2011年06月

2011 棋聖戦第二局 羽生棋聖vs深浦九段

棋聖戦中継サイト

千日手指し直しの激闘になり、二局目も相穴熊の200手超えの訳が分からない将棋であった。今の所、何が起きたのかよく分からない。本当に二人とも将棋が好きである。深浦は、NHK杯で野月が言ったように「諦め悪い将棋」だし(こうしてプロ棋士がサービス精神で言った言葉をファンは悪用し続けるのだ)、羽生も名人戦が終わったばかりなのに将棋が好きで好きで仕方ないようだ。但し、これだけは言える、もし対局者が島朗だったら、もっとあっさり決着がついていただろう、と。

第一局は、これも難しい将棋で、阿久津は「形勢判断不能」と言っていた。ただ、先手が指せるのではないかという声もあり、例えば棋界随一の投了魔、島朗は48手目でこんなことを言っている。
「▲9九銀△9七香▲8八銀は、指されたら投げたくなりますね。ね、佐藤九段」(島九段)
言われた佐藤康光先生も困惑気味である。なぜなら、つい先日の達人戦でもこの二人は対局しており、佐藤が良さそうだが、他のどの棋士でも絶対投げないであろう局面で投了美の巨匠?島朗がアッサリ投了して周囲を驚かせているからである。佐藤は「もうちょっと調べてみましょう」と島をなだめるのに必死だったのであった。
ところがである。羽生はアッサリ千日手にしてしまった。島が(羽生に対して)投了しようとしている将棋を羽生は難しいので「もう一局」とのたもうたわけである。いかにも羽生らしい。
最近のNHK杯で、永瀬四段が先手と後手で二連続千日手にして話題になった。永瀬の独特の千日手哲学?については、私の記事を参照していただきたいが、実は若き日の羽生も隠れた千日手王?だった。現在の羽生では考えられないことだが、あまり序盤はうまくなく、終盤の(言葉は悪いが)クソ粘りで次々にベテランを痛い目に合わせ続けていたのである。もしかしたら、羽生は今の永瀬を見ていて、ちょっとばかり自分若き日を思い出して共感しているのかもしれない。(そんなわけはないというツッコミはごもっともである。

とにも角にも千日手になったのだが、後手になった羽生が採用したのが、なんと藤井流角道オープン四間飛車、角交換穴熊レグスペ―正式名称がないけれども、とりあえず後手版新藤井システムだった。
はっきり言って今の所藤井以外誰も指さない戦法を羽生がタイトル戦で採用したわけである。羽生は名人戦でも、先手でいわゆる「藤井矢倉」のような形を用いていた。(厳密には藤井矢倉とは違う形で藤井本人も、ささやかな抗議の意味をこめて「あれは藤井矢倉ではない」と述べたそうである。)
羽生は明らかに藤井の作戦クリエーターとしての才能を認めている。そして、口の悪いファンは、藤井の独創的な作戦を、羽生の絶対的な終盤力で引き継げはそれはもう無敵だと言う・・。

とはいえ、今回は後手がうまくいったとは言えず、相穴熊でお互いに全く手出しが出来ないような、異常な相穴熊戦になった。先手の深浦が駒得をしたが、自分の金が遊んでしまっている。なおかつ、全ての筋に歩を打ってしまっているために、穴熊攻略の急所になると金つくりが出来ない。後手の羽生も、やはり歩切れで駒損で攻めの糸口をつかめそうにない。要するにどちらも、どうやって勝てばいいのか分からない将棋になってしまったのである。
そして、再び島朗が勇躍登場したことは言うまでもない。
「手を渡された方が困りますね。指す手がないか。私が代わりに投げたいです」(島九段)
「将棋は精神の勝負ですね」(島九段)
「▲7七銀と上がれば千日手ですね。シンプルだ」「私の願望、絵空事です。いや、疲れてきたので願望とまではもう言えません(笑)」(島九段)
島がこの将棋を見て、自分の辞書にはありえない将棋だと思ったのか、あるいは自らの投了哲学?を改善して、とことんまで指そうと決意したのかはご本人に問いただしてみないと定かではない・・。
深浦が、現場にいた杉本顔負けの、「自玉のリフォーム」を何度も何度も繰り返して粘り抜いたが、羽生の△5四角が、自玉をいわゆるZどころか詰めろも絶対からない「詰めろZ」(造語)の好手で、再度の△5四角引きが詰めろ逃れの詰めろで、大勢決したようである。
羽生のスタミナもすごかったし、深浦の決して折れない心もすごかった。トッププロが将棋に勝つというのは、これほどまでに大変なことなのである。

深浦は前夜祭でこんなことを言っていたそうである。
「こちらは芝生が多く、私はサッカーファンなので見事な芝生だなと興奮してくるのですが、明日はあまり興奮せずに(笑)、」
第一局でも、作戦について去年が三局で終わったので作戦のストックがあるので、と自虐ギャグで笑いを誘ったそうである。どうして、藤井といい深浦といい羽生のライバルたちはどうしてこうも魅力的なのだろう。
ただ、羽生から王位を奪取した頃の深浦は、もっとストレートに闘志満々で羽生を倒すことだけひたすら考えていたようなところがあった。もっとギラギラしていた。深浦の人間的な成熟と魅力を素直に感じながらも、勝負師という職業の難しさを感じる今日この頃である。




2011 名人戦第七局 森内名人復位 

名人戦棋譜速報

実は我々が存在している世界だけが唯一存在しているわけではない。パラレル・ワールド。我々の世界と同時並行して、類似のあるいは全く異なる無限の世界が同時存在しているのだ。そして、それらの世界は決して別個に切り離されたものではない。本当のところ、各個人が毎瞬間毎瞬間に、どの世界を選択するかを自ら決定し無限の各世界を行き来しているのだ。
世界は実在しているわけではない。じつは各個人―あなたやわたし―の本人も気付かぬ巨大な空想力が生み出したフィクションに過ぎない。西欧哲学の唯我論や仏教の唯識がかろうじてその事実にかすって気付いているがまだまだ生易しい。我々はその真相にようやく本当に気づきつつある、あるいは気づかされつつある。
従って実は世界にはありとあらゆる可能性がある。だから、今回羽生が名人を失ったのも、単なる一つの或る世界での出来事に過ぎぬ。他の世界では羽生が四連勝して名人を防衛していた。いや、あるいは羽生が二回目の七冠の栄華にひたっているどこかの世界だって存在する。勿論、森内七冠だって、渡辺七冠だって、深浦七冠だって、藤井七冠だって、そういう世界は実在する。渡辺が羽生に竜王戦で四連勝したのも単なる夢に過ぎないのだ。
ここで誤解しないでいただきたい。世界は「私」が創り出したものだが、あなたがた各個人は決して私の勝手な創造物ではない。あなたがたも、私同様確かに実在している。あなたも、無限に存在する世界のうちから「私」が今所属しているのと同じ世界をたまたま選択しただけだ。あなたも、羽生が名人を失うことを自ら「選択」しただけのことである。森内ファンや極端なアンチ羽生―実例をだして申しわけないが例えば憎っくきZeiramsのような―がそういう世界を選ぶのは納得出来るだろう。しかし、羽生を愛してやまないわたしやあなたが、なぜこんな世界を自ら選択したのか不思議に思うかもしれない。しかし、それはあなたや私が、心の深いところでそういう羽生を望んでいたからだ。試練に会う羽生を見たかったからなのだ。その責任は徹頭徹尾、わたしやあなたに存在する。
但し、同じ意味でこれから羽生がどうなるかも、わたしやあなたの選択ひとつにかかっている。羽生時代が静かに終焉の時を迎えるのか、あるいはこれけから再び羽生が七冠を獲得するのかは・・。
羽生七冠の現在の一応の最短の可能性は、来年の名人戦である・・。

・・・とホルヘ・ルイス・ボルヘスの三流の焼き直しのようなミニ小説を私が書いたのは、それくらい私にとって羽生が名人でないという事実が現実的ではなく受け入れがたいからだ。要するに現実逃避のSF小説をしたためてグチっただけのことである。付き合わされた読者の皆様には心より同情申し上げる。いや、私の反応パターンは昔からちっとも変わっていない。渡辺が羽生に竜王戦で四連勝した際にも、やはり私は現実逃避のSF小説を書いている。今読むと自分でも大笑いだ・・。

まぁそんなことは、どうでもいい、名人戦第七局は本当に素晴らしい将棋だった。
そして振り駒の意味の大きさ。森内の先手でも強さ、特に持時間の長い将棋での強さは驚異的である。羽生も、今回は先手の矢倉で森内を完璧に葬り去っている。この二人のレベルだと、一手の差が限りなく大きい。まるで、将棋の神様同士の勝負が振り駒の時点で決してしまうかのようだ。ただし、将棋の神様は振り駒の結果まで予測可能だが、今回はその大任が渡辺愛生奨励会員の手にゆだねられた。振り駒の結果、森内先手。その瞬間、今回の名人戦は終わった。
いや、私は羽生ファンとして悔し紛れでいっているのではない。それくらい今回の先手の森内の指し回しが素晴らしかったのだ。今回の森内のような先手での指し方をされたら、一体羽生でなくても誰が勝てるというのだろう。
戦型は予想通り後手の羽生の横歩取り。但し羽生は、最近流行の△5二玉型ではなく△8五飛プラス△4一玉型を選択した。そもそも、松尾流の△5二玉型が出現した理由は、今回森内も採用した新山崎流対策のためである。居玉のまま激しく先手が攻め込む形で、後手もそれをまともに喰らうと3筋からの先手の攻めがきつすぎる。だから玉を△4一でなくあたりの弱い△5二に据えておいて、先手の新山崎流を牽制するというのが基本コンセプトである。その辺の事情は将棋世界の勝又教授の講座や最新の横歩取りの定跡本に詳しいので各自参照されたい。
しかし、敢えて羽生は旧型の△4一玉を採用。これは「新山崎流はこわくないですよ、対策がありますよ。」という意味である。しかし、森内も堂々とその新山崎流を選択。今回は森内は後手でも「堂々と」二手目△8四歩で矢倉を(出現しなかったが角換わりも)受けてたった。森内の素晴らしかったところだ。
当然、羽生の対策が注目されたが、最近では先手が指しやすいとされている△8六歩以下の定跡手順をたどる。そして、王将リーグで先手羽生、後手羽深浦の対局の進行に絞り込まれた。
その対局の結果は先手の羽生勝ちだったのだが、羽生は後手でも指せるのではないかとひそかに考えていたのだろう。そして、△3六歩以下の修正手順を提示した。
一方、森内も似た形の経験があった。ツイッターの藤田麻衣子さんのつぶやきで知ったのだが、彼女が観戦記を担当した、先手杉本、後手森内の今年の竜王戦1組のランキング戦である。やはり、横歩取りの将棋で先手の杉本が新山崎流を採用。形はかなり違うのだが、杉本がやはりあるタイミングで今回と同じように決行▲5三桂左成を決行。結果は森内がなんとか勝ったが、感想戦で森内は▲5三桂左成を軽視したと嘆いたそうである。
今回の本譜とは全然形が違うので比較できないが、森内はある条件では▲5三桂左成が有効だとは感じたに違いなく、今回の名人戦に影響が皆無だったとは言えないだろう。
実際は封じ手は▲5三桂左成と▲8二歩の二択とされていた。どちらかというと、じっくりいく▲8二歩の方が森内好みであって、激しく▲5三桂左成と踏み込むとのっぴきならない局面になる。この決断のよさが結果的に功を奏した。ただ、やはりその背景には杉本戦などの過去の研究の蓄積がものをいったような気がする。やはり現代将棋では研究が重要なウェートを占めるのではないかと痛感したのである。
とはいえ、プロ将棋の場合、少しくらい模様がよくなっても、そこから勝ちきるのが本当に大変である。二日目の二人の攻防は掛け値なくトップ二人の攻防であり素晴らしかった。
森内の予定の▲4五銀に対して、飛車交換になりそうな△3二飛でもなく攻め込む△5六桂でもなく、ちよっと辛抱する感じの△3五飛が、いかにも逆転を狙う羽生流だった。シリーズ前半では急ぐ手が多かったという印象なので、最初からこんな風に指していてくれればと、つい思ってしまう。
以下、羽生が粘り強く指してなにやら難しそうに。二人の当然の読み筋とはいえ、金を取って龍をつくれるのを我慢してじっと歩を払う△8二飛などいかにも名人戦である。あのあたりでは、控え室も形勢不明と評していたようである。
但し、森内の▲4四角の決断が素晴らしかったそうで、確かにその後の展開を見ると随分先手だけしっかりしていて後手がバラバラで、いかにも先手が勝ちやすそうな形になった。
全体を通じて必死に羽生が手段を尽くして粘るが、森内が冷静に突き放してどうしても差が縮まらないという展開である。最初に述べたが、森内が先手の利を最大限に生かして、本当にトッププロの高いレベルで、その一手の差をいかしている将棋という印象だった。
その後も、森内に▲1六飛という渋い巧手が出る。夕方のBS中継では残念ながらこの手は全然検討されなかった。今回に限らず、控え室の検討が全く当たらず、二人だけが雲の上を行くがごとく。まさに名人戦だった。
羽生が二枚の角を使って必死に防戦するのみ見応えがあったし、羽生ゾーンに二度も銀を打ち込むなど執念をみせたが、ことごとく森内が冷静にかわした。名局だけれども、結果的には森内の完勝という将棋だった。

森内は、勿論若い頃から強かったけれども、失敬な言い方をすると正直に言うと少し人間的にちょと深さを感じないようなところもあった。しかし、厳しい勝負を経て本当に人間的にも申し分なく重厚で素晴らしい。対局姿を観ていて、ちょっと西郷隆盛のようだとも思ったのである。最初から人間的にも出来あがっていた羽生と違って、年月を経て徐々に深い味を熟成してきたのが好ましく感じる。
 
そんな森内だが、最近亡くなられたた児玉清さんが司会をつとめたクイズ番組「パネルクイズアタック25」に出演する際に―森内はクイズマニアとしても有名である―、その練習相手をつとめたのが羽生だそうである。結果に関係なく、とても爽やかな名人戦だったのは当然である。



2011 名人戦第六局 羽生名人vs森内九段

名人戦棋譜速報

先手羽生の初手▲7六歩に対して後手森内の二手目は三度続けて△8四歩。これは、先手に何をしてもいいですよ、特に後手の課題とされている角換わりも受けてたちますよ、という手である。それに対して羽生も三度とも矢倉である。羽生がなぜ角換わりを選択しないのか、また森内が準備している対策が何なのか気になるところである。
余談になるが、現代の角換わり将棋の恐ろしさを象徴する将棋が名人戦二日目に並行して行われた渡辺vs郷田だった。先手渡辺で相腰掛銀同型から富岡流といわれる先手の決定版といわれる作戦で定跡型をたどり、さらに実戦はないものの研究で先手勝ちとされている順をずっと辿った。郷田がどこで手を変えるかが注目されたのだが、なんとそのまま研究手順通りに先手が勝ってしまった。
渡辺もブログ記事で、そのことについて言及している。研究といっても、専門書や定跡書や谷川ノート、梅田望夫本でもふれられていて、あまり最新定跡を共同研究していないイメージの郷田でも、知らなかったとはちょっと考えにくいところである。何か途中で新手を用意していたが、それがダメと気づいて修正がきかなくなってしまったということなのだろうか。謎である。
どちらにしても、そういう恐ろしい形なので、後手は勿論、先手も採用するには覚悟のいる戦形だとは言えそうだ。
矢倉でも、第四局と同じ先手の▲4六銀▲3七桂型に対して後手は△8五歩型、先手が穴熊に組み替えて後手も金銀四枚で受けに備えて、右辺で全戦力での攻防が繰り広げられる形に。二人とも(特に羽生に)、とにかく勝ちたいという執念が感じられる選択だと感じた。でも、当然である。名人戦シリーズの最終盤なのだから。
なお、この形については勝又教授が初心者にも理解できるように分かりやすく解説してくれている。
手を先に変えたのは、後手の森内で△5六歩。最初に指したのは中田宏だそうである。角換わりなど様々な形で大胆な新手を披露している中田らしい手で、本譜のように後手が激しく攻め込まれるので勇気がいる。森内も、自著の「矢倉の急所」でこの形を「これは生きた心地がしない。よほどの自信がなければ指しきれない」と書いているそうである。ということは、森内が敢えて採用したからには自信があったのだろうが、意外にそううまくはいかなかった。羽生の▲2四歩から角を飛び出して1五の香車を補充する順が素朴に見えて、意外に森内の盲点になって軽視していたのだろうか。

しかし、今回はとにかく二日目の攻防が本当に素晴らしかった。今回はどの将棋も一方的だったが、はじめて手に汗握る名局になった。控え室が手を当てられず嘆くという、いつも通りの展開に。
83手目の▲2六香のところで、控え室では▲2三歩が検討されていて、羽生の指し手の意味が理解されていなかった。しかし、BSの阿久津解説を見ていて感心したのだが、87手目の▲2四香まで進むと、先に▲2三歩△同銀▲2四香とするのと同じ形だが(あるいは2六や2七から離して香車を打っても△1四歩以下本譜と同じことになる)、先手の持ち歩が3歩で比較すると一歩増えている! 攻めをつなげるために歩の数はきわめて重要で、その一歩を手にするために羽生は熟考して手順を工夫したわけである。しかも、無条件にそうなるわけではなくて、後手は84手目で△2三歩と変化することも出来て、それで先手が指せる事も確認しないといけない(▲2二歩以下先手指せるらしい)。
この一歩持ち歩を増やすために手順を尽くしたのが、地味だけれども実にプロらしくて名人戦にふさわしい指し方だと感じた。今回は最終盤もすごかったが、個人的には一番感心、感動したところだった。

最終盤は本当にスリリングで、ただただドキドキしながら見守るしかなかった。先手が一方的に攻めるのかと思ったら、△9五桂と置かれると、△8七桂打があって一気に気持ち悪くなった。それに対して受けずに▲6五金とグィっと出たのもすごい手だし、銀を7八ではなく6八に受けたのも、先手の攻めの急所になりやすい▲2四桂を△7九角で抜かれないためにする用意周到な手だし、BSを見ていても、とにかく様々な広い変化のある局面で見ごたえがあった。
森内も、夕食休憩後厳しく迫って、△8三香が詰めろだが、▲5六角が絶妙で、なおかつ後手が迫っても「桂頭の玉寄せにくし」で、先手が凌いでしまった。いかにも、後手が寄せきってしまってもおかしくなさそうなのに、不思議に先手玉が寄らなかった。羽生の王だけは特別な生命力があるという伝説が復活したかのような場面だった。
ちなみに、感想をみると△8三香でなく△8四香としておけば、▲5六角の筋もなくて、後手も有望な変化があったようである。その検討内容自体が非常に難解で、本当にすごい将棋だったのだと改めて感じた。
以下、今度は後手が粘ろうとしたが、羽生がすばやく寄せきって勝ち。シリーズ前半は森内の名局が続いたが、本局は文句なく羽生の名局だろう。しかも、今シリーズはじめてのせりあいのギリギリの将棋だった。
これで、三連敗後の三連勝。四連勝はいままで二度ある。二度あることは三度あるになるのか、あるいは三度目の正直になるのか?






2011B級1組 1回戦、NHK杯 佐藤康vs永瀬

名人戦棋譜速報

今年のB1は、結構脂っこいメンツである。A級から落ちてきたのが、藤井、木村という個性派業師の人気者。B2からあがってきたのが、阿久津、橋本の将来を嘱望されて久しいが将棋世界誌の辛口予想であがるのに苦労した?あっくん&ハッシー。これまた若手有望格の山崎、松尾。A級経験者の鈴木、行方、井上。実力派ベテラン寄り?中堅の中村、中田宏、畠山鎮。おつと、今回は抜け番だったけどこのお方を絶対に忘れちゃいけない、私の中では昇級の本命中の本命深浦。
こういった一癖も二癖もある連中が、一斉対局するのだからたまらない。ある意味A級よりも面白いのである。
藤井vs橋本。後手の藤井が、お得意の角交換四間飛車。早めに△3五歩と突きこした。そのタイミングが色々あって、藤井は毎回微修正して工夫しているようだ。八雲記者がそういうやり方を藤井システムのようだと評していた。藤井は流行のゴキゲンをあまり指さずにこれを主戦法にしているが、おそらく新藤井システムとしてコクのある深い独自の研究を重ねていて愛着があるのだろう。
しかし、それに対して橋本が▲5六角としたのが機敏だったようである。藤井はなんとか凌ごうとする守勢になってしまった。しかし、なんとか粘って△4七と△4九角成から△5八銀と打ち付けたところでは「ガジガジ」と音が聞こえるようで、藤井も十分やれそうに見えた。
が、その後の橋本の対応が冷静で、振り返るとやはりずっと橋本がよかったのだろうか。藤井は、終局後に、加藤一二三のようにすぐに駒を片付けてしまったそうなので、多分序盤の構想が相当不本意だったのではないだろうか。
木村vs行方のライバル&仲良し対決は、後手で横歩取り△5二玉を採用した木村が制した。他にも▲3六飛の瞬間に△5二玉とする将棋があったが、これが現在の流行なのだろうか。この二人の場合、対局後にどこかの酒場で第二局が延々と繰り広げられたのかどうかは知る由もない。
中田宏vs鈴木は、居飛車穴熊が▲8四角のただ捨ての鬼手を決めて穴熊の暴力で快勝。中田宏も玄人受けのする個性的な実力派でファンにとっては気になる存在だ。
中村vs阿久津は、終始中村がうまく指して、最後も阿久津の成香を冷静に抜いておけば勝ちだったようだが、詰ましにいってすっぽ抜けて大逆転。阿久津は九死に一生を得た。A級にあがっても全然おかしくない実力者なので、この一勝はメチャメチャ大きい気がする。

NHK杯HP

佐藤康光vs永瀬。
NHK史上初の二度千日手となった。第一局は永瀬先手で△8四飛に▲7七金と盛り上がる新趣向、第二局は後手永瀬のゴキゲンの▲3七銀超速の流行型。今は△5五歩と蓋をするのは少なくて▲6六銀から▲5五銀右が多いそうである。素人はちょっと見ていないとすぐ最新定跡についていけなくなる。永瀬があまく端から手をつくったが、佐藤がうまく粘って千日手。
どちらも、そんなに永瀬は悪くなさそうだったが、先手でも全然打開する気がなさそうで連続千日手。解説の鈴木が永瀬の「千日手思想」を分かりやすく解説してくれていたが、これがなかなか衝撃的だった。
(鈴木の発言要旨)永瀬は千日手名人である。先手でも多く千日手にする。千日手指し直しでまだ負けたことがないそうである。千日手は若い方が勝つという考え方。永瀬が冗談かもしれないが、よく言っているのは、後手の人がうまくやって来たら千日手でも仕方ない。もし後手がうまくやらない時は一撃でしとめる。千日手で二度序盤をすれば(先後に関係なく)自分がうまくやるチャンスがある。自分は徹底的に序盤を研究していて誰にも負けない自信がある。
ちょっと私は感動した。自分の研究努力に対する絶対的な自信と、勝負に対するシビアなプロフェッショルな姿勢。ちょっと若き日の丸山を思わせて、それ以上に過激で厳しい態度。
そして、第三局でも独自の研究で完全に作戦勝ちして快勝したのである。言うまでもなく、佐藤だって真面目に深く研究するタイプで石田流退治の達人で、なおかつ研究が終わったところからも抜群に力が強いにもかかわらず。
ネット将棋で、菅井が羽生に快勝したが、この辺の若手は単に強いだけでなく将棋に対する姿勢でも注目すべきところがあるような気がする。


2011名人戦第五局 羽生名人vs森内九段(追記あり)

名人戦棋譜速報

後手の羽生の作戦は横歩取り。最近はゴキゲン中飛車を連採していたが、居飛車後手の主力戦法にしている横歩。王位リーグでも先手番を含めると多彩な作戦を用いたようで、何となくだけれども従来の「何を指してくるのか分からない羽生」に戻りつつあるような気もする。そして、立会人が内藤先生だったので、「羽生はその場にいる棋士にあわせて戦形を選択する」という伝説復活かとも思わせた。もっとも、よく考えると久保も現場にいたのでゴキゲンにしたら「久保さんがいるから」と言われたのかもしれない。伝説なんてそんなものだ。
先手の森内は▲8七歩を打たずに保留する形で、そのために羽生は飛車を△8四飛に引いた。先手が歩を打たないのに強引に△8五飛とすると▲7七桂とされて当たってしまうからである。

(追記)△5二玉型について勘違いの記述をしていたので一部削除しました。森内の▲5八玉に対して羽生はそこで△5ニ玉と出来るので、今回は羽生が△5二玉を自分から回避したようです。また、▲3六飛のタイミングで△5ニ飛とすることも出来、本日のB1順位戦でもその形が二局出てきていて自分の勘違いに気づきました。失礼しました。

やはり、これも阿部が指摘していたが、先手は歩を得しているが手損を重ねていて、後手はそのかわりに多く手を指しているので何か動きたいという横歩取りの本質通りの展開に。▲4六歩は、黙っていると後手が銀を進出してくるので、筋が悪いかもしれないが仕方ないという感想があった。横歩取りは漠然としているが、一手一手に必然性や理由も実はあるのが面白いところである。
封じ手では▲2七銀も有力だったようだが▲4五歩。それに対する羽生の対応が巧みだった、銀をどんどん進出させて森内に「歩が2七に下がったのが痛かったです」と言わせた歩を打たせて、なおかつ△3七銀成と銀桂交換に踏み込んだ。その後の展開を見ると、この辺りの羽生の構想力が秀逸で後手がペースを握ったようである。素人には解説してもらって後で考えないとすごく分かりにくい部分だけれども、トッププロレベルではこういうところで勝負がつくのだろう。恐ろしい。そして、今回の名人戦の前半でいいところがなかった羽生だが、今回は冴えていたということなのだろう。
△5五歩で既に森内は「これでもうダメですね」と感じたそうである。△同角しかないが、その後△7四角から△6三桂で先手の飛車が捕獲されてしまう。それだけでも先手が苦しそうなのに、△5二金がいかにも羽生流の名手だった。すぐに飛車を取ってしまいたいところを、自玉を安定させて戦いの最中に相手に手を渡して「あなた、指す手がないでしょう」というのである。率直な森内は感想戦で指す手がなかったと嘆いたそうである。
以下、プロ的には既に後手が勝勢に近かったそうである。BS中継に登場した豊島も、「後手が勝勢ですね」「後手玉は無敵状態ですね。」とあっさりと軽く言い放っていた。純粋に将棋の局面だけを捉えて、そのまま率直に発言する様子が若武者らしくて新鮮で初々しかった。
羽生ファンの私も安心したのだが、手元にある有名ソフトを参照したら、夕食休憩時でもまだ互角という判断をしていてちょっと驚いて心配にもなった。なにしろ現在のソフトは恐ろしく強いので。但し、ツイッターで教えていただいたことによると、ソフトは横歩取りの形勢判断・評価値が人間のプロとは大分異なることが多いそうである。その後の展開を見ると、人間の感覚の後手勝勢が正しかったようで、羽生が危なげなく勝ちきった。但し、ソフトの名誉のために言っておくと、形勢判断に問題があっても、読んでいる手は的確でよく当てていた。人間としても、形勢評価が不正確でも指してくる手が正確だと困ってしまうところだろう。
これで羽生がカド番から連勝。本当に羽生は追い込まれても動じないし簡単には負けない。次が羽生の先手番なのこれで面白くなったが、まだ森内が王手をかけている事実にはかわりがないとも言える。

初日の午前中のBS放送で、内藤が何やら記録係りに言うと、羽生が笑い出して森内もニコニコしている。どうも、内藤は「心臓は左にあるんでしょ。」とか言っていたようである。昔のタイトル戦では、こういうのも普通だったようだが、最近は対局開始から緊張感がある。実際、羽生が横歩取りにするかゴキゲンにするかという結構大切な局面だった。ちょっと時代の流れを感じさせる一瞬でもあった。
コメントを承認制にさせていただいています。反映まで時間がかかりますが、お気軽にどうぞ。
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