くも逃げ切り。対局後の行方の「予想外によくなったが、そのあとがひどかったっす」的な自虐風コメントが、いかにもらしかった。

森内vs糸谷。後手の森内の△8五飛。先手の糸谷の対策は玉の中住まい。森内がうまく指していたが、糸谷が追い上げて最後逃げ方を間違えなければ自玉が詰まずに糸谷勝ちの局面もあったようである。
相変わらず感想戦での糸谷は、手がよく見えること見えること。大家森内もちょっと押され気味になってしまう。やはり特異で魅力的な棋風の持ち主である。但し、今回の銀河戦を見ていると、トップの連中も糸谷の将棋にすこし慣れてきたという感じもする。デビュー当時の田村が早指しで無類の強さを発揮したが、最近目立った活躍がないのだが、糸谷はどうなるのだろうか。単なる早見え早指しの棋士で終わって欲しくない存在である。

「玲瓏」管理人さんの羽生善治名人インタビュー

羽生善治名人データベース・サイト「玲瓏」の管理人さんのたいがーさんが、羽生名人にインタビューされたものを、ブログにアップされている。

”玲瓏”管理人のつぶやき 第44回東急東横将棋まつり

実は私もこのインタビューに少しだけ関係している。普段あまりにも私が熱心に羽生さんのことを書いているのを、たいがーさんが気の毒に思われたのか(笑)、事前に何かききたいことがあればと、声をかけてくださったのだ。最初は畏れ多すぎて尻込みしたのだが、折角の滅多にない機会だと思って、幾つか素人にしかできないようなムチャな質問をリクエストしてみた。インタビューでも何個か(うまくスマートな形の質問に編集して)取り上げていただている。だいだいバカな質問は私ので、素晴らしい質問はたいがーさんのだと考えていただければせまず間違いない(笑)。ちなみに、私が用意した質問にたいがーさんが羽生さんならどう答えるかを想定してのコメントも事前にいただいたのだが、羽生さんの実際の答えと同じ感じのものも多かった。いやはや、本物の羽生マニアの方はやはり違う。私など、まだ全然勉強不足である。
以下、インタビューの内容について感想を書かせていただく。

(研究とその場の読みのどちらが大切かという質問について)
[回答2]
どちらかというよりはどちらも重要ですね。事前研究も重要なんです。事前研究があれば、それを起点に深く洞察することができます。事前研究がないといろんなことを考えなくてはなりません。もちろん、その場での読みは重要ですが、事前研究も重要と思うんです。
名人戦の第二局で三浦八段の深い事前研究を羽生名人がその場の読みで上回ったとも解釈できる将棋があった。質問にもあるように、将棋世界の小暮克洋記者のインタビューで、一直線の筋を研究するのでなく、多くの道筋からどれを選ぶのかを研究するのだと羽生さんは答えている。それと今回の答えを合わせて考えると、つまり、ある程度道筋を調べておかないと、その場で困るが、全てを研究し尽くすのは不可能ということなのだろう。答えからも分かるように、「研究」と「その場の読み」のバランスが抜群によいのが羽生流ということなのかもしれない。

(三浦八段の名人戦での戦いぶりについて。)
[回答3]
9時間という長丁場でありながらずっと集中されていましたし、相当準備してこられたんだなとひしひしと感じました。
やはり、三浦さんの集中ぶりは羽生名人も感じ取られていたようである。今回ustreamで、羽生名人の就位式の模様が一部中継されたのだが(すごい時代になったものだ)、その挨拶でも羽生さんは三浦さんの研究の深さに感嘆されたと述べられていた。先ほどの研究の話との関連で言うと、三浦八段の場合、単なる道筋だけでなく、出来うる限り可能なところまで掘り下げて調べつくすという姿勢が他の棋士たちと比較しても徹底しているのだろう。

(今回、自分が一番面白いと思ったのは、質問9。羽生名人のいう「良い手というのは駒の配置が美しい」ということについて、その美的感覚の基準や、どうやってそういう能力が培われたかについて。残念ながら私の考えた質問ではない(笑)。)
[回答9]
これまで積み重ねてきた経験から来る「直感」と理屈では説明できない「閃き」というのがあります。「直感」だけでもなく「閃き」も混ざり合っているものなんでしょうか?うーん、頭にパっと浮かんで来るものなので説明が難しいですね。
これも実に羽生名人らしい答えである。現在羽生さんを含めたプロ棋士が読んでいる際の脳の働きを科学的に調べるプロジェクトが進行中だが、羽生名人のいう「閃き」というのが、恐らく他の棋士にはないか、あるとしてもかなりレベルの異なるものなのではないだろうか。羽生名人自身が言われているように、一番言葉では「説明が難しい」部分なのだろうが。

他にも興味深い質問が満載である。
羽生さんも「ヒカルの碁」を読んだことがあったり、twitterでGPSの評価や読み筋を見たことがあることが分かって興味深い。「ヒカルの碁」の話題では、仮想の話ではあるけれども、やはり羽生名人の升田将棋に対する評価の高さが伺われる。
将棋の神様との手合いは10年前と変わらず角落ちということである。定跡研究など技術革新は著しいけれども本質的なところでは、それほど強くなっていないというシビアに見方なのか。あるいは、将棋の神様との対戦ともなると、人間レベルでは角落ちが精一杯の手合いという意味なのか。色々、勝手に想像してみたいところである。
セナの話題も出てくる。吉増剛造さんとの対談でも触れていて、セナが走行中に「神をみた」という発言が話題になっていた。羽生名人が言われるとおり、あの頃のF1は面白くて私もよく見ていた。ある時、セナが優勝した際に、車に搭載されているマイクからセナの言葉にならない奇声、叫びともうめきともいえない「声」が延々と流れてきたことがある。それを聞いて、本当にセナは自分を極限状況まで追い込んで走行しているのだと痛感したものだ。将棋を通じて、まれに「狂気」を垣間見る羽生名人は、そうしたセナに興味をいだかずにはいられないのだろう。

たいがーさん、すばらしいインタビューをありがとうございました。

里見香奈「好きな道なら楽しく歩け」(双葉社)



噂の里見香奈のフォト&エッセイ集である。
事前に、もしかすると高校生の写真集なんで、オジサン将棋ファンはちょっと店頭で買いにくいのではないかとも言われたりもした。しかし、私は酸いも甘いもかみわけた立派なオヤジである。そんなことは、これっぽっちも気にせず、さっさと目当てのこの本を手にすると、急いでいたこともあり、この一冊だけ持ってそそくさとレジへ向かったのである。レジには若い女性店員が待ち受けていたが、そんなことは気にも留めなかった。
それでも、私はなぜか無意識のうちに裏表紙を上にして、本を店員に差し出していたのであった。
店員は本を表に向け直すと。満面の笑みで「ありがとうございます。」
この一言をキッカケに私の被害妄想が繰り広げられることとなる。
ーーなっ、なんなんだ、表紙を見てのこの笑顔は。「女子高生がお好きなんですね。分かります。」と言わんばかりに。ちっ、違うぞ、オレは純粋将棋ファンで里見さんを応援しているだけなのであって・・。
さらに、店員の攻撃は続く。さらにそれ以上の満面の笑みで「カバーをおつけしてもよろしいですね。」
ーーなっ、なんだと。それは、「貴方もこれから電車の中ですぐ読みたいたでしょうけど、人目があるからカバーは必須でしょう。」ということか。なんだ、その笑顔をやめろっ。で、私は反射的に、
「カバーはけっこうです。」と、なぜか言い放っていたのであった。
勿論、たまたますごく愛想のいい店員に当たったに過ぎないのである。私が勝手に内心のドラマを繰り広げてしまっただけのことだ。
その後電車に乗ってから、カバーをつけてもらわなかったことを私がすぐに後悔した事は言うまでもない・・・。

さて、私が一番言いたかったことは既に書いてしまったのだが、これで終わると読者の怒りを買うこと必至問題なので、本の内用も一応説明しておこう。
撮影は弦巻勝カメラマンである。将棋界では、知らぬ人なき「鬚のカメラマン」氏である。その写真が期待以上に良い。対局風景だけでなく、里見のプライベートの写真も多いのだが、篠山紀信並の出来栄え?である。被写体もいいのだろうが、里見が見せる普段の自然なさりげない表情が、きっちり記録されているのだ。里見の場合、対局時の凛々しさと、普段のあどけなさのギャップが魅力なのだが、それがきちんと表現されている。
個人的なベストショットは表紙をはぎ取るとあらわれる、里見がはじけて走る姿である。これだけでも買った価値はあったと思った。
他には、里見らしいむ素直で飾り気のないエッセイ。里見による家族紹介と、家族による里見寸評。(やはり、絵に書いたような良い家族であって、羽生家や谷川家を想起させる。)女流名人戦についての、里見の各局ごとのエッセイ。森師匠によるエッセイ。森師匠と里見による名人戦の棋譜解説。里見に対するQ&Aといった内容である。
私がこの本を買ったのは、里見ファンということもあるけれど、それ以上に、将来振り返って、これが伝説の本になるのではないか、あるいはなって欲しいという気持も込めてである。
その意味で、森師匠が最後に書いているこの言葉が全てを言い表していると思う。

「夢は、羽生善治三冠を負かして名人だ。」

テレビ将棋観戦記 NHK杯 堀口一vs清水、銀河戦 深浦vs三浦、羽生vs野月

(以下、テレビ棋戦についてネタバレで書いているので、ご注意ください。)

囲碁将棋ジャーナルを見ていたら、林葉直子さんが登場した。そう、LPSAの独自棋戦にゲストで出場したのだ。インタビューの映像が流れたのだが、随分穏やかな感じになられたなぁという印象である。ネットでも生中継されたのだが、その時も将棋を指せるのが楽しくて仕方がないという感じが、よく伝わってきた。将棋自体も、長年のブランクを考慮すれば立派なものだったし、対戦相手の中倉彰子さんもプロらしい良い将棋でこたえていて見事だった。一体どうなることかとも思っていたが、とても気持ちのいい対戦だった。色々あるのだろうが、もし林葉さんがもう一度本当に将棋を指したいということであれば、これからも何らかの形で将棋界に関わっていただきたいものである。
ジャーナルの解説は谷川九段だった。常にゲスト解説者に気配り?する熊倉さんに、いつものニコニコ笑顔で「A級順位戦は二連勝スタートの谷川九段に注目です。」と言われ、谷川さんが「フッ」と苦笑いして照れる様子は、まるで平安貴族のように品があったことよ。

NHK杯、相掛かりで先手の清水さんが終始強気な指し手で押し気味だったのだが、終盤の難所で間違えての惜敗。清水さんクラスになると、場数も踏んでいるし地力もあるので、良くすることもあるのだが、将棋は終盤で間違えてしまうと一瞬でフイになってしまう。つくづく厳しい競技である。
解説は佐藤康光九段。とことんジェントルマンに出来ているこの人物は、女流を軽くみるような発言も一切なく、どんな将棋でも全力集中の誠実な解説ぶりである。ただ、矢内さんに、佐藤さん自身がNHK杯で中井さんに負けそうになったことをふられて、「対戦前は、そんなに緊張しなかったのですが、負けそうになってから初めて猛烈にあせりました。」と言っていた。絶対勝つだろうと思っていたということなのだろう。やはり正直な人である。
ちなみに、今年の将棋年鑑によると、好きなアーティストはブルーノ・ワルターだそうである。佐藤流の激しい将棋を指した後は、優しいワルターの音楽で癒されるといったところだろうか。

銀河戦、深浦vs三浦。三浦先手で、後手深浦の一手損角換わりになったのだが、トップ同士の濃密な将棋には本当に見ごたえがあった。三浦が▲5五桂などハッとする手で必死に攻めをつなごうとすれば、深浦も△2四金打などしぶとい強靭な受けでしのいで譲らない。最後は、深浦が勝ったが、途中検討すれば難しそうなところもいくつもあった。現在のトップの世代は指し盛りで充実しきっている。素人には勿論細かいところは理解できないが、それでも棋譜全体から受ける印象は圧倒的なものがある。同じプロの将棋でも全然感触が異なるのだ。

銀河戦、羽生vs野月。後手羽生のゴキゲン中飛車にたいして、野月が棋風通りに、とにかく攻めまくるという展開に。羽生の対応に一瞬隙があって、あっという間に「野月大優勢」(鈴木八段)になったのだが、その後形勢が接近し、最後は野月の攻めを羽生が丹念に受けて完全に切らしてしまった。羽生の最終手△7二金打ちは、プロはこうやって勝つものなのですかという手である。
それにしても、とにかく突っ張って指して攻めに徹する野月の将棋はユニークだ。途中、解説の鈴木八段が、自陣の金銀を動かして穴熊をリフォームして堅くする順を指摘していて、とてもよさそうだったのだが、野月はひたすら攻め続けた。感想戦でも、鈴木がその順を指摘していたのだが、野月はやはり攻める順の方を中心に検討していて、気持ちいいくらい首尾一貫していたのだった。



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