2012年06月

2012 棋聖戦第二局 羽生棋聖vs中村太地六段

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中村先手で角換わりの将棋に。後手の羽生が選んだのは、やはり相腰掛銀先後同型ではなく△6五歩と位をとる形。渡辺明が得意にしている。
渡辺vs羽生の竜王戦でも、去年の渡辺vs丸山の竜王戦でも出た形だ。羽生にとっては苦い思い出のある形だけれども、そんなこととは関係なく有力だと思えば採用する。特許もなく定跡の進歩の共同作業になっている現代将棋ならではである。
去年の渡辺vs丸山の前例を辿り、先手と後手がお互い最高の形で待てるように飛車を移動させて工夫をこらすパズルのような展開に。先手の丸山が飛車を時間差移動する実に渋い発想を生み出し、渡辺もその場で対応していた。
羽生が用意していたのは△4二金引から△6四角と急所に据える発想。時間をつかっていないので事前研究していたのだろう。名人戦の後手では先手の森内が矢倉だったので出なかったが、もしかすると名人戦でも準備していたのかもしれない。
そしてその構想が優れていて、先手もどう指すのかが難しかったようで、この辺りは今後猛烈に研究されるところだろう。
実戦は△6八歩が羽生らしい好手、妙手、というかどう対応するかいかにも迷いそうな羽生調の手でで村が感想コメントで正直に「さっぱり分からなくなりました」と告白している。中村も当然羽生将棋は深く研究しているのだろうが、実戦でこういうのをやられると迷うのだろう。若武者らしい感想だった。
以下羽生の△3五歩に対する対応あたりも分岐ポイントだったようだが、どうもその後の羽生の感想コメントを見ると難しいながらもある程度手ごたえを感じていたようだ。あくまで最後まで慎重な羽生にしては珍しい。
以下、後手が明らかに良くなり、終盤の決め方も、馬切りから△6九銀と思い込んで踏み込んだ。ニコ生解説の高橋道雄はちょっと驚いていた。確かにもうすこし息長く指して確実に勝つ順もありそうなところを、先手の飛車を成らせて後手が詰む詰まないの形にするのはちょっとばかり大胆である。
しかし、羽生の感想コメントにあるように、先手がどう迫っても△5四角が絶好の詰めろ逃れの詰めろの筋になる。羽生は完全に読みきっていた。一手違いでもプロ的には大差の一手違いというやつで完璧な終盤でバッサリ切り捨てた。
というわけで、序盤研究による構想の準備、勝負どころの中盤での△6八歩などの冴え、完全に読みきりの終盤と、久々に羽生の強さ全開の快勝だった。
最近の羽生は、どうも序盤の構想が研究の深い猛者たち相手にいま一つで苦しい分かれになることが多かった。しかし、序盤がうまくいけばこういう圧倒的な勝ち方が出来るのを改めて証明した感じである。羽生は相変わらず様々なところに顔をだして超多忙なようでいつ研究をしているのだろうと思うが、本気で研究できればどうなるのだろうと考えずにはいられなかった。
とは言え、本局はともかく第一局などを見ると、これほどの力の差はないと見るのが妥当だろう。第三局も中村が後手の(多分)横歩取りでで深い研究を見せるはずだから、本局のように簡単にいくわけはないだろう。

ニコ生の解説は高橋道雄だった。
高橋は現在でもA級で頑張っている。先手では矢倉、後手では横歩取りを得意にし、実に深い研究と重厚な指し回しで自分のペースで将棋を組み立てる。横歩取りも普通は軽く指すのだが、高橋だと重厚に指して少しずつポイントをあげていく独特の指し方に特徴がある。
また、対局姿も大変厳しくて近寄りがたい威厳があり、本当にプロの中のプロという印象を与える。
ところがだ。普段の趣味では相当「オタク」的な側面があり、AKBの大ファンで趣味が高じて報知新聞の求めででAKB総選挙を実地取材して記事を(記者に話す形で)書いたらしい。
また、それ以外にも趣味が広くてニコ生で様々な話題を口にしていて、全く分からない私は検索してそれを調べるたびにビックリ仰天した。
要するに、棋士高橋と普段の高橋が180度真逆なのだ。しかし、そんな高橋に大変魅力を感じずにはいられなかった。
ツイッターでつぶやいていた人もいたが、プロとして一流の実績をきちんと残し続けつつ、同時に私生活では自分の本当に好きな趣味の世界を精一杯生きている。これは男にとってはかなり理想に近い生き方なのではないだろうか。
プロ棋士としての厳しすぎるところがあって私などは何となく近づきがたい存在だったのだが、高橋のことが今回のニコ生で人間的にちょっと好きになったのである。

森内名人が防衛 2012名人戦第六局

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将棋世界6月号の名人戦第一局観戦記(山岸浩史氏)の冒頭に森内俊之のミニインタビューが
載っている。森内の昨年末の11連敗、年度勝率三割台の成績について厳しい質問をされているのだが、森内はさほど気にしている様子もなく、むしろ羽生善治との名人戦に向けての高揚した気持ちを語っている。
「あ、でもモチベーションはいま、私も高いですよ。去年の復位以来、このときを待っていましたから。子どもの頃から背中を追いかけてきた羽生さんと400年という大きな節目で戦えるのは本当に感慨深いですし、やりがいがあります。」
「面白いシリーズになると思いますよ。」
森内は大変繊細(ナイーブ)な部分と同時にいい意味で鈍感な部分を持ち合わせている棋士、人間なのだと思う。
普通なら昨年の悲惨な成績に精神的に参ってしまいそうなものだが、「もう済んだこと」と気持ちを切り換え、なおかつ小学生の頃からのライバル羽生との大舞台での再戦を、(まるで小学生そのままのように)、心待ちに楽しみにしている。遠足の前の晩のように。
羽生に対する一種の尊敬を全く隠そうとしないのも森内流だ。このインタビューに限らず、羽生に対する敬意を常々口にしている。
そんな羽生相手だから、何も遠慮もせずプレッシャーもかからず、全ての力を思い存分ぶつけることが出来る。今回の森内の戦いぶりは、まさしくそんな感じだった。
例えば、対戦相手が渡辺明だったら、こうはいかないだろう。世代が下で自分が竜王を奪われた相手に対して大変なプレッシャーのもとに戦うことになるだろう。そういうナイーブさが、多分森内が渡辺や羽生と違うとても人間的な(魅力的な)ところだ。羽生や渡辺なら、相手に対する思い入れなど捨て去って目前の勝負に徹底するだろう。

第六局は角換わりの将棋に。第二局と同じ形で、森内の工夫は前例のある△4六金(王座戦で後手の羽生が採用したが先手渡辺の名手▲3五歩が出た形)から、新手△2六角から△3六金とした。
△3六金が森内の指したかった手で、いかにも森内流の手厚い手である。後手は角と銀と金のスクラムを中段に築き上げ、また先手が黙っていると△4六歩や本譜の△4六桂の押さえ込みをみせている。
今シリーズは、後手が常に苦戦し、なおかつ有効な新手、新機軸を二人とも出せないでいたが、やっとある程度は手ごたえのありそうな対策を森内が出した感じである。
とはいえ、局面はまだまだ難しいし先手も十分指せるはずだったが、羽生の封じ手後の構想が羽生にしては今ひとつ冴えなかった。
▲5一龍がひねった順である。羽生のことだから当然一晩綿密に検討したうえでの方策だと思う。
ところが、感想コメントによると▲2一龍のあと▲1一龍としてその後▲3九飛とする変化ならば先手も十分指せた様だ。羽生はそれを指摘されて素直に肯定したようだ。
今回の控え室には、三浦、深浦、橋本、豊島といった猛者が揃っていて大変優秀だった。しかし、それでもそういう控室の検討のはるか上を行く順を見つけ出してくるのが羽生だ。ところが今回は残念ながら違った。
さらに、形勢を損ねたのが▲6九銀。すかさず△7五歩とされて長考しているようでは明らかに変調だ。先手陣に手がついて▲1七角とぶつける余裕がなくなってしまった。
これも当然すぐに▲1七角だとまずい理由が羽生にありそうなものだが、検討陣の手順を聞かされてまたも素直に納得していたらしい。
本局の羽生は勝負どころで調子がよくなかったと言わざるをえない。
以下は後手が明らかに優勢になったが、▲6三とが羽生流の勝負術。普通はこんなと金では間に合いそうにないが、指されてみると後手も難しい。検討でも一直線の攻め合いでは大変かもしれないと言われだしていた。
しかし、森内は敢えて△3八桂成の一直線の攻め合いに踏み込んだ。この一手に森内の羽生に対する態度、というか逆に信用が現れていたと思う。
△6三とは羽生流の勝負術で、このように堂々と「やってこい」と言われるとむしろ怯んでしまいがちだ。実際本譜の攻め合いの順は大変難解できわどい。しかし、森内は羽生との幾多の対戦を重ねてきて、恐らくこういう時にひいてしまうとダメで、勇気を持って踏み込まないと羽生には勝てないことを経験的に熟知しているのではないだろうか。
この本局の手順に限らず、森内は羽生の指し手に最強の順で応じることが多かったような気がする。最初のインタビューの話とも関連するが、森内の羽生に対するある種の信頼と力を思い切りぶつけようとする姿勢が好結果を生んでいたようにも思える。
とは言っても、本譜の順もほんの少しでも後手が間違えれば一気に奈落の底へ転げ落ちるこわいギリギリの順だ。だが、森内は全く間違えなかった。
ニコ生解説の渡辺も、控え室の三浦や豊島や橋本も、あまりに森内が正確無比なので、最後は検討するのをやめて森内を賞賛していた。
本局は森内が完璧な終盤で僅差のリードを守りきって完勝。名人防衛にふさわしい素晴らしい将棋だった。


本シリーズでは本局以外は全て先手勝ち。しかも、内容的にも先手の完勝が続いた。
将棋世界の第一局や第三局の観戦記では、羽生の準備不足も指摘されていた。確かにそういう側面もあったのかもしれない。
ただ、具体的に見ると第一局では先手の森内が最新型を回避して、去年の名人戦以来出ていない形に誘導した側面もある。羽生は最新型なら何らかの準備があったのかもしれないが、指されなくなった形まで研究が及ばずその場での対応を余儀なくされたところもあるかもしれない。
第三局の羽生後手の急戦矢倉でも先手の指し方に色々分岐があって、問題の△3三銀はその場で考えたそうだ。
羽生も当然研究はしているだろうが、先手の様々な変化を隅々まで研究していたわけではないようだ。勿論、将棋の変化自体が無限で全てを研究するのは無理だ。ただ、羽生の場合は、研究しつつも実戦で考えてその場で最善手を見つけ出すタイプというところもある。またその能力も抜群に高い。しかし、この長時間の森内相手の名人戦では羽生のそういう個性が弱点になって綿密きわまりない森内の研究に屈した側面もあるような気がする。
もっとも、森内も後手では苦戦していた。しかし、少なくとも第二局では△2七金という明確な狙いがある手を指したし(不発に終ったが)、第四局も矢倉のマイナーな形をつく戦術をとった。これも羽生の▲3六歩を見落として非勢に陥ったが指し方によっては難しい将棋だったかもしれない。
そして、最終局は(本人は苦しい分かれだったと述べているようだが)もある程度は後手でも指しがいのある形を提出することには成功していたと思う。
つまり、事前の十分な準備ということでは、やはり森内がやや上回っていたような気がしてならない。短時間の将棋なら羽生は何とかするのだろうが、長時間で森内が相手だと苦しかったように思う。結果的には森内完勝のシリーズのように感じられた。

先手の9時間将棋の有利について、渡辺がブログでも語っていた。基本的に先手が有利で「一度間違えてもまだ大変」という感覚で、まして長時間だとさらにミスしにくいとい分析である。
さらに今回のニコ生解説で、先手は野球で言うと最初から「2-0」でリードして後手が頑張っても最後は「2-1」で先手勝ちという言い方もしていた。野球ファンならお分かりだと思うが、最初から「2-0」というのは相当大きいハンディである。トッププロが先手、後手でそのような感覚で戦っているのだとしたら驚きだ。

羽生について言えば、序盤戦術は別として不利な局面からの猛烈な追い上げするテクニックは相変わらず圧巻だった。第三局は二日目昼で投了してもおかしくない局面から、本当にあと一歩まで追い上げた。
第五局も終盤あやしくなったが、最後勝負手(厳密には勝敗不明だがむしろ後手にチャンスが大層と言われた)△4三桂を逃して、一直線に負けのコースを選んでしまった。恐らくあれが今シリーズ最大の分岐点で、あそこでもし勝ちを拾っていたら全く展開は変わっていただろう。羽生がそういうチャンスを大事な対局でことごとくものにするのを目撃しつづけていたので、かえって珍しい場面でもあった。
それと何といっても、羽生の場合は二日制での序盤戦術が(本当に我々素人にとっては高すぎるレベルの話だけれども)課題だろう。森内相手でも、渡辺相手でも、基本的には主導権を握られて、それを圧倒的な終盤力で何とかしているという印象だ。だが、森内や渡辺相手だと結局一歩届かずに終ってしまう。
いくら羽生でも序盤で有利か互角程度にしないと厳しいレベルに現代将棋はきているのかもしれない。

ニコ生初日の解説は飯塚祐紀だった。大変人柄がよくて魅力があって私の好きな棋士の一人である。今期は順位戦で昇級してB級1組で戦う。
将棋世界7月号では加藤一二三先生の対談相手もつとめている。なんでも長時間にわたり、一生懸命しゃべったつもりだが結局加藤先生がほとんど喋っていたそうである。
将棋自体も加藤参考にして棒銀も用いるし、金銀をよく使う点など似ていると自分では思っているが誰にも指摘されたことはないとのこと。
その飯塚七段は棒銀の本も書いている。加藤先生がニコ生出演時に、自分の棒銀の本はあるが現在入手困難と述べられていたが、棒銀に興味のある方はこちらをどうぞ。
また、加藤先生にも教えてあげたいところだ。それとも、対談のときに話したのだろうか。何となく加藤トークに圧倒されて、話す余裕がなかったような気もするが・・・。


2012 棋聖戦第一局 羽生棋聖vs中村太地六段

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新鮮な挑戦者の登場で実は盤外では事前から大変な盛り上がりだった。
将棋世界7月号の表紙を中村太地挑戦者が飾った。歌舞伎界の御曹司のような整ったスマートな容姿、早稲田を優秀な成績で卒業し、人間的にも謙虚で真面目。
勝又教授も珍しくツイッターでつい軽口を叩いている。大変恐縮だが中村挑戦者の紹介として大変分かりやすいので引用させていただく。
「小6で奨励会に入ってちょぴっと勉強して早稲田実業中等部に余裕で合格ハンカチ王子と同級生で高校生で棋士に主席で卒業して早稲田大学政経学部へ3年で単位を取り終え論文書いたらスカラシップC2全勝して棋聖戦も挑戦者になり長身でかっこよく持ち駒多すぎふざけるなといいたい中村太地君が表紙です。」
持ち駒がなく歩切れが常態の私も「ふざけるな」と一緒になって唱和したいところだが、どうも中村太地六段のツイッターなどを見ると真面目で誠実そのもの。因縁のつけようがない。
勿論、本人もそんなことだけで盛り上がるのは不本意だろう。実際、将棋自体も第一局から大変見応えのあるものになった。

羽生が先手で、後手の中村が横歩取りを採用。中村が多用している後手での主力戦法で、棋聖戦の挑決でも深浦を吹っ飛ばしていた。若手らしい深い精緻な研究と、思い込みのいい踏み込みが特徴だ。もともと大変な攻め将棋の振り飛車党だったが、ニコ生解説の広瀬章人(同世代のライバルで早稲田出身でもある)によると、「最近は攻守のバランスも取れて確実にパワーアップしている」そうである。
将棋は、銀河戦の▲及川vs△中村の前例をたどった。結果は及川が超手数の即詰みで勝ったが、中村が正しく受けていれば詰まず、後手勝ちの変化も多そうな感じだった。
昼食休憩をはさんで、羽生が前例▲9一香のところで▲9五角。羽生も当然、前例局の様々な変化を知っていて変化したらしい。ただ、この角は結局はすぐには働かず、その後の羽生の指し手は「難しい」曲線的なものだった。ストレートに行くとまずいと見て工夫した指し方だったのかもしれない。
それでも羽生の▲5五香が後手の玉頭を直射していてなかなか難しい。羽生らしい独特の大局観でわかりにくい局面に誘導して、新鋭には厳しい局面に持ち込んだようにも思えた。
しかし、局面はバランスがとれていて、そこから先に抜け出したのは中村挑戦者の方だった。
△4四歩の催促から、先手の攻めをひっぱりこんで怖そうにみえたが△4三桂が粘りがある手で先手も簡単には攻めきれない。中村の実力を示したところで、羽生も一回▲2九飛とためたが、これがぬるく、先手玉に対する後手の攻めが厳しく、一方後手玉は中段でぬるぬるしていて簡単には寄りそうにない。後手に形勢が大きく傾いて、先手はかなりピンチに追い込まれた。
しかし、羽生の粘り方もさすがだった。▲8八香を微妙なタイミングでいれ、中村がつい△9四馬と引いたが、ここは銀成から王手をして馬を△6七に進入しておけば明快だったそうである。これを逃して後々▲8八香が素晴らしく良くきいてしまう。
とはいえ、中村の方針は△3五金以下冷静に先手の飛車いじめて捕獲してしまえば先手玉はどうしようもないというものだった。理にかなっていたのだが▲1六飛のところで△2四桂とすれば飛車は取れるが、その瞬間に△7六の銀を取られて後手玉も怪しくなる。
中村もそれを察知してトッサに方針変更したが、▲6三歩が入って俄然怪しくなる。先手玉にはやい寄せがなくなり、▲8三歩成も入り△5八銀成に▲5九銀がピッタリの手筋で完全に逆転。以下、中村玉を羽生が見事に詰まして収束。最終盤でうっちゃって羽生が貴重な先勝をあげた。
羽生の終盤の奥深さを改めて思い知らされた将棋だったが、中村も冷静に先手を飛車を取りに行ったところ先手に暴れる順が残っていた辺りに不運なところもあった。
むしろ、ほぼ互角の局面から羽生相手に一度は抜け出したので、終盤力もある程度証明したといえるだろう。決して完敗という感じではない大変きわどい将棋だった。

ニコ生の解説が先述したとおりに広瀬だったのだが、やはり終盤の手の見え方、鋭さにはうならずにはいられなかった。例の調子で淡々と飄々と軽い感じで言うのだが、口に出す指し手は正確そのものでセンスに溢れている。
ほとんど、基本的には広瀬が考えているのと同じように羽生も勝負に出で逆転したという感じだった。
基本的にプロ棋士のレベルは大差ないと言われる。しかし、この終盤は超一流と言われる広瀬の解説を聞いていると、羽生や広瀬といった終盤の猛者―あえて言うと化け物―は、やはり同じプロでも別の世界を見ているような気がした。
プロなら終盤でも見える筋は大差ないのだろうが、その指し手の正確な積み重ね、本当に一筋の光明を見出す能力でトップは、本当に紙一重だが絶対的な優位を保っていて、それが勝敗に直結してしまう。そういう厳しい過酷な世界なのかもしれないと、広瀬の表面的にはあの緊張感を感じさせない解説を聞いていて思った。
むしろ、そんなに真剣に考えているようには思えないのに、解説しながら本筋をいとも容易く導きだす広瀬に本物のプロの凄みを感じたのだった。
勿論、指していた羽生にも全く同じことが言えるはずである。

2012名人戦第五局 森内名人vs羽生二冠

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先手サービス・キープ・シリーズ。ついに後手の羽生が二手目で変化して△3四歩で横歩取りに。
森内がはやいタイミングの▲5八玉をみせたが羽生は普通に指して△4一玉型で一昨年の竜王戦第五局の前例を辿った。渡辺が完全によくなり、羽生が猛追をみせたが結局渡辺が勝った将棋である。
羽生の改善作が注目されたが、46手目前例が△3一玉だったところで△5二金が羽生の工夫の変化。
ちなみにBS解説で新鋭気鋭の稲葉陽が担当していて新著の横歩取りの本では▲4六銀に対して△3三銀と壁銀を解消する手を推奨しているそうである。確かに後手は壁銀がその後も課題になるので一理あるし自然だとも思う。羽生は前例をたどったのだが、この手についてはどういう感想を持ったのだろうか。
稲葉の指摘は鋭くて、その後の羽生の△5二金から△5三金(普通に考えるとあまり筋はよくない)の構想もいち早く言い当てていたようだ。やはり現在の関西の若手の研究は深いし、手もよく見えていると感じた。
難しいながらも▲3四歩の拠点が大きくて先手の模様がいいと言われている局面から、羽生が△3三歩から一番の懸案の壁銀を解消にゆく。その後の羽生の△3五歩以下、先手の桂馬を跳ばして△3七銀打はそうとう過激な順。連盟で解説していた郷田真隆は、普通ではありえないが羽生さんはそれを分かって敢えてやっていると評したそうである。
つまり、やはり普通に指していると先手が模様がよさそうなので、羽生がひねり出した勝負手的な手順だったのかもしれない。
そして実際、森内が当然激しく攻め込んだのに対して夕食休憩をはさんで羽生が△2六銀成として入玉としたあたりでは、かなり難解な局面になっていたようだ。この辺は、やはり羽生独特の秀逸な大局観がよく出ていたと思う。
ちなみに、30分の夕食休憩で、羽生はおにぎりに加えていつもはないミニうどんまで注文していた。まだまだやる気十分だし、△2六銀成もある程度それで予測できた。
以下は、ほとんど直線的な変化だったのだが、102手目の△4九とでは△7六桂も有力とされていた。
ニコ生解説を担当していた先崎学によると、プロ的にはこの先手玉をしばる△7六桂は第一感だそうである。しかし敢えて羽生は攻めとしては重い△4九とを選択。これについて先崎は以下のような意味のことを述べたいた。
「これは△7六桂だと▲8五銀と打たれて長期戦になるかもしれないが、それだと後手に勝ち目はないかもしれない。羽生さんも当然△7六桂が見えていたかもしれないが、それで敢えて△4九と。この手には感動しました。」
なるほど。将棋は生きものなのでこういう事情があったのかもしれない。但し、この辺は感想コメントがないので対局者の真意はよく分からない。
それに対して森内も▲4四角成から決めに出るが、これも微妙だったようである。以下、▲4一飛に対して△4三歩でも△3三玉でも簡単ではなかったようだが、感想戦では△4三桂が示されて、「検討陣全員の動きが止まる。対局室が静寂に包まれた。」そうである。最後までアヤがあった将棋だった。
しかし、羽生の選択したのは△3五玉。これに対しては本譜の順で▲3二龍で後手玉に完全必至がかかって分かりやすくなってしまった。
最終手でニコ生中継で、羽生がなかなか指さずに下をむいて後悔するような映像が延々と映し出された。どうやら羽生はこの必至の順をウッカリしたらしい。これまた大変残酷でもありねある種「美しい」映像を我々は目にする羽目になった。何の主観もないカメラが時として、とてつもなく雄弁になる。ギリギリの将棋の終盤で時として起こることだ。
森内が基本的には先手をいかしてうまく指していた将棋だし、終盤も勝負強く勝ちきった。当然大きい。
一方羽生については、現地で解説していた谷川浩司がこのように述べていたそうである
「羽生さんは、気合いが空回りして、こういう負け方をたまにするんです。それほど後手番でブレイクしたかったということでしょう。カド番からの逆転は何度もありますし、羽生ファンの皆様は気を落とさないでください」
羽生と散々戦ってきて羽生のことを隅から隅まで知り尽くしている谷川らしい言葉だと思った。勿論、同時に谷川は森内の本局での強さも同様に完璧に理解しているはずだ。
コメントを承認制にさせていただいています。反映まで時間がかかりますが、お気軽にどうぞ。
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