2012年03月

(ドリフコント もしもローラが将棋番組の聞き手をしたら・・。)

時代はローラである?私は去年末のダウンタウンの「笑ってはいけない」で初体験してすっかり気に入ったのだが、ついに昨日は満を持して「徹子の部屋」に登場。詳細については、まとめ記事や動画自体を参照していただきたい。というか、それを知らないと以下のドリフコントが全く意味不明だと思うので一言お断りしておいた次第である。
なお、解説役にどうしてもプロ棋士が必要なのでK村八段に登場していただいた。大変心苦しいが、私としては一番優しくて心がひろくて許してもらえそうな先生を選んだのである。いやいや、間違えた。実在のモデルなど決していません。
それでは、どうぞ。

(K村八段) ハイ、対局が始まりましたね。今日は、MHK決勝です。聞き手のローラさんよろしくお願いしますね。
(ローラ) おっけ〜♪
(K村八段) ・・・・・
 いや、ローラさんは本当にかわいくてお綺麗ですね。
(ローラ) そんなことないよぉ〜、K村さんの方が全然かわいいよぉ〜(^o^)
(K村八段) いや参りますね。うまいことおだててもダメですよ。私みたいなオジサンのことを。
(ローラ) うーん、ほんとほんとー。チェブラーシカみたいだよぉー、かわいい〜〜(^з^)〜♪
(K村八段) ・・・・・
 あの将棋の解説していいですかね?
(ローラ) おっけ〜☆
(K村八段) この二人は現在の将棋界でも、最高峰のお二人なんですね。そして将棋も大変厳しい。こんな二人と戦うのは、とてもシャイじゃ出来ないことなんですよ。
(ローラ) あぁーっ、わたしも昔シャイだったんですけれど、K村さんもシャイなんですか。
(K村八段) これでも昔はシャイだったんですよ。
(ローラ) 今はシャイじゃないんですかぁ〜?
(K村八段) うーん、そうですねー。プロになって人に将棋を見ていただくようになって、対局料頂くようになってからシャイじゃなくなりましかたねぇー。
(ローラ) あっ、お金かぁー☆
(K村八段) ・・・・・
 でも、ローラさんはあれですね。よくため口で敬語を使わないなんて言われてますが、ちゃんと私をさんづけで呼んでくれて敬語も話せるんですね。
(ローラ) うん! 話せる話せるー☆
(K村八段) ・・・・・ 
 もしかすると話せてませんね・・。ところで、ローラさんは話すときにほっぺたをふくらませますね。それやると、女性も絶対シワが出来ないですね。私もウチの奴に見習わせてみますかね。
(ローラ) きゃあ〜。K村さんおもしろーい。(^o^)これはね〜、じつはわたしも意識してて、ほうれい線をけそうとおもってプクプクしてるの!
(K村八段) ほー、そうなんですか。ローラさんみたいに若い人がそんなことする必要ないのに。ところで、ほうれい線以外で気になる場所の対策とかローラさんはご存知ですかね?
(ローラ) きゃはは、ふふふ。♪
(K村八段) ちょっと、ローラさん、私のどこ見ているんですか・・。
(ローラ) ごめんねぇ〜お空〜(^з^)〜♪
(K村八段) ・・・・・
 さて、そんな話をしている間に、将棋は終盤です。これは詰むや詰まざるや。緊迫した局面になっています。
(ローラ) あっ、片方の人の手がものすごくふるえたよぉ〜☆
(K村八段) おおっ、さすがはローラさん。よくご覧になっていますね。これはですね、自分が勝ちと確信した時に緊張が解けて手が大きく震えるんですよ。これが出たらもう相手は負けを覚悟しないといけないんです。将棋界の美しい伝説なんですよ。素晴らしいですね。
(ローラ) すごぉ〜〜い、じゃあアル中の人は将棋にずっとずっと勝っちゃうね〜ふふふっ。(^з^)〜♪
(K村八段) ・・・・・
 まぁ、いいや。あっ、終りましたね。ローラさん、今日はありがとうございました。今日の将棋は、面白かったですか、どこが印象的でしたか?
(ローラ) とっても面白かったぁ〜でももう全部忘れちゃったぁ〜 ふふふっ♪
(K村八段) ・・・・・
 いつも元気なローラさんでした。お仕事は楽しいですか?
(ローラ) すごいおもしろーい。K村さんわぁ〜?
(K村八段)  はいはい、とっても面白いです。
(ローラ) おっけー ばいばい〜(^o^)
(K村八段) ・・・・・
MHK杯の決勝をお送りしました・・・。

*この物語は完全にフィクションであり実在する人物、団体等とは一切関係ないよぉ〜(^o^)

2012NHK杯決勝 羽生NHK杯vs渡辺竜王

まるで二日制のタイトル戦で二日目の朝に初日の棋譜を再現するかのように、羽生善治と渡辺明が淀みなく指し続けていく。違いは読み上げているのが記録係の三段ではなく女流の藤田綾であることだけだ。彼女の読み上げでリズムを取るかのように、指し手が読み上げられると、ほとんど間髪をいれずに二人が指し続ける。
しかし、これは初日の指し手の再現ではなく、NHK杯の決勝なのだ。まるで儀式のように淡々と指し手が進んでいくが、画面からは異様な緊迫感が伝わってくる。一体どこまで指し手が進んでしまうのだろうか、どこで止まるのだろうか。所作の静かさとは裏腹に、二人の間で眼に見えない猛烈な火花が散っている。見ている我々も猛烈な胸騒ぎがする。
しかし、さすがに前例のある将棋だ。二人には因縁の過去のある形である。一昨年の竜王戦第二局で二人では初めてこの形を指した。相矢倉で後手の渡辺が△9五歩型に対して羽生は▲6五歩の宮田新手という定跡形を辿り、羽生が見せたのが本譜でも出てくる▲1五香の新手。このタイミングで香車を走るのが盲点で先手が優勢になったと言われた。しかし、将棋は渡辺が鋭い端攻めの勝負手を放ち羽生も乱れて渡辺の逆転勝ち。
さらに、二人は昨年のNHK杯の準決勝でも全く同じ形を指した。その時は本譜でも出てくる▲6四銀としたのが竜王戦との違い。竜王戦でも感想で有力とされていた。しかし、その時の感想コメントで先手良しとされる順で実は後手良しの変化が潜んでいた。渡辺の仕掛けた罠。が、羽生はその順を回避する改善手順を披露して攻めをつなげて勝ちきった。その後手勝ちの順を感想戦で二人が指すシーンもきわめてスリリングだった。羽生は罠を見抜いており、渡辺はバレていたかという表情(のように私には見えた。)
そして一勝一敗の末についに今回三度目。二人とも相当意地っ張りで負けず嫌いである。二人の間での因縁のテーマ図。ちなみに前回の対局では、羽生は▲7一馬のところで一度▲3四桂を入れていた。その後去年は▲7一馬としたところで確か渡辺が飛車の逃げ場所を間違ったと悔いていた。別の場所に逃げていれば後手も指せていたかもしれないと。
そのような経緯を受けて先に手を変えたのは羽生。今述べたようにいきなり▲7一馬としたのだが、その手も文字通りノータイムだった。新手まで「研究済みですよ」と言わんばかりに。さすがにそこで渡辺の手が少し止まったが、小考して△4二飛。さらに羽生もそれ程考えないで指し続ける。未知の局面に入っても勢いが止まらないかのようだった。
渡辺が△3九から飛車を打つ。普通は3八から先手玉にきかしたいが、感想戦によるとそれだと▲2七銀△3七飛成▲3六金と強引に飛車のききを止めて▲3四桂の王手飛車が実現する。
それを考えての△3九飛だが、それでも羽生は▲4八銀。基本的に同じ意味である。一見奇異に見えるが、二人ともそうした筋が当然のようにみえていたようである。
しかし、渡辺が△4五歩と催促したのがうまく、羽生も▲3四桂とするしかなく後手陣も一息つく。渡辺も当然簡単には攻め潰されない。
羽生も急な攻めはなくなって馬で香車を拾って、今度は渡辺が△8六歩と玉頭に綾をつける。羽生は手抜きしながら受ける強気の対応。渡辺も桂馬を8六と9五に据えて先手玉にプレッシャーをかける。
対して羽生は▲2六桂から8六の桂馬を拾って▲3四桂のつなぎ桂での王手飛車の筋を狙って踏み込む。受けにくそうだ。羽生がうまくやったか。
と思った瞬間に渡辺の△6二飛。解説の森内俊之も気づいていなかった。ハッとさせるが指されてみればナルホドの手。飛車を逃がしつつ馬に当てて▲6七金も睨んでいる。こういう勝負手の好手を逃さないのが渡辺の強さである。羽生も何度もこういうのにやられている。
しかし、羽生の方も冷静だった。馬を見捨てて▲9五銀ともう一枚の桂馬を払った。先手玉も安全になり攻めるための持ち駒も豊富になった。この辺のやり取りはまさに最高峰である。しかも早指しで二人ともこうした高度で的確な順を逃さない。
以下も際どかったが、羽生が渡辺玉に必死をかけ、あとは羽生玉が詰むかどうかという局面に。渡辺も持ち駒が豊富で先手もこわいが、後手は上部におさえる駒がなく詰みはなかったようである。羽生が逃げ切って優勝した。
序盤の二人のこだわりのテーマ図から、お互いに厳しく目的のある手で手段を尽くしての攻防。本当に将棋自体にピンと張りつめた緊迫感があっていい将棋だった。間違いなく現在のベストカードはこの羽生vs渡辺である。
結局先手が僅かながら良くて、それを羽生が守りきって勝ったということのようだが、その僅差をめぐっての攻防が実にハイレベルで並みの棋士なら軽く逆転していたのではないだろうか。
感想戦でやっていたのは、△9六歩のところで△4九角として以下▲7九香△3八角成▲5七銀として、以下後手が入玉を目指す展開。渡辺もそれを少し考えていたそうである。しかし、さすがにそれは実戦では指しにくかったのかもしれない。

これで羽生はNHK杯四連覇20連勝で名誉NHK杯の資格を得た。なんと10回優勝である。他の棋戦での永世資格にあたるが、条件が厳しすぎるので、もしかすると羽生以外にこの資格を獲得する棋士はもう現れないかもしれない。
昨年の王座戦では渡辺が羽生の20連覇も20連勝も止めた。言うまでもなく羽生の永世竜王と永世七冠を現在止めているのも渡辺である。そのように節目節目で常に羽生のストッパーになってきた渡辺だが、羽生は渡辺を直接たたくことで大記録を樹立した。
今まで何か二人の間に何か前世のカルマがあるかのように、ことごとく勝負どころの激闘を渡辺が制してきたが、これでその呪いも解けたことだろう。また昨年の王座戦で一部で囁かれていた第一人者交代の流れも断ち切ることにも成功した。やはり本局も大変な大勝負だったのである。
とは言え、今後もこの二人の戦いはまだまだ続いていくことだろう。我々双方のファンとしては一番見ていてしんどいカードでありしびれるカードである。また、今述べた様々な記録とか因縁とかとは関係なく、二人にとっても一番指していて指しがいのある将棋を共同して創作できる相手なのではないだろうか。
本局も私は録画を見ているだけで疲れ果てた。勿論勝負に対する関心もあるが、二人の将棋自体が具体的に語りかけるものの質の高さ緊張感のせい―というよりは、おかげである。
私的なことを言うと羽生ファンの私としては、どこかで羽生には渡辺に大きいところでやり返して欲しいと思っていたが、これでもうかなり満足した。これからは少しは二人の戦いを冷静に見ることが出来そうである。
いやいや、そんなのは多分ウソだ。実際に二人が戦ったら、また今回のように熱狂して夢中になってしまうに違いない。
将棋ファンとしてこれ以上幸せなことは、果たしてあるだろうか?

郷田真隆が棋王奪取 2012棋王戦第四局

棋王戦中継サイト
第四局棋譜

感想戦の写真を見ると久保利明が明らかに痩せてやつれていた。今週もこれ以外に二局大切な対局があって結果が出ていない状態で迎えた本局。そして、A級陥落、王将失冠に続いてついに無冠に。ずっととんでもないハードスケジュールも続いていた。
さすがに郷田真隆ファンも今回は無条件に喜ぶ気にはならなかったようである。それくらい久保にとっては過酷な受難の冬だった。A級最終局の深夜の対局姿もそうだったが、全てを失いつつある久保の姿が妙に美しく感じられた。などというのも無責任なファンの残酷な言い草かもしれないが。

久保の石田流を後手の郷田が受ける形に。またしても、早々に△8五歩を突きこす強気な対策である。
久保がそれに対しては軽快に奔放に指しまわして居飛車を翻弄することが多い印象だった。ダルビッシュの多彩で強力な変化球のように(喩えがいちいちオヤジで申し訳ない。)
しかしながら、解説の谷川浩司によると、角道を止める石田流には久保は自信をもっているようで、むしろこの角交換の形が石田流側の懸案課題になっているそうである。ゴキゲンだけでなく石田流対策も着々と進んでいるのだ。
久保がNHK杯の▲永瀬vs佐藤康でも出た▲8五歩から動いて難解ながらも振り飛車が指せそうという評判だったようである。
ところが、その後久保がガタガタと崩れて行ってしまう。▲9二歩を打っておきながら▲9一歩成としなかったのは明らかに手の一貫性としてはおかしい。気になる変化があったためだが、感想コメントによるとやはりまだしもそうした方が良かったらしい。その後急激に形勢が傾いて最後は一方的になってしまった。
本局もそうだが、久保はよさそうな展開の将棋でも、微妙な読みや大局観の狂いがあって勝負どころをことごとく逃してしまい、久保らしさに欠けた。むしろよく分からない局面から魔法のように捌いてしまうのが久保の強さなのである。それが結果が出ず過酷なスケジュールも重なって、久保の精密機械に微妙な狂いが生じてどんどん修正がきかなくなってしまったように思える。
一方の郷田は本局に関しては流れに乗じて勝ったが、第二局第三局でのスケールの大きい受けと将棋の正道をいくような堂々とした指し手が見事だった。久保の特異な振り飛車を真っ向から受け止めてはね返してしまった。郷田らしさが良く出ていたシリーズである。振り飛車対策にも、いかにも郷田らしい個性があった。羽生とは違った意味で、郷田も若手にとっては超えがたい高い壁でありつづけるような気がする。将棋の基本体力や身体能力が桁外れなのだ。
先手の石田流に対して佐藤、郷田の二人掛りで久保がもっとも得意とする空中戦乱戦の展開に、角交換型での対策を講じた印象である。二人の力の強さがあって可能だったのかもしれないが、さらに石田流対策定跡が精緻化して進化することも予感させた。
そして、その対策が爛熟して完成されつつあるのが後手ゴキゲンに対する先手の超速▲3七銀である。そもそも、ゴキゲンも石田流もある程度大らかに互角程度に序盤を進めて、あとは個人の力と独特な振り飛車センスでなんとかするという発想である。久保一流の捌きがその際たるものであろう。
ところが、居飛車党が隅々まで調べつくして一切の誤魔化しを振り飛車に許さない段階まで達してしまった。久保が抜群の腕力を発揮する前にどうしようもなくなるところまで研究が行き届いてしまったのである。
久保個人の不調もあったが、振り飛車全般が危機的状況にあると言えるのかもしれない。藤井猛も、今年の順位戦でこだわりのオリジナリティを追求して角道オープン型四間飛車を採用し続けたが結局結果が出せずに、まさかのB級2組陥落の憂き目を見た。
ゴキゲンもダメ、角交換四間もダメ、先手石田流も先手中飛車も対策が急激に進んでいるとなると、まさしく振り飛車党は振る場所がなくなってしまう。久保は以前「飛車を振る場所がない」と嘆く状態から、ゴキゲンと石田流を開発して二冠まで獲得したが、再び同じ状態に戻りつつあるのだろうか。
久保個人の受難ではなく、振り飛車全体の受難、真冬の時代がこれから始まるのだろうか。
それにしても羽生世代のしぶとさは尋常ではない。現在、森内名人、羽生二冠、佐藤王将、郷田棋王である。そして、渡辺明だけが孤軍奮闘して二冠。羽生世代王朝の栄華と独占状態に、渡辺一人が必死に戦いを挑むというのは、一体何年前に言われていた状態なのだろうか。
時代と完全に逆行している。将棋の世界にどんな異変が起きようとも、羽生世代だけは永遠の生命を保ち続ける謎の仙人のように生き残りそうな勢いである。「達人」位イコール「竜王・名人」になっても私はもう驚かない。
一時期、福崎文吾がほとんど永遠に「前王座」だというジョークが流行ったが、それも去年渡辺が崩した。今年は羽生世代が時代を逆行させているので、恐らく「次期王座」は福崎だと囁かれることであろう。

今回の立会人は加藤一二三で、ニコ生の大盤解説にも登場していた。また、ネット中継では、銀杏記者が棋王戦中継と併行して「加藤一二三中継」を行ってくれていた。
加藤がある時タイトル戦で中原誠と戦って「見事」に勝った。その時、中原が感心するかのように言ったそうである。「加藤さんは堅太りなんだねぇ。」加藤は自分でも太っているのは認めているが、中原はそれを単なるブヨブヨした太り方ではないと認めて、それが加藤流の解釈によると加藤の勝利につながったそうな。
加藤一流のポジティブ・シンキングもさることながら、加藤にそんなことを言う中原も中原である。「自然流」というよりは「不思議流」がふさわしい。なんだかよく分からないが和むいい話である。
しかし、それでも加藤は話し足りなくて持ち時間が全然足りなかった。加藤党党員としても、いちいち話を打ち切られては欲求不満に陥る。
というわけで、ニコニコさんは加藤を単独解説者として呼んで、一日思う存分話しをさせてあげて欲しい。普通なら聞き手がいる方がいいが、加藤先生に関しては全く不要である。加藤一二三独演会で結構。
桂文楽や古今亭志ん生の名人芸に「聞き手」は必要ないのである。

佐藤康光が10期ぶりに王将復位 2012王将戦第五局 

王将戦中継サイト
第五局棋譜

久保利明の終局後の感想。「エースで勝てなかったので」。結局これに尽きる。
久保のゴキゲン中飛車に対して佐藤康光は判で押したように超速▲3七銀。他の棋戦でも久保はここのところずっと超速としか戦ってなく、しかも苦戦続きである。ゴキゲンの天敵、超速。
藤井システムが隆盛期を経て見られなくなっていったように、ゴキゲン中飛車も「消えた戦法」になってしまうのだろうか。

本局で超速対策に久保が選択したのは、最近主力にしている△4四銀対抗型でも菅井流△4四歩でもなく、玉を美濃に囲っての△4二銀という前例の少ない形だった。定跡体系の網の目のスキを突こうとするようで、久保の現在の苦労・苦心が感じられる。
例によって佐藤が真っ向から叩き潰しに行くらしい展開に。用いている手段は最新流行の超速でも、その後は常に佐藤にしか出来ない個性的なゴキゲン退治方だった。
感想コメントを見ると、初日の段階で久保に工夫が必要だったそうである。しかし、二日目も(感想では苦しいとされているようだが)△5九銀では△6五銀の方が本譜よりはマシだったような気もするし、他にもまだしもという順があったようである。
久保は超速のプレッシャーのせいで、その後の勝負どころでもらしさがなかった。殺人的なスケジュールと、結果が出ないことが続いて、さらに状態が悪くなっていく悪循環だったような気もする。
しかし、佐藤の形にとらわれない指し回しと恐ろしい読みの深さがとにかくすごかった。本局の「佐藤の塔」も第一局の「天空の城▲5七玉」も第三局の「天空のシルバー・トライアングル」もどれも記憶に残りそう。
玉を穴熊等で偏りすぎるくらいにかためて、あとは細い攻めをつなぐという現代的な思想ではなく、盤面全体を力ずくで支配しにゆく発想が新鮮である。その佐藤の棋風がいきなり銀を繰り出してゆく超速の作戦とマッチしていたように思う。
誰もが超速を用いているが、それを勝ちにつなげるやり方が佐藤でも郷田真隆でも結局個性的なのが面白い。羽生善治もやはり違う。超速がゴキゲンのアキレス腱を突いているのは間違いないが、最後は各棋士の力がものをいうのだと思う。

久保はA級、王将戦と厳しい結果が続いて、棋王戦も追い込まれている。但し、次は先手でもし勝てば最終局も振り駒なので、「超速」と戦わずになんとか出来る可能性はある。勿論、本人はそんな言われ方をするのは不本意で今すぐにでも超速を撃破したいと思っているのだろうが。

一方、佐藤はなんと10期ぶりの復位である。中継ブログにも感極まる様子の写真がアップされていた。
王将リーグでは、豊島将之が先行して、佐藤は途中ではまだ陥落の可能性まで残っているところから勝ち続けてここまでこぎつけた。
広瀬王位誕生、渡辺竜王防衛、豊島王将挑戦あたりから、世代交代の流れが加速するかとも思われたが、今年になってからは佐藤の王将復位、郷田の棋王挑戦と、逆に羽生世代の逆襲が始まっている。
羽生世代の底力は本当に凄まじい。渡辺以外の若手は苦労し続けるという状況がまだしばらく続くのだろうか。

色々噂が飛び交っていた王将戦だが、連盟の棋戦のページを見ると、来期もスポニチと毎日新聞の主催で続行するようである。まずは一安心。
というわけで、明朝のスポニチ勝者罰ゲームもタイトル獲得を記念して大々的に行っていただきたいものである。

2012 棋王戦第三局 久保棋王vs郷田九段

棋王戦中継サイト
第三局棋譜

二人とも金曜日の深夜までA級順位戦の激闘を続けていた。大変な強行軍である。
特に久保利明は、A級陥落の上に王将戦と棋王戦のハードスケジュールである。順位戦のニコ生解説で行方尚史が「久保さんは最近よく前後際断と言ってますが、本当にこの状況で実行出来たらたいしたものです。」と言っていたが本当にそうだ。
後手の久保のゴキゲンに対して先手の郷田真隆は「超速▲3七銀」。もう最近はこればかりである。A級最終局のBS解説で勝又清和が超速の激増ぶりのデータを示していた。超速は毎年25→116→150と局数が増え、今年度のゴキゲン312局のうち超速がほぼ半数。さらに久保のゴキゲンに対して相手は10局連続で超速で半年以上超速だけと戦い続けてきたそうである。
久保はA級最終局の△4四銀対抗型でなく△4四歩の菅井新手。丸山忠久の対策が優秀だったからか、同じ形を続けるのを避けたのか。どちらにしても、大変なのは次々に新対策が突きつけられてそれに対応しなければいけないゴキゲン側である。
郷田が採用したのは、羽生善治が朝日杯の準決勝で菅井竜也相手に新手で指した▲7八銀型。二枚の銀が中央にとんどん進出する形である。
久保が先に変化して、さらにいきなり△6六角ときる過激な順。しかし、本局も前局に続いて郷田の対応が冷静だった。
久保が強引に竜をつくるが、郷田が銀を投入して動きを封じ込め、角筋を気持ちよく通して角を天王山に進出し、久保がなんとか暴れようともがくのを一つ一つ丁寧に相手して、完全に盤面全体を制圧して久保は全く指す手がなくなってしまった。珍しく早い投了。
前局と全く同じ展開である。久保が強引に手を作りに行ったが、郷田がセンスよく重厚にしっかり受け止め、久保は何も出来なくなってしまった。両局とも久保の動きに問題があったのは事実だが、そう見えるのも郷田の対応がスケールが大きく堂々としていて非の打ちようがなかったからである。まるで、駒落の上手が下手の無理攻めをその狙いの全てを見抜いて完封するかのようだった。
超速という流行の作戦を使っていても、結局勝ち方は郷田流なのが将棋の面白いところである。それは、王将戦の佐藤康光についても同じことが言える。
久保は最後ポッキリ折れたような投了の仕方が気にかかる。普段の久保ならまだまだ粘り抜く筈だが、やはり疲れがあるのだろうか。あるいは、丸山戦でずっと苦しい将棋を強いられた上に、ジワジワと追いこめられてつらい負け方を強いられたのがトラウマになったのか。
次局の久保は先手。少なくとも「超速」は見ないでもすむ。

ニコニコ生放送の解説は深浦康市と本田小百合だった。珍しく女流の聞き手がついた。何でも深浦が第一局の豊川孝弘と第二局の森下卓が喋りの達人過ぎるので、自分一人では大変だと考えて要請したようだ。その辺りも用意周到な深浦流である。
しかし、その謙遜の言葉とは裏腹に深浦のトーク内容が大変面白かった。我々一般将棋ファンは、将棋内容だけでなく棋士たちの個性的過ぎる行状にも大変興味がある。深浦はその辺がよく分かっているようで、魅力的なエピソードをたくさん話してくれた。
しかしながら、深浦が楽しそうに話すのを聞いていて、実は深浦自身もそういうのが大好きなのではないかと思った。いや間違いない。なんせ、加藤一二三が朝食バイキングで大皿を何杯ももお代わりし、最後はフルーツ一杯の一皿で仕上げるのを「遠くから」観察し続けたりするのだから。
深浦が羽生善治とタイトル戦で対戦した時のこと。羽生がおやつにアイスクリームを頼んだ。アイスが運び込まれてくる。しかし、局面が緊迫していて羽生はなかな手をつけない。
逆に深浦が気になりだした。このままでは、アイスが溶けてしまうではないか。しかし、羽生は読みに没頭していてアイスのことなど眼中にない。深浦は気が気でない。どんどんアイスが溶けていってしまう。そしてついに完全に溶けてしまった。
すると、羽生がフト気づきアイス―ではなくヴァニラ・ジュースに手を出すと、ジュルジュルと飲み干したそうである。深浦は思った。「これは到底勝てない」と。実際、深浦は負けたそうである。


将棋界の一番長い日2012

将棋会館に男たちが入城―ではなく入場する毎年おなじみのシーンから始まる。谷川浩司の気品は年ごとに高まるばかりだし、丸山忠久はいくつも荷物を抱えこんでいて中身が気になるし、三浦弘行は相変わらずトリで急ぎ足で登場、おなじみの「待たせたな小次郎」である。
今年は羽生善治が名人挑戦をすでに決めている。興味の焦点は、その羽生が中原誠と森内俊之の二人に続いて史上三人目の全勝挑戦を決めるかと、高橋道雄と丸山忠久と久保利明の三人のうち、どの一人だけが残留出来るかだけに絞られていた。いや、どの二人が落ちるのかと正直に言うべきか。
他は順位が大切とは言っても、やはり基本的には消化試合である。しかも、高橋を相手にする谷川以外は対戦相手に深刻すぎる状況を抱える者はいない。だから、どうしても郷田真隆が生まれて初めて後手で一手損角換わりを採用したり、佐藤康光が力戦角換わり向かい飛車で大胆な▲4八金をぶつけたり、屋敷伸之が横歩取り後手で△5四飛の早い段階での新手構想を試したりすることになる。これは仕方ないところだろう。いや、佐藤の場合は別段珍しくもなくいつものことか。

例によってNHKのBSが午前午後深夜の三回にわたって長時間放送していた。今回は皆のデビュー当時の写真を紹介していた。佐藤康光のガクラン姿はいかにも賢そうであると共に俗世間から隔絶した若者のオーラがプンプンするし、丸山忠久は既にデビューの頃の写真でも微笑んでいるし、屋敷伸之の16歳はやっぱり若くて天才少年だったんだなぁと改めて思うし、三浦弘行もやはり若いが基本的に顔が全然変わっていない。
順位戦のドラマをまとめたビデオでは、深浦康市が丸山に深々とお辞儀をしている。多分降級が決まった対局なのだろう。そして、深浦のこわばりきった表情がアップで映し出され画面がモノクロに変わって静止し効果音と共にデカデカと赤文字で「地獄」のテロップがかぶせられる。ひどい。ひどすぎる。でも、私はお茶を吹かずにはいられなかったことをここに正直に告白する。
羽生が初の名人挑戦を決めた順位戦の様子も紹介されて、有吉道夫の勇姿など懐かしい。羽生が車を運転して会館に駐車する珍しいシーンも。そして降級をかけた加藤一二三と小林健二の直接対決で、加藤が勝ってゴキゲンな様子で早口に感想を述べ小林がそれに悔しそうに聞きいる姿も。

今年はニコ生中継まであった。担当したのは行方尚史、北浜健介、松尾歩の三人。行方はいつものように面白いし、北浜と松尾がいかにも人が良くて何とも平和な感じのなごむ放送だった。

どんどん対局が終っていく。屋敷新手はまずまずの構想だったようだが、三浦が一瞬の隙をついて屋敷玉に鋭く襲い掛かってそのまま決めた。三浦らしい切れ味の鋭さが発揮された会心譜である。
行方によると、この二人は研究仲間で仲もいいとのこと。感想戦が長そうで、三浦が色々と指摘して一方的に喋りまくるのを屋敷が「そうですね、そうですね。」と素直に聞いていそうだとの行方分析。目に浮かぶようである。但し行方も藤井猛が感想戦に本格参戦していたのは読みようがなかった。藤井と三浦の兄弟弟子もこれまた仲が良い。

次に渡辺が佐藤の無理気味な構想を実に自然に的確に咎め、最後は佐藤をボコ殴りして終局。
今回の順位戦を通じて、羽生と渡辺の力が抜けていることを感じずにはいられなかった。よくA級にもA1とA2があるなどと言われるが、今年は二人だけがA1で他は全員A2という感じだった。
佐藤は歩を取るために金を8七のソッポに持って行って、普通これでは勝てないとしたものだが、感想コメントによると「佐藤は歩を取って戦えると考えていた。」実に佐藤流で感服したと同時にちょっとおかしい。

次に終ったのは羽生のところ。途中までは郷田もまずまずで長くなりそうだと言われていた。ところが、途中郷田が方針を誤り、それを羽生が的確について着実にポイントをあげ続けて気づけば大差。派手な手を指したり力でねじ伏せたりするわけでないのだが。それだけに恐ろしさを感じる。今期の順位戦ではこういう戦い方が実に多かったように思う。
ただ、具体的に羽生がどうすごいのかと問われると結構答えに窮する。プロならある程度見えているのかもしれないが、A級の猛者がこのよう次々に手玉に取られるのを観ていると、羽生にしか見えない何かが見えているのか、さらにまた新たに何かをつかんだのかとも思ってしまう。一つ言うと、以前にもまして序盤の巧みさが増して分の悪い将棋になることが減ったような気がするのだが、どうだろうか。
郷田と言えば、あらゆる点でレベルの高い超一流である。それがこんなひどい負かされ方をするのはちょっと考えられないことである。
先ほども述べたが全勝挑戦は、これで中原誠、森内俊之に続いて史上三人目。森内の場合はとにかく順位戦の持ち時間の長い将棋に滅法強いという事情がある。他の二人が中原と羽生だけというのは、全勝挑戦がどれだけ大変なことかがよく分かる。

次に終ったのは高橋VS谷川。高橋得意の先手での横歩取らせからペースを握り、終盤きわどくなったかに見えたが▲7三歩が厳しく、▲6八金右の受けの冷静で後手に手段がなく結果的には快勝だったようである。
横歩取りでよくある形でさらに先手なので▲9六歩の端をつけている形。BS解説の村山慈明によると、高橋と実戦経験があってその端歩がいきる変化も多いそうである。高橋の研究の深さと勝負強さが光った一局。
行方は高橋の横歩(取らせ)将棋を評して、「普通の横歩取りは激しくなったり詰むや詰まざるやになりがちだが高橋先生が指すと重厚なまったりとした展開になっていつの間にか盤面全体を支配されてしまう」と述べていた。結果的には高橋が残留した。順位戦の戦い方を知り尽くしているプロである。

最後に残ったのが丸山vs久保。高橋が勝ったことで丸山の降級は決まったが、勿論本人は知らない。
ゴキゲンの超速▲3七銀に△4四銀対抗形、さらに相穴熊という注目の形である。丸山は事前研究が十分だったようで、時間を使わずすごい勢いで進めていた。そしてその研究の仕掛けが有効だったようで、ずっと丸山ペースで久保は長時間の苦しい戦いを余儀なくされた。
深夜のBSに終盤の二人の姿が映る。丸山は、座布団の後ろの方に座って必死に読んでいる。そして何度も何度も咳きこむ。竜王戦の時にもこれはなかった。とにかく勝たなければならないストレスが尋常ではないのだろう。
久保は動きが少ない。ずっと非勢なのを意識しているのか、何かを観念したようなでも諦めきれないような何かにじっと耐えているような久保の横顔が印象的だった。
将棋は久保が悪い将棋を必死に諦めずに食いつくが、丸山が決して焦らずに確実に相手をジワジワと追い詰めていく。観ていても苦しくなるような将棋だった。いかにも丸山流の将棋、勝ち方だけれども、かかっているものの大きさを考えると当然である。
しかし、観ている我々は知っている。丸山は仮に勝っても何も得られず、ただ久保を道連れにするためだけに必死の努力を続けていることを。なんとも切ない光景だった。
久保が万策尽きて投了。完全に対局室の空気が凍りついている。勝者の丸山も精根尽きた表情である。当然、誰も丸山には結果を知られたりしない、いやできないだろう。丸山は、そんな空気から何か感じ取っていたのかいないのかは分からない。
普通、それでも時間が経つと対局室の空気がほぐれてくるものである。しかし、今回は感想戦でもその重い空気が全く変化しない。二人がつらそうに、あまり言葉もかわさず、駒もさほど動かさずに盤をはさんでお通夜のように座り続けている。
本年度は最後に残った対局の二人が揃って討ち死にという残酷なケースになってしまった。
感想戦の様子を観るために深浦も対局室も訪れていた。深浦くらいこの二人の気持ちがよく分かる棋士はいないだろう。しばらくして深浦が立ちあがって去ってゆく。もうつらくて観ていられないと思ったのか、来年の自分は決してこんなことになるまいと心に誓ったのかは知る由もない。

中原誠編 山田道美将棋著作集第七巻 日記

山田道美がまだプロになる前の十五歳の時から、結婚する二十六歳まで日記を、中原誠が編者として著作集の一巻として出版したもの。
前回紹介した随筆・評論集よりさらに赤裸々な山田の肉声を聞くことが出来る。わりと早熟な子供時代の日記から始まるが、特にプロになりたての頃の苦闘の記録が生々しい。
将棋という職業への根本的な疑問。将棋の本島の意味が見つけられずに、苦労しながらその疑問を打ち消すためのように必死に将棋に取り組んでいる。
プロ棋士になってからも親の仕送りなしではやっていけない厳しい経済状況、お稽古などがあまり得意でない不器用な性格。
人生の異議も真面目につきつめて考え、古典文学を読み漁り、「復活」や聖書や「神曲」などに答えを虚しく求める日々。随筆でも登場したが、シュバイツァーに傾倒して本気で博士を追ってアフリカで医療活動をしようと決意したりもする。
肺結核を患い自身の健康と行く末への不安。
そして、女性に対する恋愛感情の飾らぬ率直な告白。
プロ棋士の日記というよりは、あまりに真摯に生き過ぎている一人の孤独な魂の直截な訴えに心動かされずにはいられない。日記文学としても異色の出来栄えだと思う。こんな生真面目な人間が将棋指しという最も過酷で残酷な部類の実験場にほうりこまれると、どうなるか・・という記録である。
但し、最後は幸せな結婚の報告で終わり、一応彼の孤独には終止符が打たれる。とはいっても、最後まで真面目に生を考える性格は変わらなかったように、随筆等を読むと思えてしまう。
山田道美に興味がある方だけではなく、強烈な理想と絶望の間でゆれる若者の日記として読む価値があると思った。
最後に一日分だけ日記を引用しておく。
昭和29年12月8日(水曜日) 
 また、あのたまらない倦怠がやって来た。どこへももって行きようのない、このいらだたしさ。現在の自分のみじめな姿、明日のカテを得れない不安、そして棋士として将来生存でき得るかどうかの不安―そんな心配が一どきにやって来て、生きている恐怖すら起こる。
 生きたい、どうかして生きたい。死がこわい。生とは一体何だろう。衣食住に追われて生きる事なのか。夢のような理想を求める事か。或はよごれた世間に追じゅうして、うまく世渡りする事か。或は、生きている間だけ生き享楽する事か―ああ分からない。
 生とは?死とは?死んだ後は?愛とは?恋とは?快楽とは?禁欲とは?宗教とは?哲学とは?女とは?男とは?
 この世の事で、一体何が分かるのだろう。分からない事ばかり。今日は、殆ど生きる意欲すら失せそうな気がする。孤独のなせるわざか。
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